山田正紀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ天海配下・阿吽坊vs成尋衆・雑魚部隊雨衆戦、 新甲賀五宝連・甲賀八郎vs成尋衆・雑魚部隊雨衆戦、 新甲賀五宝連・甲賀八郎+新伊賀五花撰・滑婆+新伊賀五花撰・現+新伊賀五花撰・涙vs天海配下・阿吽坊戦、成尋衆・成尋vs天海配下・阿吽坊戦が描写される。
八郎と響は弦之介と朧の子供という設定だが、朧が十ヶ月妊娠してる時間は無かった筈とツッコム『甲賀忍法帖』ファンへの回答も語られる。
正紀の原作の説明不足をしっかり説明した見事な漫画化。
シヒラ竜也の構成力が素晴しい。
原作ではなく、原案者として風太郎と正紀を表記するべきでR。
柳生十兵衛も遂に影だけで登場した。
『魔界転生』も融合しそうな感じ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ新甲賀五宝連碁石才蔵+新伊賀五花撰現VS成尋衆夜叉至戦と
新甲賀五宝連根来転寝+新伊賀五花撰滑婆VS成尋衆孔雀啄戦が
同時進行して、終にゲームのルールは破られ、カオスな合戦に突入!
成尋衆夜叉至VS成尋衆孔雀啄戦、
新甲賀五宝連根来転寝VS旧甲賀五宝連+旧伊賀五花撰(色衰逸馬・水連秋月・蔦法悦・七斗鯨飲・草薙一馬・遊佐天信)戦、
新甲賀五宝連根来転寝VS成尋衆輪廻孫六(ゾンビとして復活)戦
が描写される。
原作小説のストーリーに戻る道はなくなった。
鳳輦車は健在なのに、アレは居なくなった。
一人で12人倒した原作の根来も印象深かったが、漫画版は更に根来の強さが引き立っている素晴らしい描写。
裏の戦いのテーマとして、ホモの愛とレズの愛とでは、どっちが強い?
が潜んでいるのも、同性婚が可能な21世紀に描かれた新しい忍者漫画としての最先端を走ってる。 -
Posted by ブクログ
ー はっ、連中が物語なんか必要としているものか。そんなものは読み捨てのカストリ雑誌で十分さ。連中は"現実"に酔っぱらってるんだ。飽食して、垂れながしているんだよ。
おい、夏樹さんよ、本当のことを教えてやろうか。ぼくがどうして豚の王を自称しているかを。連中は豚なんだ。いや、人間ってやつが地べたを這いずりまわる豚なのさ。
だから、ぼくは豚の王なんだ。輝やかしき、栄光に満ちた豚の王なんだよ。豚に星の物語なんか必要であるものか。笑っちゃうぜ。おい、精神の王国なんてないんだぜ ー
物語(神話)と虚無との永遠の闘い。
繰り返されるハルとナツとフユとの闘い。
哲学的で面白い。
山田正紀はほんと奥深い作家で、幅広いジャンルの作品が120作を越えているので、いろいろ読んでみたい。
こういうSFチックなのも多いから他の作品も気になるなぁ〜。
もちろん、オペラ3部作に代表されるミステリも数多くあるので、こっちはマストだな。 -
Posted by ブクログ
長いミステリが読みたい!!!と思い立ってしまった時にたまたま目についたこの上下巻
ながーいと言えば、読むのに時間がかかってしまった『薔薇の名前』
いつまでも事件が起こらなかった『暗黒館』
何故読んだ御大
ぱっと浮かぶ超大作はこんな感じなのですが、たまに読みたくなるのですよね。このながーいミステリ。
ぱらぱらと捲ってみると、旧仮名遣い。
えええ?そんな古いの?と思ってあらすじを読んでみたらどうやら平成。
しかも作中作。しかもパラレルワールド??
<第2回本格ミステリ大賞受賞/第55回日本推理作家協会賞受賞>
の行を見てこれに決めたのでした。
パラレルワールドとか言い出すと、SFなのでは……?ってなるのですけど
本格ミステリらしいのですよね
作中作で50年以上前の時代のミステリと倒錯する感じ?
