安部公房のレビュー一覧

  • 他人の顔(新潮文庫)

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    安部公房の、昭和39年に刊行された長編小説。
    フランスでも高い評価を得た作品で、
    日本では映画化もされているそう。

    顔に蛭が蠢くような醜いケロイドを負ってしまい
    "顔"を失った男が、
    妻の愛を取り戻すために仮面を仕立てるという
    ストーリー。

    科学者である主人公が研究を重ねて
    "他人の顔"である仮面を作り上げていく過程が
    とても興味深く、面白い。

    またその中で彼が自身に問い続ける
    "顔"というものの意味、概念について
    深く深く考えさせられる。

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    2022年08月18日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    現代日本の作家である安部公房(1924-1993)による本作は日本初のSF長編小説とされる、1959年。

    自由とは、現在の同一性に閉じているのではなく、未来という差異へと開かれてある、ということ。未来とは、現在からの延長ではなく、現在との断絶である、ということ。則ち、自由とは、自己否定への可能性、自己(暫定的有意味)が非自己(根源的無意味)へと転じる可能性であり、そこには自己(暫定的有意味)の背面に穿たれた非自己(根源的無意味)の亀裂が予め前提されている、ということ。未来とは、自己(暫定的有意味)にとっての非自己(根源的無意味)を時間軸上に投影したものである、ということ。僕らがひとつの連続体

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    2022年07月24日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    ただの狂人か、火星病の地球人か、地球病の火星人か、何ひとつ確かなことは分からない。読んでいて不安になってくるような、自分の存在がふわふわしてくる感じがする。

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    2022年07月13日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    寓話的、SF的な発想に溢れた短編集。ドロドロとしたグロテスクな世界を奇妙なほど淡々と現実感を持って物語が押し寄せてくる。主人公の内面に入りすぎず、あくまで物語を現実の価値観の対比物、思想の耐久性を試す実験場としている感じがした。

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    2022年05月20日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    脚本家の男のもとに火星人を名乗る男が訪問してくる。
    そこからはじまるやりとり。
    果たしてこの世界は現実なのか、寓話なのか?自分は何者なのか?
    読んでいるこちらまで自分の存在があやふやになってしまうような作品。

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    2022年05月10日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    自分達を不幸にする社会構造をひっくり返すという目的のために存在していた筈の手段が、目的へとすり替わっていく。
    最近も頻繁に見かける類の狂気かと思う、元は高い使命意識を持っていたであろう人々が、目的と手段を履き違えて頓珍漢な声を荒げ、白い目で見られる様は。
    そしてその活動すら、金持ちの金稼ぎに利用される様も、どこかで見覚えがあるなと思ってしまうのは穿った考え方だろうか。

    花井が革命に執着する気持ちはなんとなく分かる。
    飼い慣らされている、誰かに人生を掌握されているという、八方塞がりで前進も後退もしないことへの焦燥感だろうか。
    現状に甘んじていた方が楽であるにも関わらず、それでも八方塞がりからの

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    2022年04月23日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    難解な作品が多い安部公房の中ではたいへん読みやすい一冊。
    未来を予言できる機械が、やがて自分を追い込んでいってしまう。50年前に書かれたとは思えない現代的SFホラー。

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    2023年04月09日
  • 他人の顔(新潮文庫)

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    中学時代に読んで以来の再読。
    顔にダメージを負うだけで自分が自分でなくなってしまうのには十分なのに、顔を差し替えても自分のままでしか居られない。
    考えてみれば当たり前のことだけどかなり辛いことだとおもった。

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    2022年03月08日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    知らずに読んだけれど、日本で本格SFをやったハシリだとか。
    奇妙な世界にいつのまにか巻き込まれていくストーリー展開は、これまで読んだ安部公房作品に通じるものがある。

    当初は自分自身が開発した未来予言機の研究存続のためにやっていたことが、最終的には、人工生物とか、地球そのもののあり方が変わるかもしれない未来予想とかに繋がっていくのは予想外。
    読みやすいけれども濃厚なSF描写と、自分の認識が揺らいで混乱させられる世界観で、脳がこねくり回された。この読み味はやっぱりすごいし、唯一無二だと思う。
    演劇と小説を行き来する作家だけあり、舞台でやっても映えそうなセリフと、シュールさもよかった。

    未来予言

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    2022年01月10日
  • 壁(新潮文庫)

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    徐々に切り離される現実と侵食してくる空想

    広大な曠野にそびえ立つ壁

    世界観が独特すぎて半分夢を見ているよう

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    2023年09月19日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    安部ワールド。唸るほど詳細で素晴らしい描写と、おぞましく突飛な物語。これをシュールレアリスムというのか前衛的というのかはわからないけれど、読み進めるほどにあぁ天才の書く小説とはこういうものだとガンガン打ちのめされる。付いていけない。

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    2021年11月30日
  • 他人の顔(新潮文庫)

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    研究所に勤務する僕は実験中の爆発事故で顔一面に大やけどを負い、ケロイド瘢痕を隠すため顔全体を包帯で覆う日々を過ごす。人間同士のつながりの窓である「顔」の復元を考え、特殊ゴムを使用した覆面を思いつく。見放されたと感じている妻にも別人として迫るがその結末は意外にそっけない。愛というものは互に仮面を剝がしっこすることか。そのために仮面は必要か?

