安部公房のレビュー一覧

  • 壁(新潮文庫)

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    冒頭の「S・カルマ氏の犯罪」はゴーゴリの『鼻』を思わせる。名前を失った男の内なる「壁」が成長し、果ては自身を飲み込んでいく。名前は他者と区別する一つの壁かもしれない。そもそも、生物か否かの条件は、外界と隔てる壁があるか否かだ。人は壁がなければ生きていけないのかもしれない。

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    2023年10月09日
  • 壁(新潮文庫)

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    第一部の「S・カルマ氏の犯罪」はある日突然名前を失った男が、周りの人間から迫害され、最終的に壁になってしまう話。不条理小説であるカフカ『変身』の壁バージョンだろうか。いや、あちらは目覚めたらいきなり虫になっていた設定なのでちょっと違うか。でもモチーフは近いものを感じる。
    第二部の「バベルの塔の狸」は、量子力学の考え方(タイムマシンが出てくるからアインシュタインの相対性理論か?)が所々にみられるのが印象的だけど、それが作品の本質じゃないことは明らか。じゃあ何?って聞かれるとゴニョゴニョだけど・・・
    第三部の「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」は比較的読みやすいけど、それはそれで読後に残る

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    2023年10月01日
  • 壁(新潮文庫)

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    自分というアイデンティティ、自分と他者とを区別しているもの、自分が社会生活を営むために必要としているもの。
    それは、名前だったり、肩書きだったり、影であったり、家であったりする。
    それらをなくしたとき、自分は自分といえるのか、社会に存在し続けることはできるのか。

    壁は、社会生活に疲弊した自己を確立するためにも必要であるけれど、またその壁によって社会から隔てられ、拒絶され、隔離されたりもする。

    ちょっとしたファンタジーやブラックジョークに富んだ揶揄、メタ的な表現もありつつ、深い洞察を必要とする、味わい深い物語でした。

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    2023年08月27日
  • 密会(新潮文庫)

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    ●あらすじ
    ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている……。二本のペニスを持つ馬人間、出自が試験管の秘書、溶骨症の少女、〈仮面女〉など奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする。
    (新潮社HPより抜粋)

    ●感想
    これは難解…なんだけと面白…!
    安部公房はいつもそうだけど時間軸が前後する上に今作では一人称視点、三人称視点が入り乱れて読者を一瞬たりとも安心させない(あるいは一度安心させる)仕掛けが至る

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    2023年08月23日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ●あらすじ
    自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられてゆく「無関係な死」など、10編を収録。
    (新潮社ホームページより引用)


    初めての安部公房。10篇の短編が収録されている。
    文豪のつもりで読んだらかなりエンタメ寄りでびっくりしました。いつもオチでびっくりさせられるし、あるいはずっとハラハラして続きを読みたい気持ちにさせられます。文体はかなり比喩が多い。しかも言語感覚が独特。全然共感できない比喩もあれば、でも時々びっくりするぐらい鋭い比喩もあってどきどきしながら読みました。
    特に好きだったのは「夢の兵士」「家」「なわ」「無関係な死」「人魚伝」「時

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    2023年08月02日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    「R62号の発明」「鉛の卵」「変形の記録」は特に、心に残る素晴らしいSF。思慮と冒険に満ちた作品の数々。

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    2023年08月01日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    好きな長篇。
    サスペンス色が強く緊迫した雰囲気が、主人公と同調していく様で面白い。
    作者の先見の明という点で有名な本作だが、やはりこの時代でこの作品を生み出した安部公房は怪物という他ない。当時描かれていた未来を、現代から答え合わせ様々な考証が出来る有意義な一冊。

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    2023年07月23日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    安部公房全集29に所収のものを読んだ。読んだ、というか、訳が分からなくて飛ばし読み。
    訳が分からない、は褒め言葉で、ものすごいぶっ飛んでいてついていけなかったということ。
    なんだこれは。
    会社の新製品開発提案箱に冗談のつもりで「カンガルーノート」という落書きメモを提出して採用されてしまった男の脛にかいわれ大根が密生する。
    こわいー、脛がむずむずする。

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    2023年06月15日
  • カンガルー・ノート(新潮文庫)

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    最初の出だしはかいわれ大根?!となりましたが、すぐこれは死の物語なのか…と話の中身は分かり易く、時々ふっと笑ってしまうタイミングが合って、読みやすかった。澁澤龍彦の『高岡親王航海記』、安部公房版ですね。

    安部公房の半生全然知りませんが、これが自身の闘病生活を綴っているのだとすると(そのようにしか見えませんでしたが)、かいわれ大根とか言いつつ…とか、やはり排泄にまつわる辛さや、変わる視点・意識など、最後はこうなるのかとひしひしと思いました。ところどころで描写や文言がささって、ふっと笑うんだけど、笑った瞬間悲しくなってました。オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨの歌が本当に

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    2023年06月14日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    幻想的というか不条理というか、とにかく訳のわからない10編。でも読み終えてしまった。
    夢の兵士:脱走者の正体にニヤリ。
    誘惑者:駅での出来事。追う者と追われる者の逆転。立場の逆転好きだねえ。
    家:死なない祖先。ホラー小説のようだ。
    使者:嘘火星人の話。気が狂っているだけなのか?
    透視図法:スルスルと登ってくる針金にゾッとした。
    賭:頭のおかしい宣伝会社の話か?
    なわ:壁に開けた覗き穴。壁とか穴とか好きだねえ。ドキドキの展開だけど犬が可哀想。
    無関係な死:なぜ警察に通報しないのか?などと言ってはけないのかな。
    人魚伝:緑の人魚。ねじ曲がった欲望の果て。
    時の崖:ボクサーの心の動き。結局は飯、タバ

