安部公房のレビュー一覧

  • 燃えつきた地図(新潮文庫)
    ハードボイルド小説だ。或いはノワール小説的でもある。

    ハードボイルドやノワールという物語の成立には都市という舞台は必要不可欠だ。

    田園風景の中で、誰もが誰もの家族たりうる社会でハードボイルドもないだろう。

    この物語も等しく、都市が舞台であって、さらに、拡大してゆく最中の都市とも言える。

    この...続きを読む
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    AIもののSFとはこの物語を端的に表すジャンルであって、しかし、この物語について何も語りきれていない気もする。

    この物語は、旧態依然とした世代と新しい世代や未来世界との断絶の物語だと思う。

    解説では、作品が世に出た当初の日本、すなわち田園・農村社会から急速に都市化へ移行する中間領域の社会が投影さ...続きを読む
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)
    アヴァンギャルド。

    もはや死語であったはずの前衛がこの2020年に再読して生き生きとしてしまう。

    「天は人の上に人を作らず」

    ある種の人たちは自らの事を選ばれた人間だと思ってはいないだろうか。

    実際には誰もが誰かを選んでいるだろうし、同時に誰も誰かを選んでなどいない。

    無知のヴェールという...続きを読む
  • 他人の顔(新潮文庫)
    良くも悪くも男性はこういう思考に陥りやすいのではなかろうか。しかし妻の気持ちもわからぬではない。一度刺さったハリネズミのトゲはそう簡単には抜けない。ならいっそもっと深く差し込んで見る必要があったのではないか?
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    本書で言う"日常的連続感"を自覚しないことには、現在における価値判断を絶対的なものであると勘違いしてしまうのかもしれない。しかし、それを自覚したところで未来を批評することは適わない。我々が出来るのは、日常的連続感に囚われず、批評的に現在を考え続けることだけなのだろう。そして、それが最も大切なことな...続きを読む
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    いやー面白かった!機械が映し出しているのは不可避な運命。やっぱり現在の行動如何では可変な"予測未来"を映し出すくらいが楽しい人生、世界になるような気がする笑自分が期待している解が得られないとそれを否定するってのは色んなことに通ずると思う。
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    来訪者:自称火星人の男
    標的:ラジオ脚本家

    クルクル裏返る男の物言いに翻弄される脚本家。人間がその人間たる足元を巧妙に削られ「人間そっくり」にされてゆく様には、滑稽と戦慄を覚える。

    文豪がガチで飛び込み営業したら、何でも売っちゃいそうで怖い。
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)
    順調に思えた故郷への逃避行は、はじめの一日を頂点に地獄へと急降下していく。
    銃撃、衝突、凍傷、飢え、裏切り、ありとあらゆる死の淵に立たされながらも、日本に帰れるという希望が何度もちらつく。が、その希望の光は見えたと思った次の瞬間には消え、暗闇を彷徨い歩いていると再び光り、またすぐに消える。消えるたび...続きを読む
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)
    第二次世界大戦敗戦の噂を聞いて、診断書を満州から偽造し、逃げて?きたという公房の、半分くらいの体験記だそうです。
    敗戦と共に襲われる屈辱、苦悶、苦痛…そして無政府状態に対する怒りと疑問が、この作品には生きることを諦めないというテーマで描かれています。
    元々、公房のなかにある

    考えることを諦めなけれ...続きを読む
  • 箱男(新潮文庫)
    初読は高1の頃だったが、「なんじゃこれー」と、すごい衝撃を受けたのを覚えている。このなんじゃこれーを理解したくて安部公房にハマったきっかけの本でもある。実験的な小説というのだろうか。何が書いてあるのか、個々の記述間の繋がり、物語の筋がよく分からなかったのだ。文庫版の平岡氏の解説を読んで、何となく分か...続きを読む
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)
    安部公房で一番好き。この作者は、閉塞的な環境の人間模様を書かせたらピカイチですね。

    話変わるけど、ノーベル賞は安部公房に取ってほしかったなあ。あと数年生きていれば……。
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    ナショナリズムやアイデンティティの危うさが描き出されている。
    後半への畳み掛けや、物語が核心に狭っていくスリルはたまらないものがある。
    直接的には非日常を描きつつも、それは必ず日常の延長線にあるということを常に意識してたのではないかと思う。
    だからこそ突飛な設定であっても、時代を経ようと、その本質が...続きを読む
  • 笑う月(新潮文庫)
    「選ぶ道がなければ、迷うこともない。私は嫌になるほど自由だった」

    安部公房にハマるきっかけになった「鞄」をまた数十年振り振りぐらいに読みたくなった。
    昔は選択できることが少なくて迷うこともなく進むことが出来たのに、大人になるにつれて選べることが増え、どんどん僕は不自由になってしまった。
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)
    相変わらずの突飛な発想力で、生から死、死からその先へとくるくる変わる短編集です。
    テーマはヒューマニズム。
    機械にされた人、藁を食べる人、死んだ人間が生者を観察したり、公房独特の180度の発想の転換で楽しませて…というのもありますが、これからの教訓になる一冊です。
    鉛の卵で、予期しているのが怖いくら...続きを読む
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)
    安部公房のSFじみた短編小説群。純文学然とした冒頭作品で油断したが、2本目からは本領発揮の幻想なのかミステリなのかという話が続く。

    帰宅し、アパートのドアを開けたら、見ず知らずの男の死体が転がっている。さてどうするか。警察に届けたら、自分が犯人にされてしまう。アパートの他の住人に押し付けるには、死...続きを読む
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    相変わらずのカオス過ぎる世界観でした。
    隠れた名作というべきか。
    嘘も巧妙だと、何を信じて良いのか分からなくなるが、そこに見え隠れするのは、寓話か?現実か?のこの二択。
    思考がショートすると…文字通りよくあることですが、主人公の運命を見届けるまでが、非常にスリリングで、SF!!という感じがなく、寧ろ...続きを読む
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)
    追っているはずが追われてた、人を嵌めようとしていたはずが自分で自分を追い込んでた、飼っているはずが飼われていた……というような状況の話が多い短編集だった。
    相変わらず絶望的というか無慈悲な終わり方をする話ばかりだけどなんだか好き。

    ただ、『なわ』だけはどうしてもだめだった。
    犬好きの私はあの展開は...続きを読む
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)
    公房最後の長編とあり、かなり意味深でもある内容でした。
    死をテーマに描写されていて、半分まではまあまあ笑って過ごせるが、後半からシャレにならない内容になり、かいわれ大根の行方は結果、主人公の生命であることが解説で分かりました。
    かいわれ大根が萎びていけばいくほどに、主人公の場面の置かれている状況が、...続きを読む
  • 密会(新潮文庫)
    布団になった母、膀胱の括約筋がイカれておしっこ垂れ流しの看護婦、勃起したまま意識不明の医者、そのぺニスを玩具にする看護婦。私は読み終わり三日間連続で最低な夢を見た。
  • 飢餓同盟(新潮文庫)
    閉鎖された町、革命がテーマですが、読み進めるうちに小さな組織、例えばご近所付き合いとか学校とかに例えると理解しやすいかと思います。
    正気の革命なんてものは夢。
    だが、そこに魅せられてしまう者がいて、思いが強いと狂気になり、やがてそれは成功か不成功か、人為的なものもあるけど、この本では狂気、狂気、更に...続きを読む