あらすじ
全米図書賞受賞のベストセラー『JR上野駅公園口』と同じ「山手線シリーズ」として書かれた河出文庫『グッドバイ・ママ』を新装版で刊行。居場所のない「一人の女」に寄り添う傑作。
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読みにくかった。
主人公の思考がスライドショーみたいに切り替わるところとか。でも、この読みにくさは必要だとも思った。
思っただけで言葉にできずにいたけど、解説とあとがきを読むと「それな〜!!」ってなる。
柳美里のルージュという本を高校生の時、部活サボって読んだ記憶があって、今回この作者さんの本を読んだ。シリーズって知らなかった。
詳細は朧げだけどSOSが印象に残った本だった。
この本の主人公も正座とか放射能とかよりも、ただ、助けてって言いたかったのかな。助けてって言えたら…言える人がいたら…と考えてしまった。
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ラスト30ページ、涙が止まらなかった。まさかこんなに泣くことになるとは。「待って、待って、」とずっと心で叫びながら読んでいた。
郵便ポストのシーンはダメ押しでキツかった。胸が締めつけられて痛い。幼稚園でのゆたかくん、お布団で寝ているゆたかくん、ママと笑い合うゆたかくん、ママの自転車のチャイルドシートに乗っているゆたかくん、ママと手をつないで歩くゆたかくん、〈祖母に手を繋がれて突っ立っている〉ゆたかくん、いろんなゆたかくんの姿が思い浮かんで、ゆたかくんのかわいらしさが哀しみを増幅し、大げさでなく滝の涙。
主人公は38歳の主婦、川瀬由美。夫のまさるは長野に単身赴任中、3歳の息子ゆたかを育てている。東日本大震災から1年、〈親には子どもの未来の可能性を閉ざさないようにする責任がある〉との考えから、ゆみはありとあらゆる危険からゆたかを守ろうとする。放射能汚染、寄生虫、菌やウィルス、正座、などなど。
息子を守ろうという一心ですごくがんばっているのに、それが世間とかみ合わず理解されない、受け入れてもらえない。あまりの不安から不信が生まれ、不信から身動きがとれなくなる。人々から離れてゆく。
私自身も主人公の言動に狂気を感じ、眉をひそめることもあったけれど、孤独の中で必死に息子を守ろうとして常に何かと闘っていて、何かに怯えて緊張状態、いっときも気の休まることのない彼女が、〈……疲れた……疲れが爪のように深く食い込んで……食い込んで離してくれない……骨まで達するような疲れ……全部やめて楽になりたい……〉という状態になったとき、あぁ、誰もが彼女なのだ、と思ったのだ。
今、星の数にめっちゃくちゃ悩んでいる。全力で否定したいのに、こんなに揺さぶりと涙が止まらない、この作品の意義深さはどうにも無視できない。これは絶対に忘れてはいけないような気がしている一方で、つらすぎてこの本は二度と読めないかもしれないとも思う。
でも、著者柳美里さんの「新装版あとがき 絶望的な日々に求める『死』という希望」を読んだら、救いを感じてちょっとうれしくなった。和合亮一さんによる解説も秀逸。ここにすべてが書いてある。
私も困ったときには「忍者ハットリくん」を心の中に登場させて、「〜でござる。ニンニン」と明るく楽しい気持ちで乗り越えていこう。
〈生きていた時は、誰の目にも留まらなかった人でも、死は力ずくでその人の個性を肯定してくれる。その他大勢なんかではなく、唯一無二の存在だった、とーー。〉
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高校生だった時に父親を亡くすというトラウマのある主人公。原発事故後、愛する息子を守ろうとするあまり徐々におかしくなっていく、孤立を深めていく過程がこれでもかというほどしつこい自問自答によって描かれtりる。コロナ禍にいる我々にとっても、他人事ではないように感じられ、心が落ち着かない。
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『JR高田馬場駅戸山口』柳美里
山手線シリーズ。『グッドバイ・ママ』の新装・改題版。上野駅も品川駅も孤独で辛かったけれど、こちらは群を抜いて孤独だと思った。こんな手法で孤独を描くことができるんだと思った。おそろしい。
夫は単身赴任先で不倫、母親は離婚、父親は他界、義実家とも不仲。幼稚園児の息子を抱え、友人もなく、放射線や農薬やとにかくあらゆる脅威から息子をただ守ろうと奮闘する主人公。
大半が彼女の一人語りで、その語りにはしばしば「忍者ハットリくん」が憑依する。何とかでござるよ、ニンニン、と自らを鼓舞する。その語り口がだんだん神経症めいた早口になって上がり調子になって、絶好調になればなるほどこちらは苦しくて恐ろしくて悲しくて気が狂いそうになる。
そして織り込まれる広告のコピー、新聞記事、すれ違うお母さんたちの賑やかな話し声。
ハットリくんが陽気にふるまえばふるまうほど、その断絶があからさまになってゆく。
「味方がいない」というありがちな情景を、ここまでエグく描けるものなのか。ニンニン、にあらゆる出来事がフィルタリングされて本人の悲壮感が伝わってこない分、あれこれと想像してしまう。
ラストは黄色い線を超えないでほしいと祈りながら書いたというようなことを筆者はあとがきで書いていたけれど、どうなるのが幸せなんだろうか。
品川駅を読んだ時も思ったけれど、1度生を手放そうと決めた人の描写が真に迫っていて、さすがという感じ。
おそれいったでござるよ。ニンニン。
