安部公房のレビュー一覧

  • 壁(新潮文庫)
    国際的にノーベル賞に最も近い作家と呼ばれた「安部公房」の初期の代表作です。
    『壁』は、作家デビューした安部公房の最初の短編集のタイトルで、収録作が芥川賞を受賞しました。

    安部公房は、大岡昇平や三島由紀夫と同じく、第二次戦後派と呼ばれます。
    第二次戦後派は戦後に登場し、戦前の小説技工を昇華、あるいは...続きを読む
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)
    ◯名著。表現力が際立って良いと感じる。情景と心情が一瞬で頭に入ってくる。荒野で彷徨い続けるあたりは迫真。彼らが何故生きているのか不思議なほど、自分のイメージもボロボロに追い込まれていた。
    ◯ストーリーも意外に面白い。かなりひっくり返り、展開していくので、描写との相乗効果で読後感はぐったりする。しかし...続きを読む
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)
    贋物ユープケッチャからの始まりで、早速にも好奇心を鷲掴みにされた。
    嘘か本当か分からないような情報と共に、サバイバルゲーム的な展開が繰り広げられる。
    結局、ユープケッチャは何だったのか?
    ユープケッチャに何を託そうとしたのかが分からない。
    公房独特のクセの強いブラックユーモアもあり、そこで安心感と安...続きを読む
  • 壁(新潮文庫)
    壁を隔てた向こう側に行ったら、そんなに理不尽なことに合うんだろうか、というような物語。
    それは、夜中と未明の間にある壁であり、地面と空中の間にある壁かもしれない。
    実態と影の間にある壁もあるかもしれない。
    壁のこちら側でよかったな、あちら側には行きたくないな、という感想。
    でも行きたいとか行きたくな...続きを読む
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)
    学生時代以来の安部公房。
    BOOKOFFで購入。
    「砂の女」を読んで新婚旅行で鳥取砂丘に行ったくらいだから、学生時代にはわりと熱心に読んでいたと思う。
    安部公房はくせがあり、最初にスッと入れないとなかなか読み通すのが難しいが、これはスッと入れた。
    スマホもパソコンもほとんど普及していない時代、想像力...続きを読む
  • 壁(新潮文庫)
    常人が生み出せる作品ではない。人間をあらゆる視点から定義づける試み。彼の思考が物語に息を吹き込むことで、読み手の五感に強烈な後味を残す。
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)
    きっとこの寓話の世界に比べたら、現実なんてバカくらいに単純で平凡なものなのだろう。大学の講義の合間に、あの広場のベンチで、ページをめくる指がスキップしていたのを今でも思い出す。 今ならぼくは、肘に豆苗を生やすだろう。
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    火星人を自称する謎の男と、訪問を受けた脚本家との会話で進んでいく。
    自称火星人の扱う不思議な論理で、訪問を受けた脚本家と一緒に読者もどんどんと錯乱。
    ページ数こそ少ないが、粘っこい読後感がいつまでも残る傑作。
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)
    放置された地下採石場跡の広大な洞窟に、モグラこと〈ぼく〉は核シェルター設備を作り住み込んだ。近づく核投下の日までにこの方舟に乗れる資格のある人を見つけて乗船切符を渡そうとするが、ひょんなことで3人の男女とシェルター内での共同生活が始まる。しかし洞窟に侵入者が現れ、仇敵とも言える父親からの連絡、さらに...続きを読む
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)
    手掛りを辿れども辿れども、真実に近付きも遠のきもしない感じが、失踪人の周囲を同心円上にぐるぐる回っているだけのようで徒労感と無力感が延々と繰り返される。それでも次は何かがわかるかも知れない!という期待を込めてページを捲る手が止まらない。
    通常の推理小説ならラスト一気に真実の一点へ駆け込むが、そうは問...続きを読む
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)
    箱男を数年前に読んだ以来の安部公房。
    この人の文章によって思い描く景色は、古いビデオテープに録画した古い映画のような、ざらざらした触感の音声と映像で再生される。
    そうして再生された景色も、埃と砂でざらざらしている。

    また、この与太話の説得力は何だろうか。
    「ショウチュウを飲みすぎると魚になる」とか...続きを読む
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    初めはいたって正常だったが、徐々にねじれていって、最後は何が正しいのかわからない。頭が混乱します。まさしく天才的でした。
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)
    友達だけ読み終わった。めっちゃ怖い。よくわからない善意みたいなのをゴリゴリ押し付けてくる感じ。
    自分の近くにこういうのある気がする。世間体かな?
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)
    ありえないのに、否応なく説得させられる感じ。

    ❇︎

    作品の中に凝縮されている、世の中…さすが安部公房だなと思います。
  • 密会(新潮文庫)
    性描写のオンパレードの中に、グロテスクな描写あり。
    時代背景としては、売春を筆頭に性行為が軽視され始め、スポーツ化したというところからこういった内容になったようですが、登場人物がカオス過ぎて惹かれる。
    病院=社会、ということは混乱を意味しているよう。
    迷路のような想像できない病院内や地下道は、そのま...続きを読む
  • 他人の顔(新潮文庫)
    顔を失くした男の自己回復と、
    他者との交流の窓を回復する目的であったはずの仮面が、
    いつしかただ別の素顔を得るだけになる。

    執拗に繰り返される自問自答と顔に纏わる考察が、
    必死になればなるほど迫害的で妄想的な意味合いを強め、
    ひどく歪んだ自己愛的な主観へと埋没していく様が怖いが、
    それは蛭の巣窟に...続きを読む
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)
    小学校の高学年くらいに「棒になった男」や「他人の顔」が紹介されていたのを読んで興味を惹かれて手に取った一冊。
    ファンタジーやSFか、カフカのような不条理モノか、乾いていながら、新宿ゴールデン街的な雑さと人間の粘度ある文体からにじみ出る別世界、でもそれは非常に身近で、そんな世界の話に引き込まれた。

    ...続きを読む
  • 壁(新潮文庫)

    【始】
    壁というものがある。(序)
    目 を覚ましました。(S・カルマ氏の犯罪)
    ぼくのことをお話ししましょう。(バベルの塔の狸)
    日が暮れかかる。(赤い繭)
    ある貧しい、しかし誠実な、哲学者が宇宙の法則をさぐるために、屋上の平屋根に一台の望遠鏡を持ち出して、天体の運行をさぐっていた。(洪水)
    雨も...続きを読む
  • 笑う月(新潮文庫)
    随筆でもあり小説でもある感じの話と、スナップショットが詰まっていた。
    他の作品に比べると読みやすい。

    私も夢(悪夢)をみることが多いほうだとおもうけど、安部公房がみる夢はやっぱりひと味違う。
    他の作品にも通じるところがあって、不条理で少し怖い。
    スナップショットも安部公房らしい味わいがあって良かっ...続きを読む
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)
    「存在しないもの同士が、互いに相手を求めて探りあっている、滑稽な鬼ごっこ」

    正に現代。鬼ごっこの形が変わって誰でもどこでもやり易くなっただけで、やってることは昔とさほど変わらない。