【感想・ネタバレ】方舟さくら丸(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

地下採石場跡の巨大な洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた元カメラマン「モグラ」。[生きのびるための切符]を手に入れた三人の男女とモグラとの奇妙な共同生活が始まった。だが、洞窟に侵入者が現れた時、モグラの計画は崩れ始める。その上、便器に片足を吸い込まれ、身動きがとれなくなってしまったモグラは――。核時代の方舟に乗ることができる者は、誰なのか。現代文学の金字塔。(解説・J・W・カーペンター)

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面白かった。安部公房の中では比較的理解しやすい内容だったのでは。主人公の肥満男モグラは核戦争に備えた方舟を作り、ノアさながら乗船させる人間を選別していく。
肥満男のモグラのせいで昆虫屋がかたまりに思えてしまい、ずっと空気階段のコントを見てるような気持ちになってしまった。

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2025年03月27日

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性の威力
便器を中心に生活する滑稽さ
対しユープケッチャは自分のフンで生きる
人は大きな流れのユープケッチャとも言えるし正反対とも言える
政治的な側面や民主主義に関する疑問提唱でもあり、核戦争に対する皮肉でもある。自分が作った王国を危機に瀕死させて自分が脱出する。
そして、サクラ。サクラを題名に使い、それをわざと説明する安部公房は読者に対して何を言いたかったのか。
人は皆ある種のサクラであると伝えながら、サクラでいることも美しさの一つなのかもしれないと思わせた。

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2024年10月05日

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初めての阿部公房。読んではいないが映画やその他の情報からの「砂の女」の暗くて重いイメージで読む気になれなかった。しかしそのイメージ撤回。複雑で深く、喜劇的でもあっておもしろかった。世界が滅びても自分は生き延びるってどういうことだろう。

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2023年10月06日

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個人的には名作。
『密室』は苦手だったが、こちらは後期安部公房の寓話性とダンジョンの面白さが噛み合って先がとにかく気になった。
ラストの静寂と、もの寂しさは次作『カンガルーノート』に引き継がれる新鮮さでとても良かった。

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2023年01月03日

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次はどうなるの?どうなるの?と読書が止まらない作品でした。読み終わらない間のわくわく感と、自分もその場に居るようなスリル感。楽しくてしかたありませんでした。安部公房さんの本また読みたいと思う。

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2022年10月18日

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ネタバレ

贋物ユープケッチャからの始まりで、早速にも好奇心を鷲掴みにされた。
嘘か本当か分からないような情報と共に、サバイバルゲーム的な展開が繰り広げられる。
結局、ユープケッチャは何だったのか?
ユープケッチャに何を託そうとしたのかが分からない。
公房独特のクセの強いブラックユーモアもあり、そこで安心感と安定感を得る。
ノアの方舟には正直な、唯一の人間しか乗船できないらしい。
「砂の女」が苦手意識があり、初めに読んだ時は暑苦しいしで辛かったけれど、再読を決心させてくれた。
まだ公房作品に慣れないし掴めないまま「砂の女」を読んだ記憶があり、しかし本書は夢中になれたので、再読すればまた違う視点や感覚に触れられそうで仕方ない。
場面などは全く違うんだけれど、閉塞感が似ていることから決めた。
世界のあらゆる自分以外の人間が透明人間に見えたところ、案外他人なんてそんなものかもしれない。
モグラの他人に対する見方が変わった瞬間が凄く好きで、背中をぽんと叩いてあげたくなる。

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2022年04月18日

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学生時代以来の安部公房。
BOOKOFFで購入。
「砂の女」を読んで新婚旅行で鳥取砂丘に行ったくらいだから、学生時代にはわりと熱心に読んでいたと思う。
安部公房はくせがあり、最初にスッと入れないとなかなか読み通すのが難しいが、これはスッと入れた。
スマホもパソコンもほとんど普及していない時代、想像力の豊かすぎる主人公が核戦争に備えて巨大なシェルターを作り、「生き残るに値する人々」をスカウトする筈だったのだが…という話。
主人公を始め、出てくるのはいびつな人たちだ。いびつさが奇妙に誇張されグロテスクでさえある。
しかし、読後感はわりと爽やかだった。

