安部公房のレビュー一覧

  • 燃えつきた地図(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    探偵というのは、誰かの過去や因果関係を調べる仕事な訳で、つまりそれは常に、誰かの「影」として跡を追うことで初めて存在意義が生まれる。
    その意味で、主人公の「ぼく」と失踪人の「彼」は、初めから対の関係性だった。

    p.390「誰だって、どんな健康な人間だって、自分の知っている場所以外のことなど、知っているわけがないのだ。」
    確かにそうだ。この世界の知らない場所が自分の世界の延長であるように過信するのは、傲慢だ。
    知らない道を通っても、また知っている道に戻れるとは限らない。迷い続ければ、それは失踪になる。

    p.359からは、失踪者側の目線で語られる。
    追跡者側と失踪者側で対比させていながら、主人公「ぼく」と失踪者「彼」の見分けがつかなくなっているのが、おもしろい。

    最後の「贅沢な微笑」が浮かんだ意味は?
    自分なりの解釈では、猫のために名前をつけるという行為は、何か新しいものを産み出そうとする、生産的なもの。
    それは、これまでの自分の履歴を探し回ることから脱却し、新しい地図を描く一歩になっているということではないだろうか。

    最後まで読んだ後にもう一度見返すと、p.46の「…誰であろうと、ここのテーブルについたとたん、まず思い出すのは、引返す場所をもっていることの倖せだろう。」というフレーズが憎い。

    たったひとつのテーマを、丁寧に丁寧に、安部公房らしく複合的に書き切った作品。

    0
    2026年06月01日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    読んでいるこちらも混乱してしまうほど引き込まれ、訳がわからなくなっていく。
    安部公房の中でも好きな本。

    0
    2026年05月21日
  • 壁(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    三部構成になっているけれど、自分の中で整理ができないまま読み終わってしまった。でも分からないなりに面白かった。
    悪い夢を見ているようで何が起きるかまったく分からないし、結末も想像できなかった。悪いことばかり起きるのに不思議と深刻さはなく、独特な形容で、おとぎ話のように美しく印象的な場面がときおり訪れる。
    第一部は、穴を降りていった先で裁判をするシーンがあることも手伝って、どこか「不思議の国のアリス」を思い出させた。デタラメな裁判。
    人間にはなんらかの罪があるようだし、バベルの塔やノアの方舟やアダムとイヴ、生命や世界の創造まで話はおよぶ。そうやって創世記が絡めてあるので、原初の話をしているのがより神秘的に思えて惹き込まれる。
    世界が自分そのものだとしたら、世界の果てとは自分の一番外側なのかもしれない。だとすると世界の果てへの旅は死の文字が頭に浮かんでくるし、あまり突き詰めてはいけない要素に感じる。誰もが壁に囲まれて生きていることが違う意味で見えてきそう。本当に興味深い。

    0
    2026年04月30日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    失業した男は死のうと思った
    そこに若者がやってきて
    死体を売ってくれという
    売られた死体は(生きてはいるが)
    ロボットとなり、機械を作る
    なんだかわからないが
    復讐のような機械を‥

    盲腸を羊のものにした男
    食べ物は藁
    ある実験が行われた
    食料不足のための準備として
    噛んで噛んで噛んで
    藁を飲み込んでいく

    人肉を食用とした人類
    そのために飼育される人々
    反対運動が始まる

    冬眠箱に入って100年後に
    目覚めるはずだった男
    80万年もの月日が経って
    カプセルが開いた
    そこでみたものは‥‥

    などなど
    なんだか背筋がぞわぞわするような
    なんだかあるかもしれないと
    思うものやら
    安部公房らしい物語が続く
    SFの世界であったり
    戦争の悲惨さや
    貧しさの末に
    自殺した女性の幽霊物語などもあり
    最後まで一気に読んだ
    どれもなにかを訴えているようで
    なんだかせつなくもなった

    0
    2026年04月16日
  • 壁(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    まっじで面白かった。最高。
    第一部と第二部がとんでもなく好き。
    独特の比喩表現、奇妙な映像を鮮烈に思い浮かべられる描写。自分とほとんど同じ年齢でこれを書き上げたのか、、とんでもないな。

    0
    2026年04月08日
  • 飛ぶ男(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    初安部公房、ジャケ買いしたらまさかの未完。
    気づかず買ってた…。
    独特の不穏さとドキドキが面白い。続きがないのが悔しい。

