安部公房のレビュー一覧
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安部公房というと昭和30年代の印象が強いが、これは1990年代の作品なので、少し現代風なテイストが入っている。
とは言え、やはり氏の作品は常識外の出来事が次々に起こり、あっという間に現実の外へ連れて行かれる。
空飛ぶ男を見かけた女性が空気銃で撃ってしまったのは百歩譲って理解できるとしても、その女性が、撃った男の怪我を気にして、男の部屋を訪ねて捜索しだして、頭の中は?だらけになった。まあ、空中を移動している時点で現実の外の世界なんだけど。
途中で文章が欠けているので、誤植かと思いきや、未完の作品とのこと。だから尻切れ感はあるけど、ストーリー云々ではなく、この世界観、空気感が好きな人には良いのでは -
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なんか、実写化するなら阿部寛だなと思った。後半、なんかしょっちゅう勃起しているので「ファニーな村上春樹みたいだな……」と思った。「ええ〜〜〜〜〜」という展開が続くし、とにかく突飛な話が続くので戸惑いもあったが、そのぶっ飛びが楽しく読めた。最近はもう時間的にぶっ通しで集中して読んだりできないので、話がぶっ飛んでると印象に残りやすくて「どこまで読んだっけ」とならずありがたい。「同意の上の性交が認められるのは何歳までだっけ?」が面白かった。安部工房展に行ってピンク・フロイドが大好きって話を見ていたので、本当にめっちゃピンク・フロイド好きだったんだなと思った。私が小説を書く時、岡村靖幸の話をするだろう
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箱の中に入れば、全てのものとの関係がランダムになり、全てのものと一様な距離感をもつ。あらゆるものから等しい距離をとれるような空間だからこそ、角を持ちこちらと直接接点を持つような物は存在せず、無条件に寛大で輪郭がやわらかい世界が視界に広がる。
見られるよりは見る側、覗く側でいたいというのは解釈する側で安心したいという欲求なのか
ふつうの人はダンボールなどないから自分が過度に観察されるリスクを鑑みて多少節目がちに生きる
それにより全てに目を凝らしたい欲が圧されることもあるが、特定の何かにふれられる、自分の位置を他人という定点を通して確かめられるという特典もある
他者を覗いていて不快感を感じないので -
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人の生存本能を描き切る文章力、凄まじいものがあった。当たり前のように満州生まれの芸能人がいるが、その苦労は底知れない。
自身のアイデンティティもよくわからない、誰が敵で誰が味方なのかもわからないが、遺伝子的には日本人の血を汲んでいる。日本の領土を出ると日本は敗戦国であり、日本人には多くの敵がいる。だから日本を故郷として、安寧の地を求めてそこに帰ろうとするが、心の故郷では全くない。政治的混乱に巻き込まれた人々の混沌とした当時の状況が、本作からははっきりと伝わってくる。国が始めた戦争から生まれる難民問題、決して軽視して良いものではない。
国を追われて荒野を彷徨う描写、そしてそこで浮かび上がって -
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大屋根リングからの眺めに備える課題図書として読んだ。大屋根リングを先にイメージして読んだためか、実景を見て、かつ友達からの説明をふまえて、砂の穴の構造を読み違えていたと思われる(読解力)。映画も観てみたい。本の内容を思い出しながら感想を書こうとすると、指宿での砂蒸し風呂、インドのトゥクトゥクで目鼻口が砂砂しくなったこと、運動場で強風に曝されたときに皮膚中で感じた砂の感触、アサリの味噌汁で砂をジャリっと噛んだときの不快感、などの自分の砂体験が続々と彷彿とされてくる。砂の穴で過ごした経験なんてもちろんないのに、ありありとイメージできる表現の妙。脱出劇のところはハサミの形状や頑丈さに疑義を抱きつつも
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さあ、いよいよ初めての安部公房。ということで、この作者としては比較的わかりやすそうなこれから読むことにしたんだけど、もう写真とその説明のところでわけわかんねえ。これは作者の罠なのか、それとも深読みするべきなのか。俺の頭だとついていけないのかなあ。
途中で唐突なエピソードが挿入されたりするのは序の口で、この物語を語っている「箱男」がいったい誰なのか、カメラマンなのか、元軍医だった男なのか、その身代わりをしていた男なのか、最後までわからない。いちおう全ては狂人の落書きだったと受け取れるような終わり方にはなってるけど、そんな単純なものじゃない。たぶん。最初から実験小説だっていってるし、安部公房も -
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ネタバレ結局のところ、どこまで妄想なのか謎。箱にこもって被害妄想に駆られた分裂気味の男性が、わけのわからない日記を書き散らしているだけのようにも見えるし、途中から箱男が死に向かう理由についてミステリーのように「辻褄合わせ」のストーリーが展開されてよく練られた小説のようにも読める。
箱男のコンセプトは興味深いが、見られないところから一方的に女性を眺めたいという男性ならではの欲望が「箱」と結びついているせいで、性欲的・変質者的な描写が多いのは共感しづらい。とはいえ「見られる」ストレスは自身も大変共感するので(コロナ禍のマスクがその後も外せなくなった)、箱に潜む生活に関してはそれなりに興味がわいた。箱女なら -
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ネタバレざっくりのあらすじを聞いたときは、ホラー系なのかと思っていたが、そんなことはなかった。
「砂の村」でも「砂の家」ではなく、あくまでも「砂の女」。主人公が男性であり、男女であるがゆえに性の問題も絡むのだけど、結局のところ、「人は孤独では生きていけない」ということなのかなと思う。
語り合う言葉は何でもよくて、生活そのものに満足していなくてもいい。むしろ孤独ではないと感じられたときには理不尽な生活すらも彩りを持つのかもしれない。
それは逆説的に、孤独がいかに圧倒的な力を持っているものであるかということでもある。
尊厳を虐げられがちな「女」が、衆人環視を拒否したときもそう。あれは「男」が来て孤独