【感想・ネタバレ】方舟さくら丸(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

地下採石場跡の巨大な洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた元カメラマン「モグラ」。[生きのびるための切符]を手に入れた三人の男女とモグラとの奇妙な共同生活が始まった。だが、洞窟に侵入者が現れた時、モグラの計画は崩れ始める。その上、便器に片足を吸い込まれ、身動きがとれなくなってしまったモグラは――。核時代の方舟に乗ることができる者は、誰なのか。現代文学の金字塔。(解説・J・W・カーペンター)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

贋物ユープケッチャからの始まりで、早速にも好奇心を鷲掴みにされた。
嘘か本当か分からないような情報と共に、サバイバルゲーム的な展開が繰り広げられる。
結局、ユープケッチャは何だったのか?
ユープケッチャに何を託そうとしたのかが分からない。
公房独特のクセの強いブラックユーモアもあり、そこで安心感と安定感を得る。
ノアの方舟には正直な、唯一の人間しか乗船できないらしい。
「砂の女」が苦手意識があり、初めに読んだ時は暑苦しいしで辛かったけれど、再読を決心させてくれた。
まだ公房作品に慣れないし掴めないまま「砂の女」を読んだ記憶があり、しかし本書は夢中になれたので、再読すればまた違う視点や感覚に触れられそうで仕方ない。
場面などは全く違うんだけれど、閉塞感が似ていることから決めた。
世界のあらゆる自分以外の人間が透明人間に見えたところ、案外他人なんてそんなものかもしれない。
モグラの他人に対する見方が変わった瞬間が凄く好きで、背中をぽんと叩いてあげたくなる。

0
2022年04月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

核戦争の危機から逃れるための方舟。
その船長、“もぐら”はデパート屋上のガラクタ市場で、“ユープケッチャ”という、自分の糞を食べる閉鎖生態系を持つ虫を見つける。それは採石場跡の地下でひっそり、誰の干渉も受けずに暮らす“もぐら”彼自身のような存在だった。彼はユープケッチャを方舟の乗船審査基準として、生き残るための乗船券を渡す人物を探す。

デパートの屋上で出会ったサクラの男女二人組に、方舟の鍵を持ち逃げされ、“もぐら”はユープケッチャを売っていた昆虫屋と一緒に方舟へと向かう。たどり着くと二人はすでに侵入しており、船長もぐらは、サクラとその連れの女、そして昆虫屋とともに方舟の中で過ごすことになる。

そんな中、侵入者の存在が発覚し、方舟の計画は崩れ始める。もぐらの父、猪突(いのとつ)や、ビジネスの相棒、千石などが現れて、ストーリーは展開し、その上もぐらは、足を滑らせ地下にある便器に片足を吸い込まれて嵌ってしまう。

核シェルターというテーマにしては展開もそれほど大きくなく、時間にしても数日経たない間の物語。
核戦争の危機から逃れるということを建前にしながら、この小説のテーマは、社会からの隔離というものではないか。「生きのびるための切符」を渡す相手を探しながら、なかなか適切な人物を見けられない主人公。結局は地下でひとり誰の干渉も受けない暮らしに満足していたのかも知れない。世界と繋がりたいのだけれど、それがうまくできない男。登場人物たちは感情を言葉にしてあまり表に出さず、かわりに、身体的な接触、名前の呼び方や細かな仕草でそれぞれの感情が読み取れる文体。特に、主人公と昆虫屋の、女の尻叩きの儀式では、もぐらの女に対する欲望心と、昆虫屋への猜疑心が渦巻いている。

改めて、安部公房の文章は緻密すぎる。
冒頭からさまざまな伏線が引かれており、ほぼ完全に世界観を作ってから文章にしたのであろうことがよく分かる。天才。

≪豚≫という言葉にコンプレックスを感じている主人公はあまりにも卑屈に考えすぎていて、それがそのまま文章化されているので、慣れなかったらとても面倒くさいと思う。
でもそんな主人の苦悩やもがきがまわりまわって滑稽なものとなってしまう。

オチもいつもの安部公房作品と同じで、めちゃくちゃ考えさせられる。
それは脱出だったのか?それとも閉じ込められただけなのか?

ブラックユーモア、皮肉、苦悩、妄想。

悲惨な滑稽さ。

脱出の夢。

待っているのは透明な景色。

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2013年06月28日

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ネタバレ

高校生以来の安部公房。 内容よりもまず、文体と構成、言葉選びがかっこよすぎる。「物語」としての強度は言わずもがな、その独自の「形式」の圧倒的なセンス。ラインを引きながら読んでいたのだけれど、引く箇所があり過ぎた。 特に後半にかけてのスピード感と陶酔感、そして虚無感が素晴らしい。全編に散りばめられたブラック通り越した底が見えない、あの便器のように暗い黒いユーモア。

閉ざされた巨大空間、方舟、=王国。自らの「排他性」を他者の介入により自覚していく主人公=モグラ。外の世界では「棄民」とされ、またそれを自覚して強度を増す「ほうき隊」と呼ばれる老人男性集団の躁状態。
「統治」する快感と「統治」される快感。何も考えなくていい、という、平和。
現実から目を逸らして、死なないように生きる事は悪?
「信じていられれば、そのほうが幸せなのかもしれない。」
最後まで、「女」としか記述がないまま閉じていく女。 「女性性」の扱いもかなりグロテスクで悲惨に思った。
「女は女で、それ以上区別する必要なんかないと思ってるんだ。」
名前のない女の言葉。ほうき隊には婆さんはいない。戦争が好きなのは男ばかり。女子中学生を雌餓鬼と呼ぶほうき隊の副官。

めちゃくちゃに面白くて、最後、先述したが虚無感が半端なく。心して読むべし。

0
2020年04月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

こんなに不気味な喜劇があるのか

起こっていることを羅列するならばひどく喜劇的、あるいは滑稽である
しかし、どのエピソードも言葉では説明し難い不気味さを有している

ひたすら現実逃避し続けている”もぐら”
しかし、本人にとってはそれこそが現実であるという奇妙なコントラスト

そして、ひどく世俗的な理由から方舟に乗り込む3人

さらに、もぐらと一方では類似的な、”ほうき隊”の登場

僕たちはただ、大きな物語の中で生きているだけなのかもしれない

さらには選民と棄民のアイディアも秀逸

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2020年03月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

私はさくら丸では暮らしていけないなあと思う。そこまでして生き延びたいと思うわけでもない。
この計画は上手くいかない(あるいは昆虫屋にとっては上手くいっているのかもしれない)けれど、きっと、現実はそういうものなんだろうなと思った。どれだけ計画が素晴らしくても、それを実行するのは、計画を立てることよりもずっと難しい。

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2014年12月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

中高生の頃にこの本を読んでいたら、男性というものへの不信感を募らせていたかもしれない。
女性に対する本能的な情動は仕方のない生理的反応なのかもしれないけど、正直結構読んでてぞわぞわした。そんなにスカートの裾って気になるもんなのか、、フィクションであってくれと願う。

選ばれし者たちというより社会からはみ出して生き方を失った人々の行先のよう。
自分たちがそこでは権力ピラミッドの最上位に君臨したい、でも民主的であって物分かりのよさをアピールはしていたい。
ただ結局は自分の好き嫌いという点での選別。
モグラの思考は分からなくはないけど、やはりひどく狭い。自分もそういう節がないかとヒヤヒヤしながら反面教師で読んだ。

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2023年12月17日

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