柳美里のレビュー一覧
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ひとはなぜ自殺をするのか。
自殺は人間だけが行います。ライオンもコンドルも自殺しません。だから私は、自殺は最も人間的な行為だと思うし、人間だけに与えられた特権だということができると思います。
ひとが自殺をする理由はひとが生きる理由ほどあるんです。けれどひとが死を選ぶ本質的な理由は、自己の尊厳を守るという強い動機に支えられている、といえます。自殺は尊厳死であるといってもいいと思います。ひとは、自己を脅かしつづける屈辱を葬り、自己の尊厳を守る権利があるということをおぼえておくべきだと思います。
だから裏返しなんですよ。生きたいと死にたいというのは全くイコールなんです。
何の根拠も -
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下巻は上巻にもまして、重たく感じられました。まずは、下巻の冒頭で、雨哲が30歳前にして目をみはる成績と最高のコンディションでむかえるはずだった東京オリンピックが戦争の影響により中止となった場面から彼の人生がはげしく転がり落ちていきます。一方、血を分けた弟の李雨根(イ ウグン)は、抗日を叫ぶ義烈団に参加するため兄以上の足を持ちながらもマラソンをあきらめて、朝鮮を離れ、拠点である上海に赴きます。こうして李雨哲の兄弟・家族は戦争終結間際に散り散りになったあと、故郷に集散していくさまが人と土地の結びつきを記憶・心理から結び付けられていて、郷愁のありようを示してくれています。そこに気持ちが揺さぶられまし
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Posted by ブクログ
「自殺は生きる意味と価値を喪失した結果」
ちょっと・・・たまに・・・自殺願望が沸々とわいてくるので、この本を読んだ後は、どっぷりとマイナス思考に落ちました。
それほど心を抉り取るような講演録、そしてエッセイです。
きれい事じゃない、心の闇を貫きます。
私は「死」に近い仕事をしています。
次の言葉は、「死」を考える上で、カウンセラーの先生が言っていたことに近いです。
「人はその人生において、幾度かの結末を迎え、その度に何事かを葬り去らなければなりません。失恋したのならば恋を。会社が倒産しりリストラされたのならば前職を葬り去ることができなかった」
また、子供とおとなの自殺の相違点を一つあ -
Posted by ブクログ
ネタバレ昭和の戦前期に生まれ、戦中に少年時代を過ごし、戦後を生きた人たち。激変の世の中を生き、国や政治に翻弄されてきた人びと。苦しみを耐え忍び、寡黙に生きてきた人たち。人生の充実や幸せを摑んだかと思えば見放され、不遇のまま死んでいった彼や彼女。同じテーマを扱った小説に橋本治『巡礼』(2009年)がある。
上野駅は東北から出稼ぎに上京する人たちの玄関口であった。上野恩賜公園は駅の西側に広がる。美術館や博物館、桜、西郷隆盛の銅像、不忍池などの名所が目白押しである。
そこで路上生活を営む昭和8年生まれのある男のドラマがこの小説の核となる。彼が生まれたのは東日本大震災で未曽有の被害を受けた福島県相馬郡。
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以前読んだ時は少々退屈してしまい途中でやめてしまった。今度こそと意気込んだら意気込む必要などなかったくらいに引き込まれた。
きっと心の余裕の問題だったのだろう。
感想はうまく言葉にならないことの方が多いけど、とにかく読んでよかった。
世界の見方が少し変わった気がする。
国のために生き、なにも報われず、社会に蹴り落とされて死んでいった主人公の魂。いまの日本じゃいつまで経っても上野公園から離れることができないんじゃないかな、といたたまれない気持ちになる。上野公園にふらりと舞い戻った主人公が天皇に手を振るクライマックスは、圧巻だった。
原発ができる前の浜通りの人々の暮らし、
加賀藩からの開拓の -
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一人のホームレスの男の一生のお話。
始まりから不穏で心がざわざわしました。
そして、この男性目線で語られる情景や回想から徐々にわかる状況や過去。
失われる人の描写は切なく胸が締め付けられます。
こんなにも、胸にせまる描写ができる柳美里さん、すごい…ってなります。
家族のために全てを捧げて仕事に邁進した男。
家族との時間、交友関係、趣味、色々なことを犠牲にして突き進んだ先にあるもの。
その家族を失い、目的がなくなった先にあるものは悲しみと喪失感、絶望。
男はそこから抜け出すことができず、自分を責め、生きることに罪悪感を感じる。
そして、自ら身寄りを離れホームレスになった。
生きるとはなんなのか -
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高校生の百音は形だけの家族との生活、形だけの友人関係に生きている価値を見出せなくなる。毎日の日課は自殺願望を持った人たちが集う掲示板サイトを見ることだ。
百音は心の中での話し方は淡々としており、自分の気持ちなのにどこか他人事のようだ。
生きているのに、生きている実感がないように感じる。
物語の特に冒頭部分だは、百音の耳をすり抜ける電車内のアナウンスや周囲の人たちの会話が羅列されており、百音の孤立感がさらに読者にも迫って感じられる表現となっているように思う。
百音のように自殺願望を持ったことはないが、私自身も小学生の頃クラスメイトにハブられた経験があり、生きている意味、存在価値を考える気 -
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年間3万人を数える日本国内における「自殺」。本書は作家、柳美里が一人の少女を通して問いかける「生と死」の意味。圧倒的なリアリティを持つ電車のアナウンスや、車内や女子高生同士で語られる「会話」が秀逸。
本書は作家、柳美里さんが1998年以降、 自殺者連続3万人の日本社会に問う長編小説です。よく彼女はツイッター上で、電車への飛び込み自殺で、運休を見合わせる旨を示すツイートを「……」というメッセージを添えてRTしていることがあるのですが、これを読みながら3万人もの人間が「消えて」行っていることを思い出し、なんとも複雑な思いがいたしました。
物語は冒頭から「2ちゃんねる」を思わせるような掲示 -
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評価は迷ったけど、3ではなく4にしてみた。
さみしくて切ない、不遇なねこたち&人間たちのお話。ねこも不遇だし、人間も不遇。いや、一番最初の話は寂しいとか切ないとかを超えて救いようがない悲しい話でした。
私が読んだ単行本は装丁が版画のようで、さみしくて切ないこの本の内容になんてぴったりなんだろう。。
文章の書き方も、たまにですます調になったりして、突然読み聞かせみたいな丁寧さが混ざることで、さらに不安定な感じを与えている気がする。
ただ、なんだろう不遇な話なんだけど、なんか微かに希望があるというか。なのでさみしくて切ないだけでもない本でした。