【感想・ネタバレ】密会(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている……。二本のペニスを持つ馬人間、出自が試験管の秘書、溶骨症の少女、〈仮面女〉など奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする。(解説・平岡篤頼)

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

人間の歴史は逆進化の歴史。
発情の衰退(進化とも言える)と、嘘と本当と、記録と(時には嘘がある明日の新聞)、また見る見られるの不思議な関係、そして盗聴ポルノテープ。
何をしても明日には死んでる自分、手淫という行為という1人だけの密会。
イカれた現代の性。をさらに進めた密会の中。
全員が病気でこの世界は病院。いつのまにか僕も病人、このイカれた性の世界に取り込まれた。
夢の話のようで精神病のようでどこかで自分との親近も感じるストーリー。すごい。

0
2024年09月08日

Posted by ブクログ

愛と快楽にまみれた出口のない現代人の地獄…
虚無感、喪失感、絶望…なんとも言い難い感情を味わった。
馬人間、女秘書、溶骨症の少女、奇怪な人物を通して描かれる。
やはり安部公房先生の作品は衝撃的です。

⚫︎良き医者は良き患者

⚫︎動物の歴史が進化の歴史ならば、
人間の歴史は逆進化の歴史

⚫︎明日の新聞に先を越され、ぼくは明日という過去の中で、何度も確実に死に続ける。やさしい一人だけの密会を抱きしめて…

0
2024年01月06日

Posted by ブクログ

 いやー、安部公房の作品の中でよもやこんなに理解できないとは。自分の感性が死んだのかと不安になる。
 ただ巻末の解説をよみ、「うわー!さすが安部先生!」となった。この小説は、分かりやすくてはいかん、順序立ててはだめなのだ。

 まず時系列が掴みにくい。「今」か回想かの境が判別しにくく、全部読んでも半分位しか順序立てて整理できない。
 そして地理関係の分かりにくさ。「旧病院跡」?「崖っぷちを切り抜いた商店街」?「中庭に面した6つに分かれた小部屋」?一文ずつ頭の中に地理を浮かべようとするが、すぐに矛盾が生じて追えなくなる。

 このわからなさこそがこの作品の肝。論理立てて整理できないその混乱こそ、主人公が囚われている世界。

 私は安部公房の描く「ナルシスト的孤独」が好きだ。ただこの作品は少し毛色が違うように思う。
 いつもの主人公は、他者とのコミュニティから疎外されている。外界との繋がりに不具合が生じ、それを拗らせて精神世界に没入する。
 だがこの作品の主人公は、むしろ周りからはどんどん関わりを持たれ、コミュニティに取り込まれようとしている。そしてとてもノーマルな人間だ。だけど最終的には孤独になっている。

 「坩堝」、私はなんとなくそんな印象を受けた。何度も読み返す作品だ。

0
2024年01月13日

Posted by ブクログ

性描写のオンパレードの中に、グロテスクな描写あり。
時代背景としては、売春を筆頭に性行為が軽視され始め、スポーツ化したというところからこういった内容になったようですが、登場人物がカオス過ぎて惹かれる。
病院=社会、ということは混乱を意味しているよう。
迷路のような想像できない病院内や地下道は、そのまま社会への混乱に加えて先が見えないことを表しているのかも。
想像したらキリがないけど、ラストの安倍印も満足。

0
2020年11月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

布団になった母、膀胱の括約筋がイカれておしっこ垂れ流しの看護婦、勃起したまま意識不明の医者、そのぺニスを玩具にする看護婦。私は読み終わり三日間連続で最低な夢を見た。

0
2018年07月26日

Posted by ブクログ

ぶっ飛んだカルト・ムービーのようでいて外れ過ぎないというか押さえているという稀有な作品。アングラっぽさが漂うもそこに逃げていない。この世界造形はさすが安部公房という感じ。小説表現の自由や可能性が感じさせる。巻末の平岡先生の解説もいい。