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2022年02月27日

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放置された地下採石場跡の広大な洞窟に、モグラこと〈ぼく〉は核シェルター設備を作り住み込んだ。近づく核投下の日までにこの方舟に乗れる資格のある人を見つけて乗船切符を渡そうとするが、ひょんなことで3人の男女とシェルター内での共同生活が始まる。しかし洞窟に侵入者が現れ、仇敵とも言える父親からの連絡、さらには便器に片足を吸い込まれて身動きが取れなくなり〈ぼく〉の計画は崩れ始める。核による人類滅亡、シェルターにより生き延びる人たち、生き残った人たちによる新しい社会と平和、そうした一連の想像はすべて幻想であり現実逃避でしかない。逃避した先の世界もまた現実と変わらない。
冒頭で〈ぼく〉は自分の糞を食べて同じ場所をぐるぐる回って生きるユープケチャという昆虫をデパートの屋上で買う。先に購入していったカップルに釣られて買ったのだがその男女がサクラだったことが後でわかる。このサクラの男女と昆虫屋と一緒に共同生活を始めるのだ。虚構に虚構を重ねて第三者をその気にさせるサクラ。さくら丸の名前はそこから来ているのだろう。世の中はすべて幻であり虚構である。どの世界にも真実はあり、パラレルワールドのようにそれらはすべて一人ひとりの頭の中に作られる。つまり、人の頭の中は誰の力を借りなくても、ユープケチャのように自分が排泄したものを食べて同じ場所をぐるぐると生き続けている。昭和59年の作品である。核の時代、核があまりに遠い存在すぎて人はデストピアとユートピアの両方を想像していたが、それどころか時には核そのものが本当は存在しないのではないか、心配すること自体が無駄ではないかという気さえしていた。核があるから安全という人たちの世界と核がなければ安心と言う人たちの世界のどちらが真実なのか。そんな不安の時代に人は何を信じていたのか。あの頃、自分だけは無傷で生き延びるのではないかという根拠のない世界観の中で、誰もがユープケチャのように自分だけの理屈を勝手に吐き出しそれを咀嚼して自己満足していた気がする。いや、人生とはそんなものなのかもしれない

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2021年12月26日

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安部公房で一番好き。この作者は、閉塞的な環境の人間模様を書かせたらピカイチですね。

話変わるけど、ノーベル賞は安部公房に取ってほしかったなあ。あと数年生きていれば……。

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2019年07月07日

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ふと読み返したくなり再読。3年ぶりくらいに読んだが、印象が変わった。
安部公房後期の長編。この小説の見所は「登場人物全員悪役」ということだろう。しかも小悪党。それらの登場人物が騙し合い、出し抜き合い、物語は進む。
まず笑ったのが「デブ」の頻出具合。主人公のもぐら君がデブなんだけどデブやブタと言われたらキレる。ブタと呼ばれないために自らもぐらを名乗っているくらいだ。このもぐら君、なかなかスケベで女の尻を触ろうとしたりひっぱたこうとしたりする。笑いどころが意外に多い。
この小説は壮大な「かくれんぼ小説」だ。みなさんもかくれんぼの経験があるだろうが、そんなワクワク感がある。偽物という意味の「さくら」をタイトルに据えたのもいい。安部公房は「偽物」という響きが好きらしく、全集についてくる月報も「贋月報」の名前を冠している。けっこう分厚い小説ですがすぐに読めます。おすすめです。

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2014年09月27日

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読む本がなくなってしまったので、BooksKiosk新大阪店で買いました。
(2013年9/28)

男は、砂の穴からは逃げなかったけれど、
岩の穴からは逃げ出したんですね。
(2013年10月5日)

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2013年10月06日

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ネタバレ

核戦争の危機から逃れるための方舟。
その船長、“もぐら”はデパート屋上のガラクタ市場で、“ユープケッチャ”という、自分の糞を食べる閉鎖生態系を持つ虫を見つける。それは採石場跡の地下でひっそり、誰の干渉も受けずに暮らす“もぐら”彼自身のような存在だった。彼はユープケッチャを方舟の乗船審査基準として、生き残るための乗船券を渡す人物を探す。

