安部公房のレビュー一覧

  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    小学校の高学年くらいに「棒になった男」や「他人の顔」が紹介されていたのを読んで興味を惹かれて手に取った一冊。
    ファンタジーやSFか、カフカのような不条理モノか、乾いていながら、新宿ゴールデン街的な雑さと人間の粘度ある文体からにじみ出る別世界、でもそれは非常に身近で、そんな世界の話に引き込まれた。

    ご本人も亡くなり、あまり話題にのぼるという事も無い気がする作家だが、新潮文庫に変わらずあるのが嬉しく、また懐かしく、最近読んだスタージョンあたりに刺激されて久々に手に取ってみた。

    又吉くんオススメの帯がついていたが、これをきっかけに読者が増える事を期待する。

    また、ラジオドラマ「R65の発明」は

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    2020年09月12日
  • 笑う月(新潮文庫)

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    随筆でもあり小説でもある感じの話と、スナップショットが詰まっていた。
    他の作品に比べると読みやすい。

    私も夢(悪夢)をみることが多いほうだとおもうけど、安部公房がみる夢はやっぱりひと味違う。
    他の作品にも通じるところがあって、不条理で少し怖い。
    スナップショットも安部公房らしい味わいがあって良かった。

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    2020年08月18日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    「存在しないもの同士が、互いに相手を求めて探りあっている、滑稽な鬼ごっこ」

    正に現代。鬼ごっこの形が変わって誰でもどこでもやり易くなっただけで、やってることは昔とさほど変わらない。

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    2020年08月04日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    ハードボイルド小説だ。或いはノワール小説的でもある。

    ハードボイルドやノワールという物語の成立には都市という舞台は必要不可欠だ。

    田園風景の中で、誰もが誰もの家族たりうる社会でハードボイルドもないだろう。

    この物語も等しく、都市が舞台であって、さらに、拡大してゆく最中の都市とも言える。

    この舞台装置はまったくノワール的と言ったら研究者には笑われてしまうだろうか。

    都市において人や事物、そしてそれらに与えられた役割は完全に匿名的で交換可能な価値を持つ。

    だからこそ、都市の機能は平等公平で自由である。
    しかし、その内実は孤独で冷酷で不平等でもある。

    P.293『「ほら、あんなに沢山の

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    2020年06月10日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    アヴァンギャルド。

    もはや死語であったはずの前衛がこの2020年に再読して生き生きとしてしまう。

    「天は人の上に人を作らず」

    ある種の人たちは自らの事を選ばれた人間だと思ってはいないだろうか。

    実際には誰もが誰かを選んでいるだろうし、同時に誰も誰かを選んでなどいない。

    無知のヴェールという概念がある。生まれる以前に人間は平等だが生まれた直後に不平等となる。

    生まれた国、地域、親を選ぶことはできず、ヴェールを被された状態である。

    だからこそ、明るみに出た瞬間に、恵まれた存在は公共性を保持するために努めなければならない。

    無知のヴェールについて、日本人はあまりにも知らなすぎ、考えが

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    2020年05月22日
  • 他人の顔(新潮文庫)

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    良くも悪くも男性はこういう思考に陥りやすいのではなかろうか。しかし妻の気持ちもわからぬではない。一度刺さったハリネズミのトゲはそう簡単には抜けない。ならいっそもっと深く差し込んで見る必要があったのではないか?

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    2020年04月20日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    来訪者:自称火星人の男
    標的:ラジオ脚本家

    クルクル裏返る男の物言いに翻弄される脚本家。人間がその人間たる足元を巧妙に削られ「人間そっくり」にされてゆく様には、滑稽と戦慄を覚える。

    文豪がガチで飛び込み営業したら、何でも売っちゃいそうで怖い。

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    2020年03月28日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    順調に思えた故郷への逃避行は、はじめの一日を頂点に地獄へと急降下していく。
    銃撃、衝突、凍傷、飢え、裏切り、ありとあらゆる死の淵に立たされながらも、日本に帰れるという希望が何度もちらつく。が、その希望の光は見えたと思った次の瞬間には消え、暗闇を彷徨い歩いていると再び光り、またすぐに消える。消えるたびに絶望が殴る蹴るの暴行を加えてくる。幻の光であると、どこかで知っていながら、それでもすがりつくものがないよりましだと、裏に絶望が隠された希望という扉の取手を回す。

    久三の感情、情景描写、ひとつひとつの表現が、鈍い鐘の音のような重さをもって心臓に響いてくる。
    すべてが事実にしか思えないほど残酷なまで

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    2019年11月07日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    第二次世界大戦敗戦の噂を聞いて、診断書を満州から偽造し、逃げて?きたという公房の、半分くらいの体験記だそうです。
    敗戦と共に襲われる屈辱、苦悶、苦痛…そして無政府状態に対する怒りと疑問が、この作品には生きることを諦めないというテーマで描かれています。
    元々、公房のなかにある

    考えることを諦めなければ、必ず閃きがある

    というモットーのなか、主人公はひたすら考え抜いて窮地を渡っていくのですが、このモットーは個人的にも好きで、文学に嵌るきっかけにもなりました。
    高の指を切断するシーンは、流石、医学部卒なだけあり生々しいですが、生きることを優先させると…と、ひたすら生に貪欲な内容でした。
    人間は、

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    2019年11月03日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    安部公房で一番好き。この作者は、閉塞的な環境の人間模様を書かせたらピカイチですね。

    話変わるけど、ノーベル賞は安部公房に取ってほしかったなあ。あと数年生きていれば……。

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    2019年07月07日
  • 笑う月(新潮文庫)

