奥泉光のレビュー一覧

  • グランド・ミステリー

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    入り組んだ構造で、くらくら目眩がするような小節。
    一度読んだだけではよくわからないところもあるが、面白くて一気読み。

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    2023年10月22日
  • 死神の棋譜(新潮文庫)

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    ネタバレ

    将棋は知らんし……と敬遠していたが、次を読ませる展開に乗せられて一日で読んでしまった。
    さすが奥泉の筆力。
    例によって例の如く冴えない中年男性が語り手だが、クワコーシリーズのユーモアよりは、ややシリアス。
    というか暗い。
    もともと奥泉光って、たぶん根が暗い、というかペシミスミティック。
    それを糊塗するのが、ジャズや音楽や落語や将棋やミステリやといったカルチャー全般であって、糊塗されて初めて面白くなるのだ。
    希望を謳う根底にある悲観という点では、手塚治虫や藤子・F・不二雄や宮崎駿や富野由悠季や押井守や庵野秀明に通じると思う。
    で、本作、「バナールな現象」「シューマンの指」を思い出す、暗さというか

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    2023年06月05日
  • 死神の棋譜(新潮文庫)

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    ネタバレ

    幻の将棋をめぐる、ある意味狂気の物語。視点人物である主人公が途中から半ば狂っているので、どこまでが現実でどこから夢、妄想なのか境界がつかめない。それでいて物語にはぐいぐい引き込まれて行きます。
    解説でも書かれていますが、映像化されると面白いかも。

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    2023年04月12日
  • シューマンの指

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    最後の数ページの衝撃が凄かった…
    音楽のこと、シューマンのことをかなり知っていないと楽しんで読めないかもしれない
    私の友達は途中で断念していた

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    2023年04月10日
  • 旧約聖書がわかる本 〈対話〉でひもとくその世界

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    神とは。多神教のそれとは大きく異なる。多神教は王(権力)と直接結びつくが、一神教はそうではない。
    人間は特権を与えられ、自由であり、その責任が求められる。旧約聖書の内容に少し触れられたと思う。

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    2023年02月04日
  • 雪の階(下)

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    上巻に引き続いて、一気読み。
    体に障るというのに…。

    千代子と蔵原による調査は進展する。
    寿子のはがきに押されていた消印は仙台、けれど死体が見つかったのは青木ヶ原。
    時刻表と路線をめぐるミステリーの様相を帯びる。
    『点と線』かいな。

    寿子の死に関わりそうな人物が鹿沼の紅玉院の庵主を信奉するという接点も浮かび上がる。
    惟佐子は巻き込まれながらも、わずかなところで彼らの企図を妨害する。
    そして、二・二六事件が起こり、その人物は志を遂げることなく滅ぶことになるのだが…。

    「日本人は自ら滅びたがっている」という「彼ら」の主張は、しかしその後の歴史を考える上で、なんとも苦い味わいをもってよみがえっ

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    2023年01月09日
  • 雪の階(上)

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    以前から読みたかった作品。

    昭和10年、松平侯爵邸で開催されたサロンコンサートの場面から始まる。
    雰囲気的には、どうしても三島由紀夫を思い出す。
    が、そこで語られるのは青年貴族の内攻でもなく、輪廻転生のロマンでもない。
    一人の女性の死を糸口に展開するミステリーなのだ。
    ちょっとびっくり。

    華族の政界での権力争いに天皇機関説や、東北の大飢饉を受けた陸軍の動静が利用されていく様も生々しく描かれる。
    ドイツの心霊音楽協会やら、人種主義、国粋主義団体、新興宗教まで出てきて、もはや百鬼夜行の趣だ。

    その物語のヒロインとなる笹宮惟佐子という主人公がきわめて印象的。
    笹宮伯爵家に生まれ、美貌と才知(囲

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    2023年01月09日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。