デパートの屋上で出会ったサクラの男女二人組に、方舟の鍵を持ち逃げされ、“もぐら”はユープケッチャを売っていた昆虫屋と一緒に方舟へと向かう。たどり着くと二人はすでに侵入しており、船長もぐらは、サクラとその連れの女、そして昆虫屋とともに方舟の中で過ごすことになる。

そんな中、侵入者の存在が発覚し、方舟の計画は崩れ始める。もぐらの父、猪突(いのとつ)や、ビジネスの相棒、千石などが現れて、ストーリーは展開し、その上もぐらは、足を滑らせ地下にある便器に片足を吸い込まれて嵌ってしまう。

核シェルターというテーマにしては展開もそれほど大きくなく、時間にしても数日経たない間の物語。
核戦争の危機から逃れるということを建前にしながら、この小説のテーマは、社会からの隔離というものではないか。「生きのびるための切符」を渡す相手を探しながら、なかなか適切な人物を見けられない主人公。結局は地下でひとり誰の干渉も受けない暮らしに満足していたのかも知れない。世界と繋がりたいのだけれど、それがうまくできない男。登場人物たちは感情を言葉にしてあまり表に出さず、かわりに、身体的な接触、名前の呼び方や細かな仕草でそれぞれの感情が読み取れる文体。特に、主人公と昆虫屋の、女の尻叩きの儀式では、もぐらの女に対する欲望心と、昆虫屋への猜疑心が渦巻いている。

改めて、安部公房の文章は緻密すぎる。
冒頭からさまざまな伏線が引かれており、ほぼ完全に世界観を作ってから文章にしたのであろうことがよく分かる。天才。

≪豚≫という言葉にコンプレックスを感じている主人公はあまりにも卑屈に考えすぎていて、それがそのまま文章化されているので、慣れなかったらとても面倒くさいと思う。
でもそんな主人の苦悩やもがきがまわりまわって滑稽なものとなってしまう。

オチもいつもの安部公房作品と同じで、めちゃくちゃ考えさせられる。
それは脱出だったのか?それとも閉じ込められただけなのか?

ブラックユーモア、皮肉、苦悩、妄想。

悲惨な滑稽さ。

脱出の夢。

待っているのは透明な景色。

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2013年06月28日

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孤独と独善の中で方舟に引き篭もるモグラ。ひょんなことからそれが打ち破られ、予想外に自己の中に進出してくる。安倍文学らしい滑稽さを含みながら、現代社会の個人に対する影響力とそのシニカルな視点を提示している。

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2024年12月05日

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どこかのタイミングで戯曲のようなユーモアに引き摺られてしまい、砂の女とか他人の顔へのカチッとした読み方から抜けてしまった
だけど、やっぱりブラックユーモアの入れ方が半端なく上手い。情景も圧倒的だしプロットも完璧
存命しているうちに生で追うことができなかったのが悔やまれる作家no.1

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2024年07月27日

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ナショナリズムについて書かれた小説

同じ思想を持つ仲間を選び抜くというのは、違う思想の人々を排除することでもある。

ノアの方舟から着想、さくらは日本の象徴である。

小説に登場するユープケッチャという昆虫は、他者と一切の接触をせず生きる閉じた虫であるが、人間は完全に閉じることはできない。

※ユープケッチャは船底のような腹を支点に回転しながら、自分自身の糞を食べると同時に糞をし続け生きる。日中は頭が常に太陽の方向を向き夜になると眠り、時計虫とも呼ばれる。

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2021年01月16日

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安部公房 「 方舟さくら丸 」核シェルターを舞台とした近未来小説。

仕掛け(著者が提示したアイテム)が多いので、いろいろな捉え方ができる

著者にとって 人間の在るべき姿は、定着せず 移動し変化することであり、生きのびることより、最後まで 生の希望を持ち続けることであるというメッセージを感じた

近未来への警鐘的なテーマ
*自分の糞を餌として 移動せず 生きる虫(ユープケッチャ)と 便器にしゃがんだまま 旅を妄想する主人公を同一視している
*核兵器や便器を リセットボタンのように描いているが、リセットされても悲観的な人間像しか出していない
*生きのびるための切符配りやオリンピックの国家の出しゃばり具合にファシズムやナショナリズムを感じる


