奥泉光のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ偶然出版されてすぐに本屋さんで並べられているのを見て、ずっと気になっていた奥泉光先生の作品+かっこよすぎる装丁+紹介文の秀逸さのコンボにやられてしまった。
読み始めると戦後の日本が舞台で、ある夫婦の殺人事件について追っていく話が始まり、本の見た目とは裏腹に小さな事件をどんどん解決していくようなお堅めの小説なのかと思っていた。
しかしそんな予想はすぐに裏切られ、「K文書」なるものや、怪しげな宗教、夢なのか現実なのかわからない世界に迷い込んだり、dadadadadadadadaのリズムが聞こえ始める。
それらに心をガッチリ捕まれ、さらに読み進めて行くとさらに大きな「企み」が分かってきて、、ラストま -
Posted by ブクログ
ネタバレ将棋を題材にしたミステリー小説。名人戦の最中、ある詰将棋が描かれた矢文が見つかる。
そして、その矢文を持ち込んだ奨励会員がそのまま失踪することに。矢文に描かれた詰将棋が意味することとは。さらに、彼が失踪したことの意味とは。元奨励会員である主人公が探偵のように二つの謎を解決すべく、各地を巡ることとなるミステリー。
作中では、実在の棋士の名前が数々登場し、現代の時代感を匂わせながら、中心になるのは架空の元奨励会員や棋士と女流棋士。また、主人公が謎を探りながらも過去に起きた同様の失踪事件の謎をだんだんと明らかになっていくところも面白かった。将棋にのめり込んでいるからこその将棋教なるものに傾倒していっ -
Posted by ブクログ
歴史を学ぶ意義を重く認識させてくれる名著 「歴史は『物語』として理解される」
ここに歴史の面白さと同時に「怖さ」がある
1.国家の統合 ①統治=政治 ②統帥=軍隊 明治は分立 民主国家は政治優位
日本・ドイツは後発国、ゆえに政治の熟成を待てず、皇帝主導・軍優位の国家体制
2.日本の稚拙な植民地経営
朝鮮の創氏改名 「文化」最大の難問 ジリアン・テッドANTHROPOLOGY
満洲の犠牲『物語』英霊20万人 戦費10億円 > サンクコスト経済合理性
→満蒙は特殊権益 冷静な議論できず 石原莞爾「日本の生命線」=空論
石橋湛山「植民地経営はペイしない」小日本主義・満洲放棄論
3.対米開 -
Posted by ブクログ
小説家の奥泉さんと歴史学者の加藤さんの対談集。
単一の物語に回収されないように歴史を語るべきとはポストモダン以来の歴史の見方だとは思うのだけれど、それをアジア・太平洋戦争に当てはめて語ってくれている。
当初単なる軍人のモラルだった軍人勅諭が変質し政治に関わることの正当化に使われたところから、共通の思想的バックボーンがない日本という事情に気がついた新渡戸稲造が作った武士道の話、満州国・国連脱退はまだ相手側の顔を立てるつもりもあったなど、勉強になることは多い。
その中でもやはり白眉は色々な小説に基づきながら、当時の状況を考える後半部。将校の目からだけでなく、一般兵の目からみた戦争をみることで、軍隊 -
Posted by ブクログ
ネタバレさすが奥泉氏という作品。文章は上手いしストーリー、小物から情景描写までいやらしいところなく丁寧に描かれている。どうやったらこんな文章が書けるのだろうという思いがするし知識量も比類なきものを感じる。
ストーリはいよいよ佳境を迎え上巻で伏線として張られていた兄惟秀、伯父白雉博允、紅玉院が回収される。途中よくある神話的妄想の世界に取り込まれるかに見えた惟佐子が最後に客観化されるあたりや、蔵原と千代子のシーンで日常に戻して幕にするストーリーの構成はお見事というほかない。
これでいてビビビ・ビバップのような作品も書けてしまうんだからなあ・・・。惜しむらくはグローバルで受ける内容ではないので世界の人が知る -
Posted by ブクログ
昭和初期、2・26事件を翌年に控えた昭和10年。華族の娘、笹宮惟佐子を中心に友人の宇田川寿子、ドイツ人音楽家カルトシュタイン、父の笹宮惟重、母の瀧子、弟の惟浩、友人の牧村千代子、宮内省の役人木島征之、記者の蔵原誠治、寿子の友人の槇岡貴之中尉とその友人の久慈中尉、そして伯父の白雉博允、兄の惟秀が時代の危うい雰囲気の中、神智学の魔力的な引力とともに事件が描かれる。
戦争を控えた時勢が天皇機関説排撃や満州事変、近衛、ヒトラーなどを絡めることで上手く描かれていて、そこに数学や囲碁が得意な惟佐子の数学に宿る神秘性や、松本清張的な電車のダイヤ問題、華族の世界の和装や洋装、建築的な意匠の詳細な描写などにより