安部公房のレビュー一覧

  • 砂の女(新潮文庫)

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    感想になっておらず恐縮であるが、「凄いものを読んでしまった」という読後の衝撃が忘れられない。

    砂穴に囚われた絶望、日常と自由についての思索、水を求める根源的欲求、脱出のサスペンス、女との交わり......

    人間の根源に迫る物語と、巧みな比喩が重ねられた筆致の組み合わせが、この作品を名作たらしめている。

    主人公は男であるが、タイトルは砂の女。女は家を守り、男に奉仕し、最後は妊娠により物語から姿を消す。砂穴に囚われた女の様子は、始終何かに縛られ続けながら生きる、女性の苦しみを暗示しているように思われた。

    しかしあれほど砂穴、そして部落から脱出しようとしていた男が帰属意識を感じ、逃亡を先延ば

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    2025年10月02日
  • 笑う月(新潮文庫)

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    まず、とっておきの睡眠誘導術を伝授されてから夢の話へ。
    「こんな夢を見た」系のエッセイなのかな、と読みはじめました。笑う月、これはトラウマになりそう。
    そこからだんだん安部公房の創作や発想のきっかけみたいな話になってきて、これはこれですごく面白かった。
    夢のイメージが作品に反映されてるって事は…
    作品を読めば安部公房の夢を体験できちゃうってこと?あの独特な雰囲気は、無意識下のイメージ…?うーむなんだか妙に納得。
    そしてその後は、夢の話のような創作のような短編作品が続きます。
    奥さんの安倍真智による挿絵(コラージュ作品?)も差し込まれていて贅沢。
    夢の中感が漂ってる〜〜

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    2025年09月26日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    脛に「かいわれ大根」が生えた男の数奇な物語。
    幻想と現実が入り混じる気味の悪い夢の中を連続して彷徨うように展開していくストーリー内の所々で安部公房お得意のブラックユーモアが光っている。
    死をテーマにしているにも関わらず、重すぎずどこか良い意味での滑稽さを感じさせる作品だった。

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    2025年09月15日
  • 壁(新潮文庫)

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    中・短編集。
    3話すべてに「壁」が登場するが、最初の『S・カルマ氏の犯罪』がもっとも壁との関わりが深い。

    名前を奪われたカルマは人権も失い、裁かれ、監視される存在となる。
    心の空洞には砂漠が広がり、そこに成長していく「壁」がある。
    それは自由を守る壁ではなく、束縛の壁?

    やがてカルマ自身が壁になってしまう。
    そこには感情が描かれず、ただの壁、ただの物質と化したということなのだろうか。

    結末にどんな意図が隠されているのか正直わからない。
    それでも、不思議と強い印象を残す、面白い作品だった。

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    2025年09月14日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    自分とは?自分という存在を疑え、という挑戦状のような作品。わたしも本当は地球病にかかった火星人なのかもしれない、ほら、あなたも…。

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    2025年09月09日
  • 飛ぶ男(新潮文庫)

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    この「飛ぶ男」は安部公房が亡くなってから見つかった原稿とのこと。
    パジャマ姿で滑空する男を見つけた3人の目線で話が進みます。ここでグッと掴まれます。
    その後、話はだんだん「今どうなってんの?」となって、最後はブツッと終わり…後から未完であることを知りました。
    「さまざまな父」は全く違う話だと思って読み進めてましたので、「アレ?これ繋がってる??」とびっくり。
    解説の福岡先生によると、これは「飛ぶ男」のほんの断片だろうとのこと。
    どんな話になったのか、とても気になります。

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    2025年09月04日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    11篇からなる初期短編集。昭和24〜27年の作品が収められていますが時代や古さは感じません。
    どれもうっすら息苦しくうっすら後味悪く、理不尽なストーリーも多いです。
    この調子で長編だったら鬱々としそうですが…短編なのでサクサクと読めたのが、安部公房初心者の私にもピッタリだったかも。雰囲気満喫しました。
    お気に入りは
    「デンドロカカリヤ」「手」「水中都市」「飢えた皮膚」「闖入者」

    小石川植物園に、デンドロカカリヤを見に行きたくなりました。

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    2025年09月01日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    はじめは「カイワレ大根ってちょっとちょっと〜(笑)」
    くらいの軽さで読み出したのですが、ベッドが走り出したあたりから私の頭のキャパを越えた展開になっていきました。
    安部公房がこれを病床で、死の影を感じながら書いたとしたら…なんだかものすごく納得です。うまく説明できないのですが。

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    2025年08月28日
  • 死に急ぐ鯨たち・もぐら日記(新潮文庫)

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    インタビュー、評論、日記など80年代の安部公房の思考、思想を除くことができる。方舟さくら丸や、飛ぶ男の原型に対する言及が多く、また言語論を軸にした集団、国家等への考えが見られる。
    正直ついていけないが、安部作品のエッセンスのようなものにに触れることができただけで満足。
    百年の孤独、読んでみようかなあ。

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    2025年08月20日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    大学時代に途中までしか読めていなかったので再読。面白い。未来について色々考えさせられる。現在の価値基準で未来を評価することなんて、できっこないんですねきっと。意外な展開にきっと引き込まれるはずなのでおすすめです。

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    2025年07月26日
  • 壁(新潮文庫)

