奥泉光のレビュー一覧
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「クワコー」こと桑潟幸一は、消費者金融会社の取締役だったという経歴をもつ鯨谷光司(くじらたに・みつじ)とともに、千葉県権田市のたらちね国際大学に転任することがきまります。「レータン」に勝るとも劣らない大学事情を知って落胆しつつも、下流学者生活に適応していくクワコーでしたが、そんな彼の研究室に幽霊が出没するといううわさがあることを教えられます。
一方、クワコーは大学文芸部の顧問を務めることになり、部長の木村都与(きむら・とよ)、ホームレス女子大生のジンジンこと神野仁美(じんの・ひとみ)、ギャルの早田梨花(はやた・りか)、コスプレ女の山本瑞穂(やまもと・みずほ)などのクセのある部員たちが彼の研究 -
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再読。やっぱり面白い、純文学作家×エンタメの最高峰。
自分はやっぱり、純文学なら純文学、推理小説なら推理小説として、それぞれ徹底してくれないと楽しめない。
まあ、純文学とかエンタメとかの区分の意味が何なのかと言われても困るけれど、本来「純文学」の作家であった著者が、純文学的でない作品をものしたとき、それは必然的に純粋に非純文学的になるのではないか。
ますます何を言っているのかわからなくなってしまったが、こういう作品は本当に読む方も余裕を持って読める。福永武彦の探偵小説のように、純粋に余技的というか、遊戯的なものとして書かれる(読まれる)ものであって、読む方も気が楽であるし、書く方も力を抜いて書 -
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ネタバレ2017年刊。生誕150年企画。積読本でした。
『こころ』は他の本でもいろいろ読んだので、あまり目新しさはかんじなかったです。
『三四郎』は面白かった!
『草枕』タイプの小説で絵画を理想とした、物語ではなくシーンが推移していく小説だというのは知りませんでした。
『草枕』は何度も書店で買おうかと迷って「でも、これ漢字が多すぎて、絶対眠くなりそう(恥)」と躊躇していましたが、漱石が本気を出した小説「これが小説というものだぜというはっきりした信念を見せている」というくだりを読んで、ちょっとがんばって読んでみようかと思いなおしました。まあ読めるかどうかまずは買って手元に置いてみようかな。と思いまし -
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ネタバレシューマンに対する知見が全くない僕でも、一種のシューマン論評を読んでるかのように魅力的な音楽性、フラジールな人物像を学んでいるという感覚。前半は特に。
これはミステリーになりうるのか?と思ったら急に殺人事件。後半はあれよあれよと畳み掛ける展開で一気に読み進めてしまった。
それでも音楽を文字で表現するときの幻想的形而上的言葉の紡ぎ方が心にじわっと染み込む感覚が好き。後、言葉のチョイスも深遠で幅広くて、比喩表現も巧みで好みな文章だった。
総じてストーリーとしてはどんでん返し系。こんだけ語り尽くした物語がまさか。。。って驚きは初めてでやられた!というか推理はもう諦めてた! -
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ネタバレ単行本は確か見出しが岩波新書ふうに配置されていた。
単行本の真っ赤=火事のイメージ、帯の言葉溢れ出る感じ、に比べると、文庫の表紙はすっきりしすぎているかな。
でも、背表紙の水色+表紙のピンクにちょこなんといる鼠を見て「カワイイー!」とジャケ買いしたほんわか女子が、読後ガツンとやられている光景を想像したりして。実際にその頭を「漫画マウス」にやられてしまえばなおよいが……いや、ないか。
読み始めて当初連想したのは三島「豊饒の海」の輪廻転生、中上「百年の愉楽」の反復。
中盤で、違うな、転生でも反復でもなく、鼠の群れのように同時存在する私の語りなのだな、と気づく構成になる。
また特異な視点から歴史の -
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天才ピアニスト少年、永嶺修人。右手の指を失ったはずの彼が30年後、再びピアノを弾いたと伝え聞いた語り手。再生した指の謎。そこからの語り手による高校時代の回想は、修人とのシューマン談義が延々と続き、正直、読むのが大変だった。後半、語り手の高校卒業の日の殺人事件から話は動く。全ての謎は語り手が閉じ込めてきた記憶が手記という形で蘇ってきた。受験でピアノを弾くシーン、語り手だけが修人のピアノや文章を通じて微妙な変化を感じたりするところがゾクゾクした。衝撃のラストの後のさらなる衝撃。そしてさらに…最後の最後までおもしろかった。歪んだ世界感が印象に残った。
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いとうせいこうと奥泉光が、漱石の小説について、ライブで語り合う。
10年以上前から、この2人で、文芸漫談という形式で色々な文学作品を、鋭く、面白おかしく語っているとのこと。
今まで全く知らなかった。もっと早く知っていれば、もっと人生楽しくなったのに。
とにかく2人の文学作品への造詣の深さ、感覚の鋭さに感嘆。それでいて、アプローチの仕方がエンターテイメントで、笑える部分も多い。
作品をボケとして扱い、突っ込み(ここが文芸批評)を入れる形式で、愛をもって笑いに昇華しつつ作品に切り込んでいく。
あまり、漱石を偉人として扱わず、等身大の人間として、扱っているところも素晴らしい。
紹介されている -
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さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。
「道化の華」
ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い。
「彼は昔の彼ならず」
心の本質が似通った人間が近くにいると、お互いに感応してしまうのだろう。
口先三寸のペテン師のような男を非難している主人公の男もまた、
親の遺産で遊び暮らす怠け者。
才能ある芸術家のパトロンになりたいという、
彼の下心を見透かしたペテン師の作戦勝ち。 -
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ネタバレ再読。
本屋でクワコー先生が文庫になっているところをお見かけ。
やっぱりいいなぁ、クワコー。
底辺の底辺でそこになじんじゃう感じ。
実家から様々なものを持ち帰る、
嫁に行った娘みたいになってるとこもいい。
しかし、底辺といっても
大学の先生である。
実家のお母さんも、
大学の先生のクワコーが
まさか月給手取り「十一万とんで三百五十円」とは思わないだろう。
まさか学校の備品を持って帰ってるとは思わないだろう。
まさか底辺の学校の生徒に
危機を救ってもらってるとは思わないだろう。
そして、半分以下に減った給料で
なんとかやってこうとするけなげクワコー。
もっと頑張る!とか理不尽と戦う!とか -
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小説の可能性の大きさを感じさせてくれる作品です。大江健三郎著「個人的な体験」を下敷きにしているので、大江氏の小説を読んでから再読したいと思っています。前半部分は、木苺勇一と妻の生活がユーモアを交えて書かれていて、ちょっとクワコ―を思わせる読み心地です。次第に虚構と現実が入り混じり、難解になっていきます。奥泉さんの他の小説にも、この技巧は用いられていますが、この特徴が独特の小説世界を作り上げています。そこから立ち上がってくる光景が奥泉さんにしか出せぬ光を放っていると感じます。後半で大きな仕掛けが明らかになって、とても驚きました。そうだったんだという思いで、読みなおしました。芥川賞受賞作「石の来歴