安部公房のレビュー一覧

  • 笑う月(新潮文庫)

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    高校の国語の教科書に掲載されていていまだに印象に残っていた『鞄』。なんてことのない、鞄が重くて運べない、といった話がいまだに忘れられず、この度10年振りに再読した。夢小説らしく、不思議な、ただやはり忘れがたい小説である。

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    2016年02月10日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    40年以上前の作品とは信じられないような先見性に富んだ短編集である。特に表題作の「R62号の発明」は昨今盛り上がりを見せる第三次ロボット・AIブームの将来を極めてシュールに予見しているようだ。効率性を追求した結果、ロボットの一部として人間を組み込むという発想はなんともシニカルである。

    本書は、各作品のみならず解説もなかなかの鋭さを持っている。無機質と有機質を等価に相互交換しながら描く安部公房の手法をとき解いており、なるほどなと思わされる。

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    2015年12月29日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    醜い外見をもつ主人公は来るべき核戦争に備えて石の採掘場跡を改造した方舟を作り、乗組員を探している。百貨店の催事で見つけたユープケッチャなる昆虫(自らの糞を食べることで自己完結できる)を購入したあと、昆虫屋に乗船チケットを渡すが、男女二人組のサクラにチケットを奪われてしまい...。あとは読みすすめていくことをお勧めする。因みに、日本で初めてワープロで執筆された小説らしい。
    途中で出てくる女子中学生の下りあたりは随分唐突に感じた。掘り下げ方が足りないような。女子中学生獲得に躍起になる老人達は非常に滑稽。何処かふわふわした流れのなかで、ここだけが非常に人間くさい。主人公が女に触れて喜んでいたり、恐る

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    2015年12月27日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    古本屋のワゴンセールで100円で投げ売られているのを発見し、お迎えする。今は絶版なので書店では手に入れられないので長らく探していた。ネットでは価格が高騰しているため手が出ず……
    『終わりし道の標に』のようなとっつきにくい作品を予想していたので随分読みやすかった。公房のほかの作品とは少し毛色が違うけれど、公房作品に漂う不条理はここでも健在である。公房の満州時代の体験が生かされているのだろうな、と思う。タイトルがとても作品の雰囲気にあっていてよい。登場人物が少ないがその分濃密な人間ドラマが描かれている。

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    2015年12月21日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    閉塞感漂う「花園町」で共産主義的な革命を画策する者たちの哀愁劇を描く。”ひもじい同盟”という極めて貧相な名前から”飢餓同盟”へ名称を変え、地熱発電所を基軸に革命を試みるが・・・。

    作品全体に纏わりつくどんよりした暗い雰囲気と、あくの強い個性的な登場人物は安部公房ならではといえよう。ドストエフスキーの『悪霊』がベースにあるらしいが、当時の共産主義を担ぐ者たちに通ずるような、何かに飢えた者同士が至極脆弱な共同意志の下革命を目指すが虚しく瓦解する姿はなんとも滑稽である。

    本書で特に秀逸だったのは「患者に飢える」というくだりだ。患者の治療が医者の使命だが、その医者が患者に飢えるとはこれ如何に。本作

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    2015年12月05日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    この本を読んで、映画CUBEを思い出した。CUBEの製作は1997年で、1984年に出版されたこの本とは互いに何の関係もないのはわかっているけど。

    空間に閉じ込められた数人が、自分たちで予兆しえない事件や出来事に巻き込まれ、時間が進むにつれて当初の心理が微妙に壊れてゆき、その壊れる様子を追うという点では共通している。一般的に「不条理」とも括られそうな両者。非現実的な設定もさることながら、理解不能な状況の延々とした描写、そして「えっ!」って感嘆符と疑問符を幾つも付けたくなるようなラスト…
    これは好き嫌いがはっきり分かれるだろうし、正直言ってレビューは書きづらい。力点を置く場所を見つけにくいから

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    2018年11月12日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    悪夢と思って読んだら喜劇だった、そんな小説だ。「ぼく」と語る主人公は精神錯乱者のような一面を見せる。自らの糞を食料として半永久機関として存在する「ユープケッチャ」がシンボリックに用いられ、これから徐々に狂気じみた物語が始まる。、、、と思ったら昆虫屋やサクラ、女、老人、少年と次から次へ一癖も二癖もある人物が登場し、一方の主人公はエゴとエロを前面に押し出しながら凡庸に埋もれていく。後半はまさに文字通り便器に埋もれたままだ。描かれる世界は狂気そのものだし女子中学生狩りなどどロリコン的悪趣味も描かれるが、それらの異常性がブラックジョーク的な雰囲気を生み出している。

    ノアは方舟へ各動物の番いを乗せたが

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    2015年11月01日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    安部公房の短編集。全体を通すテーマは変形と擬人化といえようか。些か読者を突き放した感は安部作品の特徴といえよう。それが何かは説明せず物語は進み、何を描いているかぼんやり見えてきたとしても、それが何を示しているのかははっきりさせない。それは著者の世界観の作り込みと作り上げた世界への移入が完全なものなため、読者に立ち入る隙を与えないのだろう。

    「デンドロカカリヤ」は星新一の「クラムボン」を思い起こさせたが、あちらが童話的なのに対しこちらは寓話的である。しかし何を風刺しているかは筆者にしかわからない。それでよいのだ。何か異次元の世界を描き、読者が一端を垣間見る、それが安部公房作品の楽しみ方でもある

