安部公房のレビュー一覧
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「他人の顔を付けること」は「他人になる」と同じこと?
1968年(昭和39年)発行、半世紀以上前の作品。
液体空気の事故で顔を失った研究所勤めの男が、
「他人の顔」を作り上げてその顔で妻を誘惑し、
妻の愛を取り戻そうとする。
主人公の「ぼく」は、仮面を作るに至ったいきさつ、
混沌とした迷い、仮面をつけた自分がなにをすべきか
という決断までノートに手記を書き続け、手記の
中で妻の「おまえ」に語り掛ける。最後に、その
手記を妻に読ませる。「ぼく」の浅薄さと悲哀が
鮮やかに浮かび上がってくる結末に、あっと
思わされた。
昭和中期の泥臭い雰囲気がたまらなく良かったです。
モノクロか初期のカラ -
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安部公房 「 方舟さくら丸 」核シェルターを舞台とした近未来小説。
仕掛け(著者が提示したアイテム)が多いので、いろいろな捉え方ができる
著者にとって 人間の在るべき姿は、定着せず 移動し変化することであり、生きのびることより、最後まで 生の希望を持ち続けることであるというメッセージを感じた
近未来への警鐘的なテーマ
*自分の糞を餌として 移動せず 生きる虫(ユープケッチャ)と 便器にしゃがんだまま 旅を妄想する主人公を同一視している
*核兵器や便器を リセットボタンのように描いているが、リセットされても悲観的な人間像しか出していない
*生きのびるための切符配りやオリンピックの国家の出し -
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文庫本は昭和45年発行。平成19年現在39刷。昭和33-34年、雑誌「世界」連載。連載が終わって61年経っているのに、古くならないどころか、益々新しく、現代を批評しているかの如くである。
安部公房はまともに読んだことがない。純文学とか、不条理文学とかだと思っていたから。ところが、今回は全体の半分はSFで、半分はミステリだった。もちろん、純文学らしく何言ってるんだかわかりにくい所もある。私はそれを「現代版黙示録」として読んだ。いや、半分本気です。満州から引き上げる途中、安部公房は時空の裂け目に落ちて、神に導かれてちらりと未来を見て帰ってきたのではないか?だから、電子計算機(AI)が未来を語り、 -
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難しい。。
メッセージがあるとは思うがはっきり分からない。
映画「マルホランドドライブ」を初めて見たとき以来の謎を感じている。
全体を通して大量消費に基づく、資本主義への皮肉を描いているのか?
第一景 鞄
女と客が資本者で鞄は労働者のメタファーなのか?
鞄の中身が虫だとしても殺虫剤で軽く殺そうとしている描写。虫は労働者の心、人格のメタファーで資本者にとっては取るに足りない、なんの哀れみもなく殺せる、むしろ嫌なモノ。ということを描いている?
第二景 時の崖
ボクサーはサラリーマンのメタファー、
階級は社内の出世のメタファーと考えた。
とすると、ボクサーがランクを上げる際に何人ものボクサーを -
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ネタバレ妻の立場だったなら、「顔だけが変わったからって、あなただって気付かない訳ないでしょう」と思う。骨格、肉付き、爪の形、仕草だって、「あなた」だって気付かせるに十分すぎるくらいだと思うから。けれど人って、失われたと思うものに程執着するし、「顔」って常に外界に向けて公開されてしまうものだから、主人公がここまで執着して苦悩してしまうのも無理がないし私もそうなると思う。妻も主人公の悲しみ苛立ちを受け止めようと、また一部道徳的な自己戒律から仮面をかぶって暮らしていたんだと思う。その全てが見えなくなるほどに苦しんだ主人公を非難はできないけれど、妻からすれば、私の気持ちをくもうともせず自分のことばかり憐れんで
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Posted by ブクログ
ネタバレ読んでいて、段々訳が分からないものに足元を掬われる思いがしてきた。
人間そっくりだと言う、火星人を名乗る男と、放送作家の男の会話で物語は進んでいく……が。
火星人を名乗る男の目的が全く分からない。分からないのに、それを回避してひたすら喋っている。作中で本人も言っていたが、大きな嘘を隠すために小さな嘘を沢山ついている。だから、何が本当か分からない。
最後の最後まで、訳が分からない。
放送作家は、自分が段々何者か分からなくなっていったと思うが……
以前、カンガルー・ノートを読んだ時も、何が現実で、何がそうじゃないのかが分からなくなってきたみたいな感想を書いたが、今回もそんな感じだった。
これ -
Posted by ブクログ
ネタバレ高校生以来の安部公房。 内容よりもまず、文体と構成、言葉選びがかっこよすぎる。「物語」としての強度は言わずもがな、その独自の「形式」の圧倒的なセンス。ラインを引きながら読んでいたのだけれど、引く箇所があり過ぎた。 特に後半にかけてのスピード感と陶酔感、そして虚無感が素晴らしい。全編に散りばめられたブラック通り越した底が見えない、あの便器のように暗い黒いユーモア。
閉ざされた巨大空間、方舟、=王国。自らの「排他性」を他者の介入により自覚していく主人公=モグラ。外の世界では「棄民」とされ、またそれを自覚して強度を増す「ほうき隊」と呼ばれる老人男性集団の躁状態。
「統治」する快感と「統治」される