小池真理子のレビュー一覧
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小池真理子さんのホラー短編小説アンソロジー。初出誌は巻末に記載されているが、年代が全部は載っていない。「1991年」と「2011年」のものがあることだけは分かるので、その辺りの頃、と推測するしかない。
とても良い作品集だった。抑制された堅実な文体で淡々と醸し出される「恐怖の」イメージが、美しい。もう少し文章が磨かれれば、泉鏡花とまでは行かないまでも彫琢されれば、これは立派な芸術作品になると思う。
ただ一つ、「蛇口」だけは、ストーリーは悪くないが文章が良くなくて、1991年の作だからもしかしたら作者のごく初期のものなのかもしれない。
「ミミ」のような、一種の詩情さえ湛える形象の美しさを、更 -
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2021年刊、文庫オリジナルのホラー短編アンソロジー。2001年から2017年に発表された作品が収められている。
冒頭の3編はエッセイである。著者の母親が霊感の強い人だったそうで、著者自身も幾らか霊感があり、何度も霊を見る体験があるとのこと。なるほど、それで幽霊の出てくる物語を多く書いてきたのかと納得。
続く「恋慕」「花車」「慕情」は『律子慕情』なる単行本に収録された連作で、主人公律子の霊体験を、幼女時代からの成長に伴って描いている。この3編が、とても良い。一般的にこれは「ホラー小説」なのか?という疑問もあり、「恐怖をメインとした小説」という定義からは外れ、普通小説としての滋味を持って物 -
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「文学的・哲学的尾行」の物語。
この話を読んで、実際に全く知らない人を、
ただただ尾行する楽しさは確かにありそうだなと感じた。
人の生活の一部を安全な場所で覗き見ることは
好奇心をそそられ、若干の優越感を得られると思う。
「結局のところ、人は秘密が好きなのだ。
彼が失いたくないのは、特定の誰か、ではなく、秘密そのものなのではないだろうか。」
このフレーズは、秘密を抱えた人間は誰しも少しは考えることではないかと思った。
秘密を抱えている人間は相手に対して猜疑心を持ちやすくなったり、
尾行相手と自分の取り巻く環境の共通点を見出すと、自分は同じルートを辿っているのではないかと不安にかられるとい -
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2012年刊行、小池真理子さんの長編小説。裏表紙の解説を見ると、離婚によって疎遠になっていた父が難病にかかって死に、娘が遺されたワープロ原稿などを発見しそこに父の心の叫びを知る、という話だというので、これこそ私が読むべき本、読んで号泣しなければ! と衝動的に買った。
私も2年前に離婚して家族を失い一人娘と離ればなれになり孤独になった状態なので、まさに「身につまされる話」なのである。
もっとも、本作では冒頭で死ぬ父親は85歳、娘は50代ということで、私にとっては30年以上未来の状況ということになる。
本作は全然エンターテイメントではないし、恋愛小説でもなく、際だったストーリーもない普通小説