小野寺史宜のレビュー一覧
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異父姉弟を軸に、姉の実父との共同生活、ちょっと訳あり家族のほんわかハートフルな物語、さすが小野寺さん。と暖かな気持ちで寝入った翌日から考えこんでいる。
「昭和の標準家庭」から外れた人達に、小野寺さんの視点はいつも優しい。と思う。離婚、再婚、母子家庭、未婚の母。令和の現代じゃ珍しくもないのに、どうかすると可哀想、苦労してそう、みたいなネガティブなレッテルを貼ってしまいそうな自分に、「あなたと彼らの何が違うっていうの?」と押し付けがましくなく、ほらね、と示してくれるのが小野寺さんだと思って安心して読んでた。けど、自分は清水のおばあちゃんだ、と気がついてしまった。分け隔てないつもりで、なのにぽろっと「ちゃんと血がつながってる」みたいな事を口走ってしまう人だ。
田舎に残るのは長男、みたいな古い考えは、多分平成生まれのさくら姉さんにもあるけど、さくらさんはそれを不用意に口にしないし人に押しつけないし、bestじゃないならbetterにしなやかに切り替える賢さと強さを持ってる。おばあちゃんの思いを知った上で「おばあちゃん大好き」と言えてしまうさくら姉さんの大きさ。妻の連れ子のさくらさんをそのまま受け入れる、父春夫と照夫伯父の度量の深さ。
なんか自分が情けない。
あ、ごめん。そんな深刻なお話じゃないから。私が深読みし過ぎてるだけで、安定の小野寺ほのぼのワールドなんで、安心して読んで下さい。 -
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SUUMO連載エッセイ単行本化。
物件検索で23区の町巡り。
前日譚 ノー銀座、ノーライフ
はじめに
第一回 千代田区 神田にたゆたう神保町
第二回 江戸川区 川を感じて住む小岩
第三回 杉並区 静かに元気な西荻窪
第四回 北区 あれこれ不思議な浮間舟渡
第五回 大田区 端でもにぎわう蒲田
第六回 台東区 浅草も香る田原町
第七回 豊島区 隣駅の魅力に満ちた要町
第八回 葛飾区 まどろみ落ちつくお花茶屋
第九回 品川区 町に紛れる大森海岸
第十回 荒川区 都電が愛しい東尾久三丁目
第十一回 中野区 ジャズもそよぐよ中野新橋
第十二回 港区 彩り溢れる三田
第十三回 板橋区 台に住もうよときわ台
第十四回 目黒区 キュキュッとまとまる都立大学
第十五回 足立区 島感強めの王子神谷
第十六回 新宿区 駅前キュートな下落合
第十七回 江東区 何だか広いよ東大島
第十八回 世田谷区 ふんわりやわらか世田谷
第十九回 文京区 何ともほどよい新大塚
第二十回 練馬区 公園と生きる石神井公園
第二十一回 墨田区 未知を知る鐘ヶ淵
第二十二回 渋谷区 散歩で渋谷へ代々木上原
第二十三回 中央区 銀座の風吹く月島
おわりに
小説 十二月二日、正午にA2出口
風呂付ワンルーム5万円を条件に物件を探し、各区を探訪し、公園や川、運河を歩き、ランチを食べ、コーヒーをすする作者がほほえましい。 -
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あたたかくてゆるい、小野寺さんの散策日記。でもただの散策ではなく、住みたくさせる日記。23区をすべて回り、そして「住みたくさせる」のは本当に難題だったと思うけど、読んでみたら見事に全てに住みたくなった。お金を出せばいくらでも住みたくさせることはできると思うけど、5万円という予算で、そしてあえてニッチな町を選んでいるところ(予算ゆえ選ばざるを得ない)のもいい。
p.84 町歩きとコーヒーは、やはり切り離せない。もうって何でしょうね。人生におけるコーヒー、というかカフェの良い。とりあえず立ち止まり、コーヒーを飲む30分。その間には人は自信を微調整するのかもしれません。あちこちを閉めたり、緩めたり。
p.114 東尾久やその近辺を2時間歩いて、思った。この辺は、なんというか、街が肌に近い。肌に合うという意味ではなく、肌に近い。街がくっと、自分に寄ってくれる感じがする。いるだけで、体が街に包まれているような感じがする。それは結局、肌に合うと言う事かもしれない。
歩いている間、僕はなんだかんだでずっと都電荒川線を意識していたような気もする。電車や起動そのものが直接は見えないところにいた時もだ。決してうるさくはない走行音。どこか丸みを帯びた、踏切の警告音。それらがうまく街の音になっている。もしここに住んだら、やはりずっと都電荒川線を意識するんだろうな、と思う。多分、無意識にそうなるのだ。無意識に意識。矛盾するが、それが当たり前になる。悪くないな、とも思う。 -
