新田次郎のレビュー一覧
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新田次郎の小説は三作読んだ。三作程度の手探り状態でこんなこと言ってしまうのも図々しいかもしれないけれど、作風というか文体というか、クセみたいなものをおぼろげながら感じて、それがとても印象的だった。
一つは、たとえるならえなりかずき的な大根演技を見ているようなわざとらしさであり、また一つは、主人公がなにかしらの弱点を抱えていることである。「えなりかずき的」といってもわかりにくいかもしれないが、とにかく淡々としたテンポでひたひたと心情を描写する瞬間が存在し、そのときたしかに「えなりかずき的」な迫力が現れるのである。もう一方は見ていてわかりやすい。どんな英傑でも人間の営みを超えるようなお化け的存在ではない、という当たり前のことを教えてくれる。
さて、信玄である。
冷徹なまでの合理性と、戦国最強ともいえる戦術家真田昌幸らを腹心に抱えるまでの威風、また美人の嫁達を備えていた。
くそー!
あれ?
が、労咳という病も同時に抱え、後々まで影を落としてゆくことになる。或いは踏みにじられた人々の怨嗟がそうさせたのか、ともこじつけたくなるが、しかし現実は恨みとも感謝ともかかわりなく進んでいくのだろう。
そして今、風林火山の旗はここにそよぐ。(格好つけさせてちょうだいな -
Posted by ブクログ
山登り経験などない自分にとっては、登山描写が珍しく迫真的記述に圧倒されて、なかなか面白かった。
山男2人に、類を見ない山女?の女王、そしてそれに絡み付く悪女?の男女4人の恋のさや当てを基軸に、雪山登山に挑む登山家3人の戦いを描く。
女王様のような千穂に振り回される男2人と、その2人を罠にはめる美根子がこの物語を実行支配しているが、千穂の性格描写がいまひとつすっきりこず、ここだけが少し残念なところだ。だが、そうした情念の物語とパラレルに進む登山描写は、色彩・音・皮膚に強く訴えかけるほど印象的であり、これが現実感を引きだしている。
そう、これは雪山登山そのものが主題なのだ。
ところで、裏表紙のあらすじ説明で概要が要約されているのはいかがなものなんだろうなあ。(笑) -
Posted by ブクログ
新田次郎の「武田信玄」は良くも悪しくも「歴史小説」の名にふさわしい気がする。あくまでも歴史の事実に忠実な印象がある。10年ぶりに読み直してもその印象は変わらず、ダラダラとした長すぎる印象もなくはないが実直な事実への安心感はある。
信長ばかりでなく、信玄も結構残虐な行為をしていたんだな、とあらためて思う。「人は城、人は石垣…」という言葉からして、善政を施していた印象もあるが、そうではない部分もあったのだ。そんな矛盾点を新田は、「風」の巻では病気によるものと理由付けているが、『沢彦』でも感じた作者の苦しさをここでも感じてしまう。歴史の上での謎、疑問をどのような形で理由付けするのか、この辺が歴史小説を書く上での苦労でもあり、面白みでもあるのかもしれない。
偶然、古いビデオから「風林火山」というこれまた古い映画を発見して、観たばかりだったが、そちらでは三船敏郎が演じて大活躍だった軍師山本勘助が間者だったりして、実在が疑われている人物であることを知り、新田の事実へ基づこうとする態度を再度確認した。 -
Posted by ブクログ
凄い。主人公が事件を経て高校生から社会人になるのと同時に
作品自体も一気に化けたなあという印象です。
ド迫力且つ緻密な画力と勢いはそのままに、最初と比べて
意外な展開、社会的な柵との闘争、心象を暗喩する描写など
一気に冷厳な話になってきました。扱われるギミックも黒い物へ。
台詞やモノローグでなく、絵でここまで感情が叩き付けられているのは凄い。
大いなるトラジディと比類なき荘厳な美しさ、その真逆の事象が
矛盾する事無く成立している様態がまさに山という名の孤高の境地。
心象では「孤高」よりも「孤独」が強く描かれている印象ですが、
テーマにどんどん斬り込んで来て、痛みすら感じます。
孤高に達する事は決してハッピーエンドとは言い切れないとしても。
作者コメントにもその辺に対する静かな熱さが現れてますね。
そして、K2東壁という最大目標が掲げられている事で
色々な要素がありながらも、ブレずに話を追っていけます。
今の所、間違いなく傑作。 -
Posted by ブクログ
いわゆる長篠合戦は、自慢の騎馬部隊でつっこんでくる武田軍を、3段が前の鉄砲隊を全面に立てた織田・家康連合軍が打ち破ったというのが、僕の理解である。おおむね、そんなふうなのが定説ではないかなと思う。
つまるところ、旧態依然とした田舎者が負け、近代兵器と柔軟な頭を持った都会人が勝つ、という図式である。
が、この本はそれを真っ向から否定する。考えてみれば、最初はそういう状態になったとしても、大敗するまでつっこみ続けるバカはいないだろうのはその通りだ。もうひとつまとまりきれない武田軍の欠点を、信長の調略が着いたという物語運びは説得力があった。
ひたすら悪者になってしまった穴山信君には申し訳ない気がするが…(個人的に、以前からこの人に対するイメージが悪いのはなぜだろうと思っていたのだが、どうやら初期「信長の野望」のイラストのせいのような気がする)
本の中盤からは、例によって信長の奮闘が前面に出てきて、最後のほうで上杉謙信が死ぬ頃から、また勝頼がメインになる感じだ。やることなすことうまくいく織田と、何をやっても裏目に出る感じの勝頼との対比が切ない。歴史だからどうしようもないのだけど、若い勝頼を応援したくなる。なんだか、先を読むのがつらくなってきた。