    0
    2026年04月02日
  • 壁(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    安部公房「壁」は1951年刊行。「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭(4編の短編)」からなる作品集。
    足元の床が抜けたような不安が漂って、起こる事はことごとく不条理。主人公たちには突飛で理不尽な出来事が振りかかりますが、容赦なく淡々と悪化していく感じ、こりゃもう安部公房。

    「S・カルマ氏の犯罪」
    朝起きたらえらい事になっていた系。解説には「カフカっぽいけど明るい」とあり、なんか納得。
    名刺に自分を奪われた主人公。名前・肩書を失い、何者でもなくなってしまう怖さ。しかも彼を取り巻く雑多な物から敵とみなされてしまう。
    話がマトモに通じない感じや裁判シーンなどは不思議の国のアリスっぽさも。ラストの「そっちに行っちゃった感」が半端ない。

    「バベルの塔の狸」
    謎の動物「とらぬ狸」に影を奪われてしまった主人公。彼が収集していた「とらぬ狸の皮(妄想・空想メモ)」がもとで、虚構の世界「バベルの塔」に連れて行かれてしまいます。
    やりたい事を100個書き出そう、みたいなヤツ。書いて満足して本末転倒…みたいな事への皮肉?それとも、想像力を失って、空腹を満たすためだけに生きることへの皮肉?

    そして、どれも自分がなくなっていくような心許ない短編群4編。
    自分が足元からほどけ繭になり、あるいは溶けて液体人間になる。すべてを手に入れたと思えば世界を失い、何の役にも立たず、存在する意味がないと言われる人間の価値を問われる。

    安部公房すぎる〜。

    0
    2026年03月25日
  • 笑う月(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    夜空を見上げているとき、視野の周辺にちらと星影がうつり、視線をあらためて向けなおすと、かえって見えなくなってしまう事がある。眼をそらしてやると、再び視界に戻ってくる。網膜の中心部と、周辺部の、機能の分業からくる現象だ。夢と現実にも、どこか似たところがあるように思う。現実は、意識の中心部でより鮮明にとらえられるが、夢は、むしろ周辺部でしかとらえられず、中心に据えることで、かえって正体を見失ってしまいかねない。

    0
    2026年02月21日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    どれも予想がつかない物語で一気に読めた。
    時代背景や当時の安部公房の状況を理解すると、きっと意図のようなものが読み取れるのかなとは思うが、面倒くさいので読んでありのままを楽しんだ。

    水中都市のフレーズで

    おれはおれにもうそれほど執着していないのだから、魚になってまでおれであろうとは思わない

    というのがとても気に入った。
    環境や社会が変化していくときに、いつまでも自分の信念に固執しないというしなやかさを感じて、自分にとっての希望の言葉になった。

    あとは鉄砲屋にスミレの香水というのが出てきて、わざわざ香水売場に出かけて行って2〜3嗅がせてもらったが、それらは女性らしさ全開の香りで全く好みではなかった。

    手の、伝書鳩の変化も面白かった。伝書鳩時代の飼い主を、最後は弾丸となって撃ち抜いてしまうが、鳩は何一つ自分では選べなかった悲しみをどこかおかしく書いてあるのがよかった。

    あと、一人称が「おれ」というのも好き。

    0
    2026年02月11日
  • 箱男(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    再読。箱男の手記。
    絶対ありえない設定なのに、なぜかとてももっともらしく感じさせるところが、この作者の凄さだと思う。
    途中から、あれ?人物が混ざり合ってきていない?と感じるようになり、箱男の役割が入れ替わっている。
    その感覚がとても面白い。

    箱男になる原因は複数あるように思われる。
    見たくないものは視覚に入っていても認識しないという人間の特性を利用し、箱男になることで誰にも認識されなくなる。その結果、世間が見たくない側面を覗き見ることができる存在になる。

    刺々しい現実が、ダンボール越しに見ることで少し丸みを帯びる。
    守られているという安心感なのだろうか。
    見られる側ではなく、見る側に回ることが重要なのだと思った。
    見ることには愛があり、見られることには憎悪がある。

    ただ、一度箱男になると、そこから抜け出すには努力が必要になる。
    すぐに世の中へ戻れるわけではなく、何かしらのきっかけが要る。
    本人もそれを求めている。
    気づいていながらも強がってしまうその心境に、なぜか共感してしまう不思議な作品だった。

