連城三紀彦のレビュー一覧
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一癖も二癖もある登場人物たちの独白によって事件の真相が明かされていく、といった趣のミステリーで、さほど目新しさはないのですが、事件の真相(らしきもの)に至る展開を演出する方法としては結構ハマっており、悪くはないと思いました。
なのですが、彼ら一人一人のとる行動が何だか昭和の2時間サスペンスドラマみたいで、冷静に考えるとかなり無理があるような気が。20年前の作品なのである程度割り引いて考えないといけないのかもしれませんが、子供が殺されたのに皆平然としているとか、妻の不貞を義姉に事細かに打ち明けるとか、文学賞の選考対象になったら間違いなく「人間が描けていない」と言われちゃいそうなくらいに作り物感が漂っているのがちょっと残念でした。 -
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連城先生の著作を読むのは今回が三度目で、二度目の「夜よ鼠たちのために」を読んだ時にも「9作中9作全部不貞行為があって辟易した(それはそれとして面白かった)」といった感想を書いたのですが、こちらの短編集も8作中6作の登場人物が不貞行為を働いていて、どれを読んでもまず「どーせ浮気しとるんやろが!」とか思ってしましました。おかげで表題作に出てくるお母さんにあらぬ疑いをかけてしまって申し訳ない気持ちになりました。ごめんなさい。
私は特に男女間の痴情のもつれや、いけないとわかっていても愛さずには憎まずにはいられないといった心の機微に対するアンテナがビンビンというわけではないので、「無人駅」「冬薔薇」「風の誤算」「さい涯てまで 」あたりは、ひねりの効いた部分がとくによく理解できませんでした。 悲しいことです。純粋にミステリーとして読むなら「夜よ鼠たちのために」の方が楽しめました。 -
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「変調二人羽織」は、二十代の頃に読んだはずなのだが、幸いにも殆ど内容を覚えていなかったため、改めて新鮮な気持ちで楽しめました。
それにしても、トリックの意外性と無数にある丁寧な伏線は、毎度毎度、素晴らしいと思ってしまう。表題作にしても、本当に巧妙に入っているので、これは見逃してしまう。円葉のしくじりとか、百人一首とか、なんか緩いんだよね、とか。今読んでも、全く色褪せない推理小説だと思いますし、連城さんの場合、文体や情感の濃さもあるので、それがまた独特の哀愁を醸し出していて好きです。オープニングの鶴の描写なんか、秋に読むと本当に泣くかもしれない。
ただ、「ある東京の扉」は、いかにもな昭和の陰の匂いをプンプンさせている胡散臭さがあるけれど、実は、これが一番好きかもしれない。ツッコまれる度に、こじつけに近いような訂正で提供されるストーリーに、阿呆らしく思いながらも、実は天才なのかもと思ってきて、楽しくなってきた自分を発見しました。結末も良いです。
そして、好きとは別に、最も印象に残ったのが、「依子の日記」。トリックは今の時代だとオーソドックスなのかもしれないが、それを知る前と知った後とで、また異なる女性の哀しさとやるせなさを実感させられる作りが素晴らしいのと、愛の形って、人それぞれに異なるものなんだろうけど、「竣太郎」の場合はどうなんだろう。それは違うと言いたいけれど、そうかもと思ってしまう、連城さんの物語の説得力のようなものは感じました。ただ、彼を男として見るとどうかと問われると、私の価値観だと違うと思う。でも、彼のそうした愛(あるいは狂気)を理解する人もいるし、愛に正しいとか、正しくないとか無いのかもしれないけれど・・個人的にはトリックよりも、そうしたことを悶々と考え出してしまい止まらない。果たして怖いのは、愛なのか、人間なのか? -
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『誤って薄墨でも滴り落ちたかのようにゆっくり夜へ滲み始めた空を、その鶴は、寒風に揺れる一片の雪にも似て、白く、柔らかく、然しあくまで潔癖なひと筋の直線をひきながら、軈て何処へともなく飛び去ったのだと言う』
ミステリ史に残る書き出しといえば、ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』。あの洒落た雰囲気とリズムも忘れ難いですが、連城三紀彦の『変調二人羽織』の書き出しも初読時に、その美しさにボーっとなりました。作中の時間が大晦日の話で、おりしも作品と同じ時期に、寒い部屋で読んだのも良かったのかもしれない。
収録作品は5編。先に書いたように表題作の「変調二人羽織」は、冒頭の美しい書き出しからつかまれました。二人羽織の演目を披露している最中に、何かで刺されて死んだ落語家の破鶴。
『最近の社会派推理小説で矢鱈、登場するリアリズム刑事そのものの風体をした』中年刑事の亀山こと亀さんは、かつての相棒の宇佐木に事件の手紙を送りつつ、推理をめぐらせる。
