田中啓文のレビュー一覧
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田中 啓文 『蠅の王』
(原題『ベルゼブブ』・徳間書店・2001年11月/角川ホラー文庫・2008年1月)
ある遺跡で、無数の赤子の骨と一つの壷が発掘された。
その封印が解かれた時、この世は底知れぬ“悪意”で満たされた。
突如、東京で頻発しだした奇怪な児童殺人。
地底から幼児の呪歌が湧き上がる異常の街に、悪魔教団が姿を現す。
その頃、一人の少女が身に覚えのない妊娠をした。
生まれ出ようとしているのは何者なのか?そして、巨大な呪いは誰のものか?
想像もつかぬ真実がついに解き明かされたとき、“蠅の王”が出現した。(セブンアンドワイHPより)
この伝奇ホラー、というジャンル、当たりが少ない籤をひくようなものだと認識しているので敬遠気味であったのだが、あの田中啓文が・・・、と思わず手にとってしまった。
「あの」田中啓文と言っても、最近は落語やジャズを題材にしたミステリの方で注目されてたのでそのイメージしかなかったのだが、そういえば『ミズチ』も角川ホラー文庫だし、SFもいろいろ書く人だったはず。『馬子』や『蹴りたい田中』もたしかこの人だったなぁ。
で、肝心の内容はと言うと、可もなく不可もなく、であった。
蠅や蜂、蛾、蟻に蓑虫と、これでもかと虫が出てきて、これでもかと人が死ぬ話。
生来の虫嫌いの私には刺激が強すぎると思っていたが、「怖いモノ見たさ」で結構楽しめた。
無論、これが映像化などされようものなら、それこそ失神もしくは瀕死状態は不可避だったろう。
しかし深層意識の虫バリアーが脳内での映像化を固く拒否してくれたので、無駄なエネルギーを使うことなくスラスラ読めた。
田中啓文はもともとエログロダジャレの人なんだから、こんな省エネな読み方は邪道なわけで、本来味わうべきカタルシスの何分の一しか味わえていないだろうが、もう満腹、ごちそうさま、である。
キリスト教信仰と悪魔信仰、カルト教団と言った具材に、SF的要素を味付け程度に加え、うまく料理している気もするが、そこの掘り下げというか、ビックリ感が希薄であったのが惜しい。
これだけの筆力があるのなら、もっと荒唐無稽な展開、驚天動地の真相を、と期待してしまう。
と言っても、あとがきを読むと、これからもこのタイプのやばい伝奇ホラーをばんばん書く、と宣言してらっしゃるので、このまま期待外れに終わることはまずないだろう。
次は何とぞ虫以外でお願いいたします。
ところで、こんなダークな話なのに割と核心に近いところにダジャレを入れてくるその勇気は買い、だ。
あと、神様の造形も出色!最後のほうのセリフなんて、ただのおっさんになってて爆笑モノであった。
70点(100点満点)。 -
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本当にアホな作品(最上級の褒め言葉)
タイトルからすごいが、内容も負けず劣らずふざけている。
本作品は茶川賞(芥川賞ではない)を受賞した後、失踪した田中氏の短編集という体をなしている。それぞれの作品は九割がた駄洒落で構成されたSFであり、相変わらず田中啓文らしい作品である。
一番面白かったのは、「地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場」。ウルトラシリーズを中心とした昭和特撮臭が溢れるこの作品は、特撮ファンならきっと食指に触れるはず。話自体はくだらないが、作者のあふれる特撮愛が感じられた。「トリフィドの日」とかも、パロディ元の作者の名前が「ウィンダム」だからって、登場人物を某特撮シリーズのキャラクターにしたのには吹いた。 -
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「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズで御馴染かつお気入り作家・田中啓文の「チュウは忠臣蔵のチュウ」に続く時代小説版お笑いミステリーだ。
京都で斬首されたはず石田三成が米沢藩に生きのびていたが、いつしか幕府の知るところとなり坊主姿になりそこから密かに抜け出して南へ向け旅立つ。柳生十兵衛を追っ手として振り向けるが、坊主姿の三成と付き添いの腐乱坊そして行きずりの彦七の三人組は果たして追っ手を振り切れるのか。
三成と言うと何となく細面で切れ者というイメージがあるが、ここでの三成は「チビで真ん丸顔」のひょうきん者だ。米沢藩の追っ手が顔も知らずに三成を探索に訪れた茶屋の親父に「怪しい二人連れは見なかったか」と尋ね親父が三成を指さすと、その顔に吹き出し「俺が探しているのはこんなチビでは無い」と怒り出したりするのが笑える。
旅の途中では小さな村で悪徳神官の悪だくみを暴いたり、無人島で宝探しをする漁師を救っては「かっ、かっ、かっ、かっ」と高笑いしたりする姿はまるで水戸黄門様のテレビのようだ。そして最後の目的地である薩摩で出会う男は誰なのか?
