奥泉光のレビュー一覧

  • 雪の階(下)
    1930年代、軍部が不穏な方向へと傾斜していった頃、それでもまだ日常は平穏で、昭和初期の優美で華やかな風俗の中、男女の心中事件から物語は展開していく。

    女学生の惟佐子は、友人が心中などするはずがないと、真相を探っていく。
    当の惟佐子は器量も良く、囲碁や数学を物するいわゆる天才で、ただ最初は少し変わ...続きを読む
  • 雪の階(下)
    面白かった。こんな作者がいたんだな。時代的にあり得なくはないんだろうけど、まさか、二・二六事件に結びつくとは。途中はスパイ小説の如きになったから、それはそれで面白かったのだけど、最後は蔵原という記者を退職して出版社に転職した男が、惟佐子の「お相手さん」の千代子にプロポーズしたところで終わるのが良かっ...続きを読む
  • 雪の階(上)
    予想以上に面白かった。時は昭和十年、まだ戦争には突入しないけれど、今思えばこの頃からその萌芽はあったのだと思わせるように、半藤さんの昭和史で読んだことが、描かれている時代の中で、華族の女性に起きた殺人事件をめぐる話とでも言おうか。
    文体も、乙川さんとは全然違うのだけど、読んでいて性に合うとでもいうか...続きを読む
  • 虫樹音楽集
    面白い構造を持った連作短編集。カフカの「変身」をモチーフにしてるんだけど、プロの作家は凄いね。
    ジャズマンがいて、彼を主人公とする小説があり、彼の演奏の評論集もある、作品内での現実と小説、評論が交錯しながらストーリーは物語られれていく。連作短編集だから当然だけど、作品が進むにしたがって、謎が浮かび上...続きを読む
  • 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活
    前回の『モダールな事象』は殺人が絡みオドロオドロしい作品であったが、今作はスカッと爽やかにミステリーが展開していく。
    廃校が決まったレータンから辛うじてたらちね国際大学に転任するも、最底辺大学には変わりなく、クワコーはやる気なさ、優柔不断さ全開でスタイリッシュ(?)に突き進む。
    最底辺と言いながら、...続きを読む
  • 雪の階(下)
    読みながら感じたり、、読後ネットで調べて知ったりした、参照すべき過去作品は、
    武田泰淳の「貴族の階段」、松本清張の時刻表ミステリ「点と線」と「神々の乱心」、まあ夏目漱石「こころ」。
    野間宏「暗い絵」、谷崎潤一郎「細雪」、三島由紀夫「春の雪」と「奔馬」。
    ヴァージニア・ウルフの「三人称複合多元視点文体...続きを読む
  • 石の来歴 浪漫的な行軍の記録
    ぐぐぐ…ずぶずぶ…と蟻地獄に落ちるように作品の中へ。這い出たいような、でも引き摺り込まれたいような、不思議な感覚で一気読み。
  • 夏目漱石、読んじゃえば?
    夏目漱石読んじゃえば?
    ちょっと変わったタイトルの本書は漱石の10作品を取り上げてそれらにあった読み方を提案している。
    提案というよりも指示に近いか。
    文章の書き方も妙に上からっぽいので何故だろうと思っていたら河出書房の「14歳の世渡り術」というシリーズの中の作品だった。
    中学生向けね。
    とはいえか...続きを読む
  • ビビビ・ビ・バップ
    これはひどい。ひどくおもしろい。「『吾輩は猫である』殺人事件」と「プラトン学園」が、ぐちゃぐちゃに混ざって全く新しい物語になったというか、久しぶりに筆者の破天荒なSFを読みました。それにしても800ページは長い。ジャズは詳しくないですが、ワクワクしてしまうのが不思議。60年代新宿のシーンはドキドキで...続きを読む
  • シューマンの指
    修人について語るときの、静謐でいて幻想的なレトリックが良い。その中でも、とくに魚を使った比喩が多い気がした。何かが表出するとき、水の中で泳ぐ魚が水面に向かって浮かび上がるイメージを通して表現されている箇所がいくつかあった。本作ではシューマン論に限らず音楽ついて語られることが多いが、作者にとって、...続きを読む
  • 東京自叙伝
    坦々と江戸時代から現代までの近代史を追いかけ、歴史の分岐点の裏には常に東京そのものである私がいるという偽史もの。偽史好きなこともあり楽しく読めた。
    東京の栄枯盛衰に対応して「私」も隆盛したり盛り下がったりするのがなんだか愛おしい。東京ちゃん、と呼び掛けたくなる。
    著者の批評的な視線として、「なるよう...続きを読む
  • 鳥類学者のファンタジア
    ジャズ好きと世界史好きにはおもしろいファンタジー設定。
    最後のチュニジアはイントロが思い浮かぶんだから大した表現だ。
  • 小説の聖典
    共に作家の奥泉光さんといとうせいこうさんのとても刺激的な対談集。
    副題に『文学入門』とついているが、これが『入門』なのか?というような高度な(私にとっては)おはなしがつづく。
    でも主に奥泉さんがボケて、いとうさんがつっこむ漫談方式のお陰でクスクス笑いながら読まされてしまう。
    奥泉さんのお子さんの保育...続きを読む
  • 虫樹音楽集
    数年後に再読するであろう自分に伝えたいのは、これは9曲入ったアルバム(ブートレグ含む)を聞くように読め、ということだ。

