乃南アサのレビュー一覧
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ネタバレアイヌ語でシリエトク。「地の果て」知床にやってきた作四郎、つね、直人、とわの一家。大正時代、北海道開拓が政府によって奨励された。農家の次男坊、三男坊が自分の土地を求め、親戚に見送られて希望と金を持ってやって来るものも居たが、作四郎一家のように、借金から逃れるため夜逃げしてきたり、犯罪に手を染めたものも少なくなかったという。
福島から数日かけて、ようやくイワウベツの入植地にたどりつく。森林の大木を伐採してひらき、一家は屋根と四本の柱を板で囲い、むしろを下げただけの家で、互いの体温であたため合って氷点下三〇度にもなる冬を越えなければならなかった。しかし、ほんとうの試練はこれからだった。
つくづく自分は甘いと思わされました。ふわふわした幸せな物語ばかり読んできて、この現実に突き当たったとき、受け止める度量がない自分に気がつきました。それほど過酷な人生をいきたひとたちが、ここにいる。小説は、想像を超えた人生を教えてくれます。この物語は、わかりやすい、そして人の血がかよったことばで綴られていくのでひきこまれ、考えさせられます。 -
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乃南アサさん「すずの爪あと」(2016.9)、短編傑作11話が収録されています。短編だけど読み応えがあります。さすが乃南さん。揺れる男と女の心理、なぜか幸せに着地できないすれ違い、そしていつも死の影が隣り合わせになっています。大地震で家族と別れてしまった雄猫のすずが、10年の放浪の末に再び家族に会えた「すずの爪あと」は思わず手を叩いてしまいましたw。学生時代の恋人と20年ぶりにメールで交信、癌に侵された男性の優しさを描いた「Eメール」秀逸です!「氷雨心中」は以前も読んでましたが、2度目に読んでも怖ろしい世界です。匂いを感じない男性と匂いに超過敏な女性の辿る道はどうなるのでしょうか「向日葵」です。
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年の瀬、萄子(とうこ)の家に、結婚して家を出た娘の真希がひょっこり帰って来ます。軽い調子で話していますが、夫に浮気され、実は相当傷ついているようです。結局、真希は3ヶ月後に離婚しますが、友達に誘われていった沖縄から、立ち直りを示唆する明るい便りが届き、萄子はほっとします。
ただ、安堵する一方で、萄子は昔のことを思い出してしまいます。人との別れ、沖縄、これらは萄子には、できれば封印しておきたい凄絶な経験と結びついていました。
「ごめん、もう、会えない」
東京オリンピックの前日、婚約者であり、刑事の奥田勝は電話でそう告げて失踪。その後、奥田の先輩刑事の娘が惨殺死体で発見されます。萄子はわけがわからないまま、こんな状況に納得できず、彼を探す決心をします。
世間知らずのお嬢さんだった萄子は、周囲の反対に耳を貸さず、わずかな手掛かりを頼りに、川崎、熱海、焼津、大阪等を探しまわり、最後に、当時まだアメリカ領の沖縄、宮古島にたどり着きます。
東京オリンピックの頃の日本の空気がよくわかりますが、圧巻は、宮古島の台風の描写です。当時の記録を丹念に調べたのでしょう、まるでそこにいたかのように嵐の凶暴さを描く作者の筆力には脱帽です。こうした描写が、話しの進行に重みを与えているのだと思います。
この本について、「私は泣けなかった」と書いている感想を見かけましたが、私はそもそも「泣きたい」と思って本を読むつもりはないので、そんなことはどうでもいいんです。面白かったです。いい時間が過ごせました。
「一度、言い出したら聞かないじゃないか。本当に、お前によく似てる」
「あなたって、本当に辛抱強い」
プロローグに出てくる、萄子と、夫の淳とのやりとりですが、最後まで読むと、何気ないこの会話の深さがわかります。 -
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ネタバレ震災のことが書かれていることは事前にネタバレしていたが、ここまでリアルとは思わなかった。