という荒唐無稽な設定の軽い読み物ではあるが、諸国漫遊・水戸黄門のパロディ路線を行くのか、それとも戦国武将が沢山生き延びているという設定を追求するのかどちらかに徹底したほうが良かったような気がする。物語としては面白いのだが、腹の底から笑えるかというとそうでもない。両者を追うことでやや中途半端な感じが残るのかも知れない。 -
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ミステリーにカテゴリわけしたけど、あんまミステリーっぽくはないかな。コナン要素はあるんだけど。
バンドマン(笑)をなんとなく目指していたらしいヤンキー(笑)の竜二が、担任に無理矢理酒飲みの落語家のとこへ弟子入りさせられるのが冒頭。
それから、落語の話に合わせた謎解きを孕んだ、竜二の成長物語的ジュブナイル。…だと、私は思っている。
転職する前、昼休みがその時間なので見ていた『ちりとてちん』をなんとなく思い出したので、噺家さんの仕組みみたいの、なんとなくすんなり理解できたかな。まったく知らずに読んだら、その辺については微妙かも(あんま説明がない。常識なの?)。でも、話は面白いので知らなくても楽しめると思う。落語のネタについては、短編がはじまるまえに本職の人が一頁にまとめてくれてあるから、心配ナッシング。
粗茶一服シリーズ(主人公はちょっと拗ねてるけど実は天才、師匠はロクデナシだけど実はすごい人、何気に師弟愛、メインは主人公の成長、何気に師弟愛、大事なことなのでry)が好きな人は多分好物。
ミステリー好きには正直NG。割と成長物語の方に重きをおいてるように思います。
これ、テレビドラマ向きの話だと思います。
ただ、それはただのタイガー&ドラゴンです(笑)。
※タイガー&ドラゴンより前に書かれた作品です -
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“保志野は目を丸くして、比夏留の食べっぷりを見守っていた。十人前はありそうな、山盛りのマカロニが、みるみる減っていく。
「あいかわらず……すごいよねえ……」
「だって、おなか減ってるんだもん。ここんとこ体育祭の準備で昼ご飯抜きだったし、こないだ血を飲んだでしょう。あれから気持ち悪くて、病院でもご飯が食べられなくなっちゃって……やっと元通りになったの」
「諸星さんでも食べられなくなることあったんだ」
「そーなの。ちょっと痩せたんだから」
「えっ、ほんと?」
「ほんとよ。二百十二キロに落ちて、ショックだった。もちろん、もう戻したけどね」
ぱくぱく、ぱくぱく。
「でも、今度のことでは保志野くんの『わかったああああ!』が聞けなかったね。ちょっとさびしいかも」
「いまいち、出番がなかったですね。ま、いいんですけど」
ぱくぱく、ぱくぱく。”
最終巻。
保志野かっこえー。
そしてどこまでもとんでも設定。
楽しかった。
“「森のみんなのことを、語り継ぐことが必要だよね。たとえ、誰も信じてくれなくても」
「もちろん」
「——じゃあ、民研に入らない?」
「えっ……」
予想外の申し出に、保志野はためらいの表情を見せたが、
「わかりました。薮田先生とも、これからはうまくやっていけそうですし」
「やったー。新入部員ゲット。犬せん、喜ぶぞー」
比夏留が万歳を叫ぼうとしたとき、
「でも、ひとつだけ条件があります」
「何?」
「特典をください」
「——へ?」
「今、ここで」
そう言って保志野は、比夏留の唇にそっとキスをした。
比夏留は、数分間、蝋人形のようにかたまっていたが、やがて、身体中の空気がなくなりそうなほどの長い長い息を吐いてから立ちあがった。
「今から、行かない?」
