【感想・ネタバレ】燃えつきた地図(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

安部公房作品の中で一番好きな小説。純文学と探偵小説の融合だ。
主人公は興信所員。ある男を探してほしいという依頼を受け、調査を開始するが手がかりは次々に失われ、登場人物は死に、主人公は都会の迷路の中に追い込まれていき、追うものと追われるものが逆転し、最後には記憶喪失になってしまう。現代の恐怖を描いている。
特筆すべきはハードボイルドなこの作風だろう。紫煙と酒がよく似合う世界。タフな主人公。ウィキペディアの「ハードボイルド」の項にこの作品は上がっている。安部公房の作品は深読みしようと思えばいくらでもできるが、難しいことは考えなくても楽しめるのが最大の売りだろう。純粋な探偵小説としても読むことができる。
そして現代の恐怖を描いている点。我々はいつ生活している場所からいなくなってもおかしくない。年間の失踪者数はものすごい数に上る。都会というのは迷路だ。昭和の時代にこれを書けたのはすごい事だろう。おすすめです。

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2014年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

はじめの内は、みなどこかに欠陥だの余剰だのをくっつけていそうな登場人物たちの面立ちが、面白く、興味をもって、読み進めていく。「彼」の消息を追うごとに、人死にがふえていくたびに、まるで天井が額のすぐ先にまで迫ってくるような、逼迫感。探している彼の姿はいつまで経っても現れず、表情が、背広が、仕草がズームで見えてくることもなく、ぼんやりとドライアイスの煙に包まれた輪郭から目を離せば、いつしか裏側に回り込まれている。探し求める相手を完全に遮るように眼前へ現れた壁(レモン色のカーテン?)に鼻白んで立ち止まっていると、後ろから誰かが囁くのだ。そうして地球を一周したところで立ち止まり次の走者の背をポンと押す、固有名詞を失ったウロボロス。
最終章に近づいていくにつれ霧のように立ちこめていた不安が徐々に反転しそれこそが空気そのものになっていくさまは圧巻だった。そして場面ごとに、少しずつ少しずついびつな地面を増やし続けるような、独り言で空間を埋め続けるチャーミングな依頼人。最後に歩き出す選択に含まれる解放あるいは自由にどれほど価値のあるものか。歩き出したその次の日、また次の日にどこにいるのか。最後のほう怖かったなあ。

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2013年11月18日

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