0
2017年12月18日

Posted by ブクログ

妻を救急車によって攫われた男がその行方を追うにつれ、組織としての病院と患者、そして医師に撹乱されていく話。「盗聴」という行為をもって、社会における性の統制と計画的な消費を断片的に描写しています。
もっともらしい言葉を使って概要を述べるのは簡単なのですが、ではこの作品は何を示したかったのか?といった部分に踏み込むと途端に手がかりが無くなってしまう。結果的には「閉鎖的な異常社会と外界にはあまり差は無い。」とか、胡散臭い感想をぼんやりと持つが、それだけで済むほど焦点は少なくない。
結局、一度二度読んだ程度では理解が難しい作品です。また、もしかすると点で読む作品では無く、安部公房の作品群として線で読む作品なのかもしれないなと思いました。(帰宅)

0
2016年05月07日

Posted by ブクログ

ここまでドギツイ性的描写ができるのはさすがです。

ややグロテスクな表現もあるので中々人にはお勧めできませんが、
安部公房作品が好きな方にはたまらない一作かと思います。

0
2015年02月15日

Posted by ブクログ

 小説内で登場する架空の病院内および市街地がとても精密に描写されていることに驚いた。作者は当初地図を描いて載せようとしたほど(全集26・構造主義的な思考形式)作品内の空間設定が練られていることがわかる。
 作品の冒頭は主人公の妻が連れ去られてから4日目の早朝、報告書というかたちで読者に提示される。それから最終章である「付記」の始まりまで主人公は病院に到着してからの経緯を薄暗い隠れ家(旧病院跡地)で報告書を書き続ける。主人公が過去の説明し終わる頃、やっと「付記」にて現在の時間が流れ出すが、最後の数ページで明日に追い越されてしまう。 
 このような時空の中に不気味で悲しい登場人物たちが無駄なく配置されている。相関図を書いてみるとわかるが本当によくできた関係だ。誰一人として矢印が向き合ったものがいない。人間関係の空しさが感じられる。
 この作品に関しては本当によくできているとしか言いようがない。作品内世界の作りこみがハンパではないし、探偵小説の犯人捜しの要素もあるので読んでいて引き込まれる。最後のシーンの悲劇性も抜群にいい。

0
2012年07月12日

Posted by ブクログ

今回もなかなかの実験作。情景描写がとにかくわかりづらい。迷路のような病院を舞台にしてるだけあってか。それも作者の意図なのか。
砂の女や箱男のように、わからないなりにも理屈があるような作品とは違い、わからないのをそのままに楽しむことを求められる作品、な気がした。

0
2025年06月26日

Posted by ブクログ

特殊な方法で失踪した妻を探して男は病院へと潜り込む。盗聴という監視ネットワーク、医者という要望の権力者会の縮図の内外を出入りし、男は存在すらも怪しい目的を求めて彷徨い続ける。

0
2025年05月30日

Posted by ブクログ

性的なテーマなので好みが分かれるかもしれないが、不条理な状況で緊迫するシーンが続き、知らないうちに読み進めてしまう一冊。
安部公房は久しぶりの一冊だったが、やっぱり面白い。
簡単に日常を忘れさせてくれる。
非日常をすぐに感じたい方は、是非。

0
2024年09月19日

Posted by ブクログ

著者の作品は『砂の女』『箱男』『第四間氷期』と読んで、この作品が4冊目であるが比較的、世界観に入り込むことができる。妻が連れ去られたとされる病院へ行く主人公、病院での会話は逐一録音されているというなか、阿部公房作品おなじみの一風変わった人物たちと関わっていくが、いつの間にか主人公もその奇妙な病院に絡めとられてしまうところが恐ろしかった。
2本のペニスを持った馬人間、女秘書、溶骨症の少女といった、個性的という言葉では形容できない人物が出てくるのも阿部公房ワールドが炸裂していて、安心感さえ感じてしまった。
今回の話は救いようがなく、終始暗い雰囲気の物語ではあったが、著者の独特の滑稽ささえも感じさせられる文体により、そこまでの暗さを感じることはなかった。

0
2024年06月14日

Posted by ブクログ

●あらすじ
ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている……。二本のペニスを持つ馬人間、出自が試験管の秘書、溶骨症の少女、〈仮面女〉など奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする。
(新潮社HPより抜粋)

