篠田節子のレビュー一覧
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都立の進学校から国立大学を卒業し、大手証券会社に入社、社内留学を経てMBAを取得後ニューヨーク支店勤務と順風満帆な人生を送っていた高澤が、慣れないアメリカ生活での妻の発病、離婚、会社の経営破綻、再就職、鬱病発症、リストラ、再再就職と都落ちしていく人生の悲哀を描いた長編。
前半は高澤の前向きな生き方に頭がさがるばかり。特に、再就職した中堅損保会社での代理店のおばちゃんたちへの誠実な対応と、再々就職で大学教員になってからの学生への精一杯の教育など、常に目の前の仕事に真摯に向き合う姿勢には清々しさを覚えた。
こうなると再婚もしてほしかったけど、いくら前妻との間に息子がいるからって、離婚したのにこ -
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書店で、帯に惹かれて衝動買い。この作者は初。
イモムシ、もっとはっきり言うと蚕が主人公(?)の
「生物もの」パニック小説。
偶然目にした虹色に輝く絹布を再現するべく、
虹色の絹糸を生む蚕を探す(人間の)主人公。
苦労して見つけた野蚕を繁殖させるべく、
専用の飼育場まで作って入れ込んでいくが...
あまり細かく書くとネタバレになってしまうので(^ ^;
アイディアは悪くない。が、別に新しくもない。
「気色悪いシーン」の描写も悪くない。
が、何か読後感が今ひとつ物足りない(^ ^;
一つは、文体...と言うか、文の「リズム感」。
決して「読みにくい文章」とかではない。
が、最初から最後ま -
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ギリシャのパナリア島を舞台にしたミステリー。全体的に、同じ作者の「廃院のミカエル」にかなり近い。
主人公の亜紀はヴァイオリニストで、建築家の聡史と10数年W不倫の関係を続けている。ある日2人で内緒の旅行に訪れたロンドンで、聡史は海の底から発見されたというヴァイオリンを亜紀に贈る。その後アテネに渡った2人はパナリア島に行くことになり、かつて異教徒たちの都があったホーラにたどり着く…。
ギリシャ語のχώραには都市、栄えている場所という意味があるらしい。パナリア島という場所は知らなかったけどロードス島の近くにあり、ロードス島と同じく騎士団の要塞跡などがあるらしいので一度行ってみたい。 -
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ネタバレ「観覧車」「ソリスト」「灯油の尽きるとき」「戦争の鴨たち」「秋の花火」の5編からなる短編集。
どの物語も短編ながら奥の深い、密度の濃いものになっている。設定も、主人公たちの抱える問題もそれぞれ別物でありながら、行き詰まり、鬱屈しているという点で共通している。
「観覧車」は最後に感じる小さな希望にホッとし、「灯油の・・・」はつらい結末に気分が塞ぐ。
「戦争の・・・」はどこかコミカルでありながら、痛烈に現実をえぐるところが篠田さん的で、タイトルの「鴨」にニヤリ。
そして、秀逸なのが標題作「秋の花火」。秋の花火は夜空に大きく開いて消える夏の花火とちがい、手元で闇を一層際立たせながらそっと横顔を照らす -
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2006年に刊行された単行本『夜のジンファンデル』を改題して文庫化。収録されているのは「永久保存」、「ポケットの中の晩餐」、「絆」、「夜のジンファンデル」、「恨み祓い師」、「コミュニティ」の6編。文庫化に当たり表題作を変更したのはどういう意図があってのことか深読みしてしまいます。というのも、ホラーの名手による本作は、「夜のジンファンデル」を除くと、いずれもジワッと嫌な感じ。それが「夜の〜」のみ、あきらかに趣を異にしています。ある男女がダブル不倫に陥りそうになりながらも踏みとどまって50代間近、片方が突然死を迎えてしまうという、切ないと言えば切ない、煮え切らないといえば煮え切らない1編。あとの5
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篠田さんのホラーは突発的な怖さではなく、こころの底にある恐怖をじわじわと突きつけられてくるような不気味さを伴う。
幻の穀物危機、やどかり、操作手、春の便り、家鳴り、水球、青らむ空のうつろのなかに、の8編が収録されている短編集だか、どれも全く違う方向から視線を当てられていることに驚く。中でも気になったのは表題作の家鳴りだ。
妻が際限なく太っていくー。失業中の男性は、愛犬をなくしたことで拒食となった妻に食事を作るようになる。延々と食べ続け、丸々と太っていく妻。凝った食事を作り続ける男性。徐々に変化していく関係と異存。ほんの少しの興味と気味の悪さを感じながらも、二人の結末にしわあせなものを感じてぞく -
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著者の小説は主人公の状況がこれでもかと言うぐらい悪くなるパターンが多いと思っている。この小説も山一證券をモデルとした大手証券で働く40歳を超えたサラリーマンが、職場も家庭も失い、滑稽なほど転がり落ちていく様は痛快に読み進める。しかし、いつまでたっても状況は好転せず、低空飛行のまま進むのでだんだんと心配になってくる。人生はこんなものだと感じるが、真面目で堅実な主人公の生き方には何かしら共感してしまう。ニューヨークの世界貿易センタービルの電力供給問題でエレベーターが停止し、89階から階段を歩いて降りるくだりがある。同じ経験をした身としては、著者がヒアリングを重ねて小説を組み立てているのがわかる。