わくわくが止まらない……!!1
ただこのミステリ、長いだけではなく十分とは言わなくても予備知識必要じゃないですか?
と言うか、少し知っていた方が頷けるジャンルがいくつかあるのです。
カーやヴァン・ダイン、エラリー・クイーンはこの本を手に取る人は読んでる可能性高いのですけど
オペラの『魔笛』
映画『アパートの鍵貸します』
1931年満州事変
1936年二二六事件
ギリシャ神話のオイディプス
※重要順 下に行くほどなんとなくで
この5つの要素は知っていたらもっとストーリーが入ってくるのですよね
オペラも映画も知らなかったので、小説内やwikiでいちいち調べて着いて行く感じだったのです
旧仮名遣い、つまり手記の部分は漢字や言い回しが難しくて
ん?と一旦考えたり、調べたりすることもしばしば。
ただこれはしーなには許容範囲だったのです。苦じゃなかった。
それと、覚えにくい登場人物の名前。
その辺の問題がクリアできるなら、きっと楽しめる!!!
そうお友達には勧めたいと思うのです。
ネタバレをしない様に気を付けて……なのですが
満州陥落の時期、現地にある「宿命城」に集められる人々。
城に着く前からもう事件は始まっていて、段々と人が退場していく。
そう言うミステリがあったそうなのです。
タイトルは『宿命城殺人事件』
著者は、その本に登場する小城魚太郎(こしろうおたろう)
『宿命城殺人事件』は書かれたのか、完結したのか、存在するのか。は不明。
古書の修理をしていた祖父の影響で、古書に触れることの多い主婦が主人公?なのですが
この、『宿命城殺人事件』とその登場人物の一人、善知鳥良一(うとうりょういち)による手記。
この2冊を主人公の桐子が読んでいくストーリーになっているのです。
桐子の旦那様は不審な自殺を遂げていて、その謎も絡んでくる。
50年以上前の満州事変と、ミステリ。そして平成に居る主人公の事件。
これがどう繋がって、どう解決されていくのか。
面白うそう!
とっても面白そう!!11
ただ、SFじゃなのですよね?
としーなはずっとヒヤヒヤしてたのです。
桐子はまるで自分が『宿命城殺人事件』の登場人物になったかのように感じていて
あまつさえ、並行世界なのでは……?とSFの方向へどこまでも引っ張って行ってしまうのです。
本当これは不安だったのですけど
大丈夫。ちゃんとミステリとして完結してるのです。ここ大事。
下巻の途中まで、手記と現実の行ったり来たりでかなり読んでいて混ざってしまうのですが
手記は旧仮名遣い。ちゃんと区別が付く様になっているのです。上手い。
の、ハズなのに、ちゃんと混乱する。凄い。
仮名遣いも作用して、ChineseGothicな雰囲気がもの凄いのです。
イメージが止まらない……!!1
宿命城と平成を行き来する内に、「こ、これは、誰の台詞……?!」とか混乱する場面があったり
もうSFでも、そっちのが良いのでは……?と考えてしまったり
下巻に入る頃にはすっかり夢中になってしまうのです
そして作中作の『宿命城殺人事件』と手記を素直にそのまま読んでいると「ん?ま、まさか……」と
ある描写を境にもっと複雑な構成にビックリ。
なかなか……ではないのです。ボリューム。構成。ストーリーの重厚さ。とっても満足なのですよ。
長いミステリがしっかりと読みたくなったらまた再読したいのですね。是非。
しかも3部作……?!