●感想
これは難解…なんだけと面白…!
安部公房はいつもそうだけど時間軸が前後する上に今作では一人称視点、三人称視点が入り乱れて読者を一瞬たりとも安心させない(あるいは一度安心させる)仕掛けが至るところにあります。
それにしてもなんて病院なんだ。不能克服の為に「馬」並の他人のペニスを得た副委員長。それに協力する病院関係者。試験管ベイビーの不感症。13歳の娼婦。被姦妄想の仮面女……。熱海秘宝館みたいな病院だわ。「患者」である人々はもう大体みんな性に関する悩み(疾患)を抱えていて、その状況はたいてい凄絶だけど悲壮感がなく、余計に狂気を感じる。その狂気パレード、怖い淫夢みたいな病院の中で唯一主人公の正気というか外界との繋がり、「外」を感じされるのが妻であり「妻を探す」という目的なんだけど、最終的にそれすら悪夢に取り込まれてしまう(と主人公は感じる)んですね。可哀想に。
主人公はこの悪夢からずっと疎外され続けている。結局患者にはなれないまま、「人間から遠ざかっていく」娘だかを抱きしめて孤独で優しい密会をする。
凄絶で静かで疾走感と余韻のあるラスト、破滅に向かって走る感覚、良かったです。それにしても安部公房、人嫌いなんかな。

0
2023年08月23日

Posted by ブクログ

エログロの迷路。病院内の構造がどうなっているのか全然わからなかった(完全に作者の手のひらの上)。
近未来的。
安部公房の変態性をそのまま脳味噌から出してきた感じ。

0
2020年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

淫乱の溶骨症の少女、ヒステリックでわがままな女秘書、仮面女となってしまった彼の妻(?)、あまりに身勝手且つ魅力的すぎる女たちに振り回される主人公。
溶骨症の少女については、そういう風に愛されていつか溶けてしまいたいと思った。
パテ状の肉塊になってしまった娘を男は懸命に人間の形に戻す。声のしている辺りに耳を寄せると「さわってよ……」幾層にも肉や皮がたるみどこが股間の襞なのか区別もつかないが、男は襞という襞をさぐってはさすり続ける。娘はやがて眠ってしまう。男は地下をさまよいながらときどき電池を抜いてはこっそり娘を抱きしめる。

―いずれは盗聴器の電池も切れ、ぼくは誰にも気兼ねなしに娘を抱きつづけることになるのだろう。ぼくは娘の母親でこさえたふとんを齧り、コンクリートの壁から滲み出した水滴を舐め、もう誰からも咎められなくなったこの一人だけの密会にしがみつく。いくら認めないつもりでも、明日の新聞に先を越され、ぼくは明日という過去の中で、何度も確実に死につづける。やさしい一人だけの密会を抱きしめて……。―

0
2018年02月25日

Posted by ブクログ

「壁」や「箱男」と比べるとやや劣る感は否めないが、病院という非日常的日常空間を通して絶対的非日常へ読者を強引に導く筆力は圧巻だ。読み手を極めて混乱させ一度読んだくらいではとてもストーリーを理解できないが、敢えていえば本書のテーマは「性の倒錯」だろうか。退廃的でサイバーパンクのようでもある。直接的な性描写や幼児愛好などタブーを厭わない表現は公房氏作品のなかでも異色かもしれない。

0
2016年04月03日

Posted by ブクログ

 1977年発表、安部公房著。突如救急車によって妻を連れ去られた男は、妻を探して、ある病院に辿り着く。だがその病院は、性的に歪んだ人間達が蠢く、そこら中に盗聴器がとりつけられた異様な場所だった。
 ストーリーはしっかり流れているし、手法や文章、どれをとってもバランスがよく、安部公房にしては読みやすかった。また性的描写が多く、それがブラックユーモアに包まれているので、結構パンチも効いている。
 読後に感じるのは、とにかく性的な描写の強烈さである。弱者達のグロテスクな性すら分析し(盗聴もその一環だ)、誰しもを患者として組み込み、しかもほとんど境界なく街に広がっていく「病院」とは一体何なのだろう。というより、本小説のように徹底解剖されてしまった「性」の価値とは? 
 我々現代人は結局、一人だけの密会にしがみつく患者でしかないのだろうか。