    初出とは順番がシャッフルされている。
    結果、フィクション風→ルポタージュ風→フィクション風→……、と多少なりとも意味や作為を読み取れるようになっている。

    また読み進めるほどに、...続きを読む
  • グランド・ミステリー
    「グランドミステリー」は、僕がはじめて読んだ奥泉作品だ。相当前に読んだもので、ストーリー云々はまるで記憶になかったが、時間を迷宮的に超越した、軍艦とベニスと加多瀬と志津子の物語、というふうに記憶していた。
    実に何年振りか(何十年ぶり?)かの再読だったが、記憶していた以上に辛辣な日本、日本人への批評的...続きを読む
  • 小説の聖典
    小説家の頭の中ってこうなってるのか〜。ただ物語を作っていくだけではなく、文体や自分が何かに影響を受けているかどうかまで、意識したり受け入れたり戸惑ったり。とっても興味深い。
    いとうさんファンとしては、彼が小説を書けない時期に、何に悩んでいたのか、そしてそれをどう乗り越えたのか、の一端を垣間見たようで...続きを読む
  • 漱石漫談
    めちゃくちゃ面白い!
    漱石のやっちゃった文章に対するツッコミに、
    何度も噴き出してしまった。
    特に、こころと坊ちゃんは笑える。

    こんなふうに小説を読み、語り合えるのは
    さぞかし幸せだろう。
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    女性作家が選んだものとはまた違う感覚の作品も多く、未読作品が多かったのでとても楽しめた。餐応夫人がすき。この作家さんはこういう作品を選ぶんだなぁ…って部分でも楽しめてなんだかお得。
  • 東京自叙伝
    奥泉光『東京自叙伝』は東京での事件外観である。

    江戸末期から、現代に至るまで、東京で発生する怪しげな事件はすべて私が起こしたあるいは私が関与したのである。

    私とは、どこからが私かそれはわからないが、ある時から自分が「私」であると認識するのだ。つまり、ある時からは自分は「私」ではなくなり、別の人物...続きを読む
  • 黄色い水着の謎 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2
    たらちね国際大学准教授にして、文芸部顧問の桑潟幸一。
    ヴァルネラビリティ高めの彼が巻き込まれる珍事件を、文芸部の面々が解決する、というミステリ。
    シリーズ三作目とのことだが、実は私には本作が初めて。
    でも、ちゃんとついていける。

    「スタイリッシュな生活」とくるが、首になることを恐れ、汲々と生活を切...続きを読む