奥泉光のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
夏目漱石読んじゃえば?
ちょっと変わったタイトルの本書は漱石の10作品を取り上げてそれらにあった読み方を提案している。
提案というよりも指示に近いか。
文章の書き方も妙に上からっぽいので何故だろうと思っていたら河出書房の「14歳の世渡り術」というシリーズの中の作品だった。
中学生向けね。
とはいえかなり参考になった。
もう一度視点を変えて漱石さんの作品を読んでみようと思ったし、読書一般に関しても今までと違った読み方が有るなあと思えた。
特に著者の言う「小説の本質は物語ではなく文章にあるのだ」は映像でなく文字で記される小説の存在意味を表しているのだろう。
そして「小説は最後まで読まなくても良い」 -
Posted by ブクログ
坦々と江戸時代から現代までの近代史を追いかけ、歴史の分岐点の裏には常に東京そのものである私がいるという偽史もの。偽史好きなこともあり楽しく読めた。
東京の栄枯盛衰に対応して「私」も隆盛したり盛り下がったりするのがなんだか愛おしい。東京ちゃん、と呼び掛けたくなる。
著者の批評的な視線として、「なるようになる」という適当さを日本の近代から現代に見出しているのが興味深い。適当という補助線を引いてみると、我が国ってほんとに適当だよなと感じる。コロナウイルスの対応についても政権与党の対応が場当たり的に流されていること、数年前に本作を書いた筆者の慧眼といったところ。
また東京という都市の象徴にネズミを置い -
-
Posted by ブクログ
共に作家の奥泉光さんといとうせいこうさんのとても刺激的な対談集。
副題に『文学入門』とついているが、これが『入門』なのか?というような高度な(私にとっては)おはなしがつづく。
でも主に奥泉さんがボケて、いとうさんがつっこむ漫談方式のお陰でクスクス笑いながら読まされてしまう。
奥泉さんのお子さんの保育園の学芸会の話題(爆笑)からフロイトの‘ユーモアについて’の話題に持っていくおふたりの手腕に酔ってしまい、自分には絶対読みこなせない書物も読みたくなる(笑)
たぶん百分の一も理解できていないと思うけど、それでも面白かった。
あと、作家であるいとうさんの口から「誤読してもいい」の言葉が聞けたのもホッと -
Posted by ブクログ
数年後に再読するであろう自分に伝えたいのは、これは9曲入ったアルバム(ブートレグ含む)を聞くように読め、ということだ。
初出とは順番がシャッフルされている。
結果、フィクション風→ルポタージュ風→フィクション風→……、と多少なりとも意味や作為を読み取れるようになっている。
また読み進めるほどに、
・化石の宇宙飛来説、宇宙樹、虫の声を代弁
・暴力の予感(「変身」の最初の文「気がかりな夢」)
・音楽、変態性欲、崇高への眼差し、変態=人間からの断絶(宇宙へメッセージを放つために、宇宙樹に文字を掘る→肉体に傷をつける、とパラレル)
とモチーフは過去の奥泉作品と通じていく。
さらに小説の構成として -
Posted by ブクログ
「グランドミステリー」は、僕がはじめて読んだ奥泉作品だ。相当前に読んだもので、ストーリー云々はまるで記憶になかったが、時間を迷宮的に超越した、軍艦とベニスと加多瀬と志津子の物語、というふうに記憶していた。
実に何年振りか(何十年ぶり?)かの再読だったが、記憶していた以上に辛辣な日本、日本人への批評的文学だったように思えた。ただしそこは奥泉さんなので、あくまでもエンターテイメント要素が前面に押し出され、むしろそちら方面に傾きすぎて重心が散らばってしまっているところが本作の弱点でもあるように感じた。夕鶴事件の真相、と銘打たれてスタートした物語だが、結局のところその真相などはたいした真相ではなく、手 -
Posted by ブクログ
奥泉光『東京自叙伝』は東京での事件外観である。
江戸末期から、現代に至るまで、東京で発生する怪しげな事件はすべて私が起こしたあるいは私が関与したのである。
私とは、どこからが私かそれはわからないが、ある時から自分が「私」であると認識するのだ。つまり、ある時からは自分は「私」ではなくなり、別の人物が「私」になる。
ある時は柿崎幸衛門の養子、柿崎幸緒であり、ある時は陸軍参謀になる榊春彦、そしてある時は放火犯の戸部みどりなのである。それぞれの人物はそれぞれ当人としての人生を全うしているが、その一部期間が「わたしなのである。」。しかもその人物が「私」になるきっかけはいつも二つある。一つは大量に発 -
Posted by ブクログ
たらちね国際大学准教授にして、文芸部顧問の桑潟幸一。
ヴァルネラビリティ高めの彼が巻き込まれる珍事件を、文芸部の面々が解決する、というミステリ。
シリーズ三作目とのことだが、実は私には本作が初めて。
でも、ちゃんとついていける。
「スタイリッシュな生活」とくるが、首になることを恐れ、汲々と生活を切り詰めるクワコー先生には、これほどの皮肉な言葉はない。
食費を浮かせるために水路でザリガニを取り、独り生えしている紫蘇を見つけ歓喜するクワコー先生、だんだん生活力を高めつつあるようで。
事件も、殺人のようなシリアスなものではない。
事件は文芸部員たちがあけすけにくっちゃべるなかで、おもむろに解決す -
Posted by ブクログ
ネタバレ音大をめざす高校生が主人公。
結局音楽の道に進まなかった現在、過去を振り返って語る。
昨年の夏に読んだ『船に乗れ!』と同じ構造。
しかし、目には見えない音楽を目に見えるように、本からは聞こえない音楽を聴こえるように、感覚としてわかるような描写が魅力だった『船に乗れ!』とは違い、楽典の講義を受けているような(受けたことないけど)論理と言葉で音楽を語るこの作品は、読んでいて大変疲れました。
物語半ばに殺人事件の被害者が突然出現したけれど、だからと言ってミステリに引っ張られることもなく、音楽を軸に結ばれた仲間たちの話は淡々と続く。
残り50ページから殺人事件の真相を暴くことに筆が向かったように -