柳美里のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
重い。柳美里さんに対してヘイトリプライをしている人が大勢いるらしいけれど、この本読んでみたらよいよ。日本の構造的な問題に対してこんなに視座をもって描き出せる筆力の凄さに、何も言えなくなると思う。主人公は、山手線に飛び込んで轢死し、その魂が語るところから始まるけれど、天皇制とのリンク、地方からの労働力があっての大イベントや高度成長。上野の山を切り口にするとこれほどまでに様々なことを見ることができるんだと驚き。また相馬の地方色と、ならではの問題。また東日本大震災。詰め込みすぎという書評もどこかで読んだけど、人の人生って多岐にわたって色々なことが起きているから、きっとこういうもの。それに気づかないんだったら漫然と生きているんだよ。好き嫌いはあると思うし、文字から受ける情報をどのように読むかは人それぞれだから強制できないけど、これよんでずっしりと色々なことを考えられる読み方出来てたらよいのかな。何かを理解するのに国籍って関係ないね。
-
Posted by ブクログ
久しぶりに凄みを感じる小説だった。
東京・上野周辺のホームレスに東北出身者が多いことも、彼らの多くが高度経済成長期の出稼ぎや集団就職で上京した人々であることも知らなかった。そもそも私は、ホームレスとは社会や家族との縁が切れた人たちだと思い込んでいたので、家族のために金を稼ぎ続けるホームレスがいることに衝撃を受けた。
妻や子どもを生かすために、自分は家を持たず働き続ける。しかもその家族とはほとんど会えない。その生き方はあまりにも過酷で、簡単には理解できない。
時代は変わったが、私たちは生きるために働いているのか、それとも働くために生きているのか。そんなことを考えさせられた。
また、内容だけでなく情景描写も素晴らしかった。家を持たない者の視点から描かれる四季の美しさと厳しさ。太陽や雨、土、草花、人の汗や体臭まで、そこにあるものを一つ足りとも取りこぼさずに伝えようとする執念を感じた。
柳美里さんの作品を読むのは初めてだったが、ぜひ他の作品も読んでみたいと思う。 -
Posted by ブクログ
ラスト30ページ、涙が止まらなかった。まさかこんなに泣くことになるとは。「待って、待って、」とずっと心で叫びながら読んでいた。
郵便ポストのシーンはダメ押しでキツかった。胸が締めつけられて痛い。幼稚園でのゆたかくん、お布団で寝ているゆたかくん、ママと笑い合うゆたかくん、ママの自転車のチャイルドシートに乗っているゆたかくん、ママと手をつないで歩くゆたかくん、〈祖母に手を繋がれて突っ立っている〉ゆたかくん、いろんなゆたかくんの姿が思い浮かんで、ゆたかくんのかわいらしさが哀しみを増幅し、大げさでなく滝の涙。
主人公は38歳の主婦、川瀬由美。夫のまさるは長野に単身赴任中、3歳の息子ゆたかを育てている。東日本大震災から1年、〈親には子どもの未来の可能性を閉ざさないようにする責任がある〉との考えから、ゆみはありとあらゆる危険からゆたかを守ろうとする。放射能汚染、寄生虫、菌やウィルス、正座、などなど。
息子を守ろうという一心ですごくがんばっているのに、それが世間とかみ合わず理解されない、受け入れてもらえない。あまりの不安から不信が生まれ、不信から身動きがとれなくなる。人々から離れてゆく。
私自身も主人公の言動に狂気を感じ、眉をひそめることもあったけれど、孤独の中で必死に息子を守ろうとして常に何かと闘っていて、何かに怯えて緊張状態、いっときも気の休まることのない彼女が、〈……疲れた……疲れが爪のように深く食い込んで……食い込んで離してくれない……骨まで達するような疲れ……全部やめて楽になりたい……〉という状態になったとき、あぁ、誰もが彼女なのだ、と思ったのだ。
今、星の数にめっちゃくちゃ悩んでいる。全力で否定したいのに、こんなに揺さぶりと涙が止まらない、この作品の意義深さはどうにも無視できない。これは絶対に忘れてはいけないような気がしている一方で、つらすぎてこの本は二度と読めないかもしれないとも思う。
でも、著者柳美里さんの「新装版あとがき 絶望的な日々に求める『死』という希望」を読んだら、救いを感じてちょっとうれしくなった。和合亮一さんによる解説も秀逸。ここにすべてが書いてある。
私も困ったときには「忍者ハットリくん」を心の中に登場させて、「〜でござる。ニンニン」と明るく楽しい気持ちで乗り越えていこう。
〈生きていた時は、誰の目にも留まらなかった人でも、死は力ずくでその人の個性を肯定してくれる。その他大勢なんかではなく、唯一無二の存在だった、とーー。〉
-
Posted by ブクログ
『JR高田馬場駅戸山口』柳美里
山手線シリーズ。『グッドバイ・ママ』の新装・改題版。上野駅も品川駅も孤独で辛かったけれど、こちらは群を抜いて孤独だと思った。こんな手法で孤独を描くことができるんだと思った。おそろしい。
夫は単身赴任先で不倫、母親は離婚、父親は他界、義実家とも不仲。幼稚園児の息子を抱え、友人もなく、放射線や農薬やとにかくあらゆる脅威から息子をただ守ろうと奮闘する主人公。
大半が彼女の一人語りで、その語りにはしばしば「忍者ハットリくん」が憑依する。何とかでござるよ、ニンニン、と自らを鼓舞する。その語り口がだんだん神経症めいた早口になって上がり調子になって、絶好調になればなるほどこちらは苦しくて恐ろしくて悲しくて気が狂いそうになる。
そして織り込まれる広告のコピー、新聞記事、すれ違うお母さんたちの賑やかな話し声。
ハットリくんが陽気にふるまえばふるまうほど、その断絶があからさまになってゆく。
「味方がいない」というありがちな情景を、ここまでエグく描けるものなのか。ニンニン、にあらゆる出来事がフィルタリングされて本人の悲壮感が伝わってこない分、あれこれと想像してしまう。
ラストは黄色い線を超えないでほしいと祈りながら書いたというようなことを筆者はあとがきで書いていたけれど、どうなるのが幸せなんだろうか。
品川駅を読んだ時も思ったけれど、1度生を手放そうと決めた人の描写が真に迫っていて、さすがという感じ。
おそれいったでござるよ。ニンニン。
-
Posted by ブクログ
柳美里『JR品川駅高輪口』河出文庫。
『JR上野駅公園口』に続く山手線シリーズの第2弾。
電車の中で飛び交う乗客たちの断片的な会話が都会の喧騒と忙しさと主人公の女子高校生の居場所を失った孤独感を表現するかのようだった。この雰囲気はと思い出してみると、大昔の真面目な頃のNHKのドラマではないか。
普通の家庭で、仕方無しに余り偏差値の高くない高校に通う高校1年生の市原百音は、誰かと一緒に死のうとネットの掲示板に自殺仲間募集の書き込みをする。
うわべだけの友達、父親の不倫と母親と弟との別居の危機、東日本大震災の原発事故による放射能汚染。生きることの無意味さばかり味わう日常と強くなるばかりの死への渇望。百音は見知らぬ自殺仲間と4人で練炭自殺を実行するが……
本体価格740円
★★★★★