【感想・ネタバレ】燃えつきた地図(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

失踪した男の調査を依頼された興信所員は、追跡を進めるうちに、手がかりとなるものを次々と失い、大都会という他人だけの砂漠の中で次第に自分を見失っていく。追う者が、追われる者となり……。おのれの地図を焼き捨てて、他人しかいない砂漠の中に歩き出す以外には、もはやどんな出発もありえない、現代の都会人の孤独と不安を鮮明に描いて、読者を強烈な不安に誘う傑作書下ろし長編小説。(解説・ドナルド・キーン)

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

最高。
通常の世界からだんだん夢の中を歩いている気分になる。自分は誰なのか、むしろ自分が追い求めていた人物かもしれないし自分はその弟かもしれない。ファイトクラブのような気もしつつ、ただ人を探す行為に疲れた精神錯乱かもしれない。それを風刺として利用したのかそれとも夢の世界に引き摺り込みたいのか。安部公房だった。

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2023年11月02日

Posted by ブクログ

安部公房が書く「都会という無限の迷路」、それはタクシーであり公衆電話であり地図であり電話番号……、そのような「都会」は今はもうないのかもしれない。

初めは物語世界に入り込むのに苦労した。
半分を超えたあたりで、小説のテーマが何となくわかった。
入り込めなかったのは、現代が安部公房の時代とは前提が変わってしまったからかもしれない。

冒頭、「だから君は、道を見失っても、迷うことは出来ないのだ」とある。
安部公房の時代からさらに時が経ち、現代はもはや、手掛かりとしての地図すら消えてしまった状況ではないか。
道が自分と同化し、道を見失うこともできなくなった……。

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2023年02月10日

Posted by ブクログ

手掛りを辿れども辿れども、真実に近付きも遠のきもしない感じが、失踪人の周囲を同心円上にぐるぐる回っているだけのようで徒労感と無力感が延々と繰り返される。それでも次は何かがわかるかも知れない!という期待を込めてページを捲る手が止まらない。
通常の推理小説ならラスト一気に真実の一点へ駆け込むが、そうは問屋が卸さないのが安部公房。不確実で掴みどころのない手掛りを次々に無くし、結果として唯一確実な存在だった自分自身すら見失う。地図は燃えつきた。お見事。

草臥れたような「場末」の表現が抜群に上手くて笑える。大抵の場合古本から煙草の匂いがするとハズレ籤を引いた気になるが、安部公房だと逆に煙草の匂いがアジになる。マッチがタダで手に入った時代の空気の匂いのようで悪くない。

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2021年10月09日

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「存在しないもの同士が、互いに相手を求めて探りあっている、滑稽な鬼ごっこ」

正に現代。鬼ごっこの形が変わって誰でもどこでもやり易くなっただけで、やってることは昔とさほど変わらない。

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2020年08月04日

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ハードボイルド小説だ。或いはノワール小説的でもある。

ハードボイルドやノワールという物語の成立には都市という舞台は必要不可欠だ。

田園風景の中で、誰もが誰もの家族たりうる社会でハードボイルドもないだろう。

この物語も等しく、都市が舞台であって、さらに、拡大してゆく最中の都市とも言える。

この舞台装置はまったくノワール的と言ったら研究者には笑われてしまうだろうか。

都市において人や事物、そしてそれらに与えられた役割は完全に匿名的で交換可能な価値を持つ。

だからこそ、都市の機能は平等公平で自由である。
しかし、その内実は孤独で冷酷で不平等でもある。

P.293『「ほら、あんなに沢山の人間が、たえまなく何処かに向かって、歩いて行くでしょう・・・みんな、それぞれ、何かしら目的を持っているんだ・・・ものすごい数の目的ですよね・・・くよくよつまらないことを考えていたら、取り残されてしまうぞ。みんながああして、休みもせずに歩き続けているのに、もしも自分に目的がなくなって、他人が歩くのを見ているだけの立場に置かれたりしたら、どうするつもりなんだ・・そう思っただけで、足元がすくんでしまう。なんだか、詫びしい、悲しい気持ちになって・・・どんなつまらない目的のためでもいい、とにかく歩いていられるのは幸福なんだってことを、しみじみと感じちゃうんだな・・・」』

