安部公房のレビュー一覧

  • 飢餓同盟(新潮文庫)
    全部おもしろい。
    “まったく、現実ほど、非現実的なものはない。この町自体が、まさに一つの巨大な病棟だ。”
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)
    それにしても、どんなにか恐ろしい、孤独の日々だったことだろう。
    ぼくは灰汁のような憐れみにひたされ、燻製のようになりながら、
    やっとの思いで彼女を振り向いて見た。
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    まさか未来予言機の開発話がこんな展開をするとは…目が離せず、一気に読んでしまった。
    古典文学を読んでいると、当時の感覚では当たり前でも今の感覚では「倫理的にどうなんだ」と思う現象が多々ある。きっと未来人から見た我々にもそういう点がいろいろあるだろう。
    人間の価値観は絶えず変動しているが、絶対的に現在...続きを読む
  • 燃えつきた地図(新潮文庫)
    安部公房が書く「都会という無限の迷路」、それはタクシーであり公衆電話であり地図であり電話番号……、そのような「都会」は今はもうないのかもしれない。

    初めは物語世界に入り込むのに苦労した。
    半分を超えたあたりで、小説のテーマが何となくわかった。
    入り込めなかったのは、現代が安部公房の時代とは前提が変...続きを読む
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)

    個人的には名作。
    『密室』は苦手だったが、こちらは後期安部公房の寓話性とダンジョンの面白さが噛み合って先がとにかく気になった。
    ラストの静寂と、もの寂しさは次作『カンガルーノート』に引き継がれる新鮮さでとても良かった。
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)
    安部公房の作品という感じでとても良かった。この世界に身を浸すことが楽しい。意味や風刺はもちろん私には読み取りきれない。でもそれでもいい、そのまま作品を楽しめばいいと解説に書いてあって楽な気持ちになった。純粋に安部公房の描く世界の美しさと不可思議さと、その文体の見事さに浸って良いのだと思った。
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    希望でも絶望でもない未来。
    安部公房は一貫してしっかりとした論拠をもって現代社会への警鐘や逃避をテーマにしてきましたが、SF作品への挑戦は自然な流れのように思えます。
    他の作品同様に、鋭い視点と論理的な指摘、そしてたっぷりのユーモア。紛れもない安部文学であり、大いに楽しませて頂きました。
  • 人間そっくり(新潮文庫)
    「人間そっくり」は1966年に『S-Fマガジン』に連載された作品です。

    ある日、
    自分は火星人だという男が訪ねてくる。

    自分は火星人だという男。
    彼は、ある小説の原稿を手にしている。
    タイトルは「人間そっくり」
    今回の出来事を、事前に小説に仕上げてきたという。

    そこから、延々150ページにわた...続きを読む
  • 他人の顔(新潮文庫)

    失踪シリーズに挙げられるが、個人的に安部公房作品でも砂の女と並び傑作。
    顔を失った男の自閉した内省・思考の流れが滑稽で面白い。読んでいくうち主人公と同化し沈み込んでいく引力がある。
    作品世界が非常に狭く、読後は疲労も残り要体力。
  • 壁(新潮文庫)
    ノーベル文学賞候補とも噂された安部公房の芥川賞受賞作品である。

    中編と短編の計6編で構成されている。
    どの作品もカフカの影響を強く受けており、『S•カルマ氏の犯罪』では主人公が名前を失い、『バベルの塔の狸』では目を除く身体を失うなど、不条理との腐心が描かれる。

    しかし、カフカと違う点は、解説者が...続きを読む
  • 箱男(新潮文庫)
    後書きの、平岡篤頼氏の「従来の小説では、人物が作者から独立して行動しはじめたり、因果関係が作者の主観を越えて厳密に作動するのが傑作の要因と考えられてきた。その時、小説が言葉で書かれた記述で成り立っているという、文学としての根本的性質がなおざりにされてきた。」という評が熱くて、深い。

    自分の言葉で感...続きを読む
  • 方舟さくら丸(新潮文庫)
    次はどうなるの?どうなるの?と読書が止まらない作品でした。読み終わらない間のわくわく感と、自分もその場に居るようなスリル感。楽しくてしかたありませんでした。安部公房さんの本また読みたいと思う。
  • 箱男(新潮文庫)
    安部公房にしか表現できないような言葉のマジックと世界観

    見る者と見られる者の視点があやふやになっていき、どんどん混乱していく

    サルトル的にいえば、
    私たちは何者かというレッテルを貼られ、
    「まなざし」に晒されながら生きているが、それは生きていく中での不快感の一種である。

    私たちは覗く側でありた...続きを読む
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)
     「ぼくの眼に、彼女はすりガラスであっても、彼女の眼には、ぼくは単なる透明ガラスだったのだ。」(人魚伝)
     人魚の彼女と「ぼく」の間にある言語・生物的な壁と、それに付随するもどかしさを端的に、そして叙情的に表す表現力。

     安部公房の作品はいつも、どこにでもありそうな風景と人物である。なのに、何かが...続きを読む
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)
    天才。
    これは夢か現実かわからなくなることが夢の中であるが現実の中で起こしている。
    かいわれ大根やカンガルー、ベッドといった周りにあるものをあり得ないものと組み合わせて登場させる。それが癌を患わした自分と重ねているのか、それが小説だと主張してるのか。
    人が死ぬときはそんなもんだと言ってるのかもしれな...続きを読む
  • 笑う月(新潮文庫)
    自動書記という手法があります。これは執筆者の無意識を反映するために、意図を抱かずに書く方法のことです。

    人間が眠っているときに見る夢を文字に起こすと、自動書記のようになるのかとこの作品を読んで感心しました。

    おそらく私たち読者にとっては意味のわからない不思議な余韻の残る作品の羅列でしかないのです...続きを読む
  • 第四間氷期(新潮文庫)
    つまりは未来を受け入れられる人間とそうじゃない人間がいるという話だった。私たちは理解できない強大なものに恐怖心を感じるようにできている。
  • 壁(新潮文庫)
    きっと、これはこれを意味しているんだろう…
    そう思って読み進めるも、どこかで違うような気がしてくる。安部公房のお話はそこが良い。
    正解を見つけようと挑む人もいれば、なんとなく読んで終わる人もいること自体は他の小説と変わらないけれど、「読みといてくれ」という著者のメッセージをこの人からは感じない。(私...続きを読む
  • 壁(新潮文庫)
    夢か現か、現実的なのにどこか超現実で、夢を見ているよう。頭の中でイメージはできるのに言葉より強くはならない。
    他作品で言うなら映画の『パプリカ』なんかが似たテイストだと思う。滑稽で愉快でどこか不安定で怖い。
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)
    11の無慈悲な短編集
    シニカル・ウィット・刹那・苦悩に溢れ
    あらゆる人間の負の感情を曝け出すも
    対極にある無頼な世界に帰結する

    タイトル2作も情け容赦ない末路を辿るが
    “何か”を犠牲にする事で救われたような…
    無責任な安堵が心を満たした