    0
    2026年01月27日
  • けものたちは故郷をめざす(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    敗戦を迎え混乱する満州。
    満州で生まれ育った青年・久三は両親を亡くし、戦争を経てロシア兵にかくまわれている。
    ロシア兵たちとは穏やかに過ごしているけど、故郷日本への想いに次第に焦燥感を募らせていく。
    ある日、南へ向かう列車が出る事を知った彼は脱出を決意するが…
    そこからは最後まで息がつけない。寒さと飢え、疲労と恐怖。共に南を目指すことになった謎の男・汪(高)は、敵か味方かもわからずずっと疑心暗鬼。
    いつまで読んでも極寒の大地が続き、状況は過酷になるばかり。
    日本を知らない久三。だけど彼を突き動かしてきたのは「自分は日本人だ」という強い想い。厳しい道程を経てきたからこその、あのラストにはクラクラ…

    自身も満州からの引揚げを経験している安部公房。父を発疹チフスで亡くし、市内を転々とし苦労してやっと乗れた引揚げの船中でもコレラが流行していたとのことで、その過酷さは想像がつきません。
    「終りし道の標べに」と併せて、安部公房自身の引揚体験談もどこかで読めないかなぁ。探してみよう。

    0
    2026年01月11日
  • 箱男(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    狂ってるが故の散漫さや視点の目まぐるしい移動を感じつつも、どこか哲学を感じられる程の一貫性があるように思えます。
    箱男が何なのか、何が見えてくるのか、その語りによって、異常な行動ではあると理解しつつも、それを上回るほどの魅力を感じずにはいられません。

    0
    2026年01月05日
  • 壁(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

     あまり理解できたとは言いがたい。安部公房のいう壁というものがなんなのか。
     第一部の壁は主人公が胸に吸収してぐんぐん大きくなる壁、第二部の壁は本筋からずれているかもしれないが、透明人間になった主人公の、皮膚としての壁、第三部の壁はいろいろあるが、魔法のチョークという話からだと、太陽光に当たらない範囲で絵を本物にする壁という感じだと思う。
     正直それが何を意味しているのかわからない。ただ解説に壁の中も外も同質みたいなことが書いてあったからそれがヒントになりそう。また読み直すしかない気がする。
     しかし、文章自体とても面白かった。ゾクゾクするような面白さがあった。安部公房は初めてだったから、こんな世界もあるのかと驚いた。
     チャットGPTの勧めで、カフカの変身の後に続けて読んだが、カフカのような不条理さがある。解説でもちゃんとカフカを扱ってるし、他の方の感想でもカフカの影響が語られている。チャットGPTって案外正しいこと言うんだって思った。
     これから同じく安部公房の箱男を読もうと思うけど不安でしかない

    0
    2025年12月25日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    久々の安部公房面白い。こんなにSF感あふれる作品を出してたのかと驚きます。また全編に死が充満しています。自分の子供の頃は死は日常だった。ばあちゃんは死んでしまうし、じいちゃんは死んでしまうし、叔父さんは死んでしまう。恐ろしいけど、人間はいつか死んでしまう儚い存在だということ思い知らされていたんだと思います。親戚付き合いも少なくなり、同居家族も少ない現代の子供は死に接する機会も少ないのかな?
    冒頭の作品からして若くして失業してしまった主人公が失意のあまり自殺を図る。が、どうせ死ぬんだったら役に立ってみないかと怪しい誘いにまんまと乗ってしまう。君そんなだから会社馘にになるんだよ〜。機械はその工業的能力において人間を超えるのみならず、思考し、選択し、記憶する。では、人間の存在理由はなにか?という問いかけに対し、”機械のよきしもべとなることである”と言い切っているシーンがあります。おいおいこれまさに今の話か!と驚くとともに、うすうす勘づいてきていたけど、やっぱりそうなのかなと背筋が寒くなる。もう死んだも同然の年齢になって、機械のしもべとしてしか役に立たないなら生きている死体だが、それすらできなかったら死んだ死体だ。どっちにしろ暗い未来しかないぞ汗

    0
    2025年12月09日
  • 箱男(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    序盤で物語に引き込まれるが、この展開と結末を予想できる読者はいないだろう

