たらちね国際大学准教授にして、文芸部顧問の桑潟幸一。
ヴァルネラビリティ高めの彼が巻き込まれる珍事件を、文芸部の面々が解決する、というミステリ。
シリーズ三作目とのことだが、実は私には本作が初めて。
でも、ちゃんとついていける。
「スタイリッシュな生活」とくるが、首になることを恐れ、汲々と生活を切
...続きを読むり詰めるクワコー先生には、これほどの皮肉な言葉はない。
食費を浮かせるために水路でザリガニを取り、独り生えしている紫蘇を見つけ歓喜するクワコー先生、だんだん生活力を高めつつあるようで。
事件も、殺人のようなシリアスなものではない。
事件は文芸部員たちがあけすけにくっちゃべるなかで、おもむろに解決する。
その喋りたるや、すさまじいノイズが混ざる。
「あっと、クワコー先生、どもス。てか、オレ、先生にちょっと話、っつうか、ある種、告白? って、コクリじゃねえっての。オレがクワコー先生にコクってどうする。ありえねー。 てか、可能性としてはありだけど。あくまでも可能性としては。でも、オレ的にはなし。全然なし。あ、でも、別にクワコー先生だからってことじゃなくて、一般に、っていうか、ここでいっときますけど、オレ、そっちのケはなし。いまは。いまんところは。 てか、このへん全般、かるく流しといてください」
こんな調子で、こちらの緊張感は緩んでいく。
が、それがこの作家の冷静な計算なのだろう。
何が重要な伏線なのかといった、小賢しい料簡を晦ますかのようなのだ。
こういうミステリもあるんだなあ、と感じた一冊。