篠田節子のレビュー一覧
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ネタバレ農家の跡取り息子がネパール人の妻を娶ったことから始まる人生の転換を、宗教や異文化への理解を通して描く物語です。
主人公が没個性的であるため、読者が世界を見る媒体としての役回りと割り切るまでは読み進めることに苦労しました。
全体として細部の取材が行き届いていることから確かな現実感あり、主人公が経験する壮大な断捨離は物語の中でしか味わえないなかなかの衝撃がありました。
現代日本の生活も、宗教の功罪も、途上国の現実も相対化して提示する作者の姿勢は誠実で好感が持てます。
居場所探しとしてはあまりにスケールが大きいため真似できるものではありませんが、自らの立ち位置を見直すには、いい機会となるかも -
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小粋な題名に魅かれ、午睡の前のひとときにと、本棚から取り出す。13年ぶりの再読に、すっかり内容は忘れている。
朝日新聞家庭欄に連載されたエッセイとのこと。巻末の、重松清との対談を読むと、著者はエッセイにこだわりがあるそうな。ともかく、日常生活の中で出会ったいい話が詰まった社会はエッセイ。
印象に残ったのが、現在のエンターテイメント小説がもっと海外で翻訳出版され、外に出ていけば、「日本の顔」が外国人にも見え、感情的な反発や理由のない警戒にさらされることが、今より少なくなるのでは、という著者の意見。確かに、工業製品に比べて、文化については、日本はまだまだ輸入大国と言っていい。 -
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男女逆転のカップルの結婚、妊娠、出産にまつわるお話。正直なところ割れ鍋に綴じ蓋、としか思えない。仕事はできるけど、自分自身の面倒もみられな梨香子さんも情けないけど、女ならこうあるべき、という凝り固まった思考の真一君もかなりうっとうしい。
真一君の思考が痛すぎて、粗筋にあるように「コメディ」とは思えなかった。
後書によると、篠田さんはイクメンの子育て体験談に違和感を覚えたことがこの小説を書くきっかけになったらしいので、それを読んで漸く真一君の描かれ方に納得した。
世の中には仕事を言い訳に家事一切妻に任せる男性なんてたぶん沢山いるのに、男女が逆転すると、とたんに世間では異質なものになるのだなあ…… -
Posted by ブクログ
地方で埋もれた画家があるエッセイがきっかけで注目されるようになる。
でも、遺された画家の妻智子はその作品の一部を「偽物」と言い張り画集に掲載するのも、展覧会で展示するのも認めない。
妻の言動が段々と常軌を逸してきて、途中から「これはホラーじゃないよね?」と、困ったお婆ちゃんだと思いながら読んだ。
妻はなぜその作品を「偽物」と主張するのかを巡るミステリーであり、美術品を巡る様々な事情も絡んできて、興味深いけど、あまり先が気にならないのは何故だろう?
最後には画家がブレイクした裏側も明かされ、世の中こんなものなのかもといった、モヤモヤとした感覚が残った。 -
Posted by ブクログ
2014.11.8
すごい作品だった。
宗教、信仰、生と死、人はなぜ生き、生かされているのか…。
終始どんよりと東北の海の色のように暗く重たいテーマで進むこのストーリーを私の稚拙な文章力では書き表せられない。今までに読んだこのとのないジャンルのストーリーでした。
最初にこの本を買った時に思い描いていた話の展開とは全く違っていて、序盤の『聖域』のあらすじ部分は読むのが辛かったけど、中盤から実藤が水名川泉を追って東北に行くあたりで徐々に話が急展開していき、引きこまれていきました。
読み応えのある作品でしたが、ちょっと自分には重たすぎ、なんだかどんよりとしていて読んでて不安になるような小説でした。