Posted by ブクログ
2014年08月10日
篠田節子といえば、重厚な長編の『聖域』を心から楽しく、また感動して読んだ。
そんな印象があったので、この変わったタイトルの短編集を手にしたとき、さて、どんなものだろう、と、まずはわくわく感から入った。
あらたまったフルコースをいただいたレストランで、ふとカジュアルなランチコースを見つけたような。あ、...続きを読むちょっと試してみようかなあ、というような。
タイトルがまず、そそられる。これはSF好きなら必ずぴんとくる、SFの古典的名作で、映画『ブレードランナー』の原作ともなった、『アンドロイドは電子羊の夢を見るか?』から発想を得たのは間違いないであろう。あ、このひと、結構、SF好きなのかな?とおもってしまう。付け焼き刃でSF書いてみよう、ではないな、と。
もちろん篠田節子、である。そんなはずはない。しかしてこの作品群を読み進めると、その思いは確信へと変わり、またそれを超えて感動と驚きに変わる。
あまり詳細をつまびらかにするとネタバレになるので避けるが、レアメタルのパラジウムを体内に大量に保有していたウナギによる食中毒騒ぎから一転、資源ビジネスと特許、国境問題へと発展する第一作、『深海のEEL』。巨大ウナギの描写がすさまじいが、それ以上に人間の欲望と計算の交錯が面白く、また、食品加工問題はまさにタイムリー。すごい作品だった。
最後の一作も、メインのストーリーラインは、あたかも垣根涼介ばりの、異文化と日本人の血の問題かと思いきや、一転してエネルギー問題に姿をかえる、鮮やかすぎる出来栄え。
圧倒的な筆致で描かれる1話1話に、きちんとした現代科学への問題意識をベースとした事実の裏打ちがなされており、説得力がある。また、巻末の解説にもあったが、とにかくすべての作品群において、作者の意気込みというか、強烈な熱が放たれている。
読んでみてください、というのではない。丁寧に織りなされてはいるものの、作品そのものが誇らしげに頭をあげて、さあ、読むがいい、と、胸を張っているような強さなのだ。
この作品群には、たしかに、作者の熱がある。そして熱は、流れをうみ、流れこそが人を巻き込み、人を動かすのだと思う。
篠田節子が、時代とガチンコで書き上げた科学小説。面白くないはずなはかったが、正直、それ以上だった。
本当に本当に、面白すぎた。