Posted by ブクログ
2016年08月07日
本書は大日本帝国の参謀一派、特に辻政信参謀に対する痛烈な批判である。超エリート集団であった参謀本部作戦課と関東軍作戦課。彼らの空論と暴走そして無責任主義に強い怒りを覚える。前線部隊への厳令に対して参謀仲間への事勿主義に苛つきを感じ、何より恐ろしいのはノモンハンの首謀者たちがのちの太平洋戦争の参謀本部...続きを読むの主要人物であった点だ。さらに戦後、辻政信は代議士まで務めている。
法律学では規則功利主義を以て法を考察する。であるならば歴史学においては行為功利主義的すなわち「if」を以て検証することは十分有益だと思われる。つまりノモンハン事件が停戦協定なく継続していたら。本件が契機となり第二次世界大戦が勃発し第二次日露戦争を招いていただろう。ソ連が独日を相手取った勝敗は推定困難な面はあるが、仮に日本が敗戦した場合、共産主義国家という歴史を経ることは確実であったであろう。そうした点では大日本帝国参謀たちの時局の読み違えを国際情勢が是正した格好となったとも言える。
明治・大正の参謀は確かに有能であったかもしれない。もしかすると山本五十六に代表されるような海軍は比較的まともであったのかもしれない。しかし日露戦争の「神風」的勝利に教訓を求め、精神に勝利の拠り所を求める軍中央部に戦略があったといえようか。「兵、有能にして、将、無能」。『失敗の本質』が分析した国家の脆弱性が具象化した事件であったと痛感する。