安部公房のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
シュールで独特な設定が面白かった。作家は若い頃極貧生活だったらしく、壁ばかり見つめていたのだろう、多種多様な壁のイメージが全てリアルでユニークだった。時々女性が主人公の男性の前に現れ、抽象的なような名を失った語り手に「名前ある個人としての」人生があったことを思い出させてくれる。第一部では1ページかけて主人公の男が目の前の女を理解できず、捕まえ損ねてしまう体験が描かれている。その瑞々しさは束の間の潤いであった。だが、そんな希望の見えた人生の分岐ルートも、押し寄せてくる不条理にすぐ潰されてしまう(その不条理というのは、大体が「自分の問題」という種の奴で、カフカの不条理とは違う)。
-
Posted by ブクログ
主人公と依頼人とのシーンや河原で逃げるシーンなど断片的に記憶には残っていたが、全体を思い出せなくて再読した。
そりゃ覚えてないはずだわと
読み終わって腑に落ちた。
後半から、今でいう異世界転生したのか何なのか、誰なのか、どこなのか、いきなり自分が頭悪くなったのかと思うぐらいの展開で混乱したまま読み終えた。
1回だけで記憶に定着してない理由がよくわかった。何か自分なりに考えて納得させてみようと試みるも思考停止。全てをわかろうとしてはいけないのね、、
再読の結果、安部公房の作品の中で好きなランキング上位に上がった。
どの作品も、自分が何者かわからなくなったり、見るものと見られるものがいつの間にか入れ替わっていたり、要素は似てるなと思いつつ、自分はこの不思議な世界に入ることが割と好きなよう。
普段の生活でもその場所や環境、他人との兼ね合いの中で自分自身を見失うことがあると感じるので、理解が困難ながらも共感できるところがあり、好ましいのかもしれない。
星4つです!!!! -
Posted by ブクログ
ネタバレ物語の初めまでは理解できるんだけど気がついたら理解の範疇を超えちゃう。名前を名詞に奪われたあたりまでは理解できるんだけど壁調査団のところはもうわからない。ラクダを針の糸に通すより金持ちが天国に行くのが難しいことを逆転の発想にするところは好き。目に入ろうとしてぐんぐん体が小さくなっていくところはなぜか爽快だった。涙が溢れてその洪水に巻き込まれるのは理解を超えてくる。けど好きな場面。ノアが出てくるけどノアも洪水に巻き込まれる。最終的に主人公は壁となる。どういうこと?なんかの比喩だとしてもよくわからん。
バベルの塔の狸もいい。なんだかワクワクしながら読んだ。影を取られたらその結果の原因である身体まで透明になるという説得力。過去の賢人たちの狸がどうしようもなく低俗なもののように書かれている。面白い。
赤い繭の連作が好き。
主人公の衣服と身体が解けて赤い繭を形成し、自身の自宅を作り上げる。最終的にはその自宅に住まう身体がなくなっているという皮肉。
赤いチョークのお話も好き。
-
Posted by ブクログ
まず、とっておきの睡眠誘導術を伝授されてから夢の話へ。
「こんな夢を見た」系のエッセイなのかな、と読みはじめました。笑う月、これはトラウマになりそう。
そこからだんだん安部公房の創作や発想のきっかけみたいな話になってきて、これはこれですごく面白かった。
夢のイメージが作品に反映されてるって事は…
作品を読めば安部公房の夢を体験できちゃうってこと?あの独特な雰囲気は、無意識下のイメージ…?うーむなんだか妙に納得。
そしてその後は、夢の話のような創作のような短編作品が続きます。
奥さんの安倍真智による挿絵(コラージュ作品?)も差し込まれていて贅沢。
夢の中感が漂ってる〜〜 -
Posted by ブクログ
あまりに奇妙。5作あって、1作目は慣習的に生きていた男が名前を名刺に奪われ、それぞれの役割を無機物に奪われる。慣習から外れると無機物が有機物になるための蜂起、不条理な裁判、ガールフレンドのマネキン化、など様々な困難に巻き込まれる。途中雑誌の1ページの荒野を胸の穴に吸い込んでしまって(恐らく名刺に奪い取られたものの隙間)荒野に生息している動物に魅入られ魅入るようになる。その胸の穴に次は壁を吸い込んでしまい、父親がラクダと裁判に関与していた病院の先生と共に"探検家"という名称で主人公を解体しようとする。最終的に主人公は胸の中の荒野で壁そのものになってしまった。
