石田衣良のレビュー一覧
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【水を抱いたことがない人には必要がない物語】
この話を薄っぺらいと言うのは、きっとこれがフィクションだと言える幸せな人なんだろうと思う。私はちょっと前まで水を抱きしめようと四苦八苦していた。彼は水を抱くことを諦めていないようだけど、私は草臥れて手を伸ばすのをやめてしまった。
この作品の官能的なシーンになんの魅力があるだろうか。それこそ私にはわからなかった。ただ、やはりわかりやすくセックスは心の近くにある。確かに様々なデリケートな話題を作中では荒っぽく扱っている。けれどそれこそ作者の強い意思を感じた。あくまでも主観ではあるが、震災に対して、セックスに対してもう少し違ったアプローチをしてもいいのではないだろうか。そう問われている気がした。彼と別れて私は1度も異性と二人きりの食事をしていない。異性に見せるための洋服を買っていない。異性を笑わせるためのプレゼントを買っていない。だからなに?と別にそれの何が悪いと思う自分もいる。だけど、虚しいさみしい辛いと泣いてる自分もいる。
弱い人だとありきたりな人だと笑われるかもしれない。読み終わってそんな自分が変わるわけでもない。だけど、不毛だとわかりきった悩める夜を明かした人だけが(明かさない方が断然幸せだと思うけど)、得られる何かがこの本には詰まってると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ今回は同じくらいの長さの短編が4作。
シングルマザーが置かれている過酷な状況「千川フォールアウト・マザー」
集まってボランティアで街のゴミ拾いをする若者たち「池袋クリンナップス」
別れた彼から、恥ずかしい写真をネタに脅迫される「定年ブルドック」
そして表題作「非正規レジスタンス」
最初と最後の作品が、奇しくも社会の底辺から這い上がれない若者たちの姿を描く。
シングルで子どもを育てるのに必要な保育園が足りない。
だから夜子どもがが寝ている間に必死で働き、昼間は家事と育児で毎日が過ぎていく。
身も心も疲れ切ったなかで、ちょっとだけ息抜きをしたその時子どもがけがをしてしまう。
「鬼母」「親の資格なし」と、世間から責められる毎日。
困った時にちょっと手を貸してくれる人、話を聞いてくれる人がいたなら、耐えられたかもしれない。
一人で全てを抱えるには、母親だって余りにも若すぎる。
今回はマコトの母親が活躍した。
「そんなに大変なら子どもをを捨てろ」
一度施設に預かってもらって、生活を立て直してから迎えに来ればいいと、ケースワーカーを紹介する。
この解決が必ずしも正しいのかはわからないけれど、ひとりで悩んでいても解決できないのなら、誰かを頼っていいと私も思う。
手助けもしないで「かくあるべし」と糾弾する権利は、誰にもないと思うし。
そして「非正規レジスタンス」
フリー他なんてやっているのは、怠け者だからだ。というのはもう、正しくはない。
一生懸命勉強していい大学に入ったって、就職できない人が大勢いるのが現状なのだ。
そして就職したはいいけれど、サービス残業、長時間労働で疲れ切り、大人としての判断力さえ奪われている人たち。
気が付いたら底辺に押しやられ、這い上がることはほぼできない。
“職業を斡旋する際には、厚生労働省令で手数料の上限が決められているんだ。上限でも10.5パーセントなんだ。それも月給の半年分のね。でも、日雇い派遣にはマージンの上限がまだ決められていない。”(作品中、サトシは4割のマージンを取られている)
“明日が今日よりも貧しくなる。子どもが親よりも乏しい選択しか与えられない。サトシのようにまじめに働く若いやつが、じりじりと格差のどん底に滑り落ちていく。それはこの六十年間で、俺たちに初めて起きている事態だった。”
“おれは日雇い派遣の裏側にある真実が、ようやくわかってきた。ここには誰ひとり責任を取る人間がいないのだ。すべての責任は使い捨てにされるフリーターにある。無限の自己責任。”
最初から就職できず、または体を壊して会社を辞めて、またはリストラされて、一度はみだしてしまえば二度と戻ることは出来ない一般社会という囲い。
崖っぷちを歩いている人は、いつ何時何があって崖から転落するかわからない。
そしてその可能性は、誰にでもある。
そんなリアルな世の中の仕組みを、改めて突き付けられた。
ところで、マコトがボランティアで街のゴミ拾いをするとしても、タカシは絶対にやらないと思う。
タカシはやらない。
ただ、空き缶やたばこの吸い殻をポイ捨てするやつを見つけたら、フルボッコだ。
池袋のキングだからね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレシリーズ初期のころに比べたら、残酷な、またはグロテスクな事件はなくなり、日本社会の縮図のような事件がメインとなっている。
今回は振り込め詐欺、キャッチセールス、放火。
社会の閉塞感、学校での疎外感、家庭での圧迫感。
少年たちを取り巻く環境は過酷であっても、どの少年たちも、自分の足で歩きだそうとするところで終わるのがいい。
そして最後の中篇。
表題作は、Gボーイズの内紛がメインなので、割と暴力シーンも多かったけれど、読後感はとてもいい。
それは殺伐とした世界に身を置きながらも、変わることのないマコトとタカシの友情が前面に描かれていたから。
本当に危険なことにはマコトを巻きこみたくないと思うタカシと、安全な時だけ一緒につるんで危険な時は知らん顔なんて友だちじゃないだろうと言うマコト。
熱い男マコトとクールなタカシの友情が、実にいいんだよね。
「骨音」で挫折しなくてよかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの巻は、話の内容も構成もよかった。
