柳美里の初の人生論です。
お断りしておきますが、自分はこの種の本を全くと言っていいほど読みません。
理由は3つ。
①その日その日で手一杯で、人生について考える余裕がないから
②人生なんて大テーマを本から学ぼうなんて了見がさもしいと思うから
③結局は著者の自慢話であることが多いから(いや、たぶん、推測
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ただ、柳美里のなら読みたい、と思って手に取った次第。
伝え聞いているだけでも、柳美里は波瀾万丈な半生を送ってきた方。
で、読んでわかったのは、想像していたより波瀾万丈な半生を送ってきたということ笑。
率直な感想は、「この世に〝ふつう〟なんてないのだ」ということです。
柳美里は、超の付くギャンブル好きの父と、店に来る客と不倫して家に帰らないこともままある母の元で、4人きょうだいの長女として育ちました。
家庭は端的に言って崩壊していたそうです。
そういう柳美里も数々の不良行為で高校を1年でドロップアウト。
それから劇団に入り、劇団を主宰する東由多加と出会います。
この東由多加という人がまた激烈な人で、1升瓶を手に演劇指導するわ、全裸でカラスの真似をさせるわで完全に振り切れています。
柳美里は、東由多加と破局、復縁を繰り返しながら同居生活を送ります。
そのうち柳美里は長男を出産しますが、この子は東由多加との子ではないのだそう。
保守的な人なら眉をひそめるかもしれません。
ちなみに東由多加は、若くしてがんで亡くなっています。
柳美里は戯曲で注目され、小説家デビューし、芥川賞まで受賞しますが、訴訟を起こされたことで業界から一時干されるという不遇の時代を過ごしました。
実は、これは別の本かネットで知ったのですが、柳美里は年収400万円にも満たない生活を送ってきたのだそう。
芥川賞を受賞したのに正社員の平均年収も稼げない日本って何ちゅう国じゃっ! と私は内心腹を立てたものですが、本書を読むと、もっと貧乏していたらしいです。
夕食を食べるお金もなくて、身の回りの物を売り払って何とか凌いだというのですからイヤハヤ何とも(繰り返しますが、芥川賞受賞後ですよっ)。
東日本大震災後に南相馬市に移住し、現在は長男とパートナーの「ムラカミくん」と3人で生活しています。
若い頃は自殺未遂を何度も繰り返すなど衝撃的な話がいくつも出てきますが、上記に紹介しただけでも、柳美里がいかに波瀾万丈な半生を送って来たかが分かっていただけるでしょう。
自分は、とてもこんな風には生きられません。
ただ、柳美里の言葉には強い説得力があり、何度も頷きながら読みました。
特に、次の言葉には、大いに共感しました。
「『余生』や『老後』という言葉にも違和感がある。
ここまでが『生』『命』で、ここからは『余り』という考え方には賛同できないし、定年退職をした途端に老いて、『老後』に入るというのもおかしい。
人間は、死ぬまで生きているのです。」
思い出しました。
柳美里の「オンエア」を読もう読もうと思って未読だったんです。
いずれにしても、稀有な作家ですね。