2作目は詩人がタヌキに陰を奪われ透明になり、そのタヌキが知能を手に入れる。たぬきに、たぬきだらけの異世界に連れていかれるも、詩人は"たぬきは人間の影を手に入れて人間を空へ送る"という不条理だが何故か説得力のある理由で塔の中で死ななければいけなかった。なんやかんやありタイムマシーンで影を取られる前に戻り影を奪われることを阻止する。
3作目はその辺の家全てが自分の家かのように思えるが、聞くとそれは他人の所有物であり混乱しながら自分の家を探し求める男の話。そのうち足から順に頭まで糸のように解けていき主人公を包む中が赤い繭になった。外装という家を手に入れたけど今度は中身が無くなってしまった。
4作目労働者階級から富裕層まで順に水人間になってしまう世界の話。富裕層は巨大な壁を作り水人間から逃げるが、その巨大な壁を作るために労働者を用いてるので意味が無かった。
5作目壁に書いたものが太陽に当たらない限りは実物になるという魔法のチョークを手に入れた貧乏な画家が、食べ物、ドア、女、などさまざまなものを書き出す。ドアの向こうの世界はまっさらだったので、新聞で見つけた女をアダムとイブのイブに見立てて新世界を創造しようとするも女に殺されかける。女はドアを開けた瞬間太陽にあたり壁に戻ってしまうが、その直後、いまや壁の食べ物でできている主人公も女にかさなるようにして壁に戻った。
それぞれの物語に共通してるのは、壁が分節化の境界線であることだと思う。第2作目で透明化した詩人が壁があることで自分の存在や定義を再確認し安心してる描写と、3作目の赤い繭で壁を手に入れて分節を手に入れるような描写もあったことからも読み取れる。4作目の洪水に関しては労働者階級と富裕層を壁によって分節化しようとするも全員水になって同一化してしまうという皮肉的なもの。絶望的で、不思議な世界なのに完成されていておもしろかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ安部公房にしては読みやすいなあ、というのが最初の印象。
電子計算機に大量のデータを与えただけで未来を予言できるというのは、カオス理論を考えると、前時代的という感は否めない。未来も過去もシュミレーションできてしまうというのも、そんなに単純じゃないだろっていう気はする。でも安易なタイムマシンものにはなってないし、死体の神経組織に電極を差し込んでデータを取得し、生きている状態をシュミレーションするというのは、怪しくてなかなかいい。
未来予測のサンプルに選んだ男が殺され、死体を予測機械にかけるとその口は<胎児堕胎>について語り始める。男を殺したとされている情婦からデータを取ろうとするとその女も殺され、家に帰ると主人公の妻も何者かに病院に呼び出され堕胎されていることが明らかになる…。
裏表紙のあらすじを読む限りでは、ある男の未来を予言させようとすることによって何らかの因果律に干渉し、氷河期になるって話だと思ってたけど、こうやっていろいろと裏で行われている謀略が明らかになっていくというミステリ的手法が使われていたのか。期待してたのとは違うけど、これはこれで面白い。作者がこんなわかりやすい論理の作品を書くとは思ってなかったから意外だったけど。見えない組織に包囲されているという閉塞感なんてラドラムみたい。発表年度を考えると「ブルー・シティ」なんかにも当然影響を与えてるんだろうな。
胎児ブローカー→母胎外発生→水棲動物飼育→水面上昇による人類の後継者としての水棲人類の研究という流れは今でも十分刺激的だけど、発表当時はもっと凄かったろうな。主人公が現実の延長線上ではない未来を認めることができず、自分自身の第二次予言値の命令によって殺されてしまうのも安部公房的迷宮なのか。
やっぱこの時代、インテリにとって共産主義というのは理想だったのかな。現実にはコンピュータに関しては、資本主義というかアメリカの技術力は圧倒的だったわけだから、モスクワ1号なんてものが先に作られるとは考え難い。