安部公房のレビュー一覧

  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    近未来なのか現代なのか、はたまた世紀末的な退廃したマッドマックスのような世界なのか、今ひとつわからないまま始まって終わる、基本的に安部公房お得意の密室劇。安部公房作品によく有る、比喩にとらわれていると気がついたら場所が移動しているという作風なのだが、基本的に方舟(?)の中での移動と事件で、かつ一人称視点がブレないので、「密会」に比べると明らかに想像しやすい。いつもの追い詰められている感は少なく、どちらかと言うと登場人物全員の「疲れ」がひしひしと感じられる作。安部公房の初心者向けではないが、読みにくい方でもない。

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    2014年06月16日
  • 密会(新潮文庫)

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     1977年発表、安部公房著。突如救急車によって妻を連れ去られた男は、妻を探して、ある病院に辿り着く。だがその病院は、性的に歪んだ人間達が蠢く、そこら中に盗聴器がとりつけられた異様な場所だった。
     ストーリーはしっかり流れているし、手法や文章、どれをとってもバランスがよく、安部公房にしては読みやすかった。また性的描写が多く、それがブラックユーモアに包まれているので、結構パンチも効いている。
     読後に感じるのは、とにかく性的な描写の強烈さである。弱者達のグロテスクな性すら分析し(盗聴もその一環だ)、誰しもを患者として組み込み、しかもほとんど境界なく街に広がっていく「病院」とは一体何なのだろう。と

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    2014年05月17日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    ネタバレ

    はじめの内は、みなどこかに欠陥だの余剰だのをくっつけていそうな登場人物たちの面立ちが、面白く、興味をもって、読み進めていく。「彼」の消息を追うごとに、人死にがふえていくたびに、まるで天井が額のすぐ先にまで迫ってくるような、逼迫感。探している彼の姿はいつまで経っても現れず、表情が、背広が、仕草がズームで見えてくることもなく、ぼんやりとドライアイスの煙に包まれた輪郭から目を離せば、いつしか裏側に回り込まれている。探し求める相手を完全に遮るように眼前へ現れた壁(レモン色のカーテン?)に鼻白んで立ち止まっていると、後ろから誰かが囁くのだ。そうして地球を一周したところで立ち止まり次の走者の背をポンと押す

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    2013年11月18日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    鬼才・安部公房の短編集。くぅー、相変わらず面白い。ほんと安部公房大好きだ。表題作のひとつ「無関係な死」は自分の部屋に無関係な死体があったことでなぜか警察に通報せずにあの手この手で死体を隠蔽しようとするあまりドツボにハマり破滅していく秀作。あとは「人魚伝」が出色。飼われていたのは人魚ではなく自分だったのだ。2013/301

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    2013年10月16日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ≪デンドロカカリヤ≫
    不気味な語り口で綴られた、“コモン君がデンドロカカリヤになった話”。
    ぼくらはみんな、不安の向うに一本の植物をもっている。伝染病かもしれないね。植物になったという人の話が、近頃めっきり増えたようだよ。(p.9)

    “植物になる”ということが、現在の喪失、自殺した人間、精神分裂などのパラフレーズとして使われているのかな。
    結末にはゾッとした。

    ≪手≫
    この物語の展開には思わず唸ってしまった。
    かつての伝書鳩“おれ”が、観念化され銅像となり、
    さらにその銅像の足首を鋸で切ろうとしている“手”
    この設定だけでも脱帽したくなるのだが、そこからさらにストーリーが加わっていく。

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    2013年10月02日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    戯曲3編を収録。表題作のひとつ「友達」は限りなく不気味だ。ある日突然ひとつの家族が自分の家に押し入ってくる。“隣人愛”を説く彼らは自分たちが正しいと信じて疑わないようなそぶりで主人公を追い詰めていく。是非とも舞台で見たい作品だ。「棒になった男」は小説という体で読んで見たい作品。2013/249