こ、これは探さねば……!!1 -
Posted by ブクログ
ネタバレ〇 概要
東京からカラフトへ向かう「紅緑丸」の船上で発見された死体の謎,山中を走るバスから消えた5人の乗客の謎…など,昭和初期を舞台に放浪する若者二人―呪師霊太郎と椹秀助が遭遇した殺人事件が描かれる短編ミステリ。そして,それらの謎が,最後の中編「人喰い博覧会」で新たな側面を見せる…。短編集に全体を通じた趣向を凝らした作品
〇 総合評価
椹秀助が話したO市(小樽市)での体験談をもとにした話(おおむねフィクション)を,Y(山田正紀)が小説にしたという設定は面白い。人喰い船から人喰い雪まつりまでの短編のデキは,傑作とまではいえないが,小説巧者の山田正紀らしく,それなりのデキ
人喰い船から人喰い雪まつりまでの短編の位置付けが,最後の人喰い博覧会で変わる。人喰い船から人喰い雪まつりまでの話は,人喰い倉以外はフィクションで,登場人物に,実際に椹秀助と呪師霊太郎が関わった人物への椹の思いを表していたというのは,上手いと感じた。しかし,驚愕かと言われるとそこまでの驚きはない。最後の遠藤美子の事件の真相=単純な自殺だったというものも,意外性はあるが,驚愕とまでは言えなかった。全体を通じ,山田正紀の小説らしい,「よくできた作品」という印象が高い作品。各短編の持つ雰囲気の良さ、全体の完成度の高さから、トータルの評価としては★4としたい。
〇 各作品のメモ及び評価
〇 人喰い船 ★★★☆☆
● 被害者:藤子義介
● 犯人:池田昇三と藤子安芸子の共犯
● ポイント
藤子義介を殺して木箱に入れて船に乗せていた。
カラフトに遺棄するつもりだったが,O市に止まることになったので,船上で死体を出した。
● 感想
名探偵呪師霊太郎と,ワトソン役の椹秀介のデビュー作。トリックは平凡だが,「わしの仕立てた洋服よりも,あんな女のほうを選んだことが,断じて許せなかったのだ」という仕立て職人である犯人池田昇三の殺人の動機がインパクト抜群の作品。作品全体の雰囲気と,インパクト抜群の動機がウリ。
〇 人喰いバス ★★★☆☆
● 被害者:霜田(特高の刑事)
● 犯人:バスの運転手とバスに乗っていた女
● ポイント
バスの運転手とバスに乗っていた女は心中をしようとしていたが,霜田が二人の食事を食べて死んでしまう。その事実を隠蔽しようとして,霜田が生きてバスにのったように偽装した。
● 感想
呪師霊太郎が,自分のふけを入れた食べ物を食べた霜田が腹を壊していないことから,バスに乗った段階で死んでいたことに気付いた点がユニーク。昭和の奇妙な未解決事件,人喰いバス事件の真相を描いているという設定も面白い。
〇 人喰い谷 ★★★☆☆
● 被害者:浅葱宗一郎,蓬矢周平
● 犯人:浅葱弥生
● ポイント
浅葱宗一郎と蓬矢周平が恋仲になったことが我慢ならなかった弥生が,二人を遭難させる形で殺害した。死体は,二人がホモセクシュアルであることが分かる証拠が残っていることを恐れ,弥生が処分させた。
● 感想
シンプルな作品。ラストの「夫を失うのには耐えることができますわ。でも,夫を男に奪われたのだということを世間の人に知られるのには,とても耐えられそうにありませんもの」という告白が秀逸。シンプルでもインパクトがある短編が描けるという好例
〇 人喰い倉 ★★★★☆
● 被害者:篠田勝
● 犯人:なし。篠田勝は自殺
● ポイント
篠田勝は,遊郭の雪(幸)という女と結婚の約束をしていたが,社長の娘との縁談の話があって,雪を捨てようとした。しかし,社長の娘は探偵を使って調査をし,その事実を知って,縁談を辞めた。そのことを恨んだ篠田は,いやがらせで自殺。呪師霊太郎はその事実を隠し,雪には,偽の密室の話をして,篠田が殺されたと伝えたという話
● 感想
