安部公房のレビュー一覧
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1977年発表、安部公房著。突如救急車によって妻を連れ去られた男は、妻を探して、ある病院に辿り着く。だがその病院は、性的に歪んだ人間達が蠢く、そこら中に盗聴器がとりつけられた異様な場所だった。
ストーリーはしっかり流れているし、手法や文章、どれをとってもバランスがよく、安部公房にしては読みやすかった。また性的描写が多く、それがブラックユーモアに包まれているので、結構パンチも効いている。
読後に感じるのは、とにかく性的な描写の強烈さである。弱者達のグロテスクな性すら分析し(盗聴もその一環だ)、誰しもを患者として組み込み、しかもほとんど境界なく街に広がっていく「病院」とは一体何なのだろう。と -
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ネタバレはじめの内は、みなどこかに欠陥だの余剰だのをくっつけていそうな登場人物たちの面立ちが、面白く、興味をもって、読み進めていく。「彼」の消息を追うごとに、人死にがふえていくたびに、まるで天井が額のすぐ先にまで迫ってくるような、逼迫感。探している彼の姿はいつまで経っても現れず、表情が、背広が、仕草がズームで見えてくることもなく、ぼんやりとドライアイスの煙に包まれた輪郭から目を離せば、いつしか裏側に回り込まれている。探し求める相手を完全に遮るように眼前へ現れた壁(レモン色のカーテン?)に鼻白んで立ち止まっていると、後ろから誰かが囁くのだ。そうして地球を一周したところで立ち止まり次の走者の背をポンと押す
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ネタバレ≪デンドロカカリヤ≫
不気味な語り口で綴られた、“コモン君がデンドロカカリヤになった話”。
ぼくらはみんな、不安の向うに一本の植物をもっている。伝染病かもしれないね。植物になったという人の話が、近頃めっきり増えたようだよ。(p.9)
“植物になる”ということが、現在の喪失、自殺した人間、精神分裂などのパラフレーズとして使われているのかな。
結末にはゾッとした。
≪手≫
この物語の展開には思わず唸ってしまった。
かつての伝書鳩“おれ”が、観念化され銅像となり、
さらにその銅像の足首を鋸で切ろうとしている“手”
この設定だけでも脱帽したくなるのだが、そこからさらにストーリーが加わっていく。
な -
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最初は探偵モノみたいに、失踪者の調査を依頼された興信所員主人公が
手がかりを求めて周辺の人物に関わっていく。
しかし、いくら捜査しても、手がかりはつかめず、反対に重要な人物達が次々と死んで、わずかなヒントを失っていくばかり。
だんだんと何をしているのか分からなくなってきて、失踪者探しが、いつしか失われた自分探しになってしまう。
失踪者というキーワードで、『砂の女』を思い出す。
今回は探す側、舞台は都会という砂漠。
失踪者と捜索者の間になんだか表裏一体なモノを感じる。
興信所の仕事柄か、主人公目線の文章は些細な仕草や普通なら見過ごす風景まで事細かに観察されているのだが、にも関わらずそこから手が -
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この作品は『箱男』の次に書かれた作品らしく、解説でも述べられている通り、
『箱男』が覗き屋の小説ならば、この『密会』は盗聴者の小説。
『箱男』のように、男がノートを書きながら物語が進む。
突然救急車で連れ出され、病院内で失踪した妻を、主人公の男は録音テープを手がかりに探す。
その過程で、男は自らも、病院という異常者たちの空間にすっかり迷い込んでいく。
“もしかすると妻はとうに家に戻って、男を待ち受けているのかもしれない。”p100
『燃えつきた地図』を思い出させる、失踪者と追跡者がいつの間にか入れ替わってしまう構図。
それはまさに
“自分との鬼ごっこ”p76
である。
テーマは現代社 -
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終末思想に囚われて採石場跡を地下核シェルターにしてしまった主人公とその乗組員になった昆虫屋の男、サクラの男女二人組が侵入者達と繰り広げるシェルターを巡った心理戦。現代版ノア箱舟。
安部公房にしては読みやすい(例えば「箱男」や「砂の女」より)。独特のシュールな味もあり、ストーリーの盛り上がりもあり、哲学的な結末も分かりやすく着地している。深読みしたいと思えば深読みできるし、そうでなくても単純に読んでいて楽しいのは各キャラクターがたっているからだろう。主人公の妄執っぷりは無様で憐れだし、昆虫屋は信用できると思いきや女を巡って主人公と争うし、サクラ二人組は胡散臭そうで実は頼もしかったりするし、父 -
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久しぶりの安部公房。
こ、こわかった・・・。
所収作品
・「デンドエロカカリヤ」
・「手」
・「飢えた皮膚」
・「詩人の生涯」
・「空中楼閣」
・「闖入者―手記とエピローグ―」
・「ノアの方舟」
・「プルートーのわな」
・「水中都市」
・「鉄砲屋」
・「イソップの裁判」
以下、まとまらないまま漫ろ書き。
「闖入者」が全集のものと違った気がする。後者の方がすっきりしていて好きだ。怖いけど。
安部公房の作品の怖さは、自分がいかに盲目的に生きているかを気づかされるところだ。
たとえば、作品中よく「赤」を敵対視する人間が出てくる。なんだか大学紛争の時代などを思い起こすが、それそのものは問題で -
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ネタバレユートピアを目指すため革命を企てる男、花井の指導の下
町からどこか外れた人々がなんとなく集まってできた飢餓同盟
町の権力争いに巻き込まれてどんどん崩壊していく
秘密結社による革命という目的をめぐって
戦後の生きることに強烈な執着心を持った村人達がぶつかっていたり
花井がずれてしまった目的のために狂っていき、そのため周りの人たちが離れていく様子が
非現実な世界からとてもリアルな現実を突きつけてくる
最終的に狂ってしまった花井は村社会の発展のための生け贄なのか?
いろいろ考えさせられるのだが、何を考えさせられているのかまだ分からない
地熱についての科学的な記述とか
人間を計器にしてしまう想像 -
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「友達」
面白かった。小説形式でやってもらいたかったな。友達一家の浮かべる「親切な笑顔」は、はたして…。二女の行動から察するに、武器としての笑顔なんだろな。あの一家はわざとやってたはず。
世間の繋がりがバラバラになった現代の都会人は、病気なのだろうか。孤独は弱さなのだろうか。
覆いかぶさってくるしがらみこそが人類の病巣のような気がする。
「棒になった男」
鞄、時の崖、棒になった男の三作。「鞄」は「家」の変形版。「時の崖」はそのままで、「棒になった男」は同名の短編を改編した戯曲。
鞄、くたびれたおっさんであることがとってもユーモラス。そのおっさんを挟んだ女二人のやり取りが笑いを誘う。
時の崖