タイトルに「変調」と冠するだけあって、展開がもうとにかく捻りに捻る。不可解な犯行現場と、消えた凶器。そしていずれも動機を持った不審な容疑者たちといかにも本格ミステリ的なお膳立て。
『最近の社会派推理小説で矢鱈、登場するリアリズム刑事そのものの風体をした』亀山刑事が、そんな本格ミステリ的な事件に挑み、推理を組み立てていくのは、当時のミステリの潮流に対するシニカルさや遊び心を感じさせる。
亀山刑事の推理がどんどんすごい方向に転がっていったときは「どこが社会派・リアリズム刑事やねん!」と、思わずツッコミそうになった(笑)
連城さんといえば、美しい文章とどこかほの暗いイメージがあったのですが「ある東京の扉」は、そのイメージとは少し違った作品。編集者の下にやってきた男は、ミステリー小説の構想を買ってほしいと持ちかけるが……
編集者からの注文やツッコミを受けつつも、飄々と、そして思い付きのままに事件や設定を崩し、作り変えていく男。そのやり取りも可笑しいし、ネタ自体もどんどん暴走していく感じも楽しかった。
男は一見適当に事件を作っているようなのですが、ところどころで教養や詩情を感じさせる部分もあり、そこはやはり連城さんの味かなあ、という感じ。ラストのオチもなかなか痛快。
「依子の日記」は日記形式で綴られるミステリ。
仕掛けもさることながら、日記内の男女の情念や愛憎の描き方の迫力が、なんとも凄まじい短編でした。先日読んだ土屋隆夫作品もそうだけど、この時代のミステリ作家の愛憎の描き方の迫力は、今の作家の作品とは一味違う感じがする……
『戻り川心中』以来、久々の連城作品だったけど、文章の美しさや作品の余情はもちろんのこと、本格ミステリの遊び心も存分に感じられる作品集でした。
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「私という名の変奏曲」
犯人は誰だ?
人気と美貌を持つ23歳。愛くるしい笑顔に可憐な美声を持ち、世界的なファッションモデルに駆け上がった美織レイ子。一方で、傲慢でわがままで二重人格。悪魔に人間らしさ全てを売り払ったような娘。カメラマン、女性デザイナー、新進デザイナー、若社長、ファッションモデル、ディレクター。彼らはレイ子を殺したいほど憎んでいると彼女自身が名指しした。しかし、残り1名はまだ名前を明かせないと言う。そんな意味深なメッセージを発した後、レイ子が死んでしまう。
とすると、犯人は誰だ?となる訳だが、捜査線上に浮かんだ7人皆が自分がレイ子を殺したと思い込んでいる。犯人は誰が?から、どうやって7人が同じ人間を殺せるのか?、に変わっていく。作者のことばにはこうある。
他の多くのミステリーと同じように、この物語でも殺人事件が起こります。しかし、普通のミステリーでは最後まで隠しておいた方が良いことが、この作品では第1章で明かされています。事件は他殺と自殺が同時に起こっていて、加害者と被害者の二重奏とも言うべきものかもしれません。その重要な真相の一部が最初から読者に提示されています。
もう一つ、この物語には、確かに女主人を死に至らしめた犯人と言える人物が存在していますが、それが登場人物のうちの誰なのか、作者自身が知らずにいます。従って、この作品には犯人の章がありません。2つのルールを破って、それでも謎があり、解決があるミステリーを書くことが可能か。それに挑んでみたかったのです。
ミステリファンであれば惹きつけ力間違いなしな設定であり、どうやって7人が同じ人間を殺せるのか?の謎が解決されていく。ここが普通のミステリーとは毛色が違う。
一方でレイ子の動機には腹落ちしない部分がある。自らを落とし込めた相手に復讐する計画であるが、一部に関しては、自らが傲慢わがままを振りかざして好き勝手やっているように思える。
例えば、歌を歌いたくなかった(それ相応の理由がある)のに歌手デビューさせられたとあるが、レイ子自身はたまにはノリノリだったのだ。気分屋色があったからしょうがないのかも知れないが、それまで自分を貶めたと言うのは無理があるだろう(後半に判明する事実からするともしかしたら〇〇がやっていたから、とも思うが、だとしたら、別の復讐の理由が必要になるな)。
84年に既にこのようなタイプのミステリーが創作されていたとは!となるミステリー。 -
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ネタバレ過去読んだことがあったかどうかも覚えてないのに、連城三紀彦という作家になんとなく苦手意識をもっていて、「これはひょっとして食わず嫌いなんじゃないか?」と思っていた。で、どこかであがってた(確かこのミス)この作品を読んでみて、本当に食わず嫌いかどうか試してみようと思ったのだが…。
やはり、得意な作家じゃないなぁ。どうも重いというか暗いというか。ノアールやダークファンタジーの漆黒さじゃない、かといって北欧ミステリーのようなものでもなく、水木しげるなんかに流れる日本固有の薄暗さでもない。
退屈しのぎにつけるともなくつけたテレビにうつってたドラマ。人間関係のドロドロを都合よく映像化したような、なんとなく昭和50年代な匂いのする、やるせない暗さ。
それがノスタルジーを感じさせるなら良かったのだが、中途半端に重暗いあの当時を彷彿させて苦手なんやったんか、と判明した。