0
2014年05月17日

Posted by ブクログ

この作品は『箱男』の次に書かれた作品らしく、解説でも述べられている通り、
『箱男』が覗き屋の小説ならば、この『密会』は盗聴者の小説。
『箱男』のように、男がノートを書きながら物語が進む。

突然救急車で連れ出され、病院内で失踪した妻を、主人公の男は録音テープを手がかりに探す。
その過程で、男は自らも、病院という異常者たちの空間にすっかり迷い込んでいく。

“もしかすると妻はとうに家に戻って、男を待ち受けているのかもしれない。”p100

『燃えつきた地図』を思い出させる、失踪者と追跡者がいつの間にか入れ替わってしまう構図。

それはまさに
“自分との鬼ごっこ”p76
である。

テーマは現代社会における性的表現の氾濫らしく(あとがきより)、病んでいる現代社会=病院に置き換え、奇怪な医者や患者たちが登場する。
馬人間とか、身体が綿になる病気とか、発想爆発。

言葉だけで現実から完全に隔離された空想世界を作り上げてしまう安部公房。

その文章力は健在で、特に目に留まったのが、比喩。
異常な状況をそのまま書くのではなく、その場と全く関係ないような例えで包んで表現している。
でもそれが余計に狂気やグロテスクさを際立たせてしまうのが、安部公房的ブラック・ユーモアだったり。

“まるで廃品回収のトラックから逃げだしてきた虫食い人形一座の気違いパーティじゃないか。”p128

“黴がはえた中華料理の材料のような×××が、金属タワシのような毛と一緒にだらりと垂れ下がっている。”p176

奇抜な発想のみならず、こういう想像を掻き立てる表現力が、安部公房を無性に読みたくさせるのだと思う。

0
2013年08月12日

Posted by ブクログ

安部公房三冊目。

狂ってる…
日常から非日常に迷いこんでいく様が
本の舞台である大きな病院の敷地、地下に巡った地下道を
進んで行く主人公の姿で表されてる。


狂っている!といくら叫んでももがいても、
自分の中にしか常識が存在しなければ、
そこでは自分が狂っている側なのかもしれない。
取り込まれまいとあらがっても
狂ってる中で進んでも
正常に一人でいることは不可能。

もっと早く取り込まれれば
楽だったのにね。

いや、しかし、やっぱり安部公房はすごい。
脱帽っす。

でもしばらくは読まない事とします。

世界観が強すぎて
もってかれるわw

0
2013年04月19日

Posted by ブクログ

色欲に支配された社会とはこういうものなのかと思わされた。妻が失踪するところから話は始まるが連れ込まれた病院がとにかく変わってる。インポテつになった副院長が発情するために病院内に盗聴器を仕掛け他の斡旋業者と手を組み様々な人たちの密会を盗み聞きしているような病院で妻を探す主人公が気の毒すぎる。他人の陰茎を移植しまさに馬のような見た目となった副院長は狂気の沙汰ではないがそれが認められるような社会もそのうち来るのか。人間は思考することができる一方で逆に色欲をコントロールできず他の動物と違い年がら年中発情することができ世の中ではそれを売り物としていることへのアンチテーゼなのか。

0
2025年08月10日

Posted by ブクログ

箱男ぶりの安部公房なので、箱男の見る・見られるというトピックから考えてこちらは聴覚的な切り込み方が魅力だった。
理解と難解が交互にやってくる感じで読むのに時間がかかったけど、最後の一文での締め方が好きだった。

0
2022年10月27日

Posted by ブクログ

エロなのにわけわからん。変態を文学的に格調高く幻想的に描くとこうなるのか。何を読んでいたんだろうという気持ちになる。

0
2022年12月22日

Posted by ブクログ

あらすじ
『密会』は、安部公房の書き下ろし長編小説。ある朝突然、救急車で連れ去られた妻を捜すために巨大病院に入り込んだ男の物語。巨大なシステムにより、盗聴器でその行動を全て監視されていた男の迷走する姿を通して、現代都市社会の「出口のない迷路」の構造を描いている。 1977年12月5日に新潮社より刊行された。
感想
異次元、異空間作家らしい物語。
砂の女の方かわかりやすいかな。