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    あまりに奇妙。5作あって、1作目は慣習的に生きていた男が名前を名刺に奪われ、それぞれの役割を無機物に奪われる。慣習から外れると無機物が有機物になるための蜂起、不条理な裁判、ガールフレンドのマネキン化、など様々な困難に巻き込まれる。途中雑誌の1ページの荒野を胸の穴に吸い込んでしまって(恐らく名刺に奪い取られたものの隙間)荒野に生息している動物に魅入られ魅入るようになる。その胸の穴に次は壁を吸い込んでしまい、父親がラクダと裁判に関与していた病院の先生と共に"探検家"という名称で主人公を解体しようとする。最終的に主人公は胸の中の荒野で壁そのものになってしまった。

    2作目は詩人が

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    2025年07月01日
  • 密会(新潮文庫)

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    今回もなかなかの実験作。情景描写がとにかくわかりづらい。迷路のような病院を舞台にしてるだけあってか。それも作者の意図なのか。
    砂の女や箱男のように、わからないなりにも理屈があるような作品とは違い、わからないのをそのままに楽しむことを求められる作品、な気がした。

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    2025年06月26日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    ネタバレ

     安部公房にしては読みやすいなあ、というのが最初の印象。
     電子計算機に大量のデータを与えただけで未来を予言できるというのは、カオス理論を考えると、前時代的という感は否めない。未来も過去もシュミレーションできてしまうというのも、そんなに単純じゃないだろっていう気はする。でも安易なタイムマシンものにはなってないし、死体の神経組織に電極を差し込んでデータを取得し、生きている状態をシュミレーションするというのは、怪しくてなかなかいい。
     未来予測のサンプルに選んだ男が殺され、死体を予測機械にかけるとその口は<胎児堕胎>について語り始める。男を殺したとされている情婦からデータを取ろうとするとその女も殺

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    2025年06月10日
  • 飛ぶ男(新潮文庫)

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    久しぶりに安部公房を読んだら、
    やつぱり突き放される感じだった。
    理解したいけど、難しすぎて、
    サンドイッチマン状態。
    ちょっと何言ってるかわからない、、

    巻末の解説についても
    尚更、何言ってるかわからない。

    でも、好きで読んでる。
    読み直してみたりする。
    何が何だかわからない。

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    2025年06月09日
  • 密会(新潮文庫)

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    特殊な方法で失踪した妻を探して男は病院へと潜り込む。盗聴という監視ネットワーク、医者という要望の権力者会の縮図の内外を出入りし、男は存在すらも怪しい目的を求めて彷徨い続ける。

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    2025年05月30日
  • 箱男(新潮文庫)

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    ネタバレ

    いつか安部公房を読み解ける日がくるのだろうか……と思いながら読み続けます。

    いくつくもの散文や回りくどい場面展開や、一見何の意味もない差し込みが多重に重なって……
    だけど、結局、自分は一歩も動いていない、箱の中の落書きに過ぎない(?)だとか、どういう頭の構造したら書き抜けるんでしょうか。
    主人公と一緒に思考の迷路に陥りそうです!

    覗きみることの露悪性は、映画や他小説でも見受けられるテーマですが、抽象が過ぎるぜ!

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    2025年05月05日
  • 壁(新潮文庫)

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    これぞ安部公房!といった感じの意味不明な設定(いい意味で)の物語が盛り込まれている。宗教観のようなものも含まれていたため、宗教(特に旧約聖書)の知識があるともっと違った見方もできるのかもしれないと思った。意味がわからず、1文を何度も読み返しながら頭をひねらせてくる安部公房、さすが。

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    2025年03月17日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    ネタバレ

    「こんにちは、火星人」というラジオの脚本家は、ピンチに陥っていた。
    "存在するはずのない火星人をネタに日本を風刺する"番組はこれまで順調にやってきたが、火星にロケットが軟着陸することになり、火星のことが明らかになると世間の目は厳しくなると予想されるからだ。

    そんな彼が部屋で鬱々としていると、突然自らを火星人だと名乗る男が訪問してくる。
    その男の妻から電話もあり、30分後に迎えに行くが、気違いで暴力的なため逆らわずに話を聞くようにと言われ、家に上げてしまう。

    最初は気違いの戯言と聞き流していたが、相手は意外と論理的で適当な相槌は見逃してくれず、真剣に向き合わざるを得なくな

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    2025年03月07日
  • 箱男(新潮文庫)

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    ダンボール箱に入って隙間から外の世界を覗き見る箱男が、複数人の視点から描かれている。途中から誰が箱男なのか、誰視点で書かれているのかが難解でわからなくなってくる。
    見られることなく、覗き見たい…という欲求や、
    普通の人間が箱男になってしまった経緯や、
    浮浪者というか落伍者から見た世間や
    みんな箱男のことは見て見ぬふりをすることや
    豊富な語彙量で表現される言葉の数々が印象的だった。人は安心したくてニュースを見ずにはいられない、とか世界は沸きっぱなしの薬缶みたいなものだ、とか魚になる夢を見るが、手足がないと、触りたくて走りたくて堪らなくなるとか…が記憶に残った。
    途中差し込みの白黒写真や短い記述?

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    2025年02月20日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    不思議な小説。何かを暗示しているのかいないのか。ただ不思議な世界を廻っているだけなのか。ラストの記事で事実は分かるが、主人公の主観的世界は分からない。

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    2025年02月11日