あらすじ
高名な彫刻家の杉原完三が、自宅兼アトリエから姿を消した。一カ月後、完三は武蔵野の林から遺体で発見された。犯人は誰なのか。高校3年生の息子・鉄男の出生の秘密、美貌の母と鉄男の異常な関係など、杉原家の抱える歪んだ家族関係が明らかになり、容疑は息子の鉄男に向けられるが、仰天の顛末とは――。「ギリシャ悲劇」を絡めた連城三紀彦初期の傑作長編ミステリー。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
著者初読。
連城三紀彦の『青き犠牲』は、その端正な筆致と哀切な余韻が心を深く揺さぶる傑作だ。不可解な事件の背後にある静かな情念と、人間の業を描き出す構成は、まさにミステリの枠を超えた文学的な味わいがある。登場人物たちは一見冷静に見えて、内側には複雑な感情を抱え、読者に深い共感と静かな驚きをもたらす。
物語を貫く「犠牲」のモチーフが、青という色彩の象徴性と相まって、美しくも痛ましい印象を残す。真実に近づくたび、事件の構造よりもむしろ、人生の残酷な選択と、そこににじむ愛や優しさに目が向けられる。本作はミステリでありながら、人間そのものに対する深い洞察を持った作品である。
読み終えたあと、心に残るのは衝撃的などんでん返しではなく、じわじわと沁みるような喪失感と、抗いがたい運命への静かな諦念だ。抑制の効いた美しい文体もまた、作品全体に品格を与えている。読後、ふと立ち止まって物思いにふけりたくなるような、そんな一冊である。
Posted by ブクログ
彫刻家の父がいなくなり、のちに遺体で発見
犯人はいったいという事件のお話でした
すぐに犯人は捕まったのだがそこからが長かった
次から次へとくつがえる事実
ぜんぜん単純な事件ではなかったという
この著者ならではな作品だなと感じました
Posted by ブクログ
父親を殺したとして捕まった高校生の息子とその母親の関係性について。最初はなんかキモい話だなと思ってたら二転三転。正直真面目に読みきれなくて流し読みしたのもあって細かいトリックはわかってないけど、シンプルに母親と息子の悲劇と思ってれば読みやすい内容だったかな。 話としては全体的に暗くて気が滅入りそうだけど。
Posted by ブクログ
ギリシャ悲劇に沿った愛憎のミステリー。どんな解決をみせるのか、最後まで分からなかった。
思春期の鬱屈による犯罪かと、単純に思えた事件が掘り下げられて、どんどん入り組んでいく。読後はタイトルの通り『青き犠牲』の話だったのだと思った。
危険な母親に見えた沙衣子だったが、最終章での独白を聞いてしまうと、同情せざるを得ない。極めて冷静に、でも憎んでいる感情的な部分も残っていて、どこか諦めながらも計画通りにやり遂げたその姿は魅力的に映った。
Posted by ブクログ
話が二転三転する、連城お得意のパターン。ただこういう信頼できない語り手というのは、一歩間違えるとなんでもアリになってしまって、本書もそのギリギリのところで話を繋いでいる。けど結末は堅実に伏線を回収しているのでよかったなという感じ。
Posted by ブクログ
我ながら往生際が悪いと言うか、亡くなって一年半以上が経つのに、新刊情報にこの人の名前があるとついつい食指が動いていまう。
四章からなるお話。各章が起承転結となり、短いながらも濃厚な愛憎劇となっている。ギリシャ悲劇に絡めたストーリーは二転三転し、伏線が活きてくる真相を読み終えてみるとやっぱり本格なのよね。でもそれ以上に、家族同士の心の闇を丁寧にあぶり出す心理描写が素晴らしい。この人、どうしてこんなに女性を描くのが巧いのかしら。
今月出る新装版の短編集も多分読むんだろな。