池波正太郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
悪人さえも魅了する長谷川平蔵さんの人間臭さが魅力的なシリーズの第5巻。
悪いヤツは平蔵さんの胸三寸でいたぶって即刻処刑とか、ある意味まどろっこしさがなくて良いなぁ!
冤罪ではない場合に限るわけだけれども…。
犯罪者が生きているってだけで、被害者やその遺族はものすごいストレスになったりするし、今の日本も私的な報復を国家が禁じて、国が処罰権限を独占するのであれば、それだけ国民の感情に沿った対応をしないとダメだと思う。
机上の道徳理論で、自分が犯罪被害に遭ったわけでもない理想主義をほざく自分が大好き人間の声も壊滅する必要はないけれど、そこばかり大きくとらえてもいけないと思いました。 -
Posted by ブクログ
2010年以降、読み進めてきた剣客商売シリーズも本書でラスト(番外編はあるけれど)。シリーズ全16巻は、どれも気軽に読み進められるとともに、一定以上のクオリティを常に保ち続けた素晴らしい作品群でした。
本書は最終巻を意図して刊行されたわけではないようですが、解説でも述べられていたように最終巻として相応しい印象を受けます。それは、小兵衛をはじめ一部の登場人物が歿する年齢が作中で明記されているだけではありません。ひとつは、小兵衛や大治郎のよき庇護者といえた田沼意次の没落がついに訪れたため、小兵衛を取り巻く環境の変容が予期されること。ふたつめは、仇討が当たり前の物語において、あえてその道を選択しな -
Posted by ブクログ
池波正太郎の数冊のエッセイをぐうっと縮めたような小冊子。いくつか見たものもあったかもしらないが、どのみち、忘れているから、十二分に愉しめた。
これが書かれた頃、藤沢周平は「普通の人」を意識して東京(江戸)の郊外でひっそりと暮らしていた。池波正太郎は東京オリンピック辺りから急速に無くなった江戸の名残を「嘆き」ながら、それでも江戸の粋を残した食を愉しみ、きちんとしたホテルに泊まって次々と名作を書いた。
池波正太郎は最近の時代小説に時々見られるような、あからさまに時代の薀蓄を語るようなことは決してしない。むしろ彼があえて描かないものの中に、真に江戸を知っている者の「教養」があったと思う。
・天 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「一の悪のために十の善がほろびることは見逃せぬ」
「悪を知らぬものが悪を取りしまれるか」
……と、大江戸の悪党をガンガン始末しまくる鬼の平蔵さんとその仲間たち。
この巻に出てきた『妖盗葵小僧』は、今の時代だったら、こんな解決はできないと思えるお話でした。
顔も性格も悪くて女性にモテない大馬鹿野郎が、美女のいる良家ばかりを狙って、その女性たちをキズモノにしていく。
しかも、旦那さんや親の目の前で。
それを正統なルートで裁くとなると、被害者である彼女たちがまた世間という魔物によって更なる被害を受けてしまう。
それを苦に自殺を図る夫婦も出ちゃった。
性根の腐ったコンプレックスの塊オトコは、 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「まるで不作の生大根をかじっているようだ」と初めての男に、もてあそばれ捨てられたお松。ある日偶然見かけて、お松はその男を絞殺してしまいます。男のその言葉が頭から離れないお松は自分に自信が持てず、危機を救ってくれた長次郎の勧めで“倉ヶ野の旦那”の世話になることにします。並行して話は鬼平と呼ばれる前の平蔵に移ります。平蔵はお松の話を耳にし興味を持ちます。そして勘蔵を殺したのはお松だと気付くのですが…。
お松が捕まってしまうのか、平蔵がどうするのか気になりましたが、落ち着くところに落ち着きました。
大店の後添えや医者の養女に、と望まれるお松は謙虚であり、罪を犯した分償いのため何事も一生懸命やる姿勢 -
Posted by ブクログ
粋な本である。如何にも旨そうな料理の描写と池波正太郎氏のむかしの挿話が各店を訪ねたい気にさせる。・・・と現代の技術を使ってグルメサイト検索すると何れも高評価なお店ばかり。さすがは食通として名高い文豪である。しかし大切なのは味ばかりではない。丁稚奉公から文豪となった氏が語る料理への思い出は最高の調味料として効いている。回顧主義に走るのではなく、江戸っ子らしい感覚で「よいものはよい」とむかしの味と記憶を紡ぐ物語はなんだかほっこりさせられてしまう。
余談ながら東京下町の老舗にお邪魔すると池波正太郎氏の写真がちょくちょく飾られている。自分の足で色んな店を訪ね歩き、気さくに写真に応じる氏の表情が浮かぶ