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    2013年09月04日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    最初は探偵モノみたいに、失踪者の調査を依頼された興信所員主人公が
    手がかりを求めて周辺の人物に関わっていく。
    しかし、いくら捜査しても、手がかりはつかめず、反対に重要な人物達が次々と死んで、わずかなヒントを失っていくばかり。
    だんだんと何をしているのか分からなくなってきて、失踪者探しが、いつしか失われた自分探しになってしまう。
    失踪者というキーワードで、『砂の女』を思い出す。
    今回は探す側、舞台は都会という砂漠。
    失踪者と捜索者の間になんだか表裏一体なモノを感じる。

    興信所の仕事柄か、主人公目線の文章は些細な仕草や普通なら見過ごす風景まで事細かに観察されているのだが、にも関わらずそこから手が

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    2013年08月12日
  • 密会(新潮文庫)

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    この作品は『箱男』の次に書かれた作品らしく、解説でも述べられている通り、
    『箱男』が覗き屋の小説ならば、この『密会』は盗聴者の小説。
    『箱男』のように、男がノートを書きながら物語が進む。

    突然救急車で連れ出され、病院内で失踪した妻を、主人公の男は録音テープを手がかりに探す。
    その過程で、男は自らも、病院という異常者たちの空間にすっかり迷い込んでいく。

    “もしかすると妻はとうに家に戻って、男を待ち受けているのかもしれない。”p100

    『燃えつきた地図』を思い出させる、失踪者と追跡者がいつの間にか入れ替わってしまう構図。

    それはまさに
    “自分との鬼ごっこ”p76
    である。

    テーマは現代社

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    2013年08月12日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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     終末思想に囚われて採石場跡を地下核シェルターにしてしまった主人公とその乗組員になった昆虫屋の男、サクラの男女二人組が侵入者達と繰り広げるシェルターを巡った心理戦。現代版ノア箱舟。
     安部公房にしては読みやすい(例えば「箱男」や「砂の女」より)。独特のシュールな味もあり、ストーリーの盛り上がりもあり、哲学的な結末も分かりやすく着地している。深読みしたいと思えば深読みできるし、そうでなくても単純に読んでいて楽しいのは各キャラクターがたっているからだろう。主人公の妄執っぷりは無様で憐れだし、昆虫屋は信用できると思いきや女を巡って主人公と争うし、サクラ二人組は胡散臭そうで実は頼もしかったりするし、父

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    2013年08月03日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    久しぶりの安部公房。
    こ、こわかった・・・。

    所収作品
    ・「デンドエロカカリヤ」
    ・「手」
    ・「飢えた皮膚」
    ・「詩人の生涯」
    ・「空中楼閣」
    ・「闖入者―手記とエピローグ―」
    ・「ノアの方舟」
    ・「プルートーのわな」
    ・「水中都市」
    ・「鉄砲屋」
    ・「イソップの裁判」

    以下、まとまらないまま漫ろ書き。

    「闖入者」が全集のものと違った気がする。後者の方がすっきりしていて好きだ。怖いけど。

    安部公房の作品の怖さは、自分がいかに盲目的に生きているかを気づかされるところだ。

    たとえば、作品中よく「赤」を敵対視する人間が出てくる。なんだか大学紛争の時代などを思い起こすが、それそのものは問題で

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    2013年05月15日
  • 密会(新潮文庫)

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    安部公房三冊目。

    狂ってる…
    日常から非日常に迷いこんでいく様が
    本の舞台である大きな病院の敷地、地下に巡った地下道を
    進んで行く主人公の姿で表されてる。


    狂っている!といくら叫んでももがいても、
    自分の中にしか常識が存在しなければ、
    そこでは自分が狂っている側なのかもしれない。
    取り込まれまいとあらがっても
    狂ってる中で進んでも
    正常に一人でいることは不可能。

    もっと早く取り込まれれば
    楽だったのにね。

    いや、しかし、やっぱり安部公房はすごい。
    脱帽っす。

    でもしばらくは読まない事とします。

    世界観が強すぎて
    もってかれるわw

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    2013年04月19日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ユートピアを目指すため革命を企てる男、花井の指導の下
    町からどこか外れた人々がなんとなく集まってできた飢餓同盟
    町の権力争いに巻き込まれてどんどん崩壊していく