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柳美里の山手線シリーズ、私にとっての3冊目。あとがきに、連作8作の内、唯一師匠的な内容である、とされている。それがうなづけるぐらい、主人公の心理的な流れが言葉としてしつこいほどに表現され続けている。断続的な意識と指向の連続が、主人公の絶望へと駆り立てられる様子をとてもリアルに描き出してく。
なぜか不自然に陸軍軍医学校跡と出土した人骨の身元と行方に執着する主人公。731部隊の犠牲者の遺骨ではないかとされているようで、著者のバックグラウンドもそこには想起されるが、「名もなく」犠牲の死を遂げた者たちを悼む主人公の姿は、同じく名もなく社会の流れから断ち切られ疎まれ続ける自身に対する哀れみの表象だろうか。
「上野駅公園口」、「品川駅高輪口」と呼んできたが、この「高田馬場駅戸山口」が最も心に迫るものがあった。生きるということを大変重たく考えさせられた一冊だった。
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主婦の狂気が怖くて気持ち悪い。暴走して周りと軋轢を生みまくってるから居心地が悪い。放射能に怯える主婦。鎖。731。なぞのハットリくん口調と淡々と書く三人称で、何が何なのか分からなくなる。
孤独が確執を生むのか確執が孤独を生むのか、こんなに人が多い高田馬場で幼稚園で団地で人と関わっているのに、誰も狂気から助けてくれない、救われない、どちらにせよ、団地も、子育てもまた一つの孤独で、上野と品川とはまた別の悲しみの世界がある。
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上野駅、品川駅と読んで3作品目です。
上野駅も品川駅も、死んだように生きている人が、最終的にたどり着いたのが死だった。どちらも読後、程よいカタルシスを感じた。
が、この高田馬場駅は、読んでいて非常に辛かった。読むほど、気持ちが悪い方向に持っていかれた。主人公は生きようとしているのに、そのために必死に足掻いているのに、世界が主人公を否定してくる。
感情を揺さぶられたという意味では良作ですが、人には勧めないですね。(私含め)鬱傾向がある方は精神状態が悪化する可能性がありますので、読むべきではないということが読後1番言いたいことです。ですが、精神的に健全な人は、果たしてこの小説を興味深く読むことが出来るのだろうかというジレンマがあります。
主人公の女性の言動は極端すぎて理解できず、不快感まで感じました。忍者ハットリくんとか知らんし、独白部分も何言ってんだこいつ…って思ってました。
けれど、孤立奮闘する主人公が、1人勝手に溺れていく心理状態だけは、すごく共感出来てしまい、読んでいるうちメンタルが引きずられてしまいます。
何をやっても上手くいかない。自己主張しても誰も理解してくれない。すると段々と、私の考えは、間違っているのだろうか?私は誰にも受け入れられない、共存できない。なんのために生きているのだろう?存在しない方がいいのではないか?と思うようになる。
こと悲しいのは、
彼女を取り巻く問題は、いずれも彼女自身が巻き起こしたものが殆どということ。しかしそれは、彼女にとっての生き方を貫こうとしただけでもあります。
正座問題も、放射能汚染も、ゴミ問題も、彼女が目を瞑りさえすれば全て上手くいく。
けれどそれは、彼女の生き方を、信念を、全て否定することになる。彼女が子供の未来のために正しいと思っていることを否定し、悪であると思っていることを受け入れなければならないことでもある。
言動は理解できないしヒステリックすぎだとは思うけれども、彼女が孤立無援の中で1人で必死に生きようともがき苦しんだ事は間違いない。そして打ち砕かれ、世界から否定されたことも。世界に居場所が無くなった彼女は、死ぬしかなかった。
自分の信念を貫いて生きようとした結果がこれなのかと思うと、私はもう、自分の意見を述べる勇気も起きない。私もこんなふうに壊れてしまい自死を選ぶしかない未来が待ってるのかもしれない…そんな感じで、私も鬱になってしまった作品でした。
また、ヒステリックに叱られ、価値観を押し付けられても、たった1人の母親を信頼し甘える素振りをする子どもの姿は、堪えるものがありますね。
どうか、最後は思い直して欲しい。彼女に寄り添い、導いてくれる存在が現れて欲しい。そして、彼女は苦しみから解放され、再び明るい人生を歩いていって欲しい…
現実において生きづらくて苦しんでいる人に、そんな奇跡はそうそう起きないと知っているからこそ、せめて小説の中だけは。そう思います。
Posted by ブクログ
この人が軽いアスペルガーなのか正常なのかわからなかった。子どもを大切に思う気持ちと追い込む行動のどちらもわかる気がした。夫と離婚寸前で近所のおばさんたちにはゴミ問答の後「逃げた逃げた」などと言われ、東日本大震災の放射能でもノイローゼになって。子どもは毎日食べれない量のお弁当を持たされ、「食べろ!残すな!早くうんこ!順番に!」などと言われているが、意外と明るく、母親を慕っている。完璧な親なんていないし、子どもって案外強いのかなとも期待を持ってしまう。
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都心をめぐるきらびやかな山手線の陰を描くシリーズ三作目。
人を追い込む孤独か。
著者のあとがき曰く、
「絶望とは、まだ体験していない未来に疲れることである」ってさ。
ニンニン言ってる場合じゃねえな。
Posted by ブクログ
都会に溢れる情報と主人公の頭の中でどこからか止めどなく溢れ出てくる情報が入り混じって、とにかく忙しなく畳み掛けてくる。
そんな膨大な情報が大きな壁となって、主人公は社会から隔絶されているように思えた。
きっと社会と繋がりたくていろいろな情報に手を伸ばして、けれどそれらが却って主人公と社会を隔ててしまう、とても切ない物語だと思いました。