柳美里のレビュー一覧
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ネタバレ福島生まれの男性が、家族のために出稼ぎ生活を送る間に息子を亡くし、60を過ぎて出稼ぎ生活に終止符を打って郷里に帰ってから妻を亡くし、子どもたち家族に迷惑をかけまいと東京に舞い戻ってホームレスになる。そして孫娘は震災の津波で亡くなった。
さまざまな事情を抱えているだろう、家のない人々との少ない会話。上野を行き来する家のある人々の会話。淡々とした彼の観察眼。
天皇や皇族が上野の博物館や美術館を訪れる時の「特別清掃」、山狩り。一度目の東京五輪時に出稼ぎで土木作業に従事した彼が見る、二度目の東京五輪の時代。「自分と天皇皇后両陛下を隔てるものは、一本のロープしかない。飛び出して走り寄れば、大勢の警察官た -
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女性作家が高校生向けに、自殺を総括した抗議をまとめたものです
在日2世だったためか、日本育ち生まれでありながら「日本人は」と巨大な主語で意見を述べています
わかりやすさ重視のためか、極端な事例を引用した主張が多いです
昔の遺書を引き出し、自殺とはどういうものかを学生に向けて噛み砕いて説明しています
事例も自殺した小学生、中学生の遺書を挙げており、学生にとって身近な存在を感じさせるのが上手でした
著者自身が東京生まれということもあり、育ちは貧しくとも環境自体は日本有数のため、恵まれてもいる立場からの意見と感じるものもありました
著者の中高生時代のエピソードも思い出すように語られるので、その中 -
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かつて、司馬遼太郎さんは柳美里さんの作品を「研ぎ澄まされた文章」と評価されていらっしゃったそうだ。
著者の柳美里さんは2002年にこの小説を構想し始めたとのこと。2006年にホームレスの方々の間で「山狩り」と呼ばれる行幸啓直前の「特別清掃」の取材などを経て、2014年3月に出版された。
この「研ぎ澄まされた文章」は12年も磨き続けられてきた結果なのだ。
柳美里さんが一貫して取り組んできたテーマは「居場所のない人に寄り添う物語」だそうだ。このことも評価されたのか、2020年11月にモーガン・ジャイルズさん訳の『TOKYO UENO STATION』)が、2020年の全米図書賞(National -
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柳美里の山手線シリーズ、私にとっての3冊目。あとがきに、連作8作の内、唯一師匠的な内容である、とされている。それがうなづけるぐらい、主人公の心理的な流れが言葉としてしつこいほどに表現され続けている。断続的な意識と指向の連続が、主人公の絶望へと駆り立てられる様子をとてもリアルに描き出してく。
なぜか不自然に陸軍軍医学校跡と出土した人骨の身元と行方に執着する主人公。731部隊の犠牲者の遺骨ではないかとされているようで、著者のバックグラウンドもそこには想起されるが、「名もなく」犠牲の死を遂げた者たちを悼む主人公の姿は、同じく名もなく社会の流れから断ち切られ疎まれ続ける自身に対する哀れみの表象だろう -
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「山手線シリーズ」第4作
もともとは、2016年に出版された『まちあわせ』を改題したもの。その経緯については、著者による「新装版あとがき」にて説明されている。
第5作があの『JR上野駅公園口』なので、遡って、逆回りの山手線にのっているような感じです。
『JR上野駅公園口』が時間軸が長く時代背景の知識もある程度必要とされ、また観念的な記述も多く、決して読みやすくはなかったが、こちら『JR品川駅高輪口』はその点、わりと近い過去の話し、若き高校生が主人公でもあるので、すんなりと読めると思う。
家族間でも、学校内の友人関係でも、疎外感をいだき、表面上はつくろっているものの、死を、方法や手順は明確 -
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ネタバレ2020年の全米図書賞翻訳部門に選ばれもした作品です。文庫本の裏表紙にある内容紹介の文章が、ほんとうに書き過ぎずちょうどよい濃度で伝えてくれているので、僕がここでわざわざ拙く紹介するのも野暮なのですが、とりあえずのところを知って頂くために簡単に書いていきます。多少のネタバレもあります。
福島県相馬郡で暮らしていた主人公が人生の最後に上野駅周辺でホームレスとなり、その生活の中で故郷や家族、そして自分の人生を振り返っていきます。平成の天皇と同じ年齢で、皇太子(今上天皇)と同じ日に生まれた息子がいて、昭和天皇の行幸の場に居合わせたことがあり、というふうに、日本という国に住む者のいっぽうの極ともうい -
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公園に捨てられた生まれたばかりの子ねこは優しいおばあさんに拾われニーコと名付けられ幸せに暮らしていましたが、おばあさんが認知症になって家からいなくなりまた公園の野良ねこになってしまいます。そしてニーコは6匹の子ねこを公園で産みます。その子ねこたちを拾って育てることになった人達をめぐる物語。ねこを家族に迎えることで心の中にも、人と人の繋がりにも変化が訪れていきます。
人の都合で捨てられた小さな命が、かけがえのない人と人の絆を紡いでいく様が心に染みます。どうか世の中の猫たちが幸せでありますように。猫を取り巻く人達が幸せでありますように。そんな祈りにも近い思いが胸にふつふつと湧いてきました。