    秘密結社による革命という目的をめぐって
    戦後の生きることに強烈な執着心を持った村人達がぶつかっていたり
    花井がずれてしまった目的のために狂っていき、そのため周りの人たちが離れていく様子が
    非現実な世界からとてもリアルな現実を突きつけてくる
    最終的に狂ってしまった花井は村社会の発展のための生け贄なのか?
    いろいろ考えさせられるのだが、何を考えさせられているのかまだ分からない


    地熱についての科学的な記述とか
    人間を計器にしてしまう想像

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    2013年03月29日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    短編集。闖入者や鉄砲屋は社会風刺が効いてて面白いけど、表題作の水中都市とかデンドロカカリアのような作品は、カフカの変身以上に話がぶっ飛びすぎててついていけなかった。

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    2013年01月20日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    安部公房の初期のメインテーマは、個人というか「実存」なのだと思う。これを寓話として表しているのだが、その個々の小さな構成要素が感覚に訴えかけてくる。

    デンドロカカリヤで、コモン君の顔が「剥がれて」植物に変身したり、水中都市での魚への「孵化」だったり、奇妙な感覚を残す。この感覚が何なのかうまく言えないが、安部公房の安部公房たるゆえんだと思う。

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    2013年01月05日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    砂の女ほどの完成度はない。壁や箱男ほどのいかれた感じはない。しかしながら、やはり安部公房。気持ち悪い。砂の女と箱男の中間ぐらい、なんか曖昧な説明だけど。安部公房的な良い小説だと思う。

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    2012年11月12日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    「友達」怖し。
    非現実世界の中にいるようでいて、そこには確実に現実世界の様相が多分に含まれており、
    序盤では可笑しさに機能していたユーモアも、
    終盤に差し掛かるにつれ徐々に恐怖感を助長し、不安をも煽る事に。

    父「一般的に狂人は自分の事を正気だと言い張るものらしいじゃないですか」
    …一家の「善意」に戦慄が走った。

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    2013年03月09日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    他の短編集に比べて読みやすい。
    異様な状況を作り出し、話を展開させる。

    夢の兵士は、まともな安部工房

    家、使者、賭が楽しめた。

    人魚伝は、他の短編の安部工房っぽい。情、献身、不利な状況、報われない。

    無関係な死は、話に無理がある。
    読者が最初に思う事を、今更?というタイミングで最後に書いている。

    本作、全体通して死の匂いがする。

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    2012年08月18日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    デンドロカカリヤ
    あちら側の蠱惑。
    諦めということ。
    ふわふわ。

    詩人の生涯
    こういう系がとても好きだ。

    闖入者
    とんでもなく嫌な話。
    すごいイライラしたけど、巻き込まれてなす術もなく、というのは
    とても安部公房ぽいなぁ。

    水中都市
    なんとなく第四間氷期思い出した。
    最後が好き。

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    2012年06月18日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    「友達」
    面白かった。小説形式でやってもらいたかったな。友達一家の浮かべる「親切な笑顔」は、はたして…。二女の行動から察するに、武器としての笑顔なんだろな。あの一家はわざとやってたはず。

    世間の繋がりがバラバラになった現代の都会人は、病気なのだろうか。孤独は弱さなのだろうか。
    覆いかぶさってくるしがらみこそが人類の病巣のような気がする。

    「棒になった男」
    鞄、時の崖、棒になった男の三作。「鞄」は「家」の変形版。「時の崖」はそのままで、「棒になった男」は同名の短編を改編した戯曲。
    鞄、くたびれたおっさんであることがとってもユーモラス。そのおっさんを挟んだ女二人のやり取りが笑いを誘う。
    時の崖

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    2012年05月27日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    現実の中にいきなりでてくる非現実。だけれども、非現実なのに、なぜか違和感を感じさせずに、リアリティをもつのは、安部公房ならでは。だから好きで読んでしまうんですよね。飢餓同盟も同じで、不思議な世界に誘われたいなら、ぜひとも読むべき1冊です。

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    2012年05月05日