0
2021年12月09日

Posted by ブクログ

妻が救急車に誘拐されたり、二本のペニスを持つ馬人間から盗聴の書き下ろしを頼まれたり、溶骨症の少女との出会いなど、安倍公房ワールド全開な作品であった。物語の中心に「性」が置かれているのは理解できたが、あまりにぶっ飛んだ内容で、深い意味は十分には理解できなかった。

0
2016年12月12日

Posted by ブクログ

いわゆるスリップストリームぽい小説で、話の流れとしてはおいおいどこ行くんだよと感じますが、随所の比喩はさすがの安部公房でファンなら楽しめる一冊だと思います。ファンじゃないならもっと先に読む本があるかな。

0
2015年08月22日

Posted by ブクログ

なんともいえない破滅感のなかで脈略なきストーリーが進んでいく。失踪した妻を追うなかで出会う馬をはじめとした人々が主人公を崩壊させていく。
エロスとユーモア散りばめられるが一寸先がわからない読み味により、何度も意識がとんでしまいそうになる。
結末が気になり最後まで読ませてくれるが、本来は非常識が常識となる雰囲気を楽しむのがこの本の味わい方と考える。

0
2014年01月18日

Posted by ブクログ

安倍公房による、1977年の長編小説。

社会には催淫表象が遍在している。文化的・欺瞞的意匠を施していても、一皮剥けばそこには性的欲望の蠢きがその生々しい貌を出す。現代社会を駆動させているものは、およそすべて「性」に根源をもっているのであるかのように。

"それにしても、べらぼうな音の氾濫だった。追従、怒り、不満、嘲笑、ほのめかし、ねたみ、ののしり・・・・・・そしてそれらのすべてにちょっぴりずつ滲み込んでいる猥褻さ。"

人間は、その剥き出しの性的欲望、セックスの無間地獄に落ち込んでいくしかないのか。ところでいま「地獄」と表現したが、そもそもそれは本当に「地獄」だろうか。「セックスは現代人に残された最後のオアシスだ」とは20世紀アメリカの作家ヘンリー・ミラーの言である。性の「地獄」に溺れていられるうちは、まだ幸福なのではないか。堕ちていく「地獄」が未だ仮構されている限りに於いて。性愛の幻想に目眩まされている振りをしていられる限りに於いて。その時には、未だ帰る場所が在る(ことになっている)のだ。

人間とは、常にそこから(そこがどこであれ、そこから)引き剥がされる以外にない存在ではないか。とするならば、性そのものにさえ倦怠を覚えてしまえる存在ではないか。記号化・パターン化された性的意匠の順列・組合せは、所詮は有限なのだ。いつか、性による精神の暗い躍動すら存在しなくなり、ただただ形式を反復するだけの、自己完結的な自動人形のようになる日が来ないと云い切れるか。機械的な運動とそれに対する生理的反応以上ではなくなってしまう日が来ないと云い切れるか。今日の快楽が昨日の刺激の残夢となる日が来ないと云い切れるか。ヘンリー・ミラーに従うならば、性への倦怠こそ、日常性という受難の始まりではないか。そして倦怠は終わらない。

地獄も、追われれば、ユートピアだ。

0
2013年09月24日

Posted by ブクログ

安部公房の中では読みにくいタイプ。「箱男」タイプの一人称視点とレポートが混在する。謎の誘拐(?)事件から、病院への潜入、病院内での乱歩「パノラマ」的な性的な倒錯、偏執とまあ、ストーリー自体は追えるが、細かい描写に表現に頭がなかなか付いて行かない。とにかく、始終夜である。夜の倦怠と恐怖と魅力というものが、これ以上ないくらいに詰め込まれている作品。夢と性という視点から考えると、ユングかフロイトが下敷きになっているのかな。

0
2013年06月29日

Posted by ブクログ

どこまで地獄に続くだろうと期待しながら読み進め、やっと最後の2ページで地獄らしく切なくなった。
安部公房の小説の構造は、何度も読み込まなければ味が染みてこないような気がする。

0
2013年02月08日

「小説」ランキング