奥泉光のレビュー一覧
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ネタバレ将棋は知らんし……と敬遠していたが、次を読ませる展開に乗せられて一日で読んでしまった。
さすが奥泉の筆力。
例によって例の如く冴えない中年男性が語り手だが、クワコーシリーズのユーモアよりは、ややシリアス。
というか暗い。
もともと奥泉光って、たぶん根が暗い、というかペシミスミティック。
それを糊塗するのが、ジャズや音楽や落語や将棋やミステリやといったカルチャー全般であって、糊塗されて初めて面白くなるのだ。
希望を謳う根底にある悲観という点では、手塚治虫や藤子・F・不二雄や宮崎駿や富野由悠季や押井守や庵野秀明に通じると思う。
で、本作、「バナールな現象」「シューマンの指」を思い出す、暗さというか -
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上巻に引き続いて、一気読み。
体に障るというのに…。
千代子と蔵原による調査は進展する。
寿子のはがきに押されていた消印は仙台、けれど死体が見つかったのは青木ヶ原。
時刻表と路線をめぐるミステリーの様相を帯びる。
『点と線』かいな。
寿子の死に関わりそうな人物が鹿沼の紅玉院の庵主を信奉するという接点も浮かび上がる。
惟佐子は巻き込まれながらも、わずかなところで彼らの企図を妨害する。
そして、二・二六事件が起こり、その人物は志を遂げることなく滅ぶことになるのだが…。
「日本人は自ら滅びたがっている」という「彼ら」の主張は、しかしその後の歴史を考える上で、なんとも苦い味わいをもってよみがえっ -
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以前から読みたかった作品。
昭和10年、松平侯爵邸で開催されたサロンコンサートの場面から始まる。
雰囲気的には、どうしても三島由紀夫を思い出す。
が、そこで語られるのは青年貴族の内攻でもなく、輪廻転生のロマンでもない。
一人の女性の死を糸口に展開するミステリーなのだ。
ちょっとびっくり。
華族の政界での権力争いに天皇機関説や、東北の大飢饉を受けた陸軍の動静が利用されていく様も生々しく描かれる。
ドイツの心霊音楽協会やら、人種主義、国粋主義団体、新興宗教まで出てきて、もはや百鬼夜行の趣だ。
その物語のヒロインとなる笹宮惟佐子という主人公がきわめて印象的。
笹宮伯爵家に生まれ、美貌と才知(囲 -
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中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。
太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました。
個人的に良かったのは富嶽百景の一場面で、天下茶屋の2階に寄宿している主人公が店の人間とも親しくなってきた頃、店の若い女性店員が1人で客の相手をしている時に、わざわざ1階に降りて隅でお茶を飲みながら遠巻きに見守ってあげているところです。
そんなにあからさまな優しさを出す感じの主人公じゃないんで -
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この作家の本は初めて読んだが、面白かった。
シューマンの楽曲に関するいろいろ(うんちく)はほぼ飛ばし読みではあったが、ついついつられて音楽を探して聴いてしまった。あー、この曲もこの曲もシューマンだったのかと音楽に疎い私は恥ずかしくなりました。
完成された音楽を演奏するというのは、完全なものの一部だけが外に滲みててくるもの、みたいな感覚はなるほどなあと思った。ピアニスト(演奏者)は音楽への奉仕者、とか、音楽をやったことのない人間にはよくわからない世界である。私は楽譜も読めないし(ピアノはやってたけど、書いてあることを鍵盤に投影して音を出すという作業ができなかった。ほんとうに下手くそだった)頭の -
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ネタバレ単行本の分厚さと素敵な装丁から既に漂う、物語の重厚感に惹かれ手に取ったものの、予想を遥かに上回るその多層性と荘厳さに面食らったのが第一印象。なにより一文が長いこと長いこと。直前までアガサ・クリスティーを読んでいたので慣れるまでちょっと時間がかかったけど、慣れてしまえばリズム感も良く噛みごたえ抜群な文体。古めかしい言い回しは時代を意識してなのか、作家さんの特徴なのかは分からないけど(まあ多分時代設定の一環)、物語の重厚感と登場人物たちの立体感を表現するのに抜群な効果。寿子の情死事件、政治家の小賢しい謀計、それにのせられる若き陸軍士官たちに愚かな民衆、日本をうっすらと覆う太平洋戦争直前の狂おしいほ
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1930年代、軍部が不穏な方向へと傾斜していった頃、それでもまだ日常は平穏で、昭和初期の優美で華やかな風俗の中、男女の心中事件から物語は展開していく。
女学生の惟佐子は、友人が心中などするはずがないと、真相を探っていく。
当の惟佐子は器量も良く、囲碁や数学を物するいわゆる天才で、ただ最初は少し変わった清廉な才女との印象だったが、物語が進行していくにつれ、妖艶で、謎多く、簡単には理解できない様相を帯びていく。
それと共に、物語の進行には、惟佐子の幼時の「お相手さん」であった千代子と、蔵原が据えられていく。
とにかく着物や風景の描写など、当時の言葉、単語が選ばれ、これ以上ないほどに精緻に結ばれ -
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前回の『モダールな事象』は殺人が絡みオドロオドロしい作品であったが、今作はスカッと爽やかにミステリーが展開していく。
廃校が決まったレータンから辛うじてたらちね国際大学に転任するも、最底辺大学には変わりなく、クワコーはやる気なさ、優柔不断さ全開でスタイリッシュ(?)に突き進む。
最底辺と言いながら、文芸部の学生達は各々個性的で優秀であり、クワコーに降り掛かる難題を解決していく。なかなかに楽しい大学生活を謳歌していらっしゃる。
方やクワコーはどんどん生活が苦しくなる一方。しかしながらこれがなかなかにある意味楽しそう。頑張れ、頑張るなクワコー -
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ネタバレ読みながら感じたり、、読後ネットで調べて知ったりした、参照すべき過去作品は、
武田泰淳の「貴族の階段」、松本清張の時刻表ミステリ「点と線」と「神々の乱心」、まあ夏目漱石「こころ」。
野間宏「暗い絵」、谷崎潤一郎「細雪」、三島由紀夫「春の雪」と「奔馬」。
ヴァージニア・ウルフの「三人称複合多元視点文体」。
単純に2・26事件ということでは、宮部みゆき「蒲生邸事件」、恩田陸「ねじの回転」。あとは北村薫に「鵞と之」という作品があるらしい。
「意図的な梯子はずし」という点で、ウンベルト・エーコ「フーコーの振り子」。
北一輝。大江健三郎。
個人的にはちょうど私的押井守映画祭をしているので、「機動警察パト