女子高生のスカートの中を盗撮しては、画像を売りさばく小学生。
それを知った高校生が、俺たちも仲間に入れろと言いだし、さらには常識も何も通じないクレイジーな男までが介入してきて…。「灰色のピーターパン」
通り魔に襲われ、一生治らない傷を負わされ夢をあきらめざるを得ない兄。
その仇を取ってくれ。同じ傷を負わせてやってくれとまことに頼む妹。「野獣とリユニオン」
頻発する幼児いたずら事件。
駅前無認可保育園で働くテツオはただ子どもたちをかわいがっているだけなのに、いたずら事件の犯人だと疑われて…。「駅前無認可ガーデン」
3作は、誰の身近にも起こりうる事件。
マコトの考える解決というのは、法的にどうこうではなく、彼らの心が穏やかでいられるようにすること。
例えば「野獣とリユニオン」
「やられたやりかえす!」「倍返しだ!」
不幸の連鎖は終わらない。
だけど。
決して簡単なことではないけれど、断ち切らなければならない。
「相手を人間じゃないものにして、怖れたり憎んだりし続けるのは、きっと自分の心のためによくないと思う。(中略)憎しみの場所にいつまでも立っていたくない。まだあいつが憎いけど、それを越えていきたい」
加害者もまた弱きもので被害者であったと知った時の兄ツカサ。
「きみの罪は消えることはないだろう。でも、ぼくはきみという人間を許すことにする。(中略)いつまでも、きみを憎んでいたら、ぼくの明日が始まらない。握手だ」
いや、言えませんよ、こんな聖人みたいなこと。
でも、言える人間でありたいと思うじゃないですか。
そして最後の「池袋フェニックス計画」
ほかの3作よりやや長めのこの作品は、東京都と警視庁を相手にマコトが戦うんですね。
正論だけど正解じゃないこと。
街の治安をよくするという名目で、地元の人たちの生活すら圧迫していく『池袋フェニックス計画』
正論だけじゃ人は生きていけない。
強者の理論に押しつぶされそうな人たちを、マコトはどう救い出すのか。
一冊の中に1編、こういう骨太の話が入っていると、読後の満足度がぐっと上がる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最高にご都合主義。最後なんてご都合主義の極み。世界は絶対にこんなに幸せじゃない。同じような立場にいる人だったら悲しくなっちゃうかも。自分の境遇に。例えば、自分を不幸だと思ってる独身ガン患者でもこれを読んで幸せな気分になれるのかしら??
でも、何も関係ない人にとっては、それが希望に満ち溢れる未来を想起させてくれそうで良いね。頑張れば、何歳からでも始められるのだ。みんな幸せ。小説の終わった段階ではね。あ、伴さんはあんまし幸せじゃないかも。
こういう身近なテーマだと石田さんは悪くないと思えましたよ。東京dollより良い。
ただ「他人によって、それを欲しいものだと錯覚させられて、自分が本当に欲しいものを勘違いしている」という言葉は就活期の僕としては複雑。そんなことは分かっていても、どうしようもないの。 -
Posted by ブクログ
2016年。2/30冊目。
悪性の脳腫瘍を患った瀬野周司が、脳腫瘍の痛みをきっかけに精神だけ200年後の荒廃した世界(日本)を行き来できるようになる。脳腫瘍によって死を待つだけの周司が200年後を救うために様々な壁に立ち向かい、悩みながら乗り越え、成長していく姿が胸を打つ。
以下、好きな言葉。
「仕事にいつか必ずぶつかる壁がある。さいしょは手も足も出なくて苦しいが挑み続けることで必ず越えられるし、越えるとプロと一生続ける自信ができる」
「人間はたくさんのおろかな事をしでかすが、それでも誰もが必死に生きようとしているのは間違いない」
「人間の価値を決めるのは全てを奪われ裸にされたときに自分から進んで何をするか」
「人間は矛盾に満ちた存在。憎しみながら愛し、壊しながら創る。最低と思われていた者が次の瞬間には別人に変身し、頂点に立つ。崇高さと愚かさ、醜い欲望と透明な憧れに引き裂かれ、日々を生きている」
「人は環境によって作られるが、与えられた環境を乗り越えるのも人の力」
「誰かのために働くことが実は自分自身を救うこと」
また、1人で悶々と色々考えることが増えそうです笑。 -
Posted by ブクログ
ネタバレまだたったの第3弾だというのに、ずいぶん遠くまで来てしまった気がする。
最初から殺人事件とかあったけれども、それは人の心の行き違いとか思惑の捻じれだったりと、事件の引き金を引くのは人の心だったような気がするけど、今回は殺人事件がないのに読んでいてうすら寒く感じるのは、マコトと人のつながりが希薄になってきたような気がするから。
もしかするとマコトは変わっていないのかもしれない。
「西一番街テイクアウト」の香緒に対する態度。
弱いものは徹底して守ってやるってところは、「少年計数機」の頃と変わっていない。
いやむしろ、思わぬキングの優しさにびっくりだったが。
でも「少年計数機」の時の、お互いを思いやるからこそ距離を置かなければならない切なさみたいなものが、今回はない。
マコトの恋も、まあ、ちょっとよくわからない。
レイヴで盛り上がっていたからとか、見た目が好きだからとか、そんな感じにしか取れなかったなあ。いくら言葉を尽くしたところで。
マコトは人と心の交流をして何ぼなのだから、派手な事件じゃなくていい。
そこのところをきっちり書いてほしいと思った。
だから「西一番街テイクアウト」のマコトとキングとサルの3人が、それぞれに何かを背負いながらタッグを組んで、体一つで勝負する話がよかったな。
お母さんや商店街の人たちもよかったし。
自分たちの相手にだってそれぞれの正義ってものがあって、今回はこっちが次回は向こうが勝つってことでいいだろうという、やらせではなくて、本気だからこそのそういう棲み分けが書かれているところも良し。
キングはさておき、タカシは結構好きかも。