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    2015年11月01日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    次々に登場する、一見ふつうの人のようで頭のおかしなことを言う人たち。会話を交わしていくうちに、こちらの正気が怪しくなってくる。そんな不条理さを存分に味わえる。

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    2015年06月22日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    安部公房のSFである。しかし、SFなのにミステリなのか、悶々とした追いつ追われつがあり、自分以外が薄気味悪く笑っていたり、気がついたら自分が死ぬ運命になっているあたりが安部公房だ。

    予言をするコンピューター、水棲人間作りなど、SFの要素はしっかりある。それなのに、多くの部分で感じるのは、「燃えつきた地図」や「密会」にもあった、よくわからない人たちから情報を引き出そうとする話。その中で、未来にいるのか戦後間もない木造のアパートに居るのか、未来にそういうボロアパートがあるのかを錯覚する。

    ディテイルは非常によく書き込まれており、荒いながらもコンピューターや、発生学(オーガナイザーの時代か?)を

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    2020年08月19日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    『手』『闖入者』『水中都市』が好き。 三つとも毛色は違うけど、気に入ったのだから仕方がない。
    安部公房で始めて手に取った文庫。 動物や植物への変身を物語に組み込んでいることが多く、それが他著者の変身物語と比べて当然のことのように取り扱われている。著者にとって肝心なのは変身そのものではなく、そこから生み出される雰囲気であり、象徴性であったのだろうかと感じた。
    常識の破綻を当然とする展開のおかげで、夢を見ているような気分にさせられる。楽しい夢ではないことが多いが、進行のテンポが良いため、夢だからそんなもんだよねとやや強引に納得させられてしまう。

    あとがきではカフカやリルケを似た作品として挙げて

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    2015年05月01日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    ヤマザキマリのオススメ本として紹介されましたので初めての安部公房。終戦直後の満州から日本へ帰国する壮絶な旅。生きることの無条件の渇望に勇気をもらう。

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    2015年04月29日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    「鉛の卵」が一番良かったかな。カフカ的迷宮と不条理を備えた短編集。当時はかなり前衛的作品だったのだろうなと思う。最後にドンと突き放される不気味さは安部公房の魅力の一つであると思う。安部公房作品時間をかけて少しずつ読破していきたい。2012/679

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    2015年04月13日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    失踪したある男を追っているうちに気がつけば自分自身のアイデンティティが失われていきいつしか自分の地図を失い失踪してしまう……燃えつきた地図というタイトルはアイデンティティの喪失の比喩かしら?メビウスの輪のようにぐるぐる回る安部作品特有の世界観。追うもの、追われるものがいつの間にかするっと入れ替わっているというのは安部作品では良く見るモチーフ。映画になってるみたいだけどどんなんなんだろう。2013/227

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    2024年04月25日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    安部公房の珍しい短篇集というか、ショートショートなのだけど、解説を読むとそうでもないとのこと。たくさん短編を書いていたらしい。

    表題作2作は、最後のオチがえげつない/薄気味悪いのを除いて、星新一が書きそうなショートショートSF。「R・田中一郎」もこれが元ネタだったりして。その他はちょっとした事件の話だとかなんだけど、なんとなく全てに「死」というテーマがあるように感じた。

    作によって傾向が違うところがあるものの、短編ともあって読みやすい。引っかかるとすると、安部公房独特の形容詞(名刺で形容するのだ)遣いであり、そこを乗り越えるとスッと入ってくる。ただ、「砂の女」「人間そっくり」「燃えつきた地

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    2015年03月16日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    やはりおもしろい安部公房。
    「あべこう」まで打つと「あべこうじ」って出てるくるのは、何か嫌やけど。

    全編おもしろかったけど、やっぱり僕は「無関係な死」が好きやね。

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    2014年12月09日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    ネタバレ

    私はさくら丸では暮らしていけないなあと思う。そこまでして生き延びたいと思うわけでもない。
    この計画は上手くいかない(あるいは昆虫屋にとっては上手くいっているのかもしれない)けれど、きっと、現実はそういうものなんだろうなと思った。どれだけ計画が素晴らしくても、それを実行するのは、計画を立てることよりもずっと難しい。

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    2014年12月04日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    他人を利用し、利用される。戦時中の不幸な話と片付けられるだろうか。平和な生活をしていても、命のやり取りまではしないというだけで、基底にはそういう精神が伏流水のように存在しているのではないだろうか。私たちもまた、けものなのだろうか。

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    2014年12月04日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    ネタバレ

    【本の内容】
    眠った魚のように山あいに沈む町花園。

    この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟”のもとに団結し、権力への夢を地熱発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。

    それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。

    [ 目次 ]


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    2014年11月06日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    安部公房を久しぶりに読んだ。長編だけではないのね、この人は。
    夢の兵士、誘惑者、賭、無関係な死、人魚伝。とにかくみんな面白い。
    抽象と具体のバランスが秀逸なんだと思う。
    現代にもこういう短編作家現れないかな。

    私はやはり男性の文章のが好きなんだと思う。
    こんなこというとあれだけど女の文章は何かが軽い。それを繊細といえばそうなのかもしれないけど、重みがないんだよな。自分も女だけどさ。

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    2014年09月28日