著者は 最後に 人間や街を「生き生きと死んでいる」と表現し、現実感のなさを 悲観したように思う


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2020年09月20日

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ネタバレ

高校生以来の安部公房。 内容よりもまず、文体と構成、言葉選びがかっこよすぎる。「物語」としての強度は言わずもがな、その独自の「形式」の圧倒的なセンス。ラインを引きながら読んでいたのだけれど、引く箇所があり過ぎた。 特に後半にかけてのスピード感と陶酔感、そして虚無感が素晴らしい。全編に散りばめられたブラック通り越した底が見えない、あの便器のように暗い黒いユーモア。

閉ざされた巨大空間、方舟、=王国。自らの「排他性」を他者の介入により自覚していく主人公=モグラ。外の世界では「棄民」とされ、またそれを自覚して強度を増す「ほうき隊」と呼ばれる老人男性集団の躁状態。
「統治」する快感と「統治」される快感。何も考えなくていい、という、平和。
現実から目を逸らして、死なないように生きる事は悪?
「信じていられれば、そのほうが幸せなのかもしれない。」
最後まで、「女」としか記述がないまま閉じていく女。 「女性性」の扱いもかなりグロテスクで悲惨に思った。
「女は女で、それ以上区別する必要なんかないと思ってるんだ。」
名前のない女の言葉。ほうき隊には婆さんはいない。戦争が好きなのは男ばかり。女子中学生を雌餓鬼と呼ぶほうき隊の副官。

めちゃくちゃに面白くて、最後、先述したが虚無感が半端なく。心して読むべし。

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2020年04月07日

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ネタバレ

こんなに不気味な喜劇があるのか

起こっていることを羅列するならばひどく喜劇的、あるいは滑稽である
しかし、どのエピソードも言葉では説明し難い不気味さを有している

ひたすら現実逃避し続けている”もぐら”
しかし、本人にとってはそれこそが現実であるという奇妙なコントラスト

そして、ひどく世俗的な理由から方舟に乗り込む3人

さらに、もぐらと一方では類似的な、”ほうき隊”の登場

僕たちはただ、大きな物語の中で生きているだけなのかもしれない

さらには選民と棄民のアイディアも秀逸

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2020年03月15日

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醜い外見をもつ主人公は来るべき核戦争に備えて石の採掘場跡を改造した方舟を作り、乗組員を探している。百貨店の催事で見つけたユープケッチャなる昆虫(自らの糞を食べることで自己完結できる)を購入したあと、昆虫屋に乗船チケットを渡すが、男女二人組のサクラにチケットを奪われてしまい...。あとは読みすすめていくことをお勧めする。因みに、日本で初めてワープロで執筆された小説らしい。
途中で出てくる女子中学生の下りあたりは随分唐突に感じた。掘り下げ方が足りないような。女子中学生獲得に躍起になる老人達は非常に滑稽。何処かふわふわした流れのなかで、ここだけが非常に人間くさい。主人公が女に触れて喜んでいたり、恐る恐る距離を詰めていこうとするあたりの心理描写は非常に上手。自己完結するユープケッチャは恐らく方舟の比喩なんだろうが、足などの器官が退化しているのに生殖は出来ないのでは?
作中に出てくるホコリ取りの機械のほか、ギミックは非常に凝っている。理系作家だよなぁ。

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2015年12月27日

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この本を読んで、映画CUBEを思い出した。CUBEの製作は1997年で、1984年に出版されたこの本とは互いに何の関係もないのはわかっているけど。

空間に閉じ込められた数人が、自分たちで予兆しえない事件や出来事に巻き込まれ、時間が進むにつれて当初の心理が微妙に壊れてゆき、その壊れる様子を追うという点では共通している。一般的に「不条理」とも括られそうな両者。非現実的な設定もさることながら、理解不能な状況の延々とした描写、そして「えっ!」って感嘆符と疑問符を幾つも付けたくなるようなラスト…
これは好き嫌いがはっきり分かれるだろうし、正直言ってレビューは書きづらい。力点を置く場所を見つけにくいから。しかし知的好奇心はくすぐられる。だから自分の空想力を思いっきり駆使して、この本のもつ「本当の面白さ」は何かを、紙を火にかざしてあぶり出しで書かれたものを読むような作業を自分に課すしかない。