周囲に取り残されてしまうのではないかという恐怖、疎外感と、それを感じさせないための様々な装置、それは自販機だけの飲み屋、バー、屋台やカフェーだ。

しかし、脆弱な人間にこの都市は疎外感、嫉妬を感じさせ、自己愛を傷つける。

Pp313-314『「・・まるで自分が見捨てられてしまったような・・すこし違うな・・ひがみというか・・人生の、とても素晴らしいことが、僕にだけ内緒で、僕だけが、のけものにされて・・」』

疎外感、孤独感は、なにもある個人が脆弱であるからだけでは無く、都市という機能が人をそう感じさせるようだ。

P.353 『「自分が、本当に自分で思っているような具合に、存在しているのかどうか・・それを証明してくれるのは、他人なんだが、その他人が、誰一人ふりむいてくれないというので・・」』

この物語の核心は不明瞭だが、人が都市のなかで「蒸発」する現象として、解離性遁走もあげられる。

記憶が入れ替わり、全く新しい人生をはじめてしまう。

解離性障害の一病態だ。

およそ匿名的で交換可能な都市社会、近代社会においては、失踪し、新しい人生をはじめてしまうということも実はそれほど困難ではなかったのかもしれない。

そして、都市の日常における孤独からの逃避、いや、個人が個人であるための防衛として、遁走は有効な防衛機制だったのかもしれない。

しかし、現代ではどうか。

スマートフォン、SNS、マイナンバー、銀行口座・・

給与も銀行振り込み、納税記録、年金など高度な紐付けがなされている。

そこへきて住民基本台帳(もはや死語だろうが税金の無駄だった)が導入され、マイナンバー制度(最悪なネーミングセンスであり税金の無駄になりつつある)も導入された。

全人格「的」労働ではなく、労働を含めたステータス・バロメータが含まれた「人格」が意図しないうちに形成されていく。

Covid-19のさなかにあって、銀行口座も紐付けられようとしている。

この2020年にあって失踪はかなり困難であって、さらにいえば公私の境界は曖昧だ。

それどころか常に他者のオピニオンが自己に入り込み、もはや対人境界まで曖昧になっているのではないか。

自分の意見は誰かの意見でしかないのではないか。

このアヴァンギャルドな小説を読み、モダン・ポストモダン社会との相違に思いが交錯する。

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2020年06月10日

Posted by ブクログ

「失踪した主人を探して欲しい」
この時点で、安部公房を何冊か読んできた人なら、見つかることはないことは想像に難くないだろう。したがって、見つからないのである。
いなくなった人を探して見つからないというテーマは「密会」と似ており、安部公房作品らしくどの登場人物ものらりくらりと本質を語らない。主人公もフラフラと本質に突っ込まず、心理描写を見ながら、読者がどんどん焦らされていく。プロットとしても「密会」の昼間版というところ。とはいえ、あちらほどディープでえげつない描写が有るわけでもないので、慣れていなくても割と読みやすい1冊となっている。安部公房の準初心者におすすめしたい。
安部公房作品の読み解きの難しさの一つとして、やたらと複雑な建物などが出てくることがあるが、本作は車であちらこちらに移動し、それらの位置関係がしっかりと描かれているために理解しやすい。沿う感じてドナルド・キーンによる解説を読んだら、しっかりと書かれておりました。安部公房に興味を持ったのなら、解説付きの文庫本版をおすすめします。

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2014年12月01日

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手触りかん、現在形、途中までは才能をフルに発揮、恐らく最後の数十ページは彼にとっても挑戦。いいね!!

