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失踪した男の調査を依頼された興信所員は、追跡を進めるうちに、手がかりとなるものを次々と失い、大都会という他人だけの砂漠の中で次第に自分を見失っていく。追う者が、追われる者となり……。おのれの地図を焼き捨てて、他人しかいない砂漠の中に歩き出す以外には、もはやどんな出発もありえない、現代の都会人の孤独と不安を鮮明に描いて、読者を強烈な不安に誘う傑作書下ろし長編小説。(解説・ドナルド・キーン)
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Posted by ブクログ
最高。 通常の世界からだんだん夢の中を歩いている気分になる。自分は誰なのか、むしろ自分が追い求めていた人物かもしれないし自分はその弟かもしれない。ファイトクラブのような気もしつつ、ただ人を探す行為に疲れた精神錯乱かもしれない。それを風刺として利用したのかそれとも夢の世界に引き摺り込みたいのか。安部公...続きを読む房だった。
安部公房が書く「都会という無限の迷路」、それはタクシーであり公衆電話であり地図であり電話番号……、そのような「都会」は今はもうないのかもしれない。 初めは物語世界に入り込むのに苦労した。 半分を超えたあたりで、小説のテーマが何となくわかった。 入り込めなかったのは、現代が安部公房の時代とは前提が変...続きを読むわってしまったからかもしれない。 冒頭、「だから君は、道を見失っても、迷うことは出来ないのだ」とある。 安部公房の時代からさらに時が経ち、現代はもはや、手掛かりとしての地図すら消えてしまった状況ではないか。 道が自分と同化し、道を見失うこともできなくなった……。
手掛りを辿れども辿れども、真実に近付きも遠のきもしない感じが、失踪人の周囲を同心円上にぐるぐる回っているだけのようで徒労感と無力感が延々と繰り返される。それでも次は何かがわかるかも知れない!という期待を込めてページを捲る手が止まらない。 通常の推理小説ならラスト一気に真実の一点へ駆け込むが、そうは問...続きを読む屋が卸さないのが安部公房。不確実で掴みどころのない手掛りを次々に無くし、結果として唯一確実な存在だった自分自身すら見失う。地図は燃えつきた。お見事。 草臥れたような「場末」の表現が抜群に上手くて笑える。大抵の場合古本から煙草の匂いがするとハズレ籤を引いた気になるが、安部公房だと逆に煙草の匂いがアジになる。マッチがタダで手に入った時代の空気の匂いのようで悪くない。
「存在しないもの同士が、互いに相手を求めて探りあっている、滑稽な鬼ごっこ」 正に現代。鬼ごっこの形が変わって誰でもどこでもやり易くなっただけで、やってることは昔とさほど変わらない。
ハードボイルド小説だ。或いはノワール小説的でもある。 ハードボイルドやノワールという物語の成立には都市という舞台は必要不可欠だ。 田園風景の中で、誰もが誰もの家族たりうる社会でハードボイルドもないだろう。 この物語も等しく、都市が舞台であって、さらに、拡大してゆく最中の都市とも言える。 この...続きを読む舞台装置はまったくノワール的と言ったら研究者には笑われてしまうだろうか。 都市において人や事物、そしてそれらに与えられた役割は完全に匿名的で交換可能な価値を持つ。 だからこそ、都市の機能は平等公平で自由である。 しかし、その内実は孤独で冷酷で不平等でもある。 P.293『「ほら、あんなに沢山の人間が、たえまなく何処かに向かって、歩いて行くでしょう・・・みんな、それぞれ、何かしら目的を持っているんだ・・・ものすごい数の目的ですよね・・・くよくよつまらないことを考えていたら、取り残されてしまうぞ。みんながああして、休みもせずに歩き続けているのに、もしも自分に目的がなくなって、他人が歩くのを見ているだけの立場に置かれたりしたら、どうするつもりなんだ・・そう思っただけで、足元がすくんでしまう。なんだか、詫びしい、悲しい気持ちになって・・・どんなつまらない目的のためでもいい、とにかく歩いていられるのは幸福なんだってことを、しみじみと感じちゃうんだな・・・」』 周囲に取り残されてしまうのではないかという恐怖、疎外感と、それを感じさせないための様々な装置、それは自販機だけの飲み屋、バー、屋台やカフェーだ。 しかし、脆弱な人間にこの都市は疎外感、嫉妬を感じさせ、自己愛を傷つける。 