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1991年1月17日、湾岸戦争が始まった。砂漠の戦場から遠く離れた東京の郊外で、妻の出産を待つ大学講師・木苺の凡庸な日常に突然、暗黒の陥穽が口を開く。モーセのトーラー、鴉、理不尽な暴力の予感、そして改竄される歴史。様々な謎が顕在し、現実は虚構に侵蝕されてゆく。あの日を境にして世界は変わってしまったのか? 21世紀の今日に鮮烈に屹立する、戦争と狂気の時代を黙示した問題作。
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Posted by ブクログ
小説の可能性の大きさを感じさせてくれる作品です。大江健三郎著「個人的な体験」を下敷きにしているので、大江氏の小説を読んでから再読したいと思っています。前半部分は、木苺勇一と妻の生活がユーモアを交えて書かれていて、ちょっとクワコ―を思わせる読み心地です。次第に虚構と現実が入り混じり、難解になっていきま...続きを読むす。奥泉さんの他の小説にも、この技巧は用いられていますが、この特徴が独特の小説世界を作り上げています。そこから立ち上がってくる光景が奥泉さんにしか出せぬ光を放っていると感じます。後半で大きな仕掛けが明らかになって、とても驚きました。そうだったんだという思いで、読みなおしました。芥川賞受賞作「石の来歴」よりも前に発表されている、奥泉光さんの初期の代表作品を多くの人に読んでいただきたいと思います。
「葦と百合」のドロリとした質感からは一篇、砂漠のような乾いた無慈悲さや圧倒的破壊力を感じる作品。何が起こるわけでもないのに容赦がない。少しずつ少しずつ日常がおかしくなっていく、その静かさが逆に気持ち悪い。それらひっくるめてバナールな現象として片付けてしまう残酷さ。書かれたものは書かれた通りに存在する...続きを読む、それがイディオムであろうがレトリックであろうが、書かれた限り必ず存在する、それを念頭に置いておくのが、読者が唯一作者の暴力に対抗できる方法かも。いとうせいこう氏の解説が作品との相乗効果で非常によかった。
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