中島義道のレビュー一覧
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人間を美談という一つの物語に安易に閉じ込めるべきではない。ひとはそうするとき、自らの快さにプライオリティを置くあまり他人の何かを犠牲にしているのだと著者は説く。
さらにこの無反省な善意の受け手は、弱者としての処世術として偽善を判別する嗅覚を身に着けているのだから、なおのこと問題になる。
この伝でいくと、最近よく聞かれる「どうせ同じ偽善ならやらないよりやった方が人の為だ」という一見真っ当で格好の良い言い様も、独り善がりの欺瞞でしかないということになる。偽善であり誠実さを欠く以上、やはりそれはすべきではない。むしろ無自覚な「絶対的美/善」の押し付けが、共同体に思考停止をもたらすことの害悪を認識 -
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タイトルの「悪について」の悪は悪一般についてを語ったものではない。カントの言説を通して中島先生の考える根源悪について語ったものである。こういう原罪に近いような悪って、きっと現代倫理学で扱うような対象ではないんだろうなと思った。
道徳的な生き方とは何かと考えるとき、それは行為そのものではないことに気付く。では行為を漂白したときに何が残るかといえば行為と関係した意志である。たぶん今時の倫理学ではその意思が自己愛と深い絆で結ばれていることを前提として様々話が組み立てられていくのだろうけど、カントや中島先生はそれを許さない。厳格主義というだけのことはある。カントは適法的行為とは何かを主題に挙げなかった -
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自身の体験をまじえながら「ひとを嫌う・ひとに嫌われる」ということを考え抜いた本。文庫本だしそれほど厚みもないのでさらっと読めるかな?と思ったら想像以上に濃い内容に驚いた。
本書の内容には深入りしない。
ただ、著者のいうように、「嫌い」に代表されるいわゆる「ネガティブ感情」に対する社会的な抑圧は非常に厳しい。
明るいこと、ポジティブであること、前向き・積極的であること
たしかにこれらは社会生活を営む上で好ましい要素である。しかし、これらを奨励しすぎるあまりにその逆であるネガティブなものを社会的に必死で抑圧しようとする。その反動だろうか、本書のようなものが登場する始末。
しかし一方で、そうし -
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中島義道の本で初めて手に取ったのがこちら。
とにかく目次で爆笑してしまった。
1.笑顔の絶えない人
2.常に感謝の気持ちを忘れない人
3.みんなの喜ぶ顔が見たい人
4.いつも前向きに生きている人
5.自分の仕事に「誇り」をもっている人
6.「けじめ」を大切にする人
7.喧嘩が起こるとすぐ止めようとする人
8.物事をはっきり言わない人
9.「おれ、バカだから」と言う人
10.「わが人生に悔いはない」と思ってる人
ここに書かれている10の人は、一般的に「良し」とされてる人だと思います。なのでこの価値観はわりと多くの人に植え付けられている。
にも関わらず、私はこんな人を嫌いなんて!とは思わずに爆 -
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本には二種類ある。ひとつが、知識となり、教養となり、自分の血肉となるもの。もう一方が、自分の目の前にその知識の前提をひっくり返すような「問い」と突き付けて、自ら考えなくてはならないようなもの。
本書は後者にあたり、対話編を、読みながら、「ああでもない」「こうでもない」と、本当にしっくりくる「真理」を探究していく「対話編」とも言えよう。
ただ、なぜ、この人の本は、こう、どこかシニカルで「そういうオチか」っていう自嘲的な面白さがあるのだろう。
章を追うごとに、初めは、社会や世間の欺瞞を哲学によって暴くことに目を輝かせていた人たちが、どんどん、「幸福を求めない」という「哲学すること」に疲れ、 -
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鬱病チェックにかならず入っている項目が、「人生に生きる価値はないと思える」であり、それにマルをつけると、すぐに「精神科受診」となるのですが、私としては「そう考えるのは異常なことなのだろうか?」と。
中島義道氏は、自分という存在(錯覚)も含めて、世界のすべてがいずれ確実に消滅してしまう中で、世の中の「意味はある」というゲームに没頭して、「意味はあるかもしれない」と自己欺瞞を続ける人々に対して真っ向から批判を突き付ける。
とにかく、中島氏の文章はニヒリズムのようでありながら、病気のように見えながら、その「諦念」とも言えるべきものは、むしろどこか極めて健康的で、人生にとって潔い態度でもあり、スッキリ -
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親や世間の常識に従って「いい子」として生きることしかできなかったK君に著者が
「親を棄てろ、精神的に殺せ」と力強く言う。
「常識などマジョリティのエゴにしかすぎない」と。
僕は、「そうだそうだ」と頷き、「あぁ、なんて力強く言いたいことを堂々と語っている本なのだろうか」と感動さえ覚えた。
そこまではよかったのだが、
後半はひたすらマジョリティに対する皮肉と戦いに終わり、僕の方向と決別した。
僕は新しい何かを作りだそうとした。つまり「哲学のようで哲学でない何か」なんだろう。
そしてそれでいい。何が悪い。
中島義道氏の本のおすすめの読み方は彼の文章と「戦う」ことだろう。それもただ一人で。単な -
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「空気」に従わないこと、自己主張をするということの大切さです。
私語が続くと、教室を出ていく中島先生。
しゃべらない学生に対して「いいかげん黙るのはやめなさい!」という中島先生。
カンニングをした学生と徹底的に対話をした話にはうるりときた。
意味のないきれい事の標語に対して怒りを覚え、
放置自転車に神経質なまでにキレて警官とまでやりあう中島先生
という、前半の話は笑いが止まらなかったが、
「思いやりの暴力」や「空気」に逆らうこと、そして対話とはどういうことかを叩きつけられたような気分である。
ディスカッションや討論とは違い、自分を背負って真理に開かれることが「対話」とも言える。そして、空気を -
- カート
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試し読み
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とある本のコラムを読み、著者に惹かれ本書を購入したのだがますます彼の魅力にハマった。彼の「自分勝手」な生き方は本当にカッコいいと思う。
本書は「五目ご飯」のような様々なテーマを混ぜ合わせた日記のまとめみたいなものだが、その中でも哲学の専門的な話も日常のいらっとした話も含め中島節が見えてきて面白い。
確かに人生には生きる価値も意味も目的も無いと思うし、みんな薄々気づいているが深く考えていないように思う。それか無理矢理意味を見いだしているように思える。
だが、巻末の野矢さんの解説も非常に的確なツッコミをしており、このツッコミに対する回答はまだ私の中ではまとまっていない。
私も著者のような魅