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    「選ぶ道がなければ、迷うこともない。私は嫌になるほど自由だった」

    安部公房にハマるきっかけになった「鞄」をまた数十年振り振りぐらいに読みたくなった。
    昔は選択できることが少なくて迷うこともなく進むことが出来たのに、大人になるにつれて選べることが増え、どんどん僕は不自由になってしまった。

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    2020年04月30日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    相変わらずの突飛な発想力で、生から死、死からその先へとくるくる変わる短編集です。
    テーマはヒューマニズム。
    機械にされた人、藁を食べる人、死んだ人間が生者を観察したり、公房独特の180度の発想の転換で楽しませて…というのもありますが、これからの教訓になる一冊です。
    鉛の卵で、予期しているのが怖いくらいに当たっているのが凄味があり、またじっくり読み直したいとも思いました。

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    2019年11月17日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    安部公房のSFじみた短編小説群。純文学然とした冒頭作品で油断したが、2本目からは本領発揮の幻想なのかミステリなのかという話が続く。

    帰宅し、アパートのドアを開けたら、見ず知らずの男の死体が転がっている。さてどうするか。警察に届けたら、自分が犯人にされてしまう。アパートの他の住人に押し付けるには、死体を運ばなくてはならぬ…(無関係な死)。

    いやいや、油断した。2本目「誘惑者」で気づくべきだったのだ。安部公房じゃないか。死体が有っても犯人など出てこないし、3階から階段を降りたら4階に着くのだ。比喩をこねくり回したり、理屈をまぜっかえしたりなど不要。これぞ安部公房という短編である。

    「使者」は

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    2019年02月08日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    追っているはずが追われてた、人を嵌めようとしていたはずが自分で自分を追い込んでた、飼っているはずが飼われていた……というような状況の話が多い短編集だった。
    相変わらず絶望的というか無慈悲な終わり方をする話ばかりだけどなんだか好き。

    ただ、『なわ』だけはどうしてもだめだった。
    犬好きの私はあの展開はちょっと読めなかったという個人的な問題なのであって、小説自体としては良いんだと思う…けど。

    『誘惑者』は比較的わかりやすい話で好き。
    『夢の兵士』の哀愁も。
    『無関係な死』は私もあぁなったら焦ると思うし深刻な問題なんだけど、主人公の行動はなんだかギャグにもできそうな感じにみえてきて面白かった。

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    2018年08月27日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    公房最後の長編とあり、かなり意味深でもある内容でした。
    死をテーマに描写されていて、半分まではまあまあ笑って過ごせるが、後半からシャレにならない内容になり、かいわれ大根の行方は結果、主人公の生命であることが解説で分かりました。
    かいわれ大根が萎びていけばいくほどに、主人公の場面の置かれている状況が、どんどん死へと近付いていく。
    何故、かいわれ大根なのか若干不明ですが、たぶん生命力の強さかなと認識しました。
    ラストの新聞記事で、バン!と謎が解ける、公房のトリック。
    改めて嵌りました。

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    2018年08月11日
  • 密会(新潮文庫)

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    ネタバレ

    布団になった母、膀胱の括約筋がイカれておしっこ垂れ流しの看護婦、勃起したまま意識不明の医者、そのぺニスを玩具にする看護婦。私は読み終わり三日間連続で最低な夢を見た。

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    2018年07月26日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

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    閉鎖された町、革命がテーマですが、読み進めるうちに小さな組織、例えばご近所付き合いとか学校とかに例えると理解しやすいかと思います。
    正気の革命なんてものは夢。
    だが、そこに魅せられてしまう者がいて、思いが強いと狂気になり、やがてそれは成功か不成功か、人為的なものもあるけど、この本では狂気、狂気、更に狂気。
    だけど、所々ギャグコミックのような描写に笑ってしまったりもする、いいエッセンスが加わりあまり苦がない作品だけど、個人的には結構難しかったので、また読み直したいと思います。

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    2018年03月18日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    「死んだ娘が歌った・・・・・」について

    一文あらすじ

     家が貧乏なために出稼ぎで上京した少女が、「自由意志」によって殺される話。


    メモ

     職場の上司から「自由にしてよい」と命じられ、出稼ぎ先を首になった少女は、欲しくもない自由を手に絶望して自殺する。
     近代以降の人間は、自由を万人が持つべき絶対不可侵の権利のごとく認識してきた。しかし、自由とは権利なのだろうか。自由とは、意図的な力が加わらない状態のことではなかったのだろうか。
     自由を権利として定義づけ、あたかも義務かのように個人に課すこと、これは暴力にほかならない。これこそ、かつて自由を求めて闘った人々の共通の敵であったはずだ。金

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    2017年12月22日
  • 密会(新潮文庫)

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    ぶっ飛んだカルト・ムービーのようでいて外れ過ぎないというか押さえているという稀有な作品。アングラっぽさが漂うもそこに逃げていない。この世界造形はさすが安部公房という感じ。小説表現の自由や可能性が感じさせる。巻末の平岡先生の解説もいい。

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    2017年12月18日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    安部公房は以前別のを読もうとして全く入り込めなかった過去があったので避けてたけど、今回これを読んでみたらすごく面白くてすらすら読めました。

    シュールで不思議な雰囲気で、社会や政治への風刺が多い短編集だったかなという印象です。
    とんでもなくシュールってわけでもなく入り込みやすい気がします。
    後味は全体的に良くはないですね。ハッピーエンドではない…。

    『デンドロカカリヤ』が一番好きで、『手』『闖入者』あたりも好きです。

    これを機に安部公房作品もっと読んでいきたいなぁ。

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    2017年11月15日