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2014年10月10日

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ネタバレ

安部公房作品の中で一番好きな小説。純文学と探偵小説の融合だ。
主人公は興信所員。ある男を探してほしいという依頼を受け、調査を開始するが手がかりは次々に失われ、登場人物は死に、主人公は都会の迷路の中に追い込まれていき、追うものと追われるものが逆転し、最後には記憶喪失になってしまう。現代の恐怖を描いている。
特筆すべきはハードボイルドなこの作風だろう。紫煙と酒がよく似合う世界。タフな主人公。ウィキペディアの「ハードボイルド」の項にこの作品は上がっている。安部公房の作品は深読みしようと思えばいくらでもできるが、難しいことは考えなくても楽しめるのが最大の売りだろう。純粋な探偵小説としても読むことができる。
そして現代の恐怖を描いている点。我々はいつ生活している場所からいなくなってもおかしくない。年間の失踪者数はものすごい数に上る。都会というのは迷路だ。昭和の時代にこれを書けたのはすごい事だろう。おすすめです。

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2014年07月27日

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なぜ、安部公房の作品は文学作品だというのに、いつも、長い夢を見たような気分になるのか。文字よりもそこから喚起されるイメージのほうが頭に焼き付いて離れない。

孤独、アイデンティティの喪失という題材を儚くも美しく、お得意のメランコリックな文体で仕上げた名作。

社会での歯車の一部感で苦しくなっているときに読むと刺さるように心に響く。

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2014年06月21日

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過去に読んだ本。

大学4年の頃、その時受講していた講義の先生の影響で安部公房にハマって、何作か読んだ。

暗い、不条理な感じがいい。

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2012年12月15日

Posted by ブクログ

主人公と依頼人とのシーンや河原で逃げるシーンなど断片的に記憶には残っていたが、全体を思い出せなくて再読した。

そりゃ覚えてないはずだわと
読み終わって腑に落ちた。

後半から、今でいう異世界転生したのか何なのか、誰なのか、どこなのか、いきなり自分が頭悪くなったのかと思うぐらいの展開で混乱したまま読み終えた。

1回だけで記憶に定着してない理由がよくわかった。何か自分なりに考えて納得させてみようと試みるも思考停止。全てをわかろうとしてはいけないのね、、

再読の結果、安部公房の作品の中で好きなランキング上位に上がった。

どの作品も、自分が何者かわからなくなったり、見るものと見られるものがいつの間にか入れ替わっていたり、要素は似てるなと思いつつ、自分はこの不思議な世界に入ることが割と好きなよう。

普段の生活でもその場所や環境、他人との兼ね合いの中で自分自身を見失うことがあると感じるので、理解が困難ながらも共感できるところがあり、好ましいのかもしれない。

星4つです!!!!

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2025年11月01日

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失踪した男の調査を依頼された主人公。調べていくにつれて、手がかりだと思われた事で混乱し、煙に巻かれ、気づいたら自分を見失っていきます。
登場人物たちはみんなちょっとピントがずれていて、要領を得ない、ハッキリしない。
夢の中を走っているみたいな息苦しい展開。
風景描写が主人公の心境と混ざってとにかく不穏。
解説にもあるように、冒頭に出てくる坂道のカーブが
ラストでは全く別の世界になってしまっている。
「何なに、なんでこうなっちゃったのよ」とツッコミながら読んでいました。
先に読んだ「笑う月」がちょっと出てきたのが「おっ!」となった。

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2025年10月05日

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探偵の男が少しずつ自分を見失ってゆくにつれて、読んでいるこちらまで自分を見失ってしまいそうになる。靄につつまれて抜け出せない苦悩は、誰にでもありうる現実なのかも。

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2024年11月10日

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安部公房特有の暗くねばっこい質感がありながら読む手を止まらせない一冊。

探偵としてあちこち探し回り、一癖も二癖もある人たちと何度もすれ違っているが探してる男の姿は一向に見つからない。影さえ見えないままだから心のどこかに知らない影を作りたがるのは誰もがそうなのかもしれない。

そうして終わらない迷路を彷徨った主人公が最後にたどり着いた先が実際に迷路の終わりだったのか、新しい迷路の始まりだったのか。細部に至るまで抽象化した現代の偶像としての都会、社会性を描いた作品に思えて面白かった。

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2024年01月08日

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これまで読んだ安部公房の中では、
私にとっては難解で、
意味を理解するというよりは、
円環的で、主客が狂っていく、
いつもの蟻地獄のような安部公房世界を味わうことに努めた。