この本の主人公は、核戦争による世界の終末を予測し採掘跡の広大な洞窟に武装してひとり立てこもりカウントダウンを待つ。ひとつ思ったのは、この本を現代言われるところの「引きこもり」の人が読めば、どういう感想を抱くか、ってこと。だって、自分だけの世界の構築、自己の肥大化、自分の容姿へのコンプレックス、他人に対する資格審査、選民思考、あげれば引きこもりに通じるキーワードはいくらでも出てくる。
でも、安部公房は後に社会問題化する引きこもりの人を描きたかったのだろうか?私はむしろ逆で、世間一般の人共通の精神的属性を、安部はすべて引きこもり的なものに集約させようとしていると思う。

結末で洞窟から外へ出た主人公が平和な日常を過ごす街全体やそこに住む人全体を改めて凝視し、死んでいると感じたという描写は、私たち誰もが宿命的に背負わされている疎外感を表現したかったのではないか。すなわち、引きこもって我が道を行く人生を送るのも、社会に出て日の光を浴びて暮らすのも、どちらも孤独だってこと。

そうすると、現代の「社会的排除」という言葉で表されるような、自分が望む望まないにかかわらず社会にいながら外界との接触がほとんどない人が現実的な存在として表面化したのは、そういう点で見れば不思議ではない。

CUBEは設定の妙から人間社会の不合理性をとことん突き詰めた形で一本の作品に結実させているが、この本はその不合理性を咀嚼したうえで、人が生きるうえでの孤立性を浮き彫りにしようとする意図を感じる。つまり、別に核戦争や自然災害を待つまでもなく、人はある意味孤独で、生きるうえで寂寥感を避けえないってこと。

その現実を受け入れ、「絆(きずな)」なんて言葉を安っぽく使わずに、寂寥感や排除とどう折り合いをつけ孤独に打ち勝てばいいのか。同じところを時計みたいにぐるぐる回りつづけ自分の糞を餌に生息する昆虫“ユープケッチャ”を登場させ期待をもたせるものの、現代病とも言える孤独や疎外感を解消する具体的な手法までは書かれていないので、星1つを減じたい。
(2013/1/2)

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2018年11月12日

Posted by ブクログ

悪夢と思って読んだら喜劇だった、そんな小説だ。「ぼく」と語る主人公は精神錯乱者のような一面を見せる。自らの糞を食料として半永久機関として存在する「ユープケッチャ」がシンボリックに用いられ、これから徐々に狂気じみた物語が始まる。、、、と思ったら昆虫屋やサクラ、女、老人、少年と次から次へ一癖も二癖もある人物が登場し、一方の主人公はエゴとエロを前面に押し出しながら凡庸に埋もれていく。後半はまさに文字通り便器に埋もれたままだ。描かれる世界は狂気そのものだし女子中学生狩りなどどロリコン的悪趣味も描かれるが、それらの異常性がブラックジョーク的な雰囲気を生み出している。

ノアは方舟へ各動物の番いを乗せたが、一種類の動物を複数乗せると方舟は出発さえしない、なんとも面白い着眼点ではないか。最後の「ぼく」はまさにキョトン状態だったろうが、読者も狐に化かされたような不思議な感覚を味わうことができよう。

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2015年11月01日

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ネタバレ

私はさくら丸では暮らしていけないなあと思う。そこまでして生き延びたいと思うわけでもない。
この計画は上手くいかない(あるいは昆虫屋にとっては上手くいっているのかもしれない)けれど、きっと、現実はそういうものなんだろうなと思った。どれだけ計画が素晴らしくても、それを実行するのは、計画を立てることよりもずっと難しい。

