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Posted by ブクログ
安部公房「壁」は1951年刊行。「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭(4編の短編)」からなる作品集。
足元の床が抜けたような不安が漂って、起こる事はことごとく不条理。主人公たちには突飛で理不尽な出来事が振りかかりますが、容赦なく淡々と悪化していく感じ、こりゃもう安部公房。
「S・カルマ氏の犯罪」
朝起きたらえらい事になっていた系。解説には「カフカっぽいけど明るい」とあり、なんか納得。
名刺に自分を奪われた主人公。名前・肩書を失い、何者でもなくなってしまう怖さ。しかも彼を取り巻く雑多な物から敵とみなされてしまう。
話がマトモに通じない感じや裁判シーンなどは不思議の国のアリスっぽさも。ラストの「そっちに行っちゃった感」が半端ない。
「バベルの塔の狸」
謎の動物「とらぬ狸」に影を奪われてしまった主人公。彼が収集していた「とらぬ狸の皮(妄想・空想メモ)」がもとで、虚構の世界「バベルの塔」に連れて行かれてしまいます。
やりたい事を100個書き出そう、みたいなヤツ。書いて満足して本末転倒…みたいな事への皮肉?それとも、想像力を失って、空腹を満たすためだけに生きることへの皮肉?
そして、どれも自分がなくなっていくような心許ない短編群4編。
自分が足元からほどけ繭になり、あるいは溶けて液体人間になる。すべてを手に入れたと思えば世界を失い、何の役にも立たず、存在する意味がないと言われる人間の価値を問われる。
安部公房すぎる〜。
Posted by ブクログ
『第一部 S・カルマ氏の犯罪』
主人公はある日突然、自分の名前を失う。そこから物語は、「自分とは何か」「存在とは何か」という哲学的な問いを軸に展開していく。しかし本作の魅力は、その難解なテーマだけではない。
物語の世界は終始、現実と虚構の境界が曖昧で、まるでデ・キリコやサルバドール・ダリの絵画の中を歩いているようだった。裁判所や会社といった現実的な舞台が登場するにもかかわらず、そこでは常識が通用しない。不条理でありながら妙に説得力があり、その独特な世界観に強く引き込まれた。
特に印象的だったのは、「無機物の、有機物への革命」という発想である。無機物には意志があり、生きているにもかかわらず目的を失った有機物に対して革命を起こそうとしている。この設定は奇抜でありながら、人間そのものの在り方を問い直しているようにも感じられた。
また、裁判のくだりはミステリー小説のような面白さがあり、次に何が起こるのか分からない展開に夢中になった。一方で、読んでいると不思議なほど眠くなる作品でもあった。決して退屈なのではなく、むしろ面白い。けれども常に現実と幻想の狭間を歩かされ、自分でも気づかないうちに脳を使っていたのだと思う。
最後にはノアの方舟を思わせる場面も登場し、主人公は元の姿には戻らず、壁そのものになってしまったようにも読める。しかし、その結末が何を意味するのかは明確には語られない。だからこそ読後も考え続けてしまう。
『壁』第一部は、物語を読むというより、一枚のシュルレアリスム絵画の中を彷徨うような読書体験だった。意味を理解したというより、その奇妙な世界を歩き切ったという感覚が強く残っている。そしてその体験そのものが、この作品最大の魅力だった。
『第二部 バベルの塔の狸』
安部公房『バベルの塔の狸』は、第一部とはまた違った面白さを持つ、不条理でユニークな作品だった。
「影を狸に食べられ、目以外が透明人間になる」という突飛すぎる設定から始まり、ニーチェ狸、フロイト狸、ダンテ狸といった個性的で可愛い狸たちが次々に登場する。彼らとの会話のラリーはまるでギャグ漫画のようで、終始楽しく読み進めることができた。
一方で、狸たちは人間の欲望や夢、無意識の象徴のようにも感じられた。生と死、現実と夢の境界を超越した存在として描かれており、第一部に続いて「壁=境界」というテーマも感じられた。
ラストでは時間が再び冒頭へと繋がり、まるで一本の映画を観終えたような読後感が残った。不条理でシュールでありながら、可愛さとユーモアに満ちた、不思議で楽しい作品だった。
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小説・文芸
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