奥泉光のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
たらちね国際大学准教授にして、文芸部顧問の桑潟幸一。
ヴァルネラビリティ高めの彼が巻き込まれる珍事件を、文芸部の面々が解決する、というミステリ。
シリーズ三作目とのことだが、実は私には本作が初めて。
でも、ちゃんとついていける。
「スタイリッシュな生活」とくるが、首になることを恐れ、汲々と生活を切り詰めるクワコー先生には、これほどの皮肉な言葉はない。
食費を浮かせるために水路でザリガニを取り、独り生えしている紫蘇を見つけ歓喜するクワコー先生、だんだん生活力を高めつつあるようで。
事件も、殺人のようなシリアスなものではない。
事件は文芸部員たちがあけすけにくっちゃべるなかで、おもむろに解決する。
その喋りたるや、すさまじいノイズが混ざる。
「あっと、クワコー先生、どもス。てか、オレ、先生にちょっと話、っつうか、ある種、告白? って、コクリじゃねえっての。オレがクワコー先生にコクってどうする。ありえねー。 てか、可能性としてはありだけど。あくまでも可能性としては。でも、オレ的にはなし。全然なし。あ、でも、別にクワコー先生だからってことじゃなくて、一般に、っていうか、ここでいっときますけど、オレ、そっちのケはなし。いまは。いまんところは。 てか、このへん全般、かるく流しといてください」
こんな調子で、こちらの緊張感は緩んでいく。
が、それがこの作家の冷静な計算なのだろう。
何が重要な伏線なのかといった、小賢しい料簡を晦ますかのようなのだ。
こういうミステリもあるんだなあ、と感じた一冊。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ音大をめざす高校生が主人公。
結局音楽の道に進まなかった現在、過去を振り返って語る。
昨年の夏に読んだ『船に乗れ!』と同じ構造。
しかし、目には見えない音楽を目に見えるように、本からは聞こえない音楽を聴こえるように、感覚としてわかるような描写が魅力だった『船に乗れ!』とは違い、楽典の講義を受けているような(受けたことないけど)論理と言葉で音楽を語るこの作品は、読んでいて大変疲れました。
物語半ばに殺人事件の被害者が突然出現したけれど、だからと言ってミステリに引っ張られることもなく、音楽を軸に結ばれた仲間たちの話は淡々と続く。
残り50ページから殺人事件の真相を暴くことに筆が向かったように見えるけれど、やっぱりあくまでも主眼は音楽なんだと思う。
作者が書きたかったのは音楽家としてのシューマンであり、自我の分裂に悩む人間としてのシューマンだったのではないか。
そう思いながら解説を読むと、この読み方はまんざら外れてはいないらしい。
とはいえ、ミステリとしての体裁をとっている以上、ネタバレになりかねないことは書けないので、これ以上書くことはないんだなあ。
クラシック音楽、特にシューマンに興味のある人は読んだ方がいいと思うけど、ミステリと思って読んだらちょっと肩透かしかも。 -
Posted by ブクログ
なんだか不思議なお話でした。
前半部分は、クラシックに疎い私にとっては、全くピンとこない内容だった。クラシック好きな人だったら、面白いんだろうなぁ、と思いながらなんとか読み進めた。
それが、殺人事件が起こり、一気にミステリーへ。シューマンの調べを底に響かせて、思いもよらないクライマックスへ。
そこからさらに、主人公の妹の手紙によって、世界はガラリと様相を変える。
前半部分にも、たくさん伏線があったんだなぁ。確かに読みながら、違和感を覚えるきじゅつはたくさんあった。
誰かの目線で語られる世界と、他の者からみた世界が、こんなにも違うなんて。
音楽は目に見えないけど、確かにそこに存在する。世の中で、目に見えているものの、なんと限られたことか。 -
Posted by ブクログ
沈没寸前の短大から何とか抜けだし、千葉の底辺大学の准教授として赴任したクワコーこと桑潟幸一。
相変わらず風采も上がらずやる気もないクワコーだったが、教授職とは思えない超低収入に節約生活を余儀なくされ、顧問となった文芸部の生徒達に研究室を占拠されたり、教授達の派閥抗争に巻き込まれ使いっぱしりをしたりする毎日。
そんなクワコーを、怪事件が毎月のように襲う―。
ああ…クワコー面白すぎる!
学園を舞台にしたライトミステリなのですが、クワコーの小説を楽しむにあたって、わたしにとってミステリ部分はメインではありません。
クワコーシリーズの最大の魅力とは、彼の煩悩のかたまりのような俗人っぷりなのです!(たぶん)
何しろ彼ってば、卑屈なくせに努力も大嫌いだし、無駄にプライドも高いのに意志薄弱で長いものにすぐ巻かれるし、思うようにいかないことは全て他人や環境のせいにするような、ネガティブで打たれ弱いどうしようもない人間。
ほんと、すごく共感できる(笑)し、読み進めていくうちにクワコーがだんだんいとおしくなってきちゃうのです。
人間の醜い部分をぐりぐりとほじりながらも自虐がくどくなりすぎないよう調節される、綿密かつ闊達にすべっていく筆とあいまって、彼の冴え渡る自虐の詩をあますところなく楽しめる、奇跡のようなシリーズなのです。
そしてまた、ゆとり世代のオタク文芸部員たちの人物造形も秀逸でした。
彼女たちの言動もすごく自然で、まるで目の前にいるみたい。
クワコーと彼女たちの噛み合わない会話もシュールすぎて、おかしい。
タイトルからして、スタイリッシュって・・・。脱力するわ! -
Posted by ブクログ
いままで著者の奥泉光に対する印象は「理屈上は面白いが体感はイマイチ」「他人から説明してもらうとすごく面白そうなのに、自分で読むとそこまでではない」というもの。2、3冊しか読んでない段階での感想だけど、それ以上は追いかけなくてもいいか、と判断していた。
それがこの『グランド・ミステリー』でかなり変わった。グランド=壮大な、という名に恥じない大作。ミステリーとしても、SFとしても、戦記としても、人間観察としても、面白い。多様な読み方ができる、というのは良作の証拠。
単行本では上下巻になる分量なのに残り100ページあたりで「残り少ないが大丈夫か?」と楽しさと寂しさの入り混じった感想を持ったということは、ミステリーとして成功と言える。
(ちなみに一つだけ書かれずに不満な点があるけどネタバレになるから書かない。)
ただし、冒頭に書いた著者に対する感想は、量の面では変化したが質の面では覆るとまではいかなかった。作られ過ぎ計算され過ぎとでもいおうか、著者が書きながら「主人公たちはこの先どうなるんだろう」と楽しんだり悲しんだり苦しんだりしている気がしない。そこが星一つ欠けるところ。 -
Posted by ブクログ
☆4
「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は演奏中に不思議な感覚にとらわれた。柱の陰に誰かいる…。それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、フォギーはナチス支配下、1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう―。めくるめく物語とジャズの魅力に満ちた、ファンタジー巨編。
最初は「なんかタイトルからして良くわからなそうだし、分厚いし、挫折しそう・・・」と思ったけど、思いがけずスイスイ読めた。途中から1945年のドイツにタイムスリップして、フォギーはどうなるんだろう、方向音痴だし、いい年なのに(失礼!)どこかぼんやりしているようなところもあるし、とまるで身内のようにちょっと心配しながら読んでいました。文章が、時々ちょっととぼけたような感じで、クスッと笑えるところもあって、意外に読みやすかった。