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    2021年11月02日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    今でこそこのような「現実と虚構が混乱してしまう」テーマの話しは数多く作られてきたが、当時はかなり斬新だったのかもしれない。主人公の不安の高まりが徐々に伝わってくる。

    安部公房の作品はかなり久しぶりに読んだ。本作品もその独特な不条理の世界観が面白い。どの作品も、日常の裏側の、しかしかなりかけ離れた世界にいつの間にか引きずりこまれ、そこに精神的に一体化されてしまうような話が多い。トリップ感覚とも違うこんな世界をよく描けるものだと改めて感じた作品。

    登場人物と場面が限定されているので、映像よりも舞台劇に向いてそうだ。目の前でこの緊張感を表現してくれる役者達を観てみたいものだ。

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    2021年10月31日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    安部公房最後の長編。
    脛からかいわれ大根が生えてきた男が、夢と現実、そして死と生の環状線を走り出す。
    個性的な登場人物たち。ユーモアあふれる表現。
    それでいて死の臭いだけは常につきまとい、要所要所であらわれる「カンガルー」のフレーズも頭から離れなくなる。
    パンクすぎる設定とストーリーでぐいぐい読ませる技はさすが。それでいて、考えさせられる読後感や諦めにもにた感想がどうしても生まれてしまう。

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    2021年09月18日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    寓意とユーモア、そしてシュールさが溢れる、安定の安部公房ワールド。
    そこには、ふわふわと水中を漂うかのような、不安定さもある。

    これを読んでると、形ってなんだろうって思う。
    自分が見ているものの形と、その実際の形には乖離があって、一体そのどちらが正しいのだろう。いや、もしかしたらどちらも間違っていて、正しいかどうかなんて、誰にも分かんないのかも知れないな、と言う気持ちになってくる。

    闖入者は読んでいて胸糞悪かった。ただ、そのじっとりとした湿度を感じる嫌な読後感は、砂の女含めて、安部公房作品に通ずるものがある…良いな…

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    2021年08月15日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    物語の出発点が、果たして本当に出発点だったのか。
    一体何を見せられているのか。
    どこに向かうのか。

    いずれの短編も、自分の今いる場所がわからなくなるような、
    安部公房の言葉の魔法によって、
    執拗に目をくらまされる。

    いつだって夢のように無機質で遠い物語に聞こえるのに、
    常に側にぴたりとくっつき離れない影のように生々しい。

    それにしても『なわ』が強烈に気持ち悪かった。
    子犬には優しく!←違っ

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    2021年08月07日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    安部文学には珍しいミステリー調のストーリー。疾走の依頼の調査が思いもよらないような複雑な展開に…
    こういうのも悪くない!めちゃくちゃ面白い…と思いきや、やはり最後はしっかり安部ワールドに。
    人が何故社会から逃避するのか?失踪者を調査しながら自らも失踪者に同化していく。安部公房は一貫して現代社会からの逃避や自己の喪失をテーマとしているが、今回は自らの意志での逃避ではなく、見えない因果の渦に巻き込まれ逃避者と化していくパターン。壮大な布石からの宿命的なクライマックス。超現実でありながらストーリーがしっかりしていて読み応えがあります。

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    2021年07月30日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    ネタバレ

    安部公房さんの本はこれが初めて。素人ながら、簡単な感想を述べたいと思う。

    まず『友達』について。
    ページをめくるたびにゾッとするような善意の押し付け。主人公の男の話は誰にも信じてもらえず、ただ孤独であることを許されない様子が非常に気味悪く、滑稽でもあった。
    「私たち、友達でしょ?」
    「誰かと一緒にいた方が幸せに決まってる」
    それはそう、それはそうなのだが。
    人は、少なくとも自分は、孤独である事よりもそれをまざまざと見せつけられたり、それが許されないことの方が辛い。押し付けられる善意はむしろ迷惑に感じてしまう。
    しかし、実際はその迷惑さは伝わらないことが多いのではないか。
    親切には変わりないの

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    2021年06月27日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    代表作『砂の女』を書いていた時期に並行して書かれたいくつかの短篇作品を収録したものです。『砂の女』を思わせる、黴臭いくらいの和のテイストを感じる作品もありますし、初期の作品から続くテイストであろう想像力がぶっとんでいるおもしろい作品もあります。『なわ』なんていう残酷なものもあり、読み手をひとつところに停滞させず、そればかりか揺さぶってくる短篇集になっていると思いました。

    とくに「人魚伝」という作品に夢中になれました。沈没船の探索中にであった緑色した人魚に恋する話ですが、一筋縄では終わらない。この作品もそうなのですけれども、既視感を覚えることなく、「いままさに知らない物語のなかにいる!」という

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    2021年05月16日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    未来に希望はあるのか、それとも絶望なのか?
    未来を予言できるコンピューターを開発した主人公。
    コンピューターにより未来を予見し、水棲人間をつくりだした人々。未来に向けての意見の相違で道が割れた人間たち。
    奇しくも東日本大震災の大津波を経験したわたしたち、温暖化が進む世界。地上が海にのまれる日も近いのかもしれない。
    だとしても、その先の未来に何を見て何を望むのか?
    答えの出そうにない命題。
    これが60年以上前に書かれた小説だという現実。

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    2021年05月06日