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    2023年04月10日
  • 砂の女(新潮文庫)

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    男は周囲に染まり切っていない自分をアピールするために謎めかして休暇を取り、その最中で砂の罠に嵌り、女との共同生活が始まる。脱出を試みる中で男が思う「自由」というのも決して壮麗ではなく、思い出すのは灰色の日常のみ。砂の家にいるときであっても男は何も変わっておらず、「逃げるたのしみ」に生を求めて生きているのは同じだったといえる。
    だが、物語終盤になると「なぐさみ物」という男にある本質的な生きがいを見つけることになり、物語は終わる。

    最終的に男は自分の人生に満足しているようだったが、とても虚しい終わり方だと思った。人は充実した人生を生きることができれば、それがどんな形であれ良いということなのだろう

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    2025年11月08日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    途中入り込みにくい篇もあったが、最後の鉛の卵にて、やはりこれ、という結末。「スカッとしない展開」という意味でスカッとする転換劇。気づくと安部公房の論理のすり鉢状の砂に飲み込まれている。

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    2023年03月12日
  • 第四間氷期(新潮文庫)

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    半世紀以上の時を経て、2020年代の我々こそ切実に読む物語ではないだろうか。
    私が最初に読んだ2006年ごろ、世間はweb 2.0の頃で、深層学習や機械学習以前。作中の「予言機」はまだ荒唐無稽なものとして捉えていた。
    しかしchatGPT等のLLM(大規模言語モデル)と呼ばれるAIが現実に存在する2024年の私には、「予言機」は切実さを感じる存在で、明らかに2006年よりも、このお話自体の内容が切実に迫ってくる(chatGPTは予言のための機械ではないが、予言機はchatGPTのように未来を「生成」し、作中人物と対話している)。
    64年の歳月を経ている作品が、直近約20年を挟んで、こんなにも読

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    2024年09月15日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    火星人についてのラジオ番組の脚本家の家に、自称火星人の気違い男が訪ねてきて、自分は本物の火星人だと思うか、自称火星人と名乗る気違いだと思うか、気違いだと思ってるんだろ、証拠を見せろ、、うんちゃらかんちゃら、、やってるうちに、まんまと相手の話術に乗せられ、とうとう自分が火星人だと言わされてしまう。
    相手の話術もすごいけど、なぜ引き返せなくなったのか、、
    結局、アイツは誰だったのか、、何が目的だったのか、、、
    そもそも夢だったのか?
    最初はどうなるのかと、展開や会話がおもしろかったけど、読んでるこちらまで、だんだん訪問者の口車に乗せられているような気がしてきて話をすっ飛ばしたくなる笑

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    2023年02月16日
  • 人間そっくり(新潮文庫)

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    SF作家に熱烈なファンが来訪してくる。来訪者の妻の電話によりグッと引き込まれ、来訪者が異常者なのかどうなのか主人公と同じ目線で判断する楽しさがあった。意味不明ながらも筋の通った論理を展開する所は安部公房らしくて読んでいて楽しかった。

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    2022年12月17日
  • 水中都市・デンドロカカリヤ(新潮文庫)

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    『友達』の原題にもなった『闖入者』が抜けてて素晴らしい。
    他収録作はシュールレアリスム寄りだが、安部公房作品では相対的に取っ付きやすい部類かもしれない。

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    2023年01月04日
  • 無関係な死・時の崖(新潮文庫)

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    表題作と『なわ』は一読の価値あり。
    砂の女と同時代の作品集にという事で、不条理・不愉快要素が強く自分は大変楽しめた。

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    2023年01月04日
  • 他人の顔(新潮文庫)

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    ヤマザキマリさんが阿部公房を紹介してたのでよんだ。
    本当は砂の女を読む予定だったけどなかったので。
    文学的な文章は慣れてないので読みづらかったけど、とりあえず読み切ってよかった。
    人の本質は顔だけじゃないという本人だけれど、顔に対してのコンプレックスや偏見を一番感じとっているのが自分でもがいているのが読んでいて痛々しい。
    もし自分だったら、、こんなくどくどと言い訳せず
    整形技術も上がっている時代なので整形するだろう。
    ただ、仮面を作っている過程が具体的でなおかつゾワゾワするような感覚になった。
    また読んでもっと深く理解したいと思った

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    2022年10月31日
  • 友達・棒になった男(新潮文庫)

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    『棒になった男』のシュールさ、『友達』の理不尽さ、『榎本武揚』のコミカルな会話劇と、バランスよく安部公房的作品が入った充実の1冊。

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    2023年01月13日
  • R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)

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    人間と人間以外のモノとの境界があいまいになるようなSFものが多い短編集。人間がロボットにされる「R62号の発明」、人間のような犬が出てくる「犬」、人間がただの棒になる「棒」、人間が塊になる「変形の記録」など。
    安部公房にしては読みやすいし分かりやすい。

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    2022年09月06日