Pp313-314『「・・まるで自分が見捨てられてしまったような・・すこし違うな・・ひがみというか・・人生の、とても素晴らしいことが、僕にだけ内緒で、僕だけが、のけものにされて・・」』 疎外感、孤独感は、なにもある個人が脆弱であるからだけでは無く、都市という機能が人をそう感じさせるようだ。 P.353 『「自分が、本当に自分で思っているような具合に、存在しているのかどうか・・それを証明してくれるのは、他人なんだが、その他人が、誰一人ふりむいてくれないというので・・」』 この物語の核心は不明瞭だが、人が都市のなかで「蒸発」する現象として、解離性遁走もあげられる。 記憶が入れ替わり、全く新しい人生をはじめてしまう。 解離性障害の一病態だ。 およそ匿名的で交換可能な都市社会、近代社会においては、失踪し、新しい人生をはじめてしまうということも実はそれほど困難ではなかったのかもしれない。 そして、都市の日常における孤独からの逃避、いや、個人が個人であるための防衛として、遁走は有効な防衛機制だったのかもしれない。 しかし、現代ではどうか。 スマートフォン、SNS、マイナンバー、銀行口座・・ 給与も銀行振り込み、納税記録、年金など高度な紐付けがなされている。 そこへきて住民基本台帳(もはや死語だろうが税金の無駄だった)が導入され、マイナンバー制度(最悪なネーミングセンスであり税金の無駄になりつつある)も導入された。 全人格「的」労働ではなく、労働を含めたステータス・バロメータが含まれた「人格」が意図しないうちに形成されていく。 Covid-19のさなかにあって、銀行口座も紐付けられようとしている。 この2020年にあって失踪はかなり困難であって、さらにいえば公私の境界は曖昧だ。 それどころか常に他者のオピニオンが自己に入り込み、もはや対人境界まで曖昧になっているのではないか。 自分の意見は誰かの意見でしかないのではないか。 このアヴァンギャルドな小説を読み、モダン・ポストモダン社会との相違に思いが交錯する。
「失踪した主人を探して欲しい」 この時点で、安部公房を何冊か読んできた人なら、見つかることはないことは想像に難くないだろう。したがって、見つからないのである。 いなくなった人を探して見つからないというテーマは「密会」と似ており、安部公房作品らしくどの登場人物ものらりくらりと本質を語らない。主人公もフ...続きを読むラフラと本質に突っ込まず、心理描写を見ながら、読者がどんどん焦らされていく。プロットとしても「密会」の昼間版というところ。とはいえ、あちらほどディープでえげつない描写が有るわけでもないので、慣れていなくても割と読みやすい1冊となっている。安部公房の準初心者におすすめしたい。 安部公房作品の読み解きの難しさの一つとして、やたらと複雑な建物などが出てくることがあるが、本作は車であちらこちらに移動し、それらの位置関係がしっかりと描かれているために理解しやすい。沿う感じてドナルド・キーンによる解説を読んだら、しっかりと書かれておりました。安部公房に興味を持ったのなら、解説付きの文庫本版をおすすめします。
手触りかん、現在形、途中までは才能をフルに発揮、恐らく最後の数十ページは彼にとっても挑戦。いいね!!
なぜ、安部公房の作品は文学作品だというのに、いつも、長い夢を見たような気分になるのか。文字よりもそこから喚起されるイメージのほうが頭に焼き付いて離れない。 孤独、アイデンティティの喪失という題材を儚くも美しく、お得意のメランコリックな文体で仕上げた名作。 社会での歯車の一部感で苦しくなっていると...続きを読むきに読むと刺さるように心に響く。
過去に読んだ本。 大学4年の頃、その時受講していた講義の先生の影響で安部公房にハマって、何作か読んだ。 暗い、不条理な感じがいい。
探偵の即物的視点からえがく傑作。 内容については他の方が書いていらっしゃるので割愛する。 勘違いしてはならないことはこの小説はスリップストリームであり探偵小説とは違うと言うことだ。 この混乱する社会を混乱していく小説で見事にえがいてある。 序盤から終盤にかけての即物的文体、終盤の幻想的文体、こ...続きを読むれにより主人公の著しい転換が分かる。 著者が後書きでも書いているように「おのが地図を燃やして他人の地図で生活していかなければならない」 まさにそれを読者に示した良い作品だった。
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