「ど、どこへ……?」
「おいしい中華料理屋さん見つけたの。もちろん保志野くんのおごりでね」
「どうしてぼくが……」
「新入部員は先輩の命令には絶対服従よ。中華料理のあとは、えーと……スパゲッティ屋さんに行こうかな。最後のシメは、お寿司屋なんていいかも」
保志野の顔が青ざめた。” -
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“「今です。はやく……」
保志野だった。保志野は、倒れた弾次郎を抱え起こそうとしたが、もちろんそれはむり。比夏留が、
「えいっ」
と気合をいれて、父親を立たせた。
「パパ、大丈夫……?」
「あ、ああ……ちょっとふらついただけだ。——きみは?」
「お嬢さんの級友で、保志野ともうします。はじめまして」
「え?はあ……その……こちらこそはじめまして」
「そんなことやってる場合じゃないでしょ。逃げなきゃ」
保志野が松明を鳥に投げつけると、下腹部に当たって、鳥ははばたきながら飛び退いた。
「今です!」
三人は逃げる。やっと洞窟の入り口に到達し、外へ。
ぜいぜいはあはあぜいぜいはあはあ。鍛えているとはいえ、比夏留と弾次郎は重すぎるし、保志野はふだん運動をしていないつけがまわってきて、三人はそれ以上一歩も進めず、小川のほとりにへたりこみ、荒い息をついた。”
またもとんでも。
保志野がなかなか好き。
“「ようい、はじめっ」
大会委員長の掛け声によって、競技がはじまった。盛岡の大会は十五分勝負、花巻は五分勝負であるが、この村のルールは、食べられなくなるまでのデスマッチである。元椀と呼ばれる椀を手に持ち、なかの蕎麦を一口ですすりこむ。からになった元椀をちょいと上げると、隣に立っている給仕係が椀に入った一口分の蕎麦を放り込み、その椀を重ねていく。花巻や盛岡のものよりは多いとはいえ、この村のわんこそばも一回分の量は少ないが、それでも百杯、二百杯と食べると、そうとう腹にこたえる。薬味として、葱、海苔、削り節、まぐろ、とりそぼろ、なめこおろし、くるみ……などがあるが、それらを食べていては蕎麦が食べられないので、競技の際は薬味は取らないのが基本である。もちろん、つゆも飲まない。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ」
「よっさあ、よっさあ、よっさあ、よっさあ」
「いーあるさんすーうーりゅーちーぱー」
「とんとことんとこ、すっとこすっとこ」
「うんこまちんたまきんたまぎんたま」
変な囃し声にあおられて、出場者は次々と蕎麦を平らげ、椀を重ねていく。しかし、比夏留はペースが遅い。ほとんどの出場者は三百杯を越し、羊歯山にいたっては四百杯の大台にのろうかという状況なのに、彼女はまだ二百杯と少しである。それもそのはず。比夏留は、ひと椀ごとにあらゆる薬味を椀のなかにぶち込み、つゆも味わってごくごく飲み干しているではないか。
「おいしーっ、このなめこおろし。薬味、おかわりねっ」
「あのー、差しでがましいこと言うようざが、あんまり薬味喰うと蕎麦が食べられねっぜ」
給仕が耳打ちしたが、
「だって、おいしいんだもん。もっともっと持ってきて」” -