面白い。こういう読後感が悪い作品は好き。遊郭の雪の気持ちを察して嘘の真相を告げる呪師の人物もよいが,真相は,篠田が嫌がらせで自殺をしたというのがなんともいえない「いやー」な読後感を残している。★4。
〇 人喰い雪まつり ★★★☆☆
● 被害者:前田
● 犯人:なし。前田は自殺
● ポイント
運動員の前田を逮捕するが,あらかじめスパイだという噂を流し,拷問をせずに釈放してスパイであると仲間に疑わせようとした。前田は,そのために自殺した。自殺した際の凶器を,娘の紀子が処分してしまったために,他殺に見えた。
● 感想
これもかなりのイヤミス。紀子の視点で描かれているのがなんとも言えない。
〇 人喰い博覧会
● 被害者 宮口(元特高の刑事)
被害者 霜田通夫
被害者 遠藤美子
● 犯人 なし
宮口は心臓マヒ。霜田は自殺。遠藤も自殺
● ポイント
昭和12年の事件と現代の事件が描かれる。昭和12年の事件は,心臓マヒで死んだ宮口を放送塔から落としたのはなぜかという謎が描かれる。
真相は,椹秀助が,宮口が放送塔から落下したと嘘を言い,放送塔に,宮口の荷物を持ち込んで,実際に落下したと思わせたというもの。動機は,転向座談会に参加し,心にもない転向をさせられた友人,浅葱宗一郎の気持ちを知らせるため。嘘をついた理由は,別の場所に監禁されていた宮口が,本当に放送塔に監禁されていたと,霜田に誤解させるため。霜田は誤解して自殺した。
人喰い博覧会以外の短編は,椹秀介の話をYという小説家が小説にしたという設定。「人喰い倉」以外は,作中でも完全なフィクションという設定である。椹は,人喰い博覧会の事件で現実に関わった人物を使ってフィクションの小説を作っていた。
現代に戻って,遠藤美子の自殺について椹と呪師霊太郎の孫が捜査をする。現実世界の藤子義三は,自分の商売のために,娘婿の浅葱宋一郎を利用していた。椹は,藤子義三を銃で撃とうとしたが,椹には殺人はできなかった。椹は小説の中で,藤子を殺す者がいれば手を貸すという意思を示し,宮口と霜田を殺し,浅葱宋一郎の死を悼み,弥生を悪女にしたてあげていた。椹は,遠藤美子が自殺ではなく婚約者に自殺に見せかけて殺されたと考えていたが,実際は単なる自殺だったというオチ
● 感想
これまでの短編が椹の話をYという小説家が小説にしていたという設定とし,椹が実際にした人喰い博覧会の事件(宮口の死体遺棄など)で心に残っている思いを小説の中で描いていたという設定。短編集を通じた仕掛けを描いた小説のはしりのような存在である。
プロットは面白いが,真相にはそれほどサプライズはない。よくできた小説であると思うが,驚愕の真相とは思えなかった。★3で。 -
Posted by ブクログ
出会ったこともない物理学者・牧村孝二と心理検査士・関口真理はすでにお互いが恋人だと知っているという上巻の大部分を占める物語は、旧シリーズの短編群の世界とはチェルノブイリ原発事故の時点で分岐した別の世界らしい。そこで牧村が持っている「妄想」を記したものが、下巻に収められた既出の短編群なのである。「妄想」の世界では牧村孝二は庭師であり、関口真理はただ彼の恋人である。
思わせぶりな用語を作り、華麗なイメージをまき散らしてその中にいくつもの物語を作り出してくという方法はなかなかに成功しているように思われる。これはいかにもコードウェイナー・スミスっぽいのだが、最初のほうで「ネコと蜘蛛とゲーム」というタイトルが使われており、作者も承知の上だ。
上巻の書評で言及した、非対称航行、背面世界、遺伝子型空間、狂人=鏡人(M・M)と悪魔憑き(デモノマニア)の抗争、"大いなる疲労の告知者"などの他にも様々なアイディアとイメージが投入されているのは圧巻ともいえる。あらゆる遺伝子の組み合わせが繰り延べられている情報空間としての遺伝子型空間である背面世界。「反世界」「反人間」を感じ取ってしまう病気・湘南症候群、二つの相容れない現実の前で両者が量子力学的な重ね合わせの状態になっている神獣聖崩壊病に冒されていく人々。狂人=鏡人と悪魔憑きとの中立地帯で使命を帯びた現想者、時間剥製者、観淫者。“大いなる疲労の告知者”と戦う、ネコのような生き物ペガソフェラエのツァラトゥストラ。