難解な理由の一つは、
会話が、描写が、
何を言っているのかわからないのだ。
限りなくリアリティがあるような変哲もない団地の景色も、
その変哲もなさが詳細に語られるほどに、
なんの特徴もなくて超現実的になる。
根室婦人の言葉は終始何を言っているのかひとつも分からず、
夢なのか幻なのか、
主人公同様に区別がつかずに混乱してくる。

しかしそれらは読書から離れて現実に戻った時に、
今この私が私であるという自己感覚に、
大きな疑問を残す装置になるのだった。

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2023年10月29日

Posted by ブクログ

安部文学には珍しいミステリー調のストーリー。疾走の依頼の調査が思いもよらないような複雑な展開に…
こういうのも悪くない!めちゃくちゃ面白い…と思いきや、やはり最後はしっかり安部ワールドに。
人が何故社会から逃避するのか?失踪者を調査しながら自らも失踪者に同化していく。安部公房は一貫して現代社会からの逃避や自己の喪失をテーマとしているが、今回は自らの意志での逃避ではなく、見えない因果の渦に巻き込まれ逃避者と化していくパターン。壮大な布石からの宿命的なクライマックス。超現実でありながらストーリーがしっかりしていて読み応えがあります。

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2021年07月30日

Posted by ブクログ

今まで読んだ安部公房の本は、独白系が多かったのだが、この作品はめちゃくちゃ会話がある。会話もまた素晴らしい。間の取り方が恍惚的。

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2017年01月04日

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失踪したある男を追っているうちに気がつけば自分自身のアイデンティティが失われていきいつしか自分の地図を失い失踪してしまう……燃えつきた地図というタイトルはアイデンティティの喪失の比喩かしら?メビウスの輪のようにぐるぐる回る安部作品特有の世界観。追うもの、追われるものがいつの間にかするっと入れ替わっているというのは安部作品では良く見るモチーフ。映画になってるみたいだけどどんなんなんだろう。2013/227

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2024年04月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

はじめの内は、みなどこかに欠陥だの余剰だのをくっつけていそうな登場人物たちの面立ちが、面白く、興味をもって、読み進めていく。「彼」の消息を追うごとに、人死にがふえていくたびに、まるで天井が額のすぐ先にまで迫ってくるような、逼迫感。探している彼の姿はいつまで経っても現れず、表情が、背広が、仕草がズームで見えてくることもなく、ぼんやりとドライアイスの煙に包まれた輪郭から目を離せば、いつしか裏側に回り込まれている。探し求める相手を完全に遮るように眼前へ現れた壁(レモン色のカーテン?)に鼻白んで立ち止まっていると、後ろから誰かが囁くのだ。そうして地球を一周したところで立ち止まり次の走者の背をポンと押す、固有名詞を失ったウロボロス。
最終章に近づいていくにつれ霧のように立ちこめていた不安が徐々に反転しそれこそが空気そのものになっていくさまは圧巻だった。そして場面ごとに、少しずつ少しずついびつな地面を増やし続けるような、独り言で空間を埋め続けるチャーミングな依頼人。最後に歩き出す選択に含まれる解放あるいは自由にどれほど価値のあるものか。歩き出したその次の日、また次の日にどこにいるのか。最後のほう怖かったなあ。

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2013年11月18日

Posted by ブクログ

最初は探偵モノみたいに、失踪者の調査を依頼された興信所員主人公が
手がかりを求めて周辺の人物に関わっていく。
しかし、いくら捜査しても、手がかりはつかめず、反対に重要な人物達が次々と死んで、わずかなヒントを失っていくばかり。
だんだんと何をしているのか分からなくなってきて、失踪者探しが、いつしか失われた自分探しになってしまう。
失踪者というキーワードで、『砂の女』を思い出す。
今回は探す側、舞台は都会という砂漠。
失踪者と捜索者の間になんだか表裏一体なモノを感じる。

興信所の仕事柄か、主人公目線の文章は些細な仕草や普通なら見過ごす風景まで事細かに観察されているのだが、にも関わらずそこから手がかりが何も出てこない。
結局何もつかめない、無駄に説明的で複雑な文章。
読んでいる感覚はカフカの『城』に近かったと思う。