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2014年12月04日

Posted by ブクログ

近未来なのか現代なのか、はたまた世紀末的な退廃したマッドマックスのような世界なのか、今ひとつわからないまま始まって終わる、基本的に安部公房お得意の密室劇。安部公房作品によく有る、比喩にとらわれていると気がついたら場所が移動しているという作風なのだが、基本的に方舟(?)の中での移動と事件で、かつ一人称視点がブレないので、「密会」に比べると明らかに想像しやすい。いつもの追い詰められている感は少なく、どちらかと言うと登場人物全員の「疲れ」がひしひしと感じられる作。安部公房の初心者向けではないが、読みにくい方でもない。

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2014年06月16日

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 終末思想に囚われて採石場跡を地下核シェルターにしてしまった主人公とその乗組員になった昆虫屋の男、サクラの男女二人組が侵入者達と繰り広げるシェルターを巡った心理戦。現代版ノア箱舟。
 安部公房にしては読みやすい(例えば「箱男」や「砂の女」より)。独特のシュールな味もあり、ストーリーの盛り上がりもあり、哲学的な結末も分かりやすく着地している。深読みしたいと思えば深読みできるし、そうでなくても単純に読んでいて楽しいのは各キャラクターがたっているからだろう。主人公の妄執っぷりは無様で憐れだし、昆虫屋は信用できると思いきや女を巡って主人公と争うし、サクラ二人組は胡散臭そうで実は頼もしかったりするし、父親のクズっぷりや侵入者達の組織のバカらしさも印象深い。
 ラストシーンはつまりシェルターの内と外の区別がつかなくなったということだろうか。ひきこもりの消極的解放。というより解放の末の空虚。それはそれで一つの病理――もっと言えば現代病だという気がする。

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2013年08月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

中高生の頃にこの本を読んでいたら、男性というものへの不信感を募らせていたかもしれない。
女性に対する本能的な情動は仕方のない生理的反応なのかもしれないけど、正直結構読んでてぞわぞわした。そんなにスカートの裾って気になるもんなのか、、フィクションであってくれと願う。

選ばれし者たちというより社会からはみ出して生き方を失った人々の行先のよう。
自分たちがそこでは権力ピラミッドの最上位に君臨したい、でも民主的であって物分かりのよさをアピールはしていたい。
ただ結局は自分の好き嫌いという点での選別。
モグラの思考は分からなくはないけど、やはりひどく狭い。自分もそういう節がないかとヒヤヒヤしながら反面教師で読んだ。

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2023年12月17日

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砂の女より面白かった。登場人物が(砂の女より)多い分、物語が動く感じ。この閉塞した空間で次から次へ何かが起こって行く展開、ラストといい、舞台向きな気がする。と思ったら安部公房は戯曲も書くし、演劇活動されてた方なんですね。納得。

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2023年02月24日

Posted by ブクログ

世界の破滅から生き延びるための切符を売る主人公。設定は面白く序盤はワクワクしながら読んでました。しかし、想像を超えるような裏切りはなく、なんだか拍子抜け。少し物足りなさはありましたが、面白かったです。

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2023年01月28日

Posted by ブクログ

ずいぶん前に安部公房はこんな前衛的な作品を書いていた。地下の核シェルター。巨大便器。ユープケッチャ。方舟に乗って逃げ出せるのは一体誰なのか。

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2015年04月07日

Posted by ブクログ

超久しぶりに読んだ安部公房。核戦争が起きるかもしれないと廃坑を船に見立てて立てこもる太った主人公と、それにまつわる人たちの微妙にへんちくりんなやり取りが延々と。核戦争、って辺りが時代を感じてやや古臭かったけど、へんちくりんなやり取りはいかにも。

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2014年10月01日

Posted by ブクログ

もし自分がもぐらだったら、乗組員なんて求めずに
それこそユープケッチャのように閉鎖的に生きていくのになぁー
なんて思ってしまった。
そして、それはもぐらより排他的な考えなんだと気づいてへこんだ。

ラストはもぐらにとってハッピーエンドだったのか。バッドエンドだったのか。
まっすぐ立っているつもりが、いつのまにか地面がぐるっとひっくり返って
逆立ちさせられてるような気分。
女への尻叩きで表現される駆け引きの変態性がたまらない。

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2013年09月23日

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