どうも作者はそれらをきっちりとまとめあげたかったのではないか。1980年代にはメタフィクションを導入して失敗し、今回は平行世界を導入し、最後は上巻の物理学者・牧村孝二と心理検査士・関口真理の世界の二十余年後の話を付け加える。だが所詮世界はひとつではないのだから話は収束しない。
評者からするとイメージをばらまいてそれで終わりでいいではないかと思う。非対称航行によって生じた重力波の影響で自転が遅くなった地球上の永遠の熱い午後と闘牛、お互いほとんど接触不能な背面世界と虚空間で戦い続ける狂人=鏡人と悪魔憑き,時折垣間見える翼手竜のような狂人=鏡人の姿、水たまりから沸き立つ幻想生命体。かえって科学的な理屈づけがきちんとなされないままの、こうした超絶的なイメージが『神獣聖戦』の面目躍如なのだと思う。 -
Posted by ブクログ
『最後の敵』で日本SF大賞をとった山田正紀が受賞後第1作として発表したのが『神獣聖戦』を構成する最初の短編であった。3冊の短編集と2冊の長編で構成される連作は2つめの長編が未完(未執筆?)のまま1980年代から放置されていたが、このPerfect Editionにおいて再構成された。
超光速達成のため、非対称航行が開発された。これは背面世界を跳躍し彼方の星域に赴く航法であるが、背面世界に入るためには人類は自身を改造し、狂人=鏡人(M・M)にならなければならなかった。背面世界では時間と空間が逆転し、内と外が反転し、ホルモンが外部へと放出され世界に影響を与える。非対称航行では航宙刺激ホルモン(FISH)を分泌する脳が必要だった。そしてそのような脳はたったひとつ、牧村孝二の脳しかなかったから、これは大文字のブレインと呼ばれた。すべての〈船〉はレインと呼ばれるその脳のクローンを搭載していた。ところが、航宙事故が多発する。原因は人類の宇宙進出を好ましく思わぬ何者かによって遺伝子に仕掛けられた罠であり、エンドルフィンが過剰に放出されるのだ。
遺伝子に仕掛けられた罠は非対称航行のための脳となってはじめて発現するものだったが、それが人間において発現したもの悪魔憑き(デモノマニア)であり、彼らは無意識の過剰に耐えられる存在だった。そして、背面世界に存在する狂人=鏡人と虚空間にいる悪魔憑きとの千年戦争が始まった。
狂人=鏡人たちは人間が想像もできないような眠りを眠る。それは「大いなる疲労」ともよばれるが、背面空間を統べるのは"大いなる疲労の告知者"たちである。悪魔憑きたちは"大いなる疲労の告知者"を倒そうとする。
他方、非対称航行は重力に影響を与え、地球の自転は次第に遅くなり、地球には大いなる午後が達成される。他方、その重力によって幻想生命体が誕生し、人々を幻想の中に沈めていく。そして人類はゆっくりと滅びていく。
ま、こんな話、というか設定が、諸短編において小出しに語られているのである。かつてはここにメタフィクションの長編を加えて、収拾がつかなくなってしまったようだ。そこで『Perfect Edition』では新たに別の話を持ってくる。諸短編では非対称航行のための実験材料とされる庭師・牧村孝二とその恋人・関口真理の物語がひとつの系譜を作っているのだが、別の世界の牧村孝二と関口真理の物語を新たに書き足して、それが上巻の大部分を占めているのだ。心理検査士の関口真理の一人称で語られる、彼女が北海道東部の永劫市の聖ニーチェ病院で患者として運び込まれる天才的物理学者・牧村孝二と出会う物語である。 -
Posted by ブクログ