他人から関心を持ってもらいたいがために嘘を繰り返して主人公を振り回し、最後には嘘でなく本当に自殺してしまう失踪者の部下田代や、ところどころ出てくるストーリーには関係ない人物達からまでも都会の孤独感がにじみ出てきていたりする。


地図も持たずに孤独にただ点と点を移動する日々を生き、他人との間に見えない壁をつくった都会人は、失踪者とほとんど変わらないのではないか。

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2013年08月12日

Posted by ブクログ

砂の女ほどの完成度はない。壁や箱男ほどのいかれた感じはない。しかしながら、やはり安部公房。気持ち悪い。砂の女と箱男の中間ぐらい、なんか曖昧な説明だけど。安部公房的な良い小説だと思う。

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2012年11月12日

Posted by ブクログ

失踪した男の調査をすることになった興信所員である主人公が、やがて自分自身を見失っていく。無機質な都会での疎外感や迷路にはまって、いつまでも抜け出せない不条理さが独特な文体もあって、よく描き出されていると思った。

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2025年04月06日

Posted by ブクログ

はじめから解決の見込みがない失踪人の捜索依頼を受ける興信所の探偵。捜索を続けるうちにどんどん深い何かに嵌まり、果ては自らを失っていく。
狂気が狂気を呼ぶ、陳腐な言い方だが、まさにそんなスパイラルで読ませる作品。
結末はわかりにくいが、蟻地獄のような落とし穴に嵌まり込む感じを味わいたい方は是非。

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2025年01月20日

Posted by ブクログ

失踪者を探す男がやがて自分を見失っていく話。調査の拠り所がなくて落ち着かない男の様子が、読点だらけのモノローグから滲み出てきて、読んでいる間ずっと不安で不安定な気持ちになりました。

冒頭の一節がとても印象的で、読み終わった後にもジワジワ効いてきます。

「都会――閉ざされた無限。けっして迷うことのない迷路。すべての区画に、そっくりの同じ番地がふられた、君だけの地図。だから君は、道を失っても、迷うことは出来ないのだ。」

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2024年03月14日

Posted by ブクログ

表現力に圧倒される。時代背景も人物背景も馴染みがないはずなのに、自分がそこにいるような手触り感。特に二回目の団地の描写はすごい。あ、この感じ前にもあったな、懐かしい、主人公に自分が重なる。

内容は難解。さらっと読みしただけでは喪失部分が唐突で意味がわからない。一体どういう心情でそういうことになったの?これまでの丁寧な説明は逆になんだったの?と。でももしかしてそれも表現効果の一部なのだろうか。メビウスの輪(とはよく言ったものです)の裏側は表と近しい位置にありながら全く繋がらない世界です、というのをその唐突さで表している?

主人公は弟、田代君、仕事、彼の妻からの依頼、と次々に目的を見失い(これが燃えつきた地図か)、存在価値を失う。おそらく彼も同じように行方不明になったのだろう。田代君はその孤独の怖さに耐え切れず自殺した。主人公はどうするのだろう。自分の地図を、他人に指図されない自分の道を選ぼうとするラストは明るいものに見えるが…。

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2020年03月04日

Posted by ブクログ

安部公房(1924-1993)の長編小説、1967年。

安部公房の小説の主題として、しばしば「自己喪失」ということが云われる。では逆に、「自己」が「自己」を「獲得」しているのはどのような情況か。それは、「世界」の内で何者かとして在ることができるとき。則ち、「世界」が"存在の秩序(ontic logos)"として一つの安定した価値体系を成し、その内部において「自己」が意味を付与され在るべき場所に位置づけられているとき。しかし、近代以降、「自己」の存在根拠を基礎づけようとするのは当の「自己」自身となる。このような【超越論的】機制から次のことが帰結する。

□ 自己喪失は不可避である。

なぜなら、超越論的主観性は「自己」の存在根拠をその都度毎に対象化し否定し続けることで無限に遡及していこうとするのであり、ついに最終的な基礎づけへの到達は無限遠の彼方に遅延されることになるから。「けっきょく、この見馴れた感覚も、じつは真の記憶ではなく、いかにもそれらしくよそおわれた、偽の既知感にすぎなかったとすると……いまぼくが帰宅の途中だという、この判断だって、おなじく既知感を合理化するための、口実にしかすぎなかったことになり……そうなれば、自分自身さえ、もはや自分とは呼べない、疑わしいものになってしまうのだ」。

