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昭和十年。華族の娘、笹宮惟佐子は、富士の樹海で陸軍士官とともに遺体となって発見された親友の心中事件に疑問を抱き、調べ始める。富士で亡くなったはずの寿子が、なぜ仙台消印の葉書を送ることができたのか。寿子の足どりを追う惟佐子と探偵役の幼馴染、千代子の前に新たな死が……。柴田錬三郎賞、毎日出版文化賞をダブル受賞、「週刊文春」「このミステリーがすごい!」「ミステリを読みたい」のベスト10入りを果たした傑作。
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Posted by ブクログ
昭和初期、2・26事件を翌年に控えた昭和10年。華族の娘、笹宮惟佐子を中心に友人の宇田川寿子、ドイツ人音楽家カルトシュタイン、父の笹宮惟重、母の瀧子、弟の惟浩、友人の牧村千代子、宮内省の役人木島征之、記者の蔵原誠治、寿子の友人の槇岡貴之中尉とその友人の久慈中尉、そして伯父の白雉博允、兄の惟秀が時代の...続きを読む危うい雰囲気の中、神智学の魔力的な引力とともに事件が描かれる。 戦争を控えた時勢が天皇機関説排撃や満州事変、近衛、ヒトラーなどを絡めることで上手く描かれていて、そこに数学や囲碁が得意な惟佐子の数学に宿る神秘性や、松本清張的な電車のダイヤ問題、華族の世界の和装や洋装、建築的な意匠の詳細な描写などにより小説の世界観を立ち上げるのに成功している。下巻が楽しみだ。
以前から読みたかった作品。 昭和10年、松平侯爵邸で開催されたサロンコンサートの場面から始まる。 雰囲気的には、どうしても三島由紀夫を思い出す。 が、そこで語られるのは青年貴族の内攻でもなく、輪廻転生のロマンでもない。 一人の女性の死を糸口に展開するミステリーなのだ。 ちょっとびっくり。 華族の...続きを読む政界での権力争いに天皇機関説や、東北の大飢饉を受けた陸軍の動静が利用されていく様も生々しく描かれる。 ドイツの心霊音楽協会やら、人種主義、国粋主義団体、新興宗教まで出てきて、もはや百鬼夜行の趣だ。 その物語のヒロインとなる笹宮惟佐子という主人公がきわめて印象的。 笹宮伯爵家に生まれ、美貌と才知(囲碁や数学)に恵まれるものの、人付き合いを好まず、人並外れた鈍感な味覚と嗅覚を持つ。 母方が和歌山の日和佐神社の神職の家系で、幼いころから神域に魂が行ってしまうような神秘体験をしている。 西洋的な合理性と、そこから逸脱するものの両方を体現するような人物。 そして、魅惑的でありながら、どこか薄気味の悪い人物でもある。 謎解きは、彼女自身と、彼女の「おあいてさん」である千代子とその仕事仲間である新聞記者・蔵原らによって、少しずつ進んでいく。 その間にも、ドイツ人ピアニストのカルトシュタインら、第二、第三の死が重なってくる。 だんだん、最初の寿子の件がかすんでしまうほど。 文体というか、文章のリズムも独特だった。 印象としては一文の息が非常に長いなあ、と思っていたのだが、実際見直してみると、むしろ短い文がいくつも重なった中に、長大な一文があらわれてくる。 長い長い一文は、描写対象に這い上がっていくような、粘着性を感じる。 『坊ちゃん忍者幕末見聞録』や『吾輩は猫である殺人事件』の作家だけに、文体模写をしているのかなあ、なんて思う。
予想以上に面白かった。時は昭和十年、まだ戦争には突入しないけれど、今思えばこの頃からその萌芽はあったのだと思わせるように、半藤さんの昭和史で読んだことが、描かれている時代の中で、華族の女性に起きた殺人事件をめぐる話とでも言おうか。 文体も、乙川さんとは全然違うのだけど、読んでいて性に合うとでもいうか...続きを読む、安心感があるとでもいうか。 この巻の最後でまた人が亡くなり、これはまあ事件性はなくおそらく本当に病死なのだろうけれど、そこでまた謎の人物が出てきて、下巻に続く…
やたらと漢字を多用する文章ではあるが何となく面白い。 不思議な感じがする。 ストーリーはゆっくりと進むが、飽きさせない空気がある。
226事件を全く考えもしない角度から描いた傑作長編です。時代背景と当時の社会の焦燥感、熱気、思惑を重低音のように響かせながら、身分の違う二人の女性が一つの事件を追います。まるで冬の木立のような貴族の姫君の魅力と力強く羽ばたく市井の女性の活動力、明かされる秘密となお残る疑問。本当に不思議な魅力を持った...続きを読む物語です。 結末に首肯しつつも、続編を探してしまう読後感とともに、その時代に、その場所に心を残して旅を終わりました。
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