山田正紀には入れ込んでいた時期があった。『神狩り』『弥勒戦争』『チョウたちの時間』『崑崙遊撃隊』『風の七人』……。難解なテーマを扱ったSFから、秘境冒険小説、時代劇、ミステリまで、あまりに多作でそのうちついて行けなくなって、しばらくぶりに読んだ『神狩り2』と『ミステリ・オペラ』は、面白くなかったわけではないが、山田正紀ってこんなB級だっけという感想。
饒舌な文章は強引なプロットをうまく説明するでもなく、しかし作者は強引とは思っていなさそうなあたりが気恥ずかしい。壮大なアイディアに驚くまもなく、それが怪しげな論理で展開されて興をそぐ。
『最後の敵』は上記の一群の初期作品のひとつで、次第にジャンルを広げて乱発というくらいに作品が出されていく直前の頃のものである。たまたま評者はこれは未読のままだったが、第3回目の日本SF大賞を受賞しており、彼の代表作のひとつといっていいはずである。それが1985年に文庫化されて以降、入手困難だったという。当時は副題に「モンスターのM、ミュータントのM」と付けられていたが今回カットされた。
インポテンツに悩む、遺伝子工学の大学院生・森久保与夫が精神分析家・鳥谷部麻子を訪ねる。自分でも驚いたことに麻子はいきなり与夫に催眠をかけて話を聞き出すが、彼は自分が緑藻でミジンコに進化するところだなどという話をするのであった。そんな彼にジャーナリストを名乗る巨大な肉の塊のような女性・大木うるわしが接触してくる。
初期作品も実は最近のものと変わらずB級で、これが山田正紀に味わいなんだと思う。名前の付け方、ちょっとのけぞるようなものがある。与夫(よぶ)は旧約聖書のヨブであろうが、それにしても「うるわし」という名前は……
プロットも強引だ。与夫の敬愛する教授をうるわしが問い詰め、教授が隠している科学的事実を暴くと、教授は人格崩壊を起こしてしまう。そんな簡単に人格崩壊なんてしないって。しかし、そのすぐあとで、うるわしが与夫に言う「あなたの戦うべき相手というのは進化なのよ」というとんでもない台詞が控えているので、人格崩壊なにするものぞ。
進化が敵であり、進化と戦うのがこの小説のテーマなのである。しかも与夫は“レベルBの現象閾世界”に閉じ込められていて、記憶を失っているというのだ。
進化が敵というとんでもなく思弁的なアイディアをぶち上げながら、妙にしょぼいアクションが続いたりして、鼻白む。だいたい進化と戦うって、どう戦うんだ、という時点で話を組み立てられなくて執筆を断念してしまいそうなものだが、それを書いてしまうところが山田正紀の力業ではある。
進化とは進化力という物理的相互作用であり、電磁気力、核力、弱い力、重力に並ぶ5つめの力である。しかも、対称を好む自然からして、電磁気力、核力、弱い力の三対に対して、重力と進化力と、もうひとつ発見されていない力があるはずだ。なんて理論構築は完全にトンデモである。あとひとつの力ってどうせ愛だろうと思っていたら、終盤にいたって主人公が“愛”が6つめの力だったらいいのにと述べる場面が出てきてさすがに目が点になる。さらに「“愛”などというものをご大層に考えるのは、それこそ感傷的な女学生か、鼻持ちならない詩人ぐらいのものなのだ」とすら述べている。わかっているのに、感傷的な女学生か、鼻持ちならない詩人の小説にしてしまうのが悪いところだと思うよ。そのトンデモ理論を納得させてしまうだけの筆力を駆使するかワイドスクリーンバロックのようにその無茶苦茶を楽しませるという方向に行ってくれればいいのだが。
われわれの日常的な現実は“レベルBの現象閾世界”であって、同時に木星の衛星軌道に進化と戦うための宇宙船〈大腸菌号〉で赴いているという現実が存在しており、与夫は幾多の現実を行き来しながら話が進む。そして「最後の敵」とは何なのかはネタなので伏せておくけれども、傑作というより怪作なのではないだろうか。それを言ったら山田正紀ってみな怪作かも知れないが。