    登場人物は自分と看護婦と医者の3人、終盤に女教師が出てきて構成が大転回する

    0
    2025年11月18日
  • 箱男(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

     主人公って、常に目撃される側なわけですよね。そして常にその「視線」によって何者かであることを強制されている。その重圧に耐えて生きているんだと思うんです。
     この小説は読んでいて、見る見られるとはどういうことかを常に考えさせられました。箱男たちはなんとなく自らが主人公になることを拒んでいるような気がしました。主人公としての重圧、自分の人生を生きる重圧、それって私たちも日頃から少なからず感じているもので、箱男はそこから逃れて、「見る側」であることを選んでいるような気がします。
     「見る側」って読者である我々もそうですよね。私達は本という箱に入ることで、見られることから逃れている時、ある種の安堵感を得ています。でも、作者も同じ「見る側」なのかなと思いました。作者も結局は、自分で編み出した物語を見続けているイチ目撃者に過ぎなくて、時に登場人物たちは作者が動かしているのか、はたまた人物自ら動いているのか、分からなくなるんじゃないでしょうか。そう考えると、見る側にもそういった別の苦悩があって、見る見られるの関係は常に循環し続けているのかなと思います。
     自分を認識しているのは「私」でしょうか?それとも「あなた」でしょうか?自分とはそういう相互的な作用によって生み出されたものなのかもしれないですね。

     イチ箱男の長い感想でした。

    0
    2025年11月08日
  • 飢餓同盟(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    1954年に発表された、安部公房初の書き下ろし作品。
    過去に温泉で栄えた山あいの地方都市、花園町。地震をきっかけに温泉は途絶え、今では雪に埋もれたさびれた町に。
    キャラメル工事の主任・花井が中心となり、町内のよそ者たちが集結して結成された「飢餓同盟」。彼らは理想を叶えるための手段として、地熱発電所建設を計画します。
    町内を支配しているそれぞれの派閥の間で立ち回り共倒れさせようとしたり、メンバーを繋ぎ止めようとなだめたり…とにかく走り回って画策しまくる花井が忙しい。引きながらもついて行くメンバー達のキャラも濃い。
    とにかく花井がずっと尋常じゃないのと、メンバーの一人織木が体を張って地下を探る方法が…もう想像の範疇を超えてて頭が疲れてきます。(いい意味で)
    そして「まぁ、そうだよね…フー(脱力)」てな感じになるのですが…
    読みはじめは「登場人物多〜」と思ったのですが、これは大丈夫でした。
    ラストが異なるバージョンもあるとのこと。気になる〜

    0
    2025年11月05日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    最初から飛ばしています。ミステリっぽく始まりますがだんだん「これ何の話…?」的展開。とにかくスピード感があって止められません。
    諸々の突飛な話が繋がった時は何とも言えない「腑に落ちた〜」感が。
    万能の電子頭脳に平凡な中年男の未来を予言させようとしたことが発端となり、とんでもない事が次々に明るみになっていきます。
    いやいやまさか…な事が行われているのですが、安部公房の筆致に、思わず私も乏しい想像力をフル稼働させられてしまいました。
    あとがきの日付は1959年、ウィキペディアによると「日本で最初の本格長編SF」とのこと。
    予言機械にしたって、コレ60年以上前の作品!
    第四間氷期が終わろうとする時。そこに、それこそ天地がひっくり返るような未来を描いた安部公房。これはホントに衝撃。

    0
    2025年11月02日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    安部公房短編10編。今まで何冊か読んできて、私が感じた安部公房のイメージとなんかちょっと違うような…どこがってうまく言えないんですが。
    気になったのは
    ・「使者」また自称火星人出てきたー!(「人間そっくり」を以前読んだので)
    ・「賭」どんな建物?どんな会社なん?頭ゴチャゴチャしてくるし、会話文に「……」がやたら多くてなんかずっと怪しい…でもコレ好き。
    ・「なわ」「無関係な死」リアルな嫌さ。嫌だー。
    ・「人魚伝」砂の女みたいだなと思ってたら、オチがすごい。人魚すごい。
    ・「時の崖」ほとんど心象描写だけど、映像が見える。
    安部公房、面白い。引き続き読みます。

    0
    2025年10月25日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    火星にロケットが軟着陸しているまさにその時。
    主人公は「こんにちは火星人」というラジオ番組の台本を書く作家。
    そこへ「火星人のことで相談がある」と訪ねて来た客とのやり取りで話が進みます。
    客とその妻との連携プレーで話を聞くハメになってしまった主人公。(これが後からジワジワ怖い)
    話の要点はうやむやに、撹乱されていく主人公。この客は何?人間?人間そっくりの火星人?おかしな人間?
    屁理屈みたいで頭が痺れてくるような会話が続き
    ラスト急にめっちゃ怖い!
    トポロジーは最後まで難しかったですが…面白かった!

    0
    2025年09月29日