それは、作者自身が2011年の3月11日、取材のために仙台に足を運んでいたことからくるもので、あそこで芭子が経験したことは、ほぼ作者の体験談だという。
あの日、東京で地震に遭った自分ですらそれなりには大変な目に遭い、辛い思いや多少のトラウマもあったが、仙台で被災して、でも向こうに生活の拠点があるわけではない作者と、そして芭子はどれほどのものを抱えているのだろうか。
あの地震が、全ての人々の人生を大きく変えてしまったと書かれていたが、人生だけではなく、この小説の結末さえもあの地震が変えてしまったような気がした。 -
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前作とは雰囲気が打って変わって、今まで通りだと思って読んでいたらびっくり。かなり衝撃のラスト。
やっぱりわたしは、ふたりにはずっとこの距離感を保って、お互いに足りないところを補い合って生きていってほしかった。けど、今までもチラホラと芭子の綾香に対する意識と、綾香の芭子に対する意識の違いっていうものが見え隠れしてきたし、その違いがついにここまで来てしまったのも不思議じゃない。このラストを迎えるための伏線はあったんだよなあ。
芭子が東日本大震災を被災するシーンが生々しく、被災経験のないわたしが言うのもおかしいが、なんというか本物の、3.11の空気感があったように思えた。目の前で起きてるのになんだか夢物語のように感じたり、自分が被災者だということを認識できなかったり、起きてしまった出来事が大きすぎて対応できていないというのが伝わってきて、実際の被災者の方もこんな思いだったんだと自然に思えた。
なんでここまで詳細に描写できるんだと思ってたら、作者自身が取材のために東北に出向いた日が奇しくも3.11で、そのときの被災体験をもとに描いたらしい。そのときの被災体験が彼女の価値観など全てを揺さぶるものだったので、その結果このシリーズの路線に大きな影響を与えたようだ。
芭子と綾香がこんなラストを迎えることになったのは、神の導きだったのかなあ。 -
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ぶっちゃけた話、売れている作家とは言い難い乃南アサさんだが、知る人ぞ知る短編の名手なのである。しかも、後味が悪い…。本書は、過去の単行本から傑作短編を選りすぐった再編集版であり、男女関係のもつれを描いた作品で統一されている。
唯一の初収録作品「くらわんか」。最初はお互い、割り切った関係のつもりが、徐々に深入りし…という話は、現実にも掃いて捨てるほどありそうだ。こんな器用な二重生活は、僕には無理だな…。初読時に怖えぇぇぇぇぇ! と思った「祝辞」は、再読してもやっぱり怖えぇぇぇぇぇ! この後、2人はどうなったんでしょうかねえ…。
「留守番電話」。固定電話を引かない人も多い現在、時代を感じてしまうが、切れ味は現在でも通用するだろう。「青空」。詳しくは言うまい。読んでみて。ブラックな味わいの一方、子を持つ身としては考えさせられる…。「はなの便り」。本書のラインナップの中では異質な存在。その辛さは、なってみないとわからないだろう。
「薬缶」。つい発作的に…とはこんな感じか。僕も肝に銘じ、反面教師にしよう…。「髪」。嫉妬とコンプレックスは男にもあるが、これは女性の方が共感できるだろう。酷い捨て台詞…。結末の切れ味では本書中No.1かもしれない「おし津提灯」。さすがに鬱憤が溜まるだろうと思っていたら…。きっぱり断れない男が招いた事態とも言えるが…。
「枕香」。忙しさを理由になかなか会ってくれない男。乗り込んでみた結果…。何となくタイトルから想像できるかな。「ハイビスカスの森」。これも異質な1編です。さすがに男の実力行使に突っ込みたい。「最後の花束」は、ラストに相応しい後味の悪さ。途中で結末を思い出しちゃったよ…。本人は至って真剣だ。笑えるわけがない。
読んでいて顔が引きつる作品ばかりが勢ぞろい。老若男女問わずに楽しめる、大変お得な作品集になっております。興味が湧いた方は、元々の収録作品集も読んでみよう。特に『花盗人』はお薦めだ。解説によると、今後も傑作短編集の刊行が予定されているとか。なお、解説はネタバレ気味なので、後で読みましょう。