    太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました。

    個人的に良かったのは富嶽百景の一場面で、天下茶屋の2階に寄宿している主人公が店の人間とも親しくなってきた頃、店の若い女性店員が1人で客の相手をしている時に、わざわざ1階に降りて隅でお茶を飲みながら遠巻きに見守ってあげているところです。

    そんなにあからさまな優しさを出す感じの主人公じゃないんで

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    2022年10月02日
  • この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか

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    歴史学者と歴史物語を批評的に読む小説家が対談という形で、太平洋戦争とは何か、なぜ始めたのか、なぜ止められなかったのかについて、太平洋戦争に関する書籍の紹介について語っている。当事者の日記やメモ、書簡、様々な書籍から太平洋戦争について詳細に解説されており、映画やドラマなどで流布している物語的な歴史とは異なる内容が知れて良かった。偏った主張はなくフラットに記載されており、ポツダム宣言についても様々な資料からそこに至る経過が示され、敗戦した日本だけでなく、戦勝国もその事実を知り互いに学ぶ必要があると思った。

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    2022年09月03日
  • この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか

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    「物語なしに現実というまのを認識できない仕組みの中に生きている」
    戦争を正当化する「わかりやすい物語」が必要だったに納得。

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    2022年08月28日
  • この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか

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    想定読者層はある程度の時代背景の知識画求められているのだろう。手とり足取り噛み砕いて話をしてくれる訳ではないが、明確かつ端的なやり取りは腹落ちもいい。
    歴史を単層的かつ都合よく物語化することの危険性は、まさにその通りだと思う。日本だけではなく世界中で同じような傾向が発生しているように感じている。とても怖い。

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    2022年08月06日
  • シューマンの指

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    この作家の本は初めて読んだが、面白かった。

    シューマンの楽曲に関するいろいろ(うんちく)はほぼ飛ばし読みではあったが、ついついつられて音楽を探して聴いてしまった。あー、この曲もこの曲もシューマンだったのかと音楽に疎い私は恥ずかしくなりました。
    完成された音楽を演奏するというのは、完全なものの一部だけが外に滲みててくるもの、みたいな感覚はなるほどなあと思った。ピアニスト(演奏者)は音楽への奉仕者、とか、音楽をやったことのない人間にはよくわからない世界である。私は楽譜も読めないし(ピアノはやってたけど、書いてあることを鍵盤に投影して音を出すという作業ができなかった。ほんとうに下手くそだった)頭の

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    2022年07月11日
  • 雪の階(下)

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    戦前の身分社会を強く感じる内容で、都市の暮らす者と田舎で農業をしているものとの格差の大きさもあわせて思い知らされる内容である。
    自動車で送り迎えしてもらう華族の娘と普通に喫茶店で打合せをする職業を持つ娘。
    一方では、凶作で食すことさえままならないことのある田舎。
    それを、不満に思う軍人と226事件。

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    2021年12月02日
  • 雪の階(下)

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    ネタバレ

    単行本の分厚さと素敵な装丁から既に漂う、物語の重厚感に惹かれ手に取ったものの、予想を遥かに上回るその多層性と荘厳さに面食らったのが第一印象。なにより一文が長いこと長いこと。直前までアガサ・クリスティーを読んでいたので慣れるまでちょっと時間がかかったけど、慣れてしまえばリズム感も良く噛みごたえ抜群な文体。古めかしい言い回しは時代を意識してなのか、作家さんの特徴なのかは分からないけど(まあ多分時代設定の一環)、物語の重厚感と登場人物たちの立体感を表現するのに抜群な効果。寿子の情死事件、政治家の小賢しい謀計、それにのせられる若き陸軍士官たちに愚かな民衆、日本をうっすらと覆う太平洋戦争直前の狂おしいほ

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    2021年10月31日
  • 雪の階(下)

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    1930年代、軍部が不穏な方向へと傾斜していった頃、それでもまだ日常は平穏で、昭和初期の優美で華やかな風俗の中、男女の心中事件から物語は展開していく。