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ネタバレ■読んだ動機
この作者さんの他の本を読んで大変良かったので、別の評判良い本を手に取ってみた。
■あらすじ
主人公、井川 幹太が住む筧ハイツ102号室。
新卒で入った会社は合わずに2年で辞めて。次の会社も半年で辞めた。今はコンビニでバイトしている。
上の階202号室のドタドタがうるさいと思うが、文句が言えない。
そうこうしていると、上の回の住人、戸田さんと出会う。
戸田さんは性格は悪くないが、ややガサツな人。
そんな戸田家との交流や、同級生との出会いの中での日々が描かれている。
■感想
今まで「ひと」「まち」「いえ」のシリーズを読んできましたが、この作品でも江戸川区、筧ハイツ、あの河川敷が出てきます。そしてやっぱり主人公はいい人で。
この作者が描く主人公はいつも好きになります。
昨今の「好きを仕事に」という風潮もある中。
パンが好きだから、1社目のパン屋さんの会社を入るも営業が合わず2年で辞めて。
2社目には、好きなものじゃない方がいいと考え家電量販店に入社するも半年で辞めて。焦ってもいいことないと、今はコンビニでバイト。
隣の部屋の住人は、夢を追って役者をやっていたり。書評家をやっていたり。
主人公はやりたいことを探しているわけではないが、そんな出会いからも就きたい仕事のヒントに触れていたのかもしれない。
最後はパン屋さんで、パンを作りたいと思い、パン屋さんへ応募。
「受かりたい。そう思った。でも落ちても大丈夫。そう思えた。」という文、なんだか感動した。
■以下よかった箇所のまとめ
下の階の住人が、何も言ってこないからいいや、などと考えてはいけない。何も言ってこないからうるさくはないのだろう、となどと都合よく考えては絶対にいけない。
何も言わないお客さんも、何も感じてないわけではない。何も言わない一階の住人が2階の足音をうるさいと感じてないわけではないのと同じだ。
やりたいことが特別である必要はないんだよなぁ、そうなるわけもないよなぁって。
やりたいことがないのはダメなの思ってた。
やりたいことが何もない自分はダメだって思っちゃう
それは要するに、人から見て特別なことをやりたいと思ってなきゃダメだってことなの。でも、そうじゃなくていいかもって思った。
受かりたい。そう思った。でも落ちても大丈夫。そう思えた。 -
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小野寺さんのこういう作風も嫌いではない。特別な主人公ではない岐路に立つ男女4人の迷いが夜の闇に現れる。試合に負けたボクサー、借金を背負った女性タクシードライバーに続き、仕事も夫婦関係もうまくいかない警察官と妻の高校国語教師ら。まるで彼らは私たちの日々の暮らしを代弁してくれているようだ。夜が来て、深夜の闇に紛れ、善と悪の狭間に身を置き、悩みすれ違う。自身に年齢が近かったせか、最後に登場した警官の夫婦間に交わされる会話は身につまされた。夫は交番勤務の坪田澄哉で、転勤先の上司とうまくいかずに、早番の日は家に帰らず梯子酒で憂さを晴らしていた。妻の荒木奈苗は、結婚後も勤務先の高校で独身時代から名乗っていた姓を変えずに、教師を全うしようとする真面目な女性。戸籍上は籍を入れているのに。もうしばらく待ってごらんなさい、時が経てば変わるのにと忠告したくなるのはおせっかいかしら。
それぞれの夜を過ごし、それぞれに迎えた朝を描いてある。短編は苦手だがこういった連作短編集だったら、思いを途切れさせずに読める。
人は夜を生み、夜に倦み、夜を積み、夜に摘む。
眠れない夜が続くのはとても辛い。眠れない頭は次々と妄想をこしらえ、深みに嵌まってしまいがち。夜を迎えるのが怖くなり、睡眠導入剤で早く眠りの世界に誘われ救われたいと思う時もある。
『夜とは日の入りから日の出までの間。大事なのは太陽だ。人は太陽の動きを意識して暮らす。対して、月を意識することはあまりない。夜空に月が浮かぶのを見て、出てるなと思う程度。月が午前八時にも午後一時にも出ることを知らない人もいる』
と、冒頭の一文を読み直した。
一応は理解できる。でも、月は太陽の光を反射して輝いているために、太陽と比べて淡い明るさしかない。たとえ満月でも、闇を照らしても奥深い心の中までは届かない。やはり朝がしらじらと明け太陽が昇り世界が見え始めて、あれは妄想だったのだと救われる。そんな時もある。