安部公房のレビュー一覧

  • 他人の顔(新潮文庫)

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    失踪シリーズに挙げられるが、個人的に安部公房作品でも砂の女と並び傑作。
    顔を失った男の自閉した内省・思考の流れが滑稽で面白い。読んでいくうち主人公と同化し沈み込んでいく引力がある。
    作品世界が非常に狭く、読後は疲労も残り要体力。

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    2023年01月13日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    次はどうなるの?どうなるの?と読書が止まらない作品でした。読み終わらない間のわくわく感と、自分もその場に居るようなスリル感。楽しくてしかたありませんでした。安部公房さんの本また読みたいと思う。

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    2022年10月18日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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     「ぼくの眼に、彼女はすりガラスであっても、彼女の眼には、ぼくは単なる透明ガラスだったのだ。」(人魚伝)
     人魚の彼女と「ぼく」の間にある言語・生物的な壁と、それに付随するもどかしさを端的に、そして叙情的に表す表現力。

     安部公房の作品はいつも、どこにでもありそうな風景と人物である。なのに、何かが変で、普遍的世界と表裏一体の非現実。
     あとがきでもあるように、相対する関係がじつは同じ穴のムジナで、メビウスの輪のように交わる世界が安部公房の持ち味である。

     本著の中で特に好きなのは、「無関係な死」と「人魚伝」。「人魚伝」はかなり深い。

    【無関係な死】
     無関係の証明をしようとあがくうちに、

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    2022年09月21日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    天才。
    これは夢か現実かわからなくなることが夢の中であるが現実の中で起こしている。
    かいわれ大根やカンガルー、ベッドといった周りにあるものをあり得ないものと組み合わせて登場させる。それが癌を患わした自分と重ねているのか、それが小説だと主張してるのか。
    人が死ぬときはそんなもんだと言ってるのかもしれないし自分の妄想で人は死ぬというのを言いたかっただけなのかもしれない。

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    2022年09月13日
  • 笑う月(新潮文庫)

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    自動書記という手法があります。これは執筆者の無意識を反映するために、意図を抱かずに書く方法のことです。

    人間が眠っているときに見る夢を文字に起こすと、自動書記のようになるのかとこの作品を読んで感心しました。

    おそらく私たち読者にとっては意味のわからない不思議な余韻の残る作品の羅列でしかないのですが、書いている安部公房さんにとっては「これはこのような意味なのかもしれない」と思いながら書き進めていったのではないでしょうか。

    他人の夢の内容を文字に起こした上でそれを読めるのは貴重な体験ですね。しかも世界的前衛作家の安部公房さんの夢となると、さらにその貴重さが増すように思います。

    個人的に気に

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    2022年08月20日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    つまりは未来を受け入れられる人間とそうじゃない人間がいるという話だった。私たちは理解できない強大なものに恐怖心を感じるようにできている。

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    2022年08月04日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    11の無慈悲な短編集
    シニカル・ウィット・刹那・苦悩に溢れ
    あらゆる人間の負の感情を曝け出すも
    対極にある無頼な世界に帰結する

    タイトル2作も情け容赦ない末路を辿るが
    “何か”を犠牲にする事で救われたような…
    無責任な安堵が心を満たした

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    2022年06月04日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

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    ◯名著。表現力が際立って良いと感じる。情景と心情が一瞬で頭に入ってくる。荒野で彷徨い続けるあたりは迫真。彼らが何故生きているのか不思議なほど、自分のイメージもボロボロに追い込まれていた。
    ◯ストーリーも意外に面白い。かなりひっくり返り、展開していくので、描写との相乗効果で読後感はぐったりする。しかしそのこと自体をもってやはりすごいと思う。砂の女に馴染めない人はこちらを読んでみてもいいのではないか。
    ◯久しぶりに本を読んだが、全ての本がこのようなものだと良いと思う。

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    2022年04月23日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    ネタバレ

    贋物ユープケッチャからの始まりで、早速にも好奇心を鷲掴みにされた。
    嘘か本当か分からないような情報と共に、サバイバルゲーム的な展開が繰り広げられる。
    結局、ユープケッチャは何だったのか?
    ユープケッチャに何を託そうとしたのかが分からない。
    公房独特のクセの強いブラックユーモアもあり、そこで安心感と安定感を得る。
    ノアの方舟には正直な、唯一の人間しか乗船できないらしい。
    「砂の女」が苦手意識があり、初めに読んだ時は暑苦しいしで辛かったけれど、再読を決心させてくれた。
    まだ公房作品に慣れないし掴めないまま「砂の女」を読んだ記憶があり、しかし本書は夢中になれたので、再読すればまた違う視点や感覚に触れ

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    2022年04月18日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    学生時代以来の安部公房。
    BOOKOFFで購入。
    「砂の女」を読んで新婚旅行で鳥取砂丘に行ったくらいだから、学生時代にはわりと熱心に読んでいたと思う。
    安部公房はくせがあり、最初にスッと入れないとなかなか読み通すのが難しいが、これはスッと入れた。
    スマホもパソコンもほとんど普及していない時代、想像力の豊かすぎる主人公が核戦争に備えて巨大なシェルターを作り、「生き残るに値する人々」をスカウトする筈だったのだが…という話。
    主人公を始め、出てくるのはいびつな人たちだ。いびつさが奇妙に誇張されグロテスクでさえある。
    しかし、読後感はわりと爽やかだった。

