安部公房のレビュー一覧
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醜い外見をもつ主人公は来るべき核戦争に備えて石の採掘場跡を改造した方舟を作り、乗組員を探している。百貨店の催事で見つけたユープケッチャなる昆虫(自らの糞を食べることで自己完結できる)を購入したあと、昆虫屋に乗船チケットを渡すが、男女二人組のサクラにチケットを奪われてしまい...。あとは読みすすめていくことをお勧めする。因みに、日本で初めてワープロで執筆された小説らしい。
途中で出てくる女子中学生の下りあたりは随分唐突に感じた。掘り下げ方が足りないような。女子中学生獲得に躍起になる老人達は非常に滑稽。何処かふわふわした流れのなかで、ここだけが非常に人間くさい。主人公が女に触れて喜んでいたり、恐る -
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閉塞感漂う「花園町」で共産主義的な革命を画策する者たちの哀愁劇を描く。”ひもじい同盟”という極めて貧相な名前から”飢餓同盟”へ名称を変え、地熱発電所を基軸に革命を試みるが・・・。
作品全体に纏わりつくどんよりした暗い雰囲気と、あくの強い個性的な登場人物は安部公房ならではといえよう。ドストエフスキーの『悪霊』がベースにあるらしいが、当時の共産主義を担ぐ者たちに通ずるような、何かに飢えた者同士が至極脆弱な共同意志の下革命を目指すが虚しく瓦解する姿はなんとも滑稽である。
本書で特に秀逸だったのは「患者に飢える」というくだりだ。患者の治療が医者の使命だが、その医者が患者に飢えるとはこれ如何に。本作 -
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この本を読んで、映画CUBEを思い出した。CUBEの製作は1997年で、1984年に出版されたこの本とは互いに何の関係もないのはわかっているけど。
空間に閉じ込められた数人が、自分たちで予兆しえない事件や出来事に巻き込まれ、時間が進むにつれて当初の心理が微妙に壊れてゆき、その壊れる様子を追うという点では共通している。一般的に「不条理」とも括られそうな両者。非現実的な設定もさることながら、理解不能な状況の延々とした描写、そして「えっ!」って感嘆符と疑問符を幾つも付けたくなるようなラスト…
これは好き嫌いがはっきり分かれるだろうし、正直言ってレビューは書きづらい。力点を置く場所を見つけにくいから -
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悪夢と思って読んだら喜劇だった、そんな小説だ。「ぼく」と語る主人公は精神錯乱者のような一面を見せる。自らの糞を食料として半永久機関として存在する「ユープケッチャ」がシンボリックに用いられ、これから徐々に狂気じみた物語が始まる。、、、と思ったら昆虫屋やサクラ、女、老人、少年と次から次へ一癖も二癖もある人物が登場し、一方の主人公はエゴとエロを前面に押し出しながら凡庸に埋もれていく。後半はまさに文字通り便器に埋もれたままだ。描かれる世界は狂気そのものだし女子中学生狩りなどどロリコン的悪趣味も描かれるが、それらの異常性がブラックジョーク的な雰囲気を生み出している。
ノアは方舟へ各動物の番いを乗せたが -
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安部公房の短編集。全体を通すテーマは変形と擬人化といえようか。些か読者を突き放した感は安部作品の特徴といえよう。それが何かは説明せず物語は進み、何を描いているかぼんやり見えてきたとしても、それが何を示しているのかははっきりさせない。それは著者の世界観の作り込みと作り上げた世界への移入が完全なものなため、読者に立ち入る隙を与えないのだろう。
「デンドロカカリヤ」は星新一の「クラムボン」を思い起こさせたが、あちらが童話的なのに対しこちらは寓話的である。しかし何を風刺しているかは筆者にしかわからない。それでよいのだ。何か異次元の世界を描き、読者が一端を垣間見る、それが安部公房作品の楽しみ方でもある -
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安部公房のSFである。しかし、SFなのにミステリなのか、悶々とした追いつ追われつがあり、自分以外が薄気味悪く笑っていたり、気がついたら自分が死ぬ運命になっているあたりが安部公房だ。
予言をするコンピューター、水棲人間作りなど、SFの要素はしっかりある。それなのに、多くの部分で感じるのは、「燃えつきた地図」や「密会」にもあった、よくわからない人たちから情報を引き出そうとする話。その中で、未来にいるのか戦後間もない木造のアパートに居るのか、未来にそういうボロアパートがあるのかを錯覚する。
ディテイルは非常によく書き込まれており、荒いながらもコンピューターや、発生学(オーガナイザーの時代か?)を -
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『手』『闖入者』『水中都市』が好き。 三つとも毛色は違うけど、気に入ったのだから仕方がない。
安部公房で始めて手に取った文庫。 動物や植物への変身を物語に組み込んでいることが多く、それが他著者の変身物語と比べて当然のことのように取り扱われている。著者にとって肝心なのは変身そのものではなく、そこから生み出される雰囲気であり、象徴性であったのだろうかと感じた。
常識の破綻を当然とする展開のおかげで、夢を見ているような気分にさせられる。楽しい夢ではないことが多いが、進行のテンポが良いため、夢だからそんなもんだよねとやや強引に納得させられてしまう。
あとがきではカフカやリルケを似た作品として挙げて -
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安部公房の珍しい短篇集というか、ショートショートなのだけど、解説を読むとそうでもないとのこと。たくさん短編を書いていたらしい。
表題作2作は、最後のオチがえげつない/薄気味悪いのを除いて、星新一が書きそうなショートショートSF。「R・田中一郎」もこれが元ネタだったりして。その他はちょっとした事件の話だとかなんだけど、なんとなく全てに「死」というテーマがあるように感じた。
作によって傾向が違うところがあるものの、短編ともあって読みやすい。引っかかるとすると、安部公房独特の形容詞(名刺で形容するのだ)遣いであり、そこを乗り越えるとスッと入ってくる。ただ、「砂の女」「人間そっくり」「燃えつきた地 -
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ネタバレ【本の内容】
眠った魚のように山あいに沈む町花園。
この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟”のもとに団結し、権力への夢を地熱発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。
それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。
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