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Posted by ブクログ
【ミステリーレビュー500冊目】自らの命よりも、美しく花を咲かせることの尊さとは… #戻り川心中
■はじめに
レビュー500冊目は、連城三紀彦先生の『戻り川心中』です。ミステリー史上、最も美しいとされている一冊で、どの作品も味わい深く文学的。人間が隠し持っている欲や業、そして愛情を描いた短編集です。
時は大正・昭和前期、日本独特の文化や風習が作品全体から漂ってくる。各作品ごとに花や植物が違和感なく小道具になっていて、耽美な雰囲気をよりかもし出してくれます。しかし、いつの時代も男と女の物語は美しくも哀しいですね…
謎解きとしても綺麗な論理性でまとめてくれるし、文芸作品としても質が高い。もしミステリー作家になりたいのならお手本になる一冊で、必ず読んでおくべき作品ですね。
■各短編のレビュー
●藤の香
色街に住む女と呉服屋の主人の出来事、街で発生した殺人事件に隣に住む代書屋が関係しているらしいが…
いつの時代も花街には無情さを感じます、いかに人間というのは弱い生き物なんだろう。物語は淡々と語られますが、命の描写があまりにも儚く、まるで夢をみているかのよう。事件の背景に感じた情け深さが耐え難い。美しいラストが必見の作品。
●桔梗の宿【おすすめ】
川辺で男の死体が発見される、手には桔梗が握られていた。亡くなった男は、ある娼家にいたことがわかり、刑事たちは女性たちに聞き取りを始める。そこの幼い少女が語るには…
この物語では誰が一番悪いのか、それは少女を売りつけて未来を摘んでしまった外道たち。この時代、きっと同じように不幸を抱えた子供たちがいっぱいいたと思うと耐えられない。そして彼女の覚悟があまりにも幼稚すぎて、ただ切ない…
●桐の柩【超おすすめ】
極道の世界で、兄貴に拾ってもらった男の物語。日々、舎弟として手足になるも、兄貴からある女を抱いて来いと言われるのだった。どうやらその女と兄貴には、暗い繋がりがあるようなのだが。
人と人の距離感が素晴らしい!これ映画化してほしい!これぞ色恋沙汰の傑作、謎解きの真相もハッとさせられました。
主人公、兄貴、女、ひとりひとりの情念と行動が罪深すぎるだろ、これ… 業にまみれた醜さと可憐さ、さらに生きることに対する誠実さを感じた一作。
●白蓮の寺
主人公の男は、幼年期の記憶が忘れられずにいた。それは母が血に染まった手で人を殺害している場面であったが… 彼の幼い頃の記憶の真相は。
長い長い幼年期の語りが幻想的で美しい。しかし想像した以上に深い事情で主人公がただ可哀想。後半の展開は見事で、墓場まで秘密にした覚悟が強烈な作品。
●戻り川心中【超おすすめ】
かつて天才歌人だった苑田岳葉、彼は二度の心中で二人の女性を葬ってしまった。さらにその時の想いを歌に残して自殺をしてしまうのだ。どんな背景があったのか…
これも現代の映像技術で映画にしてほしい作品ですね。イケメン俳優と和美人でキャスティングをお願いしたい。
しかしどんなにその人を愛していたとしても、この死生観は理解できない。ただ欲望としてはわからなくもないの。こういった男性が、何故か女性には人気だったりするんですよね。高次元で惹かれ合う、みたいな感じでしょうか。
道づれになった女性たちが憐れすぎるよ。命よりも大切なものはないはずなのに、それよりも美しく花を咲かせることを求めている… 情報化社会の合理性が求められる時代、この狂った恋愛物語を現代人たちはどう思うでしょう。
■さいごに
我々は何のために生きているんでしょうか?
多くの人は、日常は忙しく哲学的なことを考えている暇はない。ただ何か壁にぶつかった時、ふとこの疑問を思い出し、おそらくは何も結論が出ずに考えるのをやめてしまう。
本作の登場人物たちは、全員何のために生きるのか明確なんです。自らの命に代えても守りたいほど強い意志を持っている。それゆえ潔く美しいのですが、悲しくもありますよね。
これからの人生、誰しもゆっくりと死に向かってゆく。いつか絶望を感じた時、きっとまたこの本を読めば、なにか感じることがあるんだろうなと思いました。
Posted by ブクログ
明治・大正・昭和の日本を舞台に、「花」をモチーフとした男女の愛憎や情死、妖艶な滅びの美学が濃密に紡がれる。谷崎潤一郎や泉鏡花を彷彿とさせる流麗で艶めかしい文章、それ自体が芳醇な香気を放っており、読者を瞬く間に幻惑的な世界へと引きずり込みまれる。
また、本書の真骨頂は単なる耽美小説に留まらない点にあり。
情死という極めて感情的・非合理的な情念の裏に、冷徹なまでに精緻なトリックとロジックが幾重にも張り巡らされており、物語の終盤で世界がガラリと反転するカタルシスは圧巻でした。
情念の美しさに酔いしれながら、鮮やかな謎解きの刃で胸を突かれるような、ミステリ史に残る至高の読書体験をもたらす傑作でした。
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