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    2022年02月27日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    きっとこの寓話の世界に比べたら、現実なんてバカくらいに単純で平凡なものなのだろう。大学の講義の合間に、あの広場のベンチで、ページをめくる指がスキップしていたのを今でも思い出す。 今ならぼくは、肘に豆苗を生やすだろう。

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    2022年01月29日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    火星人を自称する謎の男と、訪問を受けた脚本家との会話で進んでいく。
    自称火星人の扱う不思議な論理で、訪問を受けた脚本家と一緒に読者もどんどんと錯乱。
    ページ数こそ少ないが、粘っこい読後感がいつまでも残る傑作。

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    2023年01月01日
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

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    放置された地下採石場跡の広大な洞窟に、モグラこと〈ぼく〉は核シェルター設備を作り住み込んだ。近づく核投下の日までにこの方舟に乗れる資格のある人を見つけて乗船切符を渡そうとするが、ひょんなことで3人の男女とシェルター内での共同生活が始まる。しかし洞窟に侵入者が現れ、仇敵とも言える父親からの連絡、さらには便器に片足を吸い込まれて身動きが取れなくなり〈ぼく〉の計画は崩れ始める。核による人類滅亡、シェルターにより生き延びる人たち、生き残った人たちによる新しい社会と平和、そうした一連の想像はすべて幻想であり現実逃避でしかない。逃避した先の世界もまた現実と変わらない。
    冒頭で〈ぼく〉は自分の糞を食べて同じ

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    2021年12月26日
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

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    手掛りを辿れども辿れども、真実に近付きも遠のきもしない感じが、失踪人の周囲を同心円上にぐるぐる回っているだけのようで徒労感と無力感が延々と繰り返される。それでも次は何かがわかるかも知れない!という期待を込めてページを捲る手が止まらない。
    通常の推理小説ならラスト一気に真実の一点へ駆け込むが、そうは問屋が卸さないのが安部公房。不確実で掴みどころのない手掛りを次々に無くし、結果として唯一確実な存在だった自分自身すら見失う。地図は燃えつきた。お見事。

    草臥れたような「場末」の表現が抜群に上手くて笑える。大抵の場合古本から煙草の匂いがするとハズレ籤を引いた気になるが、安部公房だと逆に煙草の匂いがアジ

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    2021年10月09日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    箱男を数年前に読んだ以来の安部公房。
    この人の文章によって思い描く景色は、古いビデオテープに録画した古い映画のような、ざらざらした触感の音声と映像で再生される。
    そうして再生された景色も、埃と砂でざらざらしている。

    また、この与太話の説得力は何だろうか。
    「ショウチュウを飲みすぎると魚になる」とか、酔っ払いの戯言のようなのに、なんとなく「そういうもんかな」と思わせる。
    起承転結が夢のようにチグハグで、読み終わってすぐは「なんだこれは」と思うのに、なんとなく腑に落ち…いや落ちないわ。全然落ちない。その腑に落ちなさと不条理が良い。

    あまり深く考えない方が楽しく読めるのかもしれない。
    ざらざらし

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    2021年10月09日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    初めはいたって正常だったが、徐々にねじれていって、最後は何が正しいのかわからない。頭が混乱します。まさしく天才的でした。

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    2021年09月29日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    友達だけ読み終わった。めっちゃ怖い。よくわからない善意みたいなのをゴリゴリ押し付けてくる感じ。
    自分の近くにこういうのある気がする。世間体かな?

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    2021年09月20日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    ありえないのに、否応なく説得させられる感じ。

    ❇︎

    作品の中に凝縮されている、世の中…さすが安部公房だなと思います。

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    2021年07月12日
  • 密会(新潮文庫)

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    性描写のオンパレードの中に、グロテスクな描写あり。
    時代背景としては、売春を筆頭に性行為が軽視され始め、スポーツ化したというところからこういった内容になったようですが、登場人物がカオス過ぎて惹かれる。
    病院=社会、ということは混乱を意味しているよう。
    迷路のような想像できない病院内や地下道は、そのまま社会への混乱に加えて先が見えないことを表しているのかも。
    想像したらキリがないけど、ラストの安倍印も満足。

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    2020年11月08日
  • 他人の顔(新潮文庫)

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    顔を失くした男の自己回復と、
    他者との交流の窓を回復する目的であったはずの仮面が、
    いつしかただ別の素顔を得るだけになる。

    執拗に繰り返される自問自答と顔に纏わる考察が、
    必死になればなるほど迫害的で妄想的な意味合いを強め、
    ひどく歪んだ自己愛的な主観へと埋没していく様が怖いが、
    それは蛭の巣窟になったからなのか。
    それとも妻が指摘することが真実なのか。

    男とその妻という形式を借りた、
    これまた安部公房が描き続ける普遍的な人間の実存をめぐる物語に仕上がっている。

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    2020年10月31日