安部公房のレビュー一覧
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第一部の「S・カルマ氏の犯罪」はある日突然名前を失った男が、周りの人間から迫害され、最終的に壁になってしまう話。不条理小説であるカフカ『変身』の壁バージョンだろうか。いや、あちらは目覚めたらいきなり虫になっていた設定なのでちょっと違うか。でもモチーフは近いものを感じる。
第二部の「バベルの塔の狸」は、量子力学の考え方(タイムマシンが出てくるからアインシュタインの相対性理論か?)が所々にみられるのが印象的だけど、それが作品の本質じゃないことは明らか。じゃあ何?って聞かれるとゴニョゴニョだけど・・・
第三部の「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」は比較的読みやすいけど、それはそれで読後に残る -
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●あらすじ
ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている……。二本のペニスを持つ馬人間、出自が試験管の秘書、溶骨症の少女、〈仮面女〉など奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする。
(新潮社HPより抜粋)
●感想
これは難解…なんだけと面白…!
安部公房はいつもそうだけど時間軸が前後する上に今作では一人称視点、三人称視点が入り乱れて読者を一瞬たりとも安心させない(あるいは一度安心させる)仕掛けが至る -
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ネタバレ●あらすじ
自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられてゆく「無関係な死」など、10編を収録。
(新潮社ホームページより引用)
初めての安部公房。10篇の短編が収録されている。
文豪のつもりで読んだらかなりエンタメ寄りでびっくりしました。いつもオチでびっくりさせられるし、あるいはずっとハラハラして続きを読みたい気持ちにさせられます。文体はかなり比喩が多い。しかも言語感覚が独特。全然共感できない比喩もあれば、でも時々びっくりするぐらい鋭い比喩もあってどきどきしながら読みました。
特に好きだったのは「夢の兵士」「家」「なわ」「無関係な死」「人魚伝」「時 -
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最初の出だしはかいわれ大根?!となりましたが、すぐこれは死の物語なのか…と話の中身は分かり易く、時々ふっと笑ってしまうタイミングが合って、読みやすかった。澁澤龍彦の『高岡親王航海記』、安部公房版ですね。
安部公房の半生全然知りませんが、これが自身の闘病生活を綴っているのだとすると(そのようにしか見えませんでしたが)、かいわれ大根とか言いつつ…とか、やはり排泄にまつわる辛さや、変わる視点・意識など、最後はこうなるのかとひしひしと思いました。ところどころで描写や文言がささって、ふっと笑うんだけど、笑った瞬間悲しくなってました。オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨの歌が本当に -
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幻想的というか不条理というか、とにかく訳のわからない10編。でも読み終えてしまった。
夢の兵士:脱走者の正体にニヤリ。
誘惑者:駅での出来事。追う者と追われる者の逆転。立場の逆転好きだねえ。
家:死なない祖先。ホラー小説のようだ。
使者:嘘火星人の話。気が狂っているだけなのか?
透視図法:スルスルと登ってくる針金にゾッとした。
賭:頭のおかしい宣伝会社の話か?
なわ:壁に開けた覗き穴。壁とか穴とか好きだねえ。ドキドキの展開だけど犬が可哀想。
無関係な死:なぜ警察に通報しないのか?などと言ってはけないのかな。
人魚伝:緑の人魚。ねじ曲がった欲望の果て。
時の崖:ボクサーの心の動き。結局は飯、タバ -
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男は周囲に染まり切っていない自分をアピールするために謎めかして休暇を取り、その最中で砂の罠に嵌り、女との共同生活が始まる。脱出を試みる中で男が思う「自由」というのも決して壮麗ではなく、思い出すのは灰色の日常のみ。砂の家にいるときであっても男は何も変わっておらず、「逃げるたのしみ」に生を求めて生きているのは同じだったといえる。
だが、物語終盤になると「なぐさみ物」という男にある本質的な生きがいを見つけることになり、物語は終わる。
最終的に男は自分の人生に満足しているようだったが、とても虚しい終わり方だと思った。人は充実した人生を生きることができれば、それがどんな形であれ良いということなのだろう -
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半世紀以上の時を経て、2020年代の我々こそ切実に読む物語ではないだろうか。
私が最初に読んだ2006年ごろ、世間はweb 2.0の頃で、深層学習や機械学習以前。作中の「予言機」はまだ荒唐無稽なものとして捉えていた。
しかしchatGPT等のLLM(大規模言語モデル)と呼ばれるAIが現実に存在する2024年の私には、「予言機」は切実さを感じる存在で、明らかに2006年よりも、このお話自体の内容が切実に迫ってくる(chatGPTは予言のための機械ではないが、予言機はchatGPTのように未来を「生成」し、作中人物と対話している)。
64年の歳月を経ている作品が、直近約20年を挟んで、こんなにも読 -
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火星人についてのラジオ番組の脚本家の家に、自称火星人の気違い男が訪ねてきて、自分は本物の火星人だと思うか、自称火星人と名乗る気違いだと思うか、気違いだと思ってるんだろ、証拠を見せろ、、うんちゃらかんちゃら、、やってるうちに、まんまと相手の話術に乗せられ、とうとう自分が火星人だと言わされてしまう。
相手の話術もすごいけど、なぜ引き返せなくなったのか、、
結局、アイツは誰だったのか、、何が目的だったのか、、、
そもそも夢だったのか?
最初はどうなるのかと、展開や会話がおもしろかったけど、読んでるこちらまで、だんだん訪問者の口車に乗せられているような気がしてきて話をすっ飛ばしたくなる笑