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“まず、大盛りカレーライス(味が薄くて超まずい)。これでもかとばかりにカレールーのかけられたてんこもりの飯がスプーンで突き崩され、雪崩のように口に吸い込まれていく。まわりの級友たちは、三人前はありそうなその飯の山がみるみる消えていくさまを呆然と見つめていた。だが、それでことは終わらなかった。続いて、大盛りきつねうどん(味が濃くて超まずい)。洗面器のような丼に入ったうどんは、五玉はあるだろう。そのうえに揚げが五枚、蓋のように並べられている。スプーンを箸に持ち替えると、一分一秒でも惜しいというように、凄まじい勢いで麺を啜り込む。ずずずずっ、ずずずずずずっ、ずずずずずずずっ……。天井が落ちてきそうなほどの音を発しつつ、熱い汁をものともせず、大量のうどんを平らげていく。極めつけは、大盛りカレーうどんだった(味が薄いような濃いようなで超まずい)。本来、ここの学食のメニューはカレーライスときつねうどんと菓子パンだけなのだが、特別に注文して作ってもらったのだ。周囲に黄色い飛沫を撒き散らしながら、トドのようにうどんと格闘する彼女を、皆は少し離れたところから、檻のなかの猛獣を見るような目つきで見守っている。あっさりとその三品を片づけるのを目撃したあとでは、そのあと食べたジャムパン、クリームパン、あんパンが、デザートのようにしか映らなかった。しかも、彼女は、二時間目と三時間目の間の休憩時間に、早弁で、家から持参した弁当を食べている。それも、いわゆるドカベンという、縦横高さがほぼ同じの立方体みたいな馬鹿でかいやつにご飯をぎっしり詰めたものだ。
彼女は、誰かと早食いや大食いを競って、こんなことをしているわけではない。新学期がはじまってまだ三日目だが、その間の彼女の食べっぷりを見たことのある生徒たちは知っていた。これが、彼女の当たり前の食事スタイルなのだ。
あんパンを食べ終わって、立ちあがったとき、まばらな拍手が起こったが、気にとめた様子もなく、彼女は食堂の出口を目指して歩き出した。
諸星比夏留は、ここ私立田中善八学園高等学校の新入生だ。背は百五十五センチと低く、胸も薄く、華奢な体躯である。胃のあたりもまるで突出しておらず、今食べたあの膨大な食べ物はどこにいったのだろう。髪は短く、両側を刈りあげているので、ボーイッシュに見える。大きくくりくりした一重瞼の目に、小さくてつんと上を向いた鼻。くすんだ藍色のジーパンに、「ちくわもとうふもおなじおでんのなかまさ」と大書きされたTシャツ。ごく普通の女子生徒に見える。”
メンバーが皆個性的で面白い。
とんでも歴史とありえない展開とか。
楽しめる。
あと、お腹空く。
比夏留、まるで「学園」の木乃みたい。体質(?)が羨ましすぎる。
“「じゃあ、一部始終を……」
「うん、だいたい見ていました。なかなか面白いですね」
「人がたくさん死んだのよ。面白がってる場合じゃないわ」
「ごめんなさい。面白いといったのは、そういう意味じゃないんです。旅館でどういうことが起きたのか、もう少し詳しくききたいんですけど」
比夏留は、自分の知っている限りのことを保志野に話した。できるだけ主観をまじえずに話そうと努力したが、目に見えぬものの声を聞いたり、身体が自分の意思に反して動いたことなどは、どうしても主観的な話し方になってしまう。
「なるほど……なるほどなるほど」
最初こそ質問を挟んでいたが、そのうちに保志野は相槌を打つばかりになり、途中からは黙って比夏留の話に聞き入っていた。だが、その目が微妙な光を帯びてきているので、比夏留は彼が興奮しているとわかった。保志野は、民俗学の話に夢中になると、人格が豹変するのだ。
「ちょっと待ってください。さっき、パンティ・ストッキングで絞め殺したと言いましたね」
「ええ……それが何か」
「パンティ・ストッキング……ストッキング……スト……」
保志野は、両手で洞窟の床を叩いた。ゴミと土が舞いあがった。
「わかったああああっ!」
来たな、と比夏留は思った。
「わかったぜ、何もかも。そうか、そういうことだったのか」
「どういうこと?」
「教えてやろうか、比夏留」
「ええ」”