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ジャズ全盛の1970年代。サックスプレイヤー通称「イモナベ」は、『孵化』というライブを全裸で演奏して以降、精神に変調をきたしたとの噂と共にジャズシーンから姿を消した。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブチラシを見つける。イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは絶対にありえない戦慄の風景だった。カフカ『変身』とジャズを見事に融合させた傑作連作短編。
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Posted by ブクログ
面白い構造を持った連作短編集。カフカの「変身」をモチーフにしてるんだけど、プロの作家は凄いね。 ジャズマンがいて、彼を主人公とする小説があり、彼の演奏の評論集もある、作品内での現実と小説、評論が交錯しながらストーリーは物語られれていく。連作短編集だから当然だけど、作品が進むにしたがって、謎が浮かび上...続きを読むがってくる。これもなかなかに幻惑的でいい。
数年後に再読するであろう自分に伝えたいのは、これは9曲入ったアルバム(ブートレグ含む)を聞くように読め、ということだ。 初出とは順番がシャッフルされている。 結果、フィクション風→ルポタージュ風→フィクション風→……、と多少なりとも意味や作為を読み取れるようになっている。 また読み進めるほどに、...続きを読む ・化石の宇宙飛来説、宇宙樹、虫の声を代弁 ・暴力の予感(「変身」の最初の文「気がかりな夢」) ・音楽、変態性欲、崇高への眼差し、変態=人間からの断絶(宇宙へメッセージを放つために、宇宙樹に文字を掘る→肉体に傷をつける、とパラレル) とモチーフは過去の奥泉作品と通じていく。 さらに小説の構成として、 ・(イモナベと私、の対関係、にはならず、)イモナベ→カフカ→畝木→私、と焦点が強く当たる人物は、揺らいでいく。 ・小説家「私」VS小説家畝木、か?(謎の人物……畝木が書いた小説の作中人物が飛び出してきて、作者を傷つけ殺した、そこにおいて渡辺柾一は演奏者に過ぎない?) という勘繰りも。 これも多様な文章で読者の理解を揺すってていく、という奥泉作品の手法だ。 私自身の存在を根底から揺らがせる、ミステリの形式を借りた実存疑惑。 ここにおいてはカフカよりも、メタフィクションを先取りしていたボルヘス。 以上の奥泉的作風が、本作においては幸せなマリアージュをしている。すなわち青春期の回顧あるいは挽歌だ。 往々にして自身をフィクション化する癖のある作者(余談だが大江も)が、自らの青春期を書くときに、大長編大河もの涙ぐしゅぐしゅがっぷり四つ思い入れたっぷり、に書くわけがない。 あくまでも軽やかに、即興的(アドリブ、インプロヴィゼーション)に、断片的(フラグメント)に。 これが結果としてアルバムのようになるのだ。 作者の挽歌的思いは、たったひとこと「あえて笑いたい。それがはなむけだから」に結実する、ここが感動的なところだと個人的に思う。 ヒッピームーブメント、ニューエイジ思想、アングラな舞台芸術、これらはいわば内面変容や肉体変容を信じていた当時の「生真面目な」感覚があったからこそ。 だから、大勢の客の存在を前提としたコンサートではなく、客は少数あるいはゼロでも、パフォーマンスを行うことに意味がある、という感覚が、80年代末まで保ち続けられていた、という事実に、ぐっとくる。 ポストモダンの狂騒と軽薄さに突入する以前の「あれら」への挽歌でもあるのだろう。 笑おう、笑ってやろう。(カフカは「変身」の朗読会で笑いを抑えられなかったとか。) 笑ってやることでしか整理できない青春、という感覚は、著者より若手の私にもあるし、今でもそうなのでは。 補足。筒井康隆。山下洋輔。高野悦子。森田童子。寺山修司。天井桟敷。初期澁澤。などなど連想した。思えば三島は結局1970年で自らケリをつけたのだ。 あの「湿った」「情念的な」時代の文化の感じは、80年代生まれ90年代育ちにとっても、なぜだか懐かしい。 不協和音に安らげる感覚、とも。
理解は出来ないけど、不思議と引き込まれるこの文章力は何なのでしょう? ジャズはわからないし、虫も嫌いだけど、この何とも言えない感じは好きです。
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