    女学生の惟佐子は、友人が心中などするはずがないと、真相を探っていく。
    当の惟佐子は器量も良く、囲碁や数学を物するいわゆる天才で、ただ最初は少し変わった清廉な才女との印象だったが、物語が進行していくにつれ、妖艶で、謎多く、簡単には理解できない様相を帯びていく。
    それと共に、物語の進行には、惟佐子の幼時の「お相手さん」であった千代子と、蔵原が据えられていく。

    とにかく着物や風景の描写など、当時の言葉、単語が選ばれ、これ以上ないほどに精緻に結ばれ

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    2021年08月26日
  • 雪の階(下)

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    面白かった。こんな作者がいたんだな。時代的にあり得なくはないんだろうけど、まさか、二・二六事件に結びつくとは。途中はスパイ小説の如きになったから、それはそれで面白かったのだけど、最後は蔵原という記者を退職して出版社に転職した男が、惟佐子の「お相手さん」の千代子にプロポーズしたところで終わるのが良かった。

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    2021年08月18日
  • 雪の階(上)

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    予想以上に面白かった。時は昭和十年、まだ戦争には突入しないけれど、今思えばこの頃からその萌芽はあったのだと思わせるように、半藤さんの昭和史で読んだことが、描かれている時代の中で、華族の女性に起きた殺人事件をめぐる話とでも言おうか。
    文体も、乙川さんとは全然違うのだけど、読んでいて性に合うとでもいうか、安心感があるとでもいうか。
    この巻の最後でまた人が亡くなり、これはまあ事件性はなくおそらく本当に病死なのだろうけれど、そこでまた謎の人物が出てきて、下巻に続く…

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    2021年08月15日
  • 虫樹音楽集

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    面白い構造を持った連作短編集。カフカの「変身」をモチーフにしてるんだけど、プロの作家は凄いね。
    ジャズマンがいて、彼を主人公とする小説があり、彼の演奏の評論集もある、作品内での現実と小説、評論が交錯しながらストーリーは物語られれていく。連作短編集だから当然だけど、作品が進むにしたがって、謎が浮かび上がってくる。これもなかなかに幻惑的でいい。

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    2021年06月05日
  • 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活

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    前回の『モダールな事象』は殺人が絡みオドロオドロしい作品であったが、今作はスカッと爽やかにミステリーが展開していく。
    廃校が決まったレータンから辛うじてたらちね国際大学に転任するも、最底辺大学には変わりなく、クワコーはやる気なさ、優柔不断さ全開でスタイリッシュ(?)に突き進む。
    最底辺と言いながら、文芸部の学生達は各々個性的で優秀であり、クワコーに降り掛かる難題を解決していく。なかなかに楽しい大学生活を謳歌していらっしゃる。
    方やクワコーはどんどん生活が苦しくなる一方。しかしながらこれがなかなかにある意味楽しそう。頑張れ、頑張るなクワコー

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    2021年05月06日
  • 雪の階(下)

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    ネタバレ

    読みながら感じたり、、読後ネットで調べて知ったりした、参照すべき過去作品は、
    武田泰淳の「貴族の階段」、松本清張の時刻表ミステリ「点と線」と「神々の乱心」、まあ夏目漱石「こころ」。
    野間宏「暗い絵」、谷崎潤一郎「細雪」、三島由紀夫「春の雪」と「奔馬」。
    ヴァージニア・ウルフの「三人称複合多元視点文体」。
    単純に2・26事件ということでは、宮部みゆき「蒲生邸事件」、恩田陸「ねじの回転」。あとは北村薫に「鵞と之」という作品があるらしい。
    「意図的な梯子はずし」という点で、ウンベルト・エーコ「フーコーの振り子」。
    北一輝。大江健三郎。
    個人的にはちょうど私的押井守映画祭をしているので、「機動警察パト

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    2021年04月07日