自己は喪失するものとして在るしかない。こうした自己存在の無根拠性・虚無性に対する自覚が、欺瞞的な自己規定に安逸している日常性への頽落からの実存的覚醒の契機となる。それは、あらゆる概念的規定を虚偽として峻拒しようとするロマン主義的な自由への意志として現れる。「緊張感で、ぼくはほとんど点のようになる……暦に出ていないある日、地図にのっていない何処かで、ふと目を覚ましたような感じ……この充足を、どうしても脱走と呼びたいのなら、勝手に呼ぶがいい……海賊が、海賊になって、未知の大海めざして帆をあげるとき、あるいは盗賊が、盗賊になって、無人の砂漠や、森林や、都会の底へ、身をひそめるとき、彼等もおそらく、どこかで一度は、この点になった自分をくぐり抜けたに相違ないのだ……誰でもないぼくに、同情なんて、まっぴらさ……」。

自由とは、自己を断片化しようとするあらゆる欺瞞的な意味の絶対的拒絶という不可能性においてのみ、無限遠における成就ならざる成就としてのみ、可能となる。「「彼」……どんな祭りへの期待にも、完全に背を向けてしまった、この人生の整理棚から、あえて脱出をこころみた「彼」……もしかしたら、決して実現されることのない、永遠の祝祭日に向って、旅立つつもりだったのではあるまいか」

このような自己喪失の事態に対して、超越的な何かを仮構して喪失した自己を回復することは不可能である。なぜなら、あらゆる存在が超越論的主観性への表象として在る以外には在り得ないのであるから。一切の外部が無い。いかなる形而上学的逃避も予めその可能性は閉ざされている。この意味においてもまた、自己喪失は不可避である。取り戻すべき自己を探し求めるなどということは、全く無意味であるから。「だから君は、道を見失っても、迷うことはできないのだ」。道を見失っている、という情況から逃れることは永遠に不可能である。それ以外の情況は在り得ないのであるから。

そして、失踪者を追う者がついに当の失踪者それ自体に反転することは不可避である。失踪者を追うという超越論的主観性の【超越論的】機制そのものが、失踪者を何者かたらしめようとする不可能性に不可避的に撞着する以外にないという点において、失踪者それ自体の在り方に他ならないのであるから。追う者の姿は失踪者の姿そのものである。こうして、失踪者は増殖していく以外にない。

「探し出されたところで、なんの解決にもなりはしないのだ。今ぼくに必要なのは、自分で選んだ世界。自分の意志で選んだ、自分の世界でなければならないのだ」

しかしその「世界」とは、決して肯定的に規定し得ないものではないか。掴み取っては投げ捨てるという無限の否定運動の裡においてしか在り得ないものではないか。

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2018年12月24日

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正確かもわからない地図、報告書、嘘かもしれない嘘、そういうものたちにしか立脚することのできない存在の不安が描かれる。ロブ=グリエの『消しゴム』をやたらと思い出させる、裏返しのモチーフが何度も出てくる。ただまあ個人的に文体があまり馴染まなかった。

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2018年04月29日

Posted by ブクログ

夫が失踪した、という女性からの依頼を受けた調査員が巻き込まれる不可思議すぎる出来事のあれこれ。
弟も謎なら夫も謎だし、決着つくかと思いきや、ラストますます迷子になるという……やはり安部公房であった。

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2017年11月04日

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 1967年初出だが、内容は極めて現在的。近年よく「生きづらさ」ということが言われるが、そんなものは今に始まったわけではないことがわかる。

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2018年08月16日

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探偵である主人公は依頼人の失踪した夫を探すが、いつの間にか誰を探しているのか分からなくなり自分自身をも見失っていく。読んでいて、重苦しく読後感は良くなかった。でもなぜか惹きつけられるところもある。さまざまな情報が錯綜する現代社会の中で、確固たる自分の世界を築いていくことのむずかしさ、というかそもそも自分の世界なんて築